さばかれた世界 久保利明vs羽生善治 2005年 第63期A級順位戦 その2

2022年10月04日 | 将棋・名局

 前回の続き。

 2005年の第63期A級順位戦

 羽生善治四冠久保利明八段の一戦は双方5勝2敗という、名人挑戦をかけた直接対決

 生き残りのためには、負けるわけにいかない大一番だが、序盤は「さばきのアーティスト」の魔術が冴えまくり、久保がペースを握ることに成功する。

 

 

 △14角と打って、振り飛車がこれ以上ないほど、うまくいっている。

 平凡な▲21竜△58角成から殺到され、寄せられてしまう。

 かといって飛車を渡すわけにもいかず、進退窮まっているように見えるが、ここでアッサリとあきらめるようでは四冠王の名が泣く。

 ましてや順位戦ともなれば、そう簡単に投げるわけにいかないということで、あれこれと手を尽くすのだが、ここからは羽生の腕の見せどころだ。

 まず▲37金と打って、△同竜と取りの形にしておいてから▲14竜と、逆モーションでこちらのを取るのが、いかにも「ひねり出した」という手順。

 

 

 

 

 △14同歩▲37桂で、駒損が残りるうえに遊んでいたもさばかせて、これは後手がおもしろくない。

 そこで△26竜とかわすが、▲16竜とぶつけるのが、またも不思議な形。

 

 

 

 

 こんなところで竜交換を求めるなど、見たこともないやりとりで、なんだか「不思議流」と呼ばれた中村修九段の将棋みたいだ。

 △29竜と駒を補充しながら敵陣に入るが、そこで▲45角と放つのが、また面妖な手。

 

 

 

 攻守ともに、利いているのかどうか微妙だが、このふんわりした感じが、羽生将棋の真骨頂で、依然後手が優勢ながら簡単には土俵を割らない。

 クライマックスはこの場面。 

 

 

 やはり久保優勢な局面で、一目は後手が勝ちである。

 次に必殺の一手があるからだ。

 

 

 

 

 

 △89角と打つのが、カッコイイ寄せ。

 ▲同金△69飛成と取って、▲同玉△68金まで詰み。

 ▲同玉しかないが、やはり△69飛成と取られて、▲同金頭金だから取れない。

 決まったようにしか見えないところだが、まだ勝負は終わってないのだから、将棋を最後まで勝ち切るのは、本当に大変な作業である。

 ましてや、相手があの羽生善治となれば。

 次の一手が、これまた実にしぶといのだ。

 

 

 

 

 ▲78飛と、この日2度目の自陣飛車で耐えている。

 大駒を自陣で受けに使うときは、「飛車」のイメージでというが、まさにそんな形だ。

 羽生玉をここまで追いつめ、あと一歩、それこそ指一本分でも伸びればそれで倒れているような王様だが、そのわずかが届いていない。

 なにかはありそうなこの場面で、久保は残り4分になるまで懸命に考えたが、ついにとどめをさせず△19竜とゆるむ。

 それでもまだ後手が優勢だったが、玉頭戦のもみ合いの末、ついにうっちゃられてしまった。

 以下、羽生が逆転で勝利し2敗をキープ。その後、藤井が敗れ、最終戦も勝った羽生が名人挑戦権獲得を果たした。

 久保には残念だったが、敗れたとはいえ序中盤を圧倒したさばきは、まさに神業級のすばらしさ。

 そこからの羽生の曲線的なねばり腰と合わせて、両者の力が存分に発揮された、名局と言っていいのではあるまいか。

 

 

 (久保が魅せた「さばき」の大サーカス編に続く)

 (その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

  

 


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