思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

『夜明けのすべて』 不調の話だけど、元気出た!

2022-09-13 14:33:36 | 日記
『夜明けのすべて』
瀬尾まいこ


社員5名程度の小さな会社で働くふたりのお話し。
PMSで月に一回めちゃくちゃ怒りっぽくなるミサちゃんと
元々活動的ウェーイ人材だったの突然パニック障害を発症した山添くん。

すみれ荘ファミリア』に登場する美寿々ちゃんのPMS話しも同様だけど
女同士でも完璧にお互い理解できるとは言い難い問題だから
職場での付き合い方は大変だよなあとしみじみ思った。

パニック障害について読むのは初めてだったので
すごく勉強になりました。

そんな難しい「不調」を抱えているふたりなんですが、
お互い、「なんかわかる」と思いつつ、
だからといって「仲間だね!」みたいな図々しさがないのが良い。

自分と共通する部分、異なる部分を、ひとつずつ
丁寧に拾っていくようなお話し。
とても良い。

会社も良い環境だし、仕事と自分の暮らしをちゃんと見て、
こんなふうに一歩ずつ人生を歩んでいけたらいいなと思う。

瀬尾さんはすごい。
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『最果てアーケード』 小さな謎と、小さな癒し

2022-09-09 19:35:48 | 日記
『最果てアーケード』
小川洋子

商店街の「果て」というか、「狭間」にあるような、
小さなアーケード街の物語。

アンティークのレース屋さん、
義眼(?)屋さん、
プレーンドーナツしか売ってない「輪っか」屋さん。
どれもこれも、浮世離れしていてステキなお店が並ぶ。

もちろんやってくるお客さんも、ちょっと変。
良い感じ。

小川洋子さんらしい、箱庭感のある、不思議で切ない短編集。
ちょっと一息つきたいときや、
気持ちを整えたいときに、良い。
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『ネットワーク・エフェクト』 弊機がかわいい。

2022-09-07 18:37:38 | 日記
『マーダーボット・ダイアリー ネットワーク・エフェクト』
マーサ・ウェルズ
中原尚哉:訳

マーダーボット・ダイアリー>シリーズの、
一応、5作目になるのかな。
とはいえ、シリーズの中篇4作は
単行本上下にまとめて収録されているので、
発行作品としては2冊目です。

まあいいか。

一人称が「弊機」の自称「マーダーボット」が
ぐちぐち言いながらかんばるシリーズです。

相変わらず「弊機」がグチっぽくて、文句も多い割に
ちゃんと人間を助けています。
大変人間臭いボットです。

尊大な性格である探索船のARTも再登場。
人間より人間臭いボット同士のやりとりがとても良い。
すっごく良い。
仲良いなお前ら。

プリザベーションの人々の倫理観(ボットも人格を尊重する)に
ずーっと戸惑っている「弊機」は、今回もかわいいです。

と思いつつ、
対照的に、企業リムに所属する企業人は、
めちゃくちゃ尖った営利主義。
利益のためならすぐ殺人するし惑星を破壊する。
なんなら、奉公制度という建前の奴隷制も現役です。
企業の方が、倫理観って何?状態なのが読むにつれて明らかになる。
ディストピアかよ、と。

そして今回は、前作にはなかった要素、若者!
「弊機」の保護者であるメンサー博士の娘で、
惑星的に未成年者(学生?)であるアメナが登場。
ただでさえ人間とのコミュニケーションが苦手な「弊機」が、
10代とのコミュニケーションに辟易している様子が微笑ましいです。

アメナは、まあ、普通の10代(思春期!)なので、
ARTと「弊機」のロマンスを邪推したり(若さ!)、
言動がおもしろかったです。

あ〜おもしろかった。
アンディ・ウィアーの最新作に続いて、
マーダーボットの最新作も読了しちゃったよ〜…
とロス気分になったら、もう四作目も出てた。
わーい。
(「弊機」の虚無状態のわーい。は最高に良かった)
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『密林の語り部』ラテン文学の名作です

2022-09-06 14:57:58 | 日記
『密林の語り部』
バルガス=リョサ
西村英一郎:訳

マリオ・バルガス=リョサは南米ペルーの
ノーベル文学賞作家。(2010年)

南米アマゾンを舞台にした『緑の家』(1966)で
ラテンアメリカ文学の現代作家としての地位を確立。
同じくアマゾンがテーマの『密林の語り部』(1987)が
中期の傑作と言われています。

