さばくのは俺だ 久保利明vs羽生善治 2005年 第63期A級順位戦

2022年10月03日 | 将棋・名局

 久保利明のさばきは将棋界の至宝である。

 よくスポーツ選手などがインタビューで、リオネルメッシロジャーフェデラーのようなあこがれのアスリートについて熱く語ったあと、

 

 「でもプレーの参考にはしません。すごすぎて、とてもマネできないので(笑)」

 


 なんて締めることがあるが、将棋界だとそれは「久保のさばき」にあたるのではあるまいか。

 あれはねえ、ホントにマネなんてできませんぜ。

 

 2005年の第63期A級順位戦

 羽生善治四冠久保利明八段の一戦。
 
 名人挑戦をかけたリーグ戦は、羽生と久保の双方5勝2敗という直接対決

 2敗にもうひとり藤井猛九段もいるため、生き残りをかけた大一番だ。

 後手の久保が得意のゴキゲン中飛車に振ると、羽生は▲36から速攻でくり出して行く。

 むかえたこの局面。

 

 

 


 ▲35歩と打って、一目後手が困っている。

 飛車の行く場所がないし、かといって△同角▲同銀△同飛▲36歩と一回受けてから▲21飛成で先手が大優勢。

 後手が困っているようだが、実はこれが久保のしかけたで、すでに振り飛車のさばけ形

 羽生はレールの上に載ってしまった自覚こそあったが、気づいた時にはすでに軌道修正が不可能だったそうだ。

 

 

 

 

 

 △27歩、▲同飛、△26歩、▲同飛、△23歩できれいに受かっている。

 ▲同銀不成△35飛▲36歩△55飛を取って、▲同角には△26角飛車を取られて駒損してしまう。

 本譜は▲34歩と取るが△26角と取って、包囲網を突破することに見事成功。

 

 

 

 

 敵の駒を引きつけるだけ引きつけて、戦線が伸び切った瞬間、一気にを仕掛ける。
 
 まるでドイツ軍の名将エーリヒフォンマンシュタインが得意とした「機動防御」のようであり、もうシブすぎる指し回しなのだ。

 ▲24にあるの処置に困った羽生は▲28飛自陣飛車を打つが、後手から△49飛がきびしい打ちこみ。

 以下、▲26飛△47飛成▲58角が、いかにも苦しいがんばり。

 

 

 

 

 △38竜▲23銀成△57金と打って▲59歩の受け。

 そこから△58金、▲同歩、△23金▲同飛成とわかりやすく清算して△14角と打つのが指がしなる一着だ。

 

 

 

 将棋の本をサクサク読むコツ

 「むずかしい手順はどんどん飛ばす

 ことだが(お試しあれ)、ここをあえて載せてみたのは、流れるような久保のさばきを味わってほしいから。

 あの完封されそうだった飛車が、気がつけば先手陣のド急所をねらう位置にいるのだから、もう笑いが止まらない展開ではないか。

 四冠王だった羽生相手に、ここまでかきまわせる「さばきのアーティスト」も見事だが、ただ順位戦はここからが長い

 これまでは久保のワンマンショーだったが、ここからは羽生が魅せるターンで、そう簡単に勝負は終わらないのだ。

 

 (続く

 

 

 

コメント
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