最高峰の横歩取り 丸山忠久vs谷川浩司 2001年 第59期名人戦 第7局

2022年11月11日 | 将棋・名局

 前回の続き。

 横歩取り「中座流△85飛車戦法」の出現は衝撃的だった。

 画期的な新戦法は常にそうであるが、出た当初はなかなか理解されず、

 

 「これでホントにうまくいくの?」

 「こんなやり方に負けるわけない」

 

 なんて甘く見られたりしがちだが、逆に言えばそのスキを突いて白星を稼げる「ブルーオーシャン」が広がってるケースも多く、使いこなせば大きな武器となるのだ。

 そんな△85飛車戦法が、まさに棋界の最高峰である「名人」を決定づける一番で登場したのだから、本当に出世したものだった。

 しかも、前回「珍形」として紹介した△55飛角筋に回る指し方だ。

 

 

 

 2001年、第59期名人戦第7局

 丸山忠久名人と、谷川浩司九段の決戦。

 この△55飛はもともとは、浦野真彦八段が感想戦で、

 

 「こんな手も考えてんけど」

 

 と示したものだという。

 この将棋は丸山も、別のすごい手を披露しており、それがこの局面。

 

 

 

 

 先手の谷川がを打って、を作りに出たところだが、ここで丸山が指したのが、度肝を抜かれるシロモノだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 △45桂と飛ぶのが、おどろきの一手。

 ただを捨てるだけでなく、先手の桂馬を▲45好位置に跳ねさせる、お手伝いに見えるからだ。

 当然の▲45同桂に、△46角と打って、▲58金△19角成を取る。

 

 

 

 これで駒損は回復できたが、相手のをさばかせておいて、自分はこんな働いてないを取るのは、なんとも率が悪く見える。

 この手順に丸山は、名人位をかけたのだ。

 谷川は相手の構想を逆用すべく、▲23歩△31銀▲33桂打▲45を土台に反撃。

 激戦だが、ここはうまく先手が手をつなげたようで、「谷川優勢」の流れとなったが、丸山もただ引き下がるわけにもいかない。

 

 

 

 

 図は▲35銀と打って、にアタックをかけたところ。

 先手は△22が不安定なのを見越して、馬を責めながら、うまく飛車を成りこんでいきたいところ。

 だが、次の手が谷川や控室で検討していた佐藤康光九段など、並み居る面々が気づかなかった1手だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 △23香と打ったのが、丸山が名人位に懸けた乾坤一擲の勝負手

 ここでは△24歩と打つのが自然だが、それでは弱いと見ての香打。

 この手に意表を突かれた谷川が、ここで間違えてしまった。

 ▲24歩と打ったのが、自然に見えて疑問で、ここでは飛車取りにかまわず、▲44銀と取るのが谷川「前進流」で正解だった。

 以下、△25香飛車を取るのは、攻め駒が後手玉に近すぎてとても持たないから、△44同飛とするが、▲35飛△34歩と止めたところで、▲53桂成と成り捨てるのが、取られそうな飛車にする好手。

 

 

 

 

 △同銀▲75飛と軽やかに展開し、△64銀打▲45歩△54飛▲74飛と飛車を助けておけば、先手優勢をキープできるのだ。

 ▲24歩と打たせて、先手の攻めを渋滞させることに成功した後手は、そこで△45馬と桂馬を取り、▲23歩成△65桂打と反撃。

 

 

 

 激しい攻め合いとなるが、最後は丸山が勝って防衛

 かくして、この中座流△85飛車戦法は、その革新性によって従来の将棋観をゆるがし、様々な新手新手筋を生み出してきた。

 こういうのを見ると、ホントに将棋というのは、いろんなアイデアがあるもんだと、楽しい気分になってしまう。

 今、AIの出現によって、中堅以上のプロが困惑しているという話をよく聞く。

 けどまあ、皆さんも若いころ、「藤井システム」や「中座飛車」の新手でベテラン勢を、

 


 「異次元の感覚が理解できない」

 「情報社会の今にはとてもついていけない」

 


 なんてボヤかせ、

 


 「今の将棋は知識ばかりが優先されてつまらなくなった」

 


 とかブツブツ言うのを冷たく聞き流していたんでしょうから、まあ、こういうのは、おあいこなんじゃないでしょうか。

 

 

 ■おまけ

 (「丸山名人」の名人初防衛劇はこちらから)

 (その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

 


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