深く淡く生きる   07年の1

2007年03月19日 | Weblog



▼中東カタールの首都ドーハに、現地時間の3月17日土曜の深夜に到着。気流の関係なのか、ヨーロッパへ行くより長いフライトだった。
 日本時間では18日日曜の朝になっている。

 このごろ海外出張を、独立総合研究所(独研)の主任研究員に任せて、ぼくは出ないことも多いから、タイムラグ(時差)を感じる体になってしまってる。
 ぼくひとりで諸国を駆け回っていた頃は、時差など何も感じず、どこでもいつでも眠れた。いまは、日本時間に体が引っ張られて、眠りに入りにくかったりする。

 もっとも、その頃より仕事がさらに増えているから、眠る時間はどうせ、ない。
 ホテルの部屋で1時間半ほど眠って、パソコンに向かって仕事をする。
 ぼくのノート・パソコンは出発直前に、壊れてしまったから、若き秘書室長のSが用意してくれていた予備のパソコンだ。

 ぼくのノート・パソコンはいつも、ぼくが倒れる先の身代わりのように、ばったりと倒れる、いや壊れる。
 すさまじいハードユースだから無理もないが、タイミングがね、悪すぎるよなぁ。
 しかし用意の良かったSに感謝。今いちばん身近にぼくを見ている人だから、ぼくの前にパソコンが壊れることも、よく分かっていたらしい。


▼ホテルの部屋で仕事をしていると、現地時間の18日日曜の昼を過ぎる。
 午後2時すぎまでには、世界でもっとも存在感のあるニュース専門テレビ局であり、中東で初めて「報道の自由」を掲げた『アル・ジャッジーラTV』に入ってなければいけない。
 有名なアフムド・シェイク編集長にインタビューする約束になっているからだ。日本の視聴者に届ける、大事なコンテンツ(中身)のひとつだ。
 ところが、同行している関テレ(関西テレビ)のクルーから何の連絡もない。

 ちょっと心配していると、関テレがロケからようやく帰ってくる。
 ところが、この現地から日本へ水曜日に生中継する許可を取ろうと、カタール政府と交渉しているだけで時間がとられ、遅くなってしまったとのこと。
 ぼくの懸念していたことが、現実になった。

 コーディネーターを雇って交渉をしてもらっている、とのことだったけど、中東の恐ろしさを知らないのじゃないかなと心配していた。
 コーディネーターといったって、よほどいいコネクションをたどって雇わないと、大半は、なんらかの問題がある。
 関テレの雇った女性コーディネーターは案の定、自分が楽をすること、それなのに自分が褒めてもらうこと、そして言い訳をすることばかりに関心があるようなひとで、アル・ジャッジーラTV局に向かう運転も、どこへ行ってしまうのか分からないような困った運転だ。

 ようやくアル・ジャッジーラTV局に着くと、セキュリティ・チェックで引っかかり、コーディネーター女史は「カメラは持ち込めないと思う」と言い出す。
 おいおい、それじゃ編集長にインタビューをしても、視聴者に届かないじゃないか。

 これは、ぼく自身が交渉するしかないな、きょうはインタビューに当然ながら集中したかったけど、それは諦めて、交渉込みでやるしかないなと、胸の内で決める。
 コーディネーター女史が当てにならず、関テレのスタッフは英語が不得意となると、インタビュアーのぼく自身が切り開いてインタビューを実現するしかない。

 セキュリティ・チェックをどうにかくぐり抜けて、構内に入る。
 応対に出てきたアル・ジャッジーラTVのスタッフに「編集長とアポイントメントがある」と強調して、関テレのムービー・カメラは回しっぱなしのまま、中へ、どんどん入る。

