思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

『ケイレブ』 ハーバード大卒(16世紀!)のインディアン

2022-09-22 15:33:53 | 日記
ハーバード大学は1636年設立、アメリカ最古の大学。
イギリス系ピューリタンがマサチューセッツに入植して
(世界史の授業でおなじみのピルグリムファーザーズ)
わずか6年で大学を設立したらしい。
仕事が早い!!

初期は牧師教育が目的の教育機関でしたが、
学ぶ内容はラテン語や哲学など高度なものだったようです。
ピューリタン的には、ネイティブアメリカンに布教するならば
ネイティブアメリカンの宣教師もいた方が良い。
ということで、インディアンの学生受け入れにも
前向きだったということです。
1650年のハーバード大学憲章では
「イギリス人とインディアンの若者を知識と信仰において教育する」
という目的を掲げていたそうな。

へえ〜、知らなかった。
超先進的!(実情に乖離があったとはいえ)

そんなハーバード大学初のネイティブインディアン卒業生として
名前が残っているのが、
ケイレブ・チェーシャトゥーモークというワンパノアグ族の青年。
で、彼をモデルに書かれた小説が、
『ケイレブ -ハーバードのネイティブ・アメリカン-』
です。

前書きによると、作者がケイレブの存在を知った時も
「1665年?1865年じゃなくて?」的なことを思ったらしいですが
いやもう、全読者がそう思うんじゃないかな。

ケイレブに関する資料はほとんど残っていないので、
内容は純然たる小説です。
話者は、イギリス人牧師の娘ベサイア。
彼女の視点で描かれた回顧録の体裁。

なので、文体が若草物語っぽいですね。
いや、読んだことないけど。
自然描写が多くなりがちで、
思春期のめんどくさい心理描写も多くなりがちというか。
兄を不勉強でいじわるな怠け者としてしか描けなくて、
長兄としての期待に絶望している内面に
1ミリも踏み込めないというか。
いや、まあ、10代少女文体だからね。そうなんだけどね。
好みの問題でもある。はい。

17世紀後半は、アメリカの植民地化が加速するとともに、
インディアンとの争いや差別や虐殺が加速した時期でもあります。
当初は開かれていたハーバード大学での教育の門戸も
あっという間に閉ざされてしまったようです。残念。

小説としてはまあまあおもしろく読みました。
最もおもしろかったのは、テーマとなったファクトだけど。

作者は『古書の来歴』を書いた人で、
取材重視型の元ジャーナリスト。
なるほどです。
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『暗号解読』 個人的インパクトファクター高い本!

2022-09-21 11:49:25 | 日記
『暗号解読』
サイモン・シン
青木薫:訳

フェルマーの最終定理』でおなじみサイモン・シンの第二作。

暗号の歴史と仕組みを、カエサル暗号から量子コンピュータまで、
めちゃくちゃ分かりやすくて読みやすい文章で綴ってくれている
奇跡のような一冊です。
ありがてえ…っ!!

暗号は大きくふたつに分けると、
ステガノグラフィー(隠された文書)と
クリプトグラフィー(スクランブルされた文書)になります。

前者は、レモン汁で書いた手紙を火であぶると文字が出る、みたいな。
小学生の頃にやったやつだ!
おもしろかったのは、ステガノグラフィーの事例のひとつで
古代ギリシャの暗号だったかな、、、
使者の頭を坊主にして刺青でメッセージを入れる
→髪が生えるのを待つ→出発!→到着後、再び坊主にして読んでもらう
という。
情報通信速度、低いなあ〜笑

クリプトグラフィーのひとつである換字式暗号には
アルファベットの頻度分析という解読方法があります。
「ホームズがやってたやつ〜!」と、
中学時代の読書を思い出して楽しかったです。
(短編『踊る人形』ですね。
 19世紀に流行った暗号文学は他に『地底旅行』『黄金虫』がある)

頻度分析のとっかかりとしては、
例えば英語で頻出するアルファベットは「e」「t」「a」、
さらに「e」の手前には「h」が頻出する、という推理が有効
(the、they、then等)。
こういったテクニックと推測の積み重ねで解読する。
おもしろーい。

