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ケン・リュウ『紙の動物園』中国系アメリカ人作家のSF

2021-01-18 12:09:49 | 日記
ケン・リュウ『紙の動物園』。
SFに中国・台湾などの歴史問題がかけ合わさった短編6篇。

作者は中国生まれで、11歳辺りからアメリカに
住んでいるそうです。
ほとんどの作品に自らの民族的・文化的背景が織り込まれていて、
漢字占いや五行思想のようなものから中国移民問題や台湾の歴史問題までが
テーマやモチーフとして描かれています。

欧米系のSFとはちょっと違った印象。

表題作の『紙の動物園』は、
香港生まれの母がつくってくれた折り紙の動物たちが登場。
この短編集の中でぶっちぎりに良い作品。
心をすれ違わせたまま亡くなった母からの
最後の手紙がストレートで、泣ける。
息子に対して「無念」とまでは言わないけれど、
「なぜ?」と問いかけ「悲しい」と言わざるを得ない
母の気持ちが、切ないと思う。
ここで主人公を責めるのは筋違いだとも思えるから、余計に切ない。
折り紙の動物たちの、不思議で愛しい雰囲気も素晴らしい。

『紙の動物園』は2012年のネビュラ賞、ヒューゴー賞、
世界幻想文学大賞短編部門を同時受賞、
史上初の三冠達成だそうです。

あと、惑星移住・テラフォーミングの問題と五行思想が掛け合わされた
『心智五行』がおもしろかったです。

他。
結縄文字のお話し『結縄』、
移民問題がかぐや姫風御伽噺と合わさった『月へ』、
中国からアメリカまでトンネルで繋がった土木SF(?)
『太平洋横断海底トンネル小史』、
こども向けAI人形からこどもを失った親のためのAI人形を
つくるに至った女性プログラマー『愛のアルゴリズム』、
台湾の本省人・外省人の問題、中国共産党と国民党の問題、
さらにアメリカ介入問題が背景にある“救いゼロの読後感”
『文字占い師』を収録。

訳者あとがきによると、この作者は中国で大人気らしいですが、
いくつかの作品は中国語に訳されていないとのこと。
中国からアメリカへの移民申請を扱った『月へ』や
台湾二・二八事件に触れる『文字占い師』など。

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