 シェイク編集長の部屋に突撃して、インタビューを開始。
 シェイク編集長は「え?撮るの?」と言う。あんた、テレビ局の編集長だろうが。

 ちょっと嫌がっている編集長に、マイクまで付けさせてもらって、インタビューの収録を始める。
 イラクのこと、イランのこと、イスラエルのこと、もちろんアメリカのこと、そして六か国協議で苦しい立場に立つ日本のこと。
 予定時間を大幅に超えて、たっぷり話す。シェイク編集長は、百戦錬磨でしたたかな、アラブの代弁者だった。

 そのシェイク編集長に、アル・ジャッジーラTV局の内部を撮影させてくれと、頼む。
 コーディネータ女史は、「関テレの依頼は急だったし、テレビ局内部の撮影許可なんて、ふつうは下りない」と下手な英語で言い張り、関テレのカメラマンに「許可がないんだから、撮影をやめなさい」と叫んでいる。
 あなたはいったい、何を、コーディネイトしているのかな?

 シェイク編集長に「許可がないのだけど、このまま局内を撮影させてくれ」と頼むと、編集長は困惑しつつ、姿を消す。
 さぁ、誰かに交渉しに行ってくれたのか、それともインタビューが終わったから姿を消したのか、判断がつかない。
 とにかく居座ることにして、カメラは回しっぱなしにしてもらっていると、シェイク編集長が「国際担当」という人物を連れて、戻ってくれた。
「この男を案内役に、どうぞ局内を撮影してください」とシェイク編集長。やれやれ。

 この人物は話せば話すほど好意的になり、こちらの希望するところは全て、撮影させてくれた。
 報道の自由という観念そのものがなかった中東から、とにもかくにも「報道の自由」を掲げて世界へ発信するアル・ジャッジーラTVのニュースルーム(CNNと同じくキャスターらが生放送で発信する現場)からパラボラアンテナの集積基地まで、撮りに撮った。

 この「国際担当」のひとと別れを告げたあとも、関テレのカメラマンが建物の外観などを撮っているので、ぼくは慌てて「もうやめて、早く撤収しましょう」と大きな声を出す。
 セキュリティがひょっこり現れて、「撮影は許可証がないと禁止だ。テープを出せ」と言うことも充分にあり得るからだ。
 中東に限らず、日本のような自由のない世界では、仕事を七分目で終えてさっさと撤収することが肝心だと、経験からしていつも考えている。


▼アル・ジャッジーラTVでの取材は無事に、やや奇跡的に終わったが、肝心の日本への伝送、中継の許可が下りていない。伝送や中継の手段そのものも、なんら確保されていない。
 うーむ、これまで体験したことのない、びっくりの現状だ。

 コーディネーター女史が全く当てにならないことがカンペキに判明したので、なんと、ぼくと独研の若き秘書室長Sが、関テレのディレクターと一緒に、アル・ジャッジーラTVのエンジニアに協力してくれるよう交渉する。

 おいおい、ぼくらは番組のコンテンツ(中身)を充実させるのが役割で、伝送とか中継の技術的なことは何も知らないし、こりゃ困った話だ。

 アル・ジャッジーラTVのエンジニアは、親切に応対してくれたが、アル・ジャッジーラの局としては協力できないとのこと。
 代わりに「カタールTV」を紹介するというが、その紹介うんぬんのややこしい交渉と、面識も何もないカタールTVの側との交渉も、実質的に独研のS秘書室長と、ぼくが担うことになってしまった。

 S秘書室長は、肝心の国際戦略会議でのぼくの役割をサポートする本来業務をこなしつつ、話がなかなか伝わらない相手と、電話で交渉を続ける。
 彼女の疲労と困惑が、ぼくに肌で伝わってくる。

 その最中に、カタールに駐在している、ある日本政府の関係者と会って、食事をともにする。
 誠実なひとであったが、「雑務に圧迫されて、情報収集(インテリジェンス)は何もできていない」と言う。
「アル・ジャッジーラTVは、イスラーム過激派の影響下にある」とも言うので、その根拠を聞くと、実は情報は何もない。