ヴィジュネル方陣とかエニグマ暗号とか、
出てくる単語もかっこいいし、
作者の説明がうまいものだから
ちょっと解読しちゃう?的な気分になります。
暗号、解きたーい。

と思ったら、巻末にエグい暗号問題が10問出題されてました。
これは絶対無理…と悟りの境地に。
訳者は本文を訳した上に、暗号問題の解説までやっていて、
すごいな!と感心してしまった。

(訳者の青木薫さんは京大で理論物理学の博士号を取得。
 という経歴だけ見ていて、勝手に男性かと思ってましたが
 女性翻訳家です。
 かっけー!)
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『ハプスブルク家の女たち』恋愛や家庭から見る歴史、おもしろい

2022-09-20 12:25:06 | 日記
『ハプスブルク家の女たち』
江村洋

講談社現代新書から1993年に出版された本。
なので、ちょっと女性観が古いかな?
という箇所もあるけれど、
総じておもしろい一冊です。

ハプスブルク家の女性を描くということなので、
婚姻や恋愛や家族模様のエピソードが多く、
そこらへんも新鮮。

まだ貧乏な辺境領主だったころの神聖ローマ皇帝
フリードリヒ3世に嫁いだエレオノーレのがっかり感に同情し
(皇帝みずから畑を耕しておられる…)、
その息子でハンサムなマクシミリアンに惚れ込んだ
ブルゴーニュ(当時豊かな公国だった)突進公と
娘マリアがもたらす幸せな結婚生活に、
御伽噺みたいだな!と感心したり。

ちなみにマクシミリアンの子供男女が、
スペイン王家の男女と二重結婚したのが
「幸いなるオーストリアよ、汝は結婚せよ」の始まり。

マリア・テレジアの孫で
オーストリア帝国最初の皇帝(同時に神聖ローマ帝国最後の皇帝)
フランツ1世に対しては、
弟たちは有能なのに長男だけ無能という扱いなんですが
(弟は軍事の才があったカール大公と「アルプス王」ヨーハン大公)。
作者、厳しすぎやしないか、と、読んでる私がハラハラしました笑
だって、ナポレオン超強いしめっちゃ攻めてくるし、
プロイセンも改革してるし、大変じゃん!

娘のマリー・テレーズをナポレオンに嫁がせたことにも厳しい。
だってメッテルニヒ、超怖いじゃん!!

それよりもなによりも、
ブラジルに嫁いだ妹のレオポルディーネの話は
初耳でおもしろかった。
ポルトガル植民地だったブラジルの統治をしたポルトガルの
ブラガンサ王家ドン・ペドロに嫁ぎ、ブラジル皇后に。
ブラジルは1899年に共和制になるまで、王国だったらしい。
知らんかった〜勉強になる!

あ、フランツ1世の息子のお嫁さんゾフィにも厳しいですね。
そんな野心たくましいゾフィの息子が、
ほぼ最後の皇帝フランツ・ヨーゼフ。
そして次男はメキシコ皇帝として現地で処刑されてしまうマクシミリアン。
(中野京子さんがマネ「マクシミリアンの処刑」に厳しいこと言う(笑)のは
 『名画で読み解く ハプスブルク家12の物語』
フランツ・ヨーゼフの嫁は放浪の美人皇后エリーザベト(シシィ)。

この本、第3章がいきなり貴賎結婚の話(しかも時代も飛ぶ)で、
唐突感があったのですが、この前振りが、
ハプスブルク家のラストに繋がってるんですね。

フランツ・ヨーゼフ帝に祝福されなかった
皇太子フランツ・フェルディナントとゾフィ・ドロテアの貴賎結婚と、
最後の最後の皇帝カール1世と良家出身のツィタの結婚の温度差。
(その一方で国民感情は乖離してるけど)
なるほど〜、と。

婚姻や恋愛や家族模様から見るハプスブルク家、
ドラマチックでおもしろかった。
(たまに仲睦まじいおしどり夫婦がいて、
 イギリスやフランスにはない安心感もあった笑)
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『熱帯』の読書メモがなかった

2022-09-16 16:21:28 | 森見登美彦
ふと思い立って
森見登美彦の『熱帯』を読んだメモを見ようと思ったら、
ないんだなこれが。

大元の読書メモに書き忘れたのでしょう。
忘れちゃうんだよね、脳ポン(脳がポンコツ)だから…。
そうなるとブログにも更新されない
(いつもメモを見て書いてます)。
私の読書が「無かった」ことになってる!切ない!

