A級順位戦まで何マイル? 山崎隆之vs北浜健介 2000年 第31期新人王戦決勝 第3局

2021年02月09日 | 将棋・名局

 山崎隆之八段が、A級に昇級した。

 山崎隆之といえば、奨励会時代から次期関西のエースと期待されていた男。

 「中学生棋士」こそ逃したが、17歳でデビュー後も新人王戦NHK杯で優勝など、各棋戦で勝ちまくって、その評判に偽りがなかったことを証明した。

 となればあとは、A級八段とタイトル獲得まで一直線と思われたが、ここで意外な苦戦を強いられる。

 まずタイトルへの道が遠く、2009年の第57期王座戦で初めて檜舞台に出るも、羽生善治王座を相手に3連敗のストレート負け。

 また順位戦も、なぜか13年B級1組に定着してしまい、山崎隆之の才能を知るものからすれば、まさに「なんでやねん」な状態であったのだ。

 それがやっと、ようやっと、まずはA級に昇ることができた。

 もちろん、独創性あふれる山崎将棋のファンとしては、これだけで満足などできるわけもなく、次はタイトルをねらってほしい。

 これは高望みではなく、本来なら常時タイトルのひとつやふたつ、持っていてもおかしくない器なのだ。

 前回は羽生善治久保利明に見せた、驚異の一手パス&絶妙手のコンボを紹介したが(→こちら)、今回はA級昇級記念に、復活を遂げた山ちゃんの若手時代の将棋をどうぞ。


 2000年の第31期新人王戦で、決勝に進出したのは24歳の北浜健介六段と、19歳の山崎隆之四段だった。

 関西の若手ホープである山崎だが、早くにB2まで上がって、すでに六段の北浜はなかなかの強敵。

 山崎が先勝するも、北浜も1番返してタイに。

 決戦の第3局は、山崎先手で角換わり腰掛銀になって、むかえたこの局面。

 

 

 

 中央でが交換になったところ。

 後手は次に△36歩がねらい。

 ▲35角としても、△53銀打としっかり受けられて、さほどの効果はない。

 受けにくいように見えたが、実は後手陣にはそれ以上の不備があり、山崎はそれを見逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

 ▲84銀と打つのが、スルドイB面攻撃

 これが△93香取りと、▲73銀成の両ねらいで、後手の駒組をとがめている。

 まるで、羽生善治九段の得意とする、攻め駒を責める「羽生ゾーン」のようだ。

 北浜は△55銀と受けて、▲35角△61飛とかわすが、そこでタダのを取らず▲83銀不成がおどろきの一手。

 

 

 

 ここでは▲56歩と突いて、先手が指せていたそうだが、山崎には逆方向から攻めるねらいがあった。

 △36歩の反撃に、▲25桂と逃げて、△37歩成。そこで▲72銀不成

 

 


 も、タダで取れるも取らず、グイグイと不成の進撃。

 まさに「銀は千鳥に使え」で、ここで△48と、と攻め合うのは▲61銀不成から先手が速いから、一回△62飛とする。

 ▲同角成、△同金、▲71飛と王手してから、△22玉に一回▲18飛と逃げ、後手も△27と、と追っていく。

 

 


 この局面、北浜は「指せると思っていた」と言い、控室の検討もそれに同意。

 さもあろう、△27と、に▲48飛と逃げ回るようでは、△37と、から千日手にされそう。

 また、勝ちに行くなら強く△26と、から上部を根こそぎにしてしまう選択肢もあるのだ。

 先手は手数をかけて使ったが、やや中途半端な存在どころか、下手すると質駒として、好機に取られてしまうかもしれない。

 先手難局を思わせたが、ここで山崎が見事なワザを見せるのだ。

 

 

 

 

 ▲83銀成とひっくり返るのが、だれも予想できなかった、すばらしい駒の活用。

 一見、駒が後ろに下がる、もっさりした手のようだが、▲25上部を押さえているこの一瞬は、次に桂馬を取って▲34桂と打つ筋が、すこぶる速いのである。

 なんと、この軽快なのステップ一発で、すでに後手から勝ちがなくなっている。

 △18と、とタダ同然で飛車を取れるが、▲34桂の投げ縄が強烈すぎて、その程度の得ではどうにもならない。

 それでも、後手は飛車を取るくらいしかないが、▲73成銀と取って、△38飛の攻防手にも、悠々と▲62成銀を補充。

 飛車を打ったからには、後手も△58飛成と取り返したいが、その瞬間に▲34桂が、やはり激痛どころか、後手玉は詰んでしまうのだ。

 △24歩と受けるしかないが、山崎は落ち着いて▲52成銀

 △31銀と逃げるも、▲41成銀とすり寄って、いよいよ後手に受けがない。

 

 

 

 それにしても、あざやかなのが山崎の銀使い。

 ▲84銀と打ってから、▲83、▲72、▲83、▲73、▲62、▲52、▲41と大遠征を果たす活躍。

 しかも▲83から、▲72▲83一回転しているのだから、その美技にはほれぼれする。

 その後も山崎は、ゆるまぬ攻撃で後手を圧倒

 優勝を目前にして投げきれない北浜も、懸命に抵抗したが、最後は緩急自在の寄せの前に屈した。

 これで2勝1敗となり、山崎四段が新人王戦初優勝

 このころはまさか、こんなにB1で足を取られるとは、思いもしなかったものだ。

 まあ、時間こそかかったが、一回上がってしまえば、あとは取り戻すだけ。

 A級でも、ぜひこのころのような勢いがあり、かつ人がアッとおどろく将棋を見せてほしいもの。

 山ちゃん、アンタならできる!

 マジで期待してますぜ。

 

 (山崎隆之の「玉の早逃げ」編に続く→こちら

 

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