 ぼくは疲れてもいたし、人柄がよい相手だし、どうしようと思ったけど、心を励まして「インテリジェンスをやらないでは、日本国民に負託されて、この地にいる意味がない。雑務は理由にならない。同じような雑務を抱えつつ、ぼくも驚かせるほどのインテリジェンスを遂行しているひと(日本政府の関係者)が、この中東に複数いますよ。残り任期に、せめて、もう一度、新しい努力をされてはいかがですか」と問いかける。

 そして「アル・ジャッジーラTVはむしろ商売上手なビジネス集団だ。反米的でアラブ民族主義に傾いた報道をすれば、視聴者が増えて儲かるのは当たり前であって、その報道ぶりだからイスラーム過激派に資金を提供しているとか、逆に資金をもらっているとか決めつけることはできない。社員のなかに、過激派のシンパなどが、そりゃいるかも知れないが、組織としてどうか、とは別の問題でしょう。組織としてのアル・ジャッジーラTVが過激派と関係を持つなんて、リスクの高すぎることをやるとは、具体的な根拠のない限りは、思えない」と話した。

 食事は、まぁ、ずいぶんとマズイ、冷えきった味のイラン料理の店で、支払いだけは立派な金額だった。
 インテリジェンスをやっているひとであれば、現地人の行く、おいしい店を必ず知っている。このひとは、この店すら「ほとんど来たことがない」とのことで、食事は現地の情報源と接触するのではなく、家族と一緒にいつも家庭で食べていたんだなぁということが、分かる。

 そんな生き方も、ある。
 だけど、生涯にまたとないかも知れない中東赴任の機会だし、なにより国民に負託されているのだから、家族との食事も大切にしつつ、現地のさまざまな立場のひとびとと交流し、情報を手にしてほしい。
 人柄の良い人と書いたのは、もちろん社交辞令ではなく、ほんとうにそうだから、ぼくは惜しむ。リカバリーを、こころから期待している。
 まだ会って2回目のぼくに意見されるのは、きっと不快な体験だろう。それを、どうか活かしてほしいな。


▼ホテルへ帰ると、どっと疲れが噴き出す。
 秘書室長Sも、思わぬ専門外の仕事に疲れ切っているだろうに、それを顔に出さずに耐えて奮闘している。
 がんばれ、きみのような志ある次世代に灯火を渡すために、ぼくは命を削ってる。
 きみのような、ひとたちが、いる限り、ぼくらのこの祖国は大丈夫だ。

 とりあえず1時間半ほど仮眠をする。
 ベッドがふかふかで快適なのが、救いだなぁ。
 だけども、なにやら哀しみでいっぱいの夢をみて、うなされるように目を覚ました。
 どうして、ぼくは、こんなに、悲しいのだろう。

 ともあれ、さぁ、また夜明けに向けて、仕事だ。
 明日の朝は、アメリカ政府のなかで最も信頼している高官と朝食ミーティングが入っている。
 北朝鮮にすり寄って、日本を裏切るのかと、彼の胸に聞いてみよう。



 この地味なサイトに来てくれるひとのために、なにか写真をアップしたいけど、きょうのぼくは「テレビ局の中継基地を確保する交渉」などという、まったく知らない世界の仕事にいきなり直面して、ちょっとね、写真を撮る余裕はなかったです。
 ごめんなさい。

 …と書いたところで、このひとつ前の書き込みにいただいたメッセージ、「チンシャ猫」さんと「さくら」さんのメッセージをいま読んで、ちょっと涙が出ました。
 ありがとう、ああ、ほんとに励まされます。

 だから思い直して、ホテルの部屋のテラスに出て、一枚、撮りました。
 なんだか前と似た写真で、やっぱりごめんなさい。

 だけど、ペルシャ湾に面した砂漠の地、ドーハらしい夜明けの色は感じてもらえると思います。
 ペルシャ湾は、意外なほど水がきれいです。エメラルド色に澄んでいる。そして、この季節の夜明けは、これも意外なほど、穏やかに、もやっていることが多い。強い太陽が出てくるには、すこし時間があるのです。

