前回の続き。
郷田真隆九段と言えば、その実力にもかかわらず、挑戦者決定戦での勝率が悪い。
そこで、実際にどれほど苦戦しているのか数えてみようということで、まず竜王戦挑決は0勝1敗。
名人戦はリーグ戦だからむずかしいが、2度出場しているので2勝0敗。
ここまで5勝7敗と負け越しているが、ここからどうなるか。
ぶっちゃけ、かなり数えるのがダルくなってきたが、今さら後に引けないので続けたい。
続いては獲得経験もある棋王戦。
こちらは1997年に、南芳一九段を破って挑戦権を獲得。
そこまでは良かったが、5番勝負では羽生善治棋王に1勝3敗のスコアではね返されてしまう。
で、ここからがまた試練になる。
まず、2000年の第26期棋王戦では、挑戦者決定戦で敗者復活から上がってきた久保利明六段に、2連敗し挑戦を逃す。
翌2001年の第27期、今度は敗者復活戦から勝ち上がったものの、佐藤康光九段に先勝しながら勝ち切れず。
2002年の第28期では、これまた敗者戦から上がってきた丸山忠久九段に2連敗し、王座戦と同じく怒涛の3年連続挑決敗退。
しかも、2度は敗者組に2連敗しているんだから、ちょっと問題ありだ。
おまけに2005年の第31期棋王戦でも、敗者戦から森内俊之名人に挑むも敗れ、郷田ファンからすれば頭をかかえたくなる惨状。
ただ、2011年の第37期棋王戦では、敗者戦から上がってきた若手トップの広瀬章人七段を押さえて、ようやっとトンネルを抜ける。
このときも初戦を敗れて、「またか」とおもわせたところを2戦目でキッチリと取り返しての挑戦で、少しヒヤヒヤはしましたが。
図は挑戦者決定戦の第1局。
「振り穴王子」の穴熊に郷田も対抗して、この局面。
こんなもん、どうみても▲21飛成しか思い浮かばないが、次の手がいかにも「郷田流」だった。
▲85歩と、ジッと伸ばすのがコクのある手。
目先の飛車成にとらわれず、穴熊の最急所に圧力をかけておくのが、この際の好判断だった。
もちろん▲21飛成でも悪くはないのだが、ここでそれを保留できる精神力がすばらしい。
控室で検討していた青野照市九段からも「郷田好み」のお墨付き。
なにかこう理屈抜きで「つえーなー、オイ」という気にさせられるのだ。
将棋はこの後、熱戦になって二転三転の末に郷田が敗れたが、その存在感は存分に見せたようだ。
続く久保利明棋王との五番勝負でも郷田は強かった。
第1局のこの局面。
やはり相穴熊の戦いだが、作戦負けで苦しげなところ、次の手が意表の一着。
▲96銀と出るのが、形にこだわらない強い手。
ねらいとしては次に▲85歩から歩を交換すれば、一歩を手持ちにした上に銀が大いばりで指せると。
それはいけないと久保は△73桂と交換を拒否するが、今度はそこでまたもやジッと▲87銀。
手損となったが、後手に△73桂と跳ねさせ、アーマークラスを下げたことが地味に効いている。
木村一基八段曰く、
「負けてもこういう手を指すと「強いなあ」と感嘆しますね」
この将棋こそ敗れたものの、その後3連勝し3勝1敗で奪取。
ようやっと苦労が報われる形に。
王座戦とちがって、こっちはハッピーエンドだったが、その翌年には渡辺明竜王に1勝3敗で敗れて失冠。
挑決ともうひとつ、防衛戦でなかなか本領を発揮できないのも、郷田の泣き所だったが、これまたなぜか。
理由はやはり不明である。
おっと、忘れるところだった2021年、第47期の挑決でも永瀬拓矢王座に敗れて、またひとつ黒星を増やしてしまった。
永瀬は今バリバリでA級、タイトルの常連だから、ある程度はしょうがないとはいえ、うーん、ここは久しぶりに郷田のタイトル戦が見たかったのだが……。
(続く)
☆棋王戦挑決 2勝5敗(獲得1)