将棋 大山康晴が見せた「らしくない」受け vs米長邦雄 1982年 十段戦挑戦者決定リーグ

2019年08月03日 | 将棋・好手 妙手

 「受け将棋萌え」には、大山康晴十五世名人の将棋が楽しい。

 前回は佐藤康光名人の見せた「クソねばり」を紹介したが(→こちら)、今回は同じ受けでも大山名人の派手な手を見てみたい。

 昭和の時代、絶対的な強さを誇った大山将棋には特徴があると言われ、それが、



 「語り継がれる妙手の類が少ない」



 ライバルであった升田幸三九段が、「天来の妙手△35銀」をはじめとする伝説的な手や、

 

「角換わり升田定跡」

 「升田式石田流」

 「駅馬車定跡」

 

 といった、歴史に残る、独創的序盤戦術の数々を編み出したのにくらべ、大山にはその類のものが少ないと。

 その理由としては、大山が、



 「歴史に残る名局でも凡局でも、勝ちさえすれば結果は同じ1勝」



 という徹底してドライな考え方をしていたことや、そもそも将棋の作りからして派手な手が出にくい(必要としない)から。

 などと語られることがあったが、それでもときには「おお!」という妙手が飛び出して、目を見張らされることもあるのだ。

 

 舞台は1982年に行われた、十段戦挑戦者決定リーグ。

 米長邦雄棋王との一戦。

 米長の急戦に、大山は振り飛車で、△54銀と出る形からの玉頭銀で対抗。

 むかえた終盤戦。 

 


 後手は守備のを一枚はがして、駒得の戦果をあげているが、先手の▲53香も強烈な一撃だ。

 見事な田楽刺しが決まっているうえに、その具が飛車の豪華版。

 大駒が一枚と取れそうなうえ、▲11も自陣に利いており、先手もやれそうに見えるが、ここで後手にカッコイイ手があった。

 






 

△12飛と、タダのところに逃げるのが、大山らしからぬ電飾キラキラの派手な手。

 当然のこと▲同馬と取りたいが、これには利きをそらせたところから、△33角と出るのが絶好のさばき。

 

 

 

 玉頭がスカスカの先手は、なんとこれでまいっている。

▲77金には△85桂

 ▲66金には△同角と取るのがよく、▲同歩に△76銀とすべりこんで受けがむずかしい。

 こうなると、▲11が急所の筋から、ずらされたのが痛すぎる。

 かといって、馬を逃げるようでは、悠々と後手に角を逃げられてしまう。

 これで相変わらず丸損なうえに、必殺のはずの▲53香が、完全に空を切って「スカタン」になっている。

 そもそも、タダ同然でもらえるはずの飛車を取れないのでは、口惜しすぎるではないか。

 それではあんまりなので、先手は▲51香成と取るが、大山は△11飛と要の馬を除去。

 ▲61成香にも、△同飛と、電光石火の早業でこれも回収。

 


 

 あの取られそうだった飛車が、まるでブーメランのように一周し、先手の攻め駒を一掃する大活躍。

 大山はこの局面について、



 「もうこの将棋に負けはないと思った」。



 そう語っているが、本人も会心の手順だったのだろう。

 今なら久保利明九段あたりが指しそうだが、「あまして勝つ」のを得意とする大山とはいえ、派手な手もイケる。

 さすが大名人は「らしくない」形も、うまく指しこなすものだ。

 

 (米長邦雄と森安秀光の奇手編に続く→こちら

  


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