郷田真隆はなぜ挑戦者決定戦に弱いのか 叡王戦&王座戦 編

2024年04月12日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 前回の続き。

 郷田真隆九段と言えば、その実力にもかかわらず、挑戦者決定戦での勝率が悪い。

 そこで、実際にどれほど苦戦しているのか数えてみようということで、まず竜王戦挑決0勝1敗

 名人戦はリーグ戦だからむずかしいが、2度出場しているので2勝0敗

 王位戦3勝2敗

 今のところは5勝3敗と勝ち越しているが、ここからどうなるのか。

 正直、ちょっとめんどくさくなってきたが、がんばって数えてみたい。

 

 


 続くのは叡王戦だが、ここでもまず第1回の大会で決勝に進出するも、山崎隆之八段に敗れて準優勝

 まあ、このときはまだタイトル戦じゃなかったから、ノーカウントだけど、このときのトーナメントを

 

 「ソフトへの挑戦」

 

 をかけた戦いと解釈すれば、やはり負けているということにもなるなあ。


 ☆叡王戦挑決 0勝0敗

 


 次は王座戦

 王座戦は郷田が獲得どころか、5番勝負にも出たことがない棋戦である。

 ただ、しっかりと挑決4度も勝ち上がっているのがさすがで、つまりはそこで4連敗していしまっているということでもある。

 またしても、なんでやねん。

 うちわけは、1997年の第45期王座戦で、島朗八段に負け。

 1998年谷川浩司竜王に、必勝の局面から「1手トン死」を喰らって大逆転負け。

 1999年の第47期では丸山忠久八段に敗れて、3年連続の挑決敗退。

 これはかなりしんどい結果だが、そのあと2013年にも久々に勝ち上がったものの、やはり中村太地六段に敗れガッカリ。

 これには相性がいいのか悪いのか、よくわからないものである。

 そういえば郷田と言えば丸山天敵で、対戦成績でも負け越しているはず。

 その理由は郷田が後手になったとき、ムキになって丸山必殺の角換わり腰掛銀を受けるからで、それにほとんど勝てていないからだ。

 そういえば佐藤康光九段もそうで、谷川浩司九段や丸山のような「スペシャリスト」に後手番の角換わり腰掛け銀で挑んで、痛い目にあわされてきた。

 象徴的なのがこの将棋で、2011年の第70期A級順位戦

 

 

 

 

 渡辺明竜王と郷田真隆九段の一戦は角換わり腰掛け銀から「富岡流」と呼ばれる形になる。

 △同金、▲33銀、△同桂、▲同歩成、△41玉、▲22と、△49馬、▲74桂、△同金、▲53馬、△58馬、▲72歩。

 

 

 

 

 △72同飛、▲62金、△42金、▲45桂、△53金、▲同桂成、△62飛、▲同成桂、△68銀、▲88玉。

 

 

 

 

 まで渡辺の勝ち。

 相居飛車の定跡通り先手番バリバリ攻めて押し切るという「後手番ノーチャンス」のような、よくある将棋に見える。

 これが当時「事件」と騒ぎになったのは、なんとこの手順は「後手負け」という定跡としてすでに確立しており、角換わりのにも掲載されている有名な順だったこと。

 「富岡流」からその定跡通りに進んだところでは、当然「負ける」側の郷田が手を変えるはずで、「郷田新手」を皆が予想し期待していたところ、なんとそのレールに乗ったまま最後まで走って投了

 なんてこったい! これじゃあ、まるで棋譜並べだ。

 公式戦、しかも持ち時間6時間の順位戦で、なぜこんなことが起こったのか。

 結論から言えば、郷田はなんとこの定跡を知らなかったから。

 郷田と言えば、パソコンはおろか携帯電話なども、

 


 「そんなものより大事なものはいくらでもある」


 

 

 と言い放って長く持たなかった「硬派」で知られ、今では当たり前の研究会や、ケータイのメッセージなどでの最新手順の情報交換も一切拒否していた男。

 日々の鍛錬と、自分の信念のみを信じるという文字通りの「一刀流」で、それでタイトルまで取ってしまったサムライの姿は、

 

 「カッコよすぎるやん……」

 

 金井恒太六段をはじめ、多くの棋士観戦記者ファンをシビれさせるが、そのスタイルには常に、こういった落とし穴がつきまとう。

 これが「定跡」になっていることを知らされた郷田は呆然としたそうだが、さもあろう。

 もちろんこれは極端な例だし、郷田の力をもってすれば、この程度の罠は「誤差」の範囲内だが、生涯勝率を少しばかり下げてしまっているのも事実だ。

 これはねえ、「オランダサッカー」問題と同じで、むずかしいよねえ。

 「信念」か「結果」か。

 もっとも、それを「もったいない」と感じるのは素人考えで、本人たちの弁では、意地だけでなく勝算があっての採用だと語っている。

 それに棋士人生を長い目で見れば、たとえ相手のエース戦法に挑んで負けても、きっと黒星以上に得るものもあるのだろう。

 そういったことを視野に入れれば、

 

 「角換わりを、さければいいのに」

 

 というのが、いかに底の浅い意見であるかわかろうというもの。

 玄人の将棋ファンとし鳴らす私としては、そういう輩は大いにバカにしたいところであるが、2013年NHK杯決勝で丸山と当たった郷田は、後手番で横歩取りを採用。

 

 

 

 図で△75飛と引いたのが好手で、▲45を取って△47の地点をねらうのが速い。

 先手は左辺の角金銀になって受けにくく、郷田がそのまま勝ち切りNHK杯初優勝を決めた。

 あざやかな指しまわしで、さすが郷田はどの戦法を指しても強いなあ……。

 ……て、あれ? やっぱ、じゃあ今までも角換わりは避けといたらよかったんちゃうん! 

 最初からもっと柔軟に戦型を選んでたら、NHK杯だってもっと勝てたかもしれないのに……。

 もっとも、私(ド素人)なんかがそんなことを言ったところで、郷田なら、

 

 「それって、なんか意味あるんですか?」

 

 なんて答えるのだろう(「あー、意味ない、意味ない」は酔った郷田の口癖)。

 もっともだ。そんな郷田は郷田ではない。

 あーもー、めんどくせーなー。オレはアンタについていくよ、もう!

 

 ☆王座戦挑決 0勝4敗

 

 (続く
   

 

 

コメント
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