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『黄色い雨』

2023-12-19 10:47:25 | 日記
『黄色い雨』
フリオ・リャマサーレス
訳:木村榮一

スペイン山奥の廃村。
村に残った最後のひとりの、朽ちゆく日々。

冒頭でもう、いきなり、末期です。
いきなりエンディング!
と思ったら、その後150ページかけて
村から去った人々や去った日々をきれぎれに思い出し、
徒然なるままに語るのです。
すごい長い走馬灯である。

しかし読んじゃう。
引き込まれちゃう。
なんだか不思議な小説だった…。

少しずつ確実に崩壊していく村、
去っていく知人・友人・家族。
とっくに終わっているのだけれど、
それでも続く「余談」のような日々に
タイトルの「黄色い雨」がちょこちょこ現れます。

時間は執拗に降りつづく黄色い雨であり、(p59)

今では苦痛が苦くて黄色い雨のように私の肺を浸しているが(p88)

突然黄色い雨が降り注いで、粉挽き小屋の窓と屋根を覆い尽くした。
それはポプラの枯葉だった。(p98)

命が尽きようとし、窓辺に降りしきる黄色い雨が
死の訪れを告げている今になって思うのだが(p141)

時間はゆっくり流れてゆき、黄色い雨がベスコース家の
屋根の影と月の無限の輪を消し去って行く。(p145)


主人公が妻の死を伝えたリンゴの木は、
その後狂ったように花をつけ、
秋には「大きくて肉の厚い黄色いリンゴ」の実がなる。(p143)

そして、だんだん、「黄色」そのものが死を象徴して
主人公の内外を侵食します。

今、死がこの部屋のドアのまわりをうろつき、
大気が私の目を少しずつ黄色に染めている。(p112)

雨は日毎私の記憶を水浸しにし、私の目を黄色く染めてきた。(p145)

そしてある朝、ベッドから起き上がって窓を開けると、
村全体が黄色く染まっていた。(p146)

雌犬の影もまた黄色くなっている(p147)

やがて自分自身の影も黄色くなっていることに気づいたのだ(p147)

黄色いねえ。
終始、黄色が印象的な物語です。
怖いというより、孤独。で、悲しい。

表紙の黄色い風景画も印象的で素敵です。
ニコラ・ド・スタールという
ロシア出身フランスで活動した画家の作品だそうです。
あ、スペインの人ではないのか。
でも良いな。良いセレクトだな。

ちなみにこの廃村「アイニェーリェ村」は
スペインのブレプエルトと呼ばれる地方に
実在する村だそうです。
おお、急にちょっと怖くなるのはなぜだろう。

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