 いま現地時間の3月19日月曜の早朝、5時45分です。



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4 Comments

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Unknown (TT)
2007-03-19 12:59:43
こんにちは。
蒼い海にうすいベールがかかっているような写真、夜明け前ということは、これから又新しい慌しい一日の始まりなのですね。
こうして、ブログで青山さんの臨場感あふれる日常に接することができて、日本の外の常識を身近に感じると、様々な感慨にとらわれます。
一瞬も無駄にすることのない青山さんの現実に触れるにつれ、振り返って自分の不甲斐ない日常を恥じ入るばかりです。

昼のNHKニュースで、北朝鮮の口座凍結の全額解除が報道されました。不思議と悲観はしていません。
正しいこと・真実のある方向へ、物事は進んでいくに違いないと強く信じているからです。
いつも勇気をわけてくださり、ありがとうございます。
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21日(水)生中継! (白百合)
2007-03-19 17:32:36
今週末、あれから凄い展開になっていたんですね。ページを開いて大変驚いています!『希望について』『深く淡く生きる』超長文なので全体把握がまだ出来ておりませんが、21日の生中継成功されますよう邪魔が入りませんようお祈り致し、念を送らせて戴きます。どうぞ身辺警護にも十分予算を使って頂いて下さいませ。
私はまた、土曜「ぶったま」拝見した後『ロビースト』なる初耳の言葉にぶったまげ(慰安婦問題が偶然でなかったことも納得できました)それがサービス業として成立しているという米国の商魂(?)にも呆れ、だめだこりゃ・・・と落胆しておりました。そしてTTさんのおっしゃるように、今日北朝鮮の口座凍結の全額解除の報道を聞き、佐々木さんが「これでいい方に行けばいい。」みたいなコメントしていて、「いい筈ないじゃない!」と一人憤慨しておりました。どうか青山さんの鋭い視点で大きな突破口を見出して下さいますように。(でも危険を感じたら即中止することも念頭に置いて、そして生中継済みましたら即刻帰国できるよう、帰り支度の手配も先に済ませてお臨み下さい)
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悲しみの種 (るるー)
2007-03-19 21:37:06
理解の浅い無責任な素人の評価は、無視するに限ります。真心の真贋を見極める感性持っていない視聴者やネットワーカーもしかりです。

権威主義の壁だって、新潟輩出の故総理大臣の事例もあります。(拝金的手法と比較されてはたまりませんという声が聞こえてきそうです^^;)

嘆きますまい、真実は神のみぞ知るです。
地上にも、青山さんを正しく理解しようとする一群は確実に存在します。

美味しいケバブとギロとレンズ豆のスープで、どうぞ英気を養ってください。

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お体を大切に!!! (qwe5rt6y)
2007-03-19 22:14:53
青山さん、どうかお体を大切にしてください。
青山さんは日本を(いろいろな意味で)守る、いわば守護神です。最大にして唯一の“要”です。
命を削る、命を削る、と言っておられますが、縁起でもありませんが、もし青山さんが亡くなることがあったらそれこそ日本のアキレス腱を失ったようなもの、まさに「日本の命」を削られたも同然です。
青山さんの「日本国民が決断する日」に、日本には情報機関がないから、各国と情報を交換できない、従って青山さんが各国情報機関との橋渡し役を務めている、と書いてありましたよね。橋渡しである青山さんがいなくなったらどうすればいいのですか?
青山さんは日本の安全保障担当補佐官と同格かそれ以上に重要だと認められている人物なのです。そのような方がいなくなったら、本当に本当に“ヤバイ”です。

お忙しいなら、写真はいりません。もっともっと青山さんの文章を読みたいけど、ブログの更新も結構です。

ですから、とにかくお休みになって体を大切にしてください。日本国民を代表して、などというと傲慢ですので、将来、どんな形か分からないけど、日本を支えていかなきゃならない一日本人としてお願いいたします。
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