思惟石

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『卵をめぐる祖父の戦争』 ハリウッド脚本家らしい巧さ

2022-09-14 11:31:32 | 日記
『卵をめぐる祖父の戦争』
デイヴィッド・ベニオフ
田口俊樹:訳

タイトルが象徴するものは何だろうと興味を持っていたんですが、
冗談抜きで本当に「卵をめぐる」話だった。
おお。

作者を彷彿とさせるアメリカ人青年が、
ロシア移民である祖父の戦争話を聞く、という構成。
冒頭の一行
「ナイフの使い手だった私の祖父は18歳になるまえに
ドイツ人をふたり殺している」が、
正解だし不正解なことがわかる構成なのも、
良い冒頭である。

おじいちゃんは、17歳の少年期が終わる年頃で、
レニングラード包囲戦下で体験する。
戦争なんか不条理なことばかりだ。
アホみたいな理由で捕まるし、味方に殺されかけるし。
しかし、卵をさがすハメになるとは、である。

卵さがしの相棒である脱走兵のコーニャが
おしゃべりで軽薄でとても良いですね。
ロシア文学の名作古典、ウシャコヴォ『中庭の猟犬』の話を
延々としているのも良い。
アマゾンに購入ページないかな、『熱帯』みたいに。

後半、パルチザンの少女狙撃手が登場しますが、
同志少女よ、敵を撃て』を思い出すね。
『同志少女』にも書かれていたけど、
ソ連は女性を兵として起用した唯一国です。

戦時下の個人的冒険という意味では
ベルリンは晴れているか』を思い出した。
『ベルリン』は終戦直後だけど。

ちなみにこの当時レニングラードと呼ばれていますが、
元々の地名はサンクトペテルブルク。
ツァーリ的な名前(ピョートル1世にちなむ)なので
レーニンぽい名前に変えたろ、という
共産主義どうかしてるぜ案件です。
市民が使う街の愛称は「ピーテル」。かわいい。

作者のベニオフはハリウッド映画やヒーローモノを手がける
映画脚本家。
おじいちゃんの話を聞く「僕」っぽいですが、
もちろん小説はフィクション。
ベニオフの祖父母はアメリカ生まれだそうです。
しかし、まあ、うまいな。
コメント
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