前回の続き。
1994年の第52期A級順位戦プレーオフで、谷川浩司王将を破って、初の名人挑戦権を獲得した羽生善治四冠(棋聖・王位・王座・棋王)。
迎え撃つのは、昨年度に7度目の挑戦で、ようやっと悲願の名人位に着いた米長邦雄名人。
23歳と50歳の対決と言うことで、今の藤井聡太五冠と羽生善治九段の王将戦のように、
「若くてノッテる方が有利」
と予想したくなるが人情というもの。
そういえば王将戦の方は、やはりというか、ここまでのところ藤井五冠の安定した強さが目立っている印象だが、私の勝手な皮算用では、
「羽生九段が王将獲得でタイトル100期」→
「藤井聡太四冠に後退するも、棋王と名人を奪取して、その勢いで王座も獲得し【七冠王】に」→
「王将戦でふたたび藤井七冠が挑戦者となり、羽生を破って八冠達成!」
とかなってくれたら、これはもう将棋界的に最高な盛り上がりやねんけどなーとか妄想中。
今の藤井君の勢いなら「七冠王」はなれそうだから、マジで今回の王将戦だけ羽生さんが勝てば、この
「ぼくのかんがえた、さいきょうのはちかんおう」
とか全然ありえるんでね? とか思うわけだが、どうなることでしょう。
藤井君の先手番をブレークするのが、ほぼムリゲー状態では、なかなかむずかしいとは思うけど、そこは、
「タイトル100期からの、羽生を破って藤井八冠王」
とかいう流れになれば、ここから1年の盛り上がりがすごいことになるもんなあ。
それにはやはり、羽生さんが先手番になる第4局がめちゃ大事ということで、熱戦を期待したい。
とまあ話は少しそれたけど、今回も羽生と米長の「前哨戦」のお話。
前回は大熱戦の末に羽生が絶妙手で勝利した将棋を取り上げたが、今回はベテラン米長が、七番勝負を前に「負けてないぞ」ところをアピールした一局を見ていただきたい。
1994年の竜王戦。羽生善治四冠(棋聖・王位・棋王・王座)と米長邦雄名人の一戦。
このころ、「七冠ロード」を走っていた羽生だったが、佐藤康光に竜王を取られて五冠から四冠に後退し、しばし一休みといったところ。
ただ、このときはA級順位戦で谷川浩司王将とのプレーオフに持ちこんでおり、「七冠ロードふたたび」な雰囲気はいつでも感じられた。
「名人」として待つ米長としても、数か月後に七番勝負をやるかもしれない相手として、負けられないところで、事実この将棋は双方力を尽くした大熱戦になるのだ。
相矢倉から、先手の米長が積極的に急戦を仕掛けていく。
おたがい飛車先を詰め合って、むかえたこの局面。
ここから両者が見せる歩の乱舞が、実に参考になる。
▲53歩が感触のよい手。
たくさん取れる駒があるが、△同銀と△同金は▲55に銀を出られたときに薄くなる。
△同角も当たりが強くなるし、どこかで▲45桂の目標になってしまう。
羽生は△53同金と取るが、すかさず▲55銀左と前進。
△同銀、▲同銀、△54歩、▲46銀に、△47歩がイヤらしい反撃。
△39銀から△48歩成を見せて、あせらせているが、米長の次の手がまた良い。
▲44歩が「筋中の筋」という突き出し。
△同金に▲52歩が、また見習いたい一着。
なんて美しい手順なのか。
強い人は、ホントに歩だけでこれだけの攻撃ができるのだ。
以下、後手は待望の△39銀から△48歩成に、先手もかまわず▲45桂と攻め合い。
そこから激しい駒のやり取りがあって、この場面。
▲41との詰めろが受けにくく、先手玉は飛車の横利きもあって詰みはない。
なら先手勝ちかといえば、強い人はここからが、まだまだしぶとい。
△23歩がひねり出してきた、アヤシイねばり。
玉の逃げ道を開けながら、▲同歩成なら、△同金、▲同飛成とさせ、飛車の横利きの守備力をそいでから、先手玉にラッシュをかけようというのだ。
△47角の王手があってはメチャクチャに危険だが、米長は堂々と▲同歩成と取る。
△同金、▲同飛成で、後手玉は必至。
羽生は△47角から詰ましにかかる。▲58玉に△57歩成と捨てるのがうまい手で、先手玉はメチャクチャに危ない形。
▲同銀に△58角成から捕まってもおかしくなかったが、ここは米長が読み切りで、▲77玉、△65桂、▲66玉、△57馬、▲65玉に△64歩。
詰まされても文句は言えない形だが、少し後手が足りないか。
▲54玉に△45銀と追うも、▲64玉、△63歩、▲同玉まで詰みはなく、後手が投了。
投了図も、もし後手の持駒に一歩でもあれば、△62金から、玉が▲74に逃げたときに△84飛とする筋があって、先手玉は詰んでしまう。
文字通りの「一歩千金」で、最後まで歩が主役となる、とてもおもしろい一局だった。
(羽生と米長の名人戦に続く)
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