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『周期律』 ユダヤ人化学者の極小史

2023-12-21 19:13:50 | 日記
『周期律』
プリーモ・レーヴィ
訳:竹山博英

元素名を章のタイトルとテーマにした、
自伝的エッセイ。
何それ素敵。

作者はイタリア生まれのユダヤ人。
化学少年から化学者になった人。
1919年生まれ、ナチスが台頭した時代に
ファシスト体制で混乱しているイタリアで
生まれ育ったという人でもある。

第一章の「アルゴン」(希ガス)は反応性が乏しい性質。
という特性に絡めて、マイペースに生きた親戚や祖先の素描。
つづく「水素」は化学者に憧れた少年時代、
友人と一緒に水の電気分解をした思い出だったり。

なるほど、おもしろい書き方のエッセイだなあ、
と思いました。

子ども時代からナチスのユダヤ人迫害が本格化し、
イタリアでもあからさまな差別はないけれど
なんとなく不穏な空気を感じる。

章が進み、作者も大学生になると、一気に不穏な時代感に。
学生時代には人種法が発布されて、
学士号を得ることも就職することも難しくなる。

徐々にイタリアもナチス勢力に染まっていく様子も
よくわかります。
さらに戦争が進むとナチスのユダヤ人迫害の噂も届くけれど、
どこか遠い話しだと思ってしまったという。
それもまた、すごくリアルな空気感。

作者は最終章「炭素」で「この本は自伝ではない」と言い、
「何らかの形での歴史」「極小史」とも言っています。

1919年にユダヤ人としてイタリアに住み
大戦下を生きるということと、
化学少年から化学者になり思索を続けたということ。
それぞれ別軸なようで、融合していて、
それが作者の「極小史」として綴られている。

アウシュビッツの体験記はまた別に執筆しているので、
この本ではあまりページは割かれていません。
(そちらも読まねば)

たまに「蒸留はすてきな作業だ」と言ったり、
化学分析が好きなんだなあと思えて、良いですね。

稀有な一冊だと思う。

ところで、超絶余談ですが、
ものの例えに「フン族」が出てくるんです。
(p314.やっかいごととはフン族のようにだく足でやって来るのではなく、疫病のように、静かにこっそりと忍び寄ってくるものなのだ)
ワニの町へ来たスパイ』でも、ごく自然に
アッティラの例えが出ていたんですが。
(アッティラ並に虐殺するな!的な)
海外ではフン族って必須教養なのかな。
私、最近まで知らなかったのでお恥ずかしい…。

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