ペルーといえばインカ帝国があった場所ですね。
1533年、スペイン人のピサロ率いるコンキスタドールによって
滅ぼされた国。
今はマチュピチュ観光で有名。

そんなペルーの密林に暮らす部族に伝わる(?)
<語り部>にまつわるお話しです。

小説の語り手である「私」は、ほぼ、作者リョサ。
冒頭で、作者と思しき「私」が学生時代の友人を思い出すところから
物語が始まります。

その友人は、顔に大きな痣があることから
通称「マスカリータ」と呼ばれるユダヤ人のサウル。
ペルーの都市リマに住み、大学の優秀な学生である一方、
しばしば密林に旅して未開部族に強く惹かれていく
マスカリータとの思い出。
ビリヤード場で酔っ払いと喧嘩しそうになった「私」に、
マスカリータが書いた手紙がとても良かった。
良い感じの回顧小説である。

この作者が話者であろう「都会」「現代」の章と
交互に構成される奇数章が、
マチゲンガ族の<語り部>の「語り」。
断片的で、不連続な、伝承的ストーリーが、
あっちこっちいきながら語られる。
縦横無尽。

彗星カチボレリネは、元々はマチゲンガ族の男で、
怒りのあまり悪魔に変わり、空を駆け巡り続けている。
インキテ(天上)から来た月のカシリは災いを起こし、娘を攫っていく。
「それが少なくとも私の知っていることだ。」というセリフを
節目にしながら、様々な伝承が紡がれていく。

語り部の話す内容は、独特の用語もあるので凄く不思議。
(読んでいるとたまに眠くなる。)

タスリンチという名前の男が頻出するけれど、
日本の「某氏」みたいなもんだと考えるとわかりやすいかも。
マチゲンガ族の伝承では、「言葉」は「存在」より先にあったという。
そこらへんも<語り部>の存在の特殊性に繋がるのかも、と思ったり。

なかなかおもしろかった。
ガルシア・マルケスやフォークナーに通じるものがあるな。
と思ったら、マルケスとは親友だった後に喧嘩別れを
してるみたいですね。
ラテンだなあ(関係ないか)。
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『ある明治人の記録』 よし、教科書に載せよう

2022-09-05 21:16:14 | 日記
『ある明治人の記録 改版
会津人柴五郎の遺書』
石光真人(いしみつ まひと)

明治維新の際に朝敵として辛酸をなめた会津藩。
その会津藩士の子供で、明治維新時は10歳だった
柴(しば)五郎氏が老境に書いた回顧録です。

一般公開するつもりなく書かれた文章。
会津城落城に際して自刃した祖母・母・姉妹の菩提寺に
納めるために綴ったものを、
添削を頼まれた編者・石光真人氏が許可を経て筆写・編集したものです。

とはいえ、めちゃくちゃ美文!
10代に苦労をし、学びも不十分だったと言って
添削を頼んだらしいけれども!!
すごい美文!!

めちゃくちゃ読みやすい美文なので、ぜひ。

会津藩は、戊辰戦争後、下北半島南部の斗南(となみ)に
移封されました(って知らなかった)。
柴五郎少年も、戦犯として東京に護送され
下僕として働いたりして、さんざん苦労した後、
斗南・田名部(たなぶ)に父と兄とともに行く。
が、開拓しようもない荒地で食うに事欠く日々。

(ちなみに田名部は、小説『かたづの!』にも出る地名。
根城南部氏・清心尼の領地で、伯父に取り上げられた領地ね)

恩人の野田豁通(ひろみち)
(熊本細川藩・石光真民(いしみつ またみ)の末弟、
お察しの通り、本書の編者・石光真人の大叔父に当たる)
に出会い、青森県庁で給仕を勤めた後に、
単身上京。
再び下僕生活。
苦労しすぎ!!誰か助けて!!

公開するつもりはなかった手記なので、
この下僕扱いした家の主人も実名で出ています。
が、あまり悪様には書かないんですよね。
作者の、育ちの良さを感じます。
むしろ良くしてもらったことを覚えていて記していて、
すごい人だなと思う。
私だったら「没落していますように」と思いながら名前を検索するね!
いや、わざわざしなかったけど。

再び野田豁通の勧めで陸軍幼年学校を受験、
見事合格。
なんとか生活できるようになる。
良かった!!ありがとう野田さん!!

この頃、西南戦争が起こり、生き残った兄3名それぞれが
生活苦に喘いでいる中を工面して、九州出征する。
熊本人へ一矢報いたしの気持ちがひしひしと出ている場面。

西南戦争で西郷隆盛は討たれ、直後に大久保利通も暗殺された様子が、
会津人である柴五郎少年の視点から描かれている部分は、
歴史の多面性として広く読まれるべきではないかと思う。

けど、涙なしには読めないな。
兄たちが西征から戻ったところでスパッと手記が終わるあたりも、
会津藩と家族への鎮魂のために書かれた文書であることが伝わってきて、
感慨深い。

ちなみに柴五郎翁はこの後、義和団事件で活躍し、
陸軍大将まで栄達。
終戦の年1945年に87歳で亡くなる。

もっと広く読まれるべき一冊だな!
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