と思って悲しくなったのですが、
読書と関係ないつぶやきしかしてない
ツイッターに形跡が残ってました。
おお。

Amazonの『熱帯』の書籍ページが消えてたけど
ブクログにはあったぞ〜、と。



というわけで『熱帯』を読んだのは
2021年4月だと判明。
良かったですね。
メモしろ!

それはさておき、そもそも『熱帯』は
Amazon内の文学ページ(?)である
MATOGROSSO(マトグロッソ)
で2010年頃に連載されてた小説です。
新作じゃ〜!と思って、毎週木曜の更新を待ってたのを
覚えています。
WEB小説の基本形である横書き&モニターで
読みにくいな〜!と思ったのも、覚えてます。
(いまだに読書は紙派です)

で、第3章あたりで連載中断したんですよね。
無事に書籍化されたのは2018年。
私は読むまでに3年ほど熟成させて2021年に読んだので
足掛け10年での読了です。
満足である。
メモ忘れてるけど。

一応補足すると、『熱帯』は
小説内小説『熱帯』とその作者・佐山尚一の謎を追いつつ
物語がどんどん入子になりつつ
森見的『千夜一夜物語』オマージュしつつ
今回もダルマが出たねと思いつつ
今回は箱庭というより箱ワールドというか、広かったな、と思いつつ
やっぱり森見登美彦のこと好きだな!という小説です。
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『卵をめぐる祖父の戦争』 ハリウッド脚本家らしい巧さ

2022-09-14 11:31:32 | 日記
『卵をめぐる祖父の戦争』
デイヴィッド・ベニオフ
田口俊樹:訳

タイトルが象徴するものは何だろうと興味を持っていたんですが、
冗談抜きで本当に「卵をめぐる」話だった。
おお。

作者を彷彿とさせるアメリカ人青年が、
ロシア移民である祖父の戦争話を聞く、という構成。
冒頭の一行
「ナイフの使い手だった私の祖父は18歳になるまえに
ドイツ人をふたり殺している」が、
正解だし不正解なことがわかる構成なのも、
良い冒頭である。

おじいちゃんは、17歳の少年期が終わる年頃で、
レニングラード包囲戦下で体験する。
戦争なんか不条理なことばかりだ。
アホみたいな理由で捕まるし、味方に殺されかけるし。
しかし、卵をさがすハメになるとは、である。

卵さがしの相棒である脱走兵のコーニャが
おしゃべりで軽薄でとても良いですね。
ロシア文学の名作古典、ウシャコヴォ『中庭の猟犬』の話を
延々としているのも良い。
アマゾンに購入ページないかな、『熱帯』みたいに。

後半、パルチザンの少女狙撃手が登場しますが、
同志少女よ、敵を撃て』を思い出すね。
『同志少女』にも書かれていたけど、
ソ連は女性を兵として起用した唯一国です。

戦時下の個人的冒険という意味では
ベルリンは晴れているか』を思い出した。
『ベルリン』は終戦直後だけど。

ちなみにこの当時レニングラードと呼ばれていますが、
元々の地名はサンクトペテルブルク。
ツァーリ的な名前(ピョートル1世にちなむ)なので
レーニンぽい名前に変えたろ、という
共産主義どうかしてるぜ案件です。
市民が使う街の愛称は「ピーテル」。かわいい。

作者のベニオフはハリウッド映画やヒーローモノを手がける
映画脚本家。
おじいちゃんの話を聞く「僕」っぽいですが、
もちろん小説はフィクション。
ベニオフの祖父母はアメリカ生まれだそうです。
しかし、まあ、うまいな。
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