某年金生活者のぼやき

まだまだお迎えが来そうに無い

春画と文化勲章

2013-03-06 17:07:11 | ぼやき
 宮尾登美子『序の舞』を読んだ。女性で最初に文化勲章を授与された日本画家上村松園の一代記。主人公の名前などは変えてあるが、読者にはすぐわかる。明治の始めから戦後の昭和にまでわたるその生涯の見事なこと。女手一つで息子上村松篁を育て上げ、彼もまた日本画家として文化勲章を授与された。凄い人がいるものだと前から気になっていた。宮尾登美子の長編伝記小説がある事は知っていた。最近運よく読むことが出来た。いや驚いた。明治8年生まれの女性が画家として生きてゆくのがどれ程困難だったか、想像を絶する。
 上村松園は、京都の新進画家として注目されるようになっても、経済的には苦しかった。或る事情から金が必要になった時、「画商」を訪れると、「女性画家の絵には作者本人の体をつけて売るのだ」と言われる。「女子が男にまじって絵を描くのは、馬と駆け比べする蟻のようなもので、敵いっこない」「おまけもつけずに、金持ちがなんで好き好んで女の描いた絵など買うか」ととんでもないことを言われる。断ると、ならば枕絵(春画)を書けと言われる。背に腹は代えられず、切羽詰まっていた松園はとうとう承諾し、しかし、まさか自分の家で描くわけにはゆかぬので、画商の家で三日ほどで仕上げる。此の時女性の髪の生え際などに独自の工夫をして、それが後に上村の特殊技法として評判になったという(勿論、普通の作品、美人画で)。春画は数点あるらしいが、私はインターネットで一点だけ見つけた。江戸時代の春画と同じ趣向だが、まさに美人画。ちょっと滑稽だが立派な絵だった。
 どんな些細なことでも「犯罪」を犯した者は受勲候補者から排除されるという。しかし、春画を描くことは犯罪ではないから、無事だったのだろう。あるいは選考委員達が大人で、不問に付したのかも知れない。
 3月8日は「国際女性の日」。ニューヨークで1904年のこの日に女性たちが参政権要求の集会を行い、1910年からは世界的に運動が広がり、日本でも1923年に女性たちが政治的・社会的平等、経済的自由を要求する集会を開いた。1975年からは国連が国際女性の日と定めている。この運動の広がりと成功が、私には、上村松園の苦労と成功と重なって見えてしまった。
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