昨日の続きの本題に入る前に、書いておくべきことが生じた。昨日のNHKニュース7でSTAP細胞について新たな疑惑が判明したとの報道があった。私はこれまでSTAP細胞の存在そのものについては存在する可能性が高いと考えてきたし、そのようにブログでも書いてきた。『ネイチャー』に投稿された論文については「お粗末すぎる」とは書いたが、国際学会の基調講演をするほどの米ハーバード大のバカンティ教授が「STAP細胞は存在する」と何度も発言し、STAP細胞の作製手順もWebで公開したことから、30歳の小保方ユニットリーダーの論文作成過程のミスと考えてきた。そして論文作成の指導を担当した笹井氏の責任は免れ得ないとも主張してきた。
が、理研の論文調査委員会が「論文はねつ造と改ざんによる不正行為」と決めつけた以外にも、別の検証チームが論文の調査を行っており、理研の正式な調査委員会が「ねつ造と改ざん」の根拠とした二つの不正以外にも重大な不正が行われていたことを見つけ、すでに理研に報告書を提出しており、その報告書を理研が握りつぶしていたことがNHKの取材で明らかになった。私は科学者ではないので、その報告書についての評価はできないが、「STAP細胞が万能性を持つ証拠として2種類の異なる細胞から作ったとしていた2枚のマウスの写真が、実際には2枚とも同じ種類の細胞を使って出来たマウスの写真だった」という。また「異なる種類のマウスで撮影していたという2枚の写真が実際には1匹のマウスの写真だった」ともいう。
そこまで論文の不正が行われていたとすると、いかに世界的権威のあるバカンティ教授の後ろ盾があったとしても、STAP細胞の存在についての疑惑がぬぐえない段階になった。小保方氏の代理人を務める三木弁護士は「肝心の小保方氏に何の説明もなく、聞き取りもしていない、寝耳に水の話」と困惑している。日本分子生物学会の副理事長で九州大学の中山教授は「ここまでミスが重なるのは、明らかに不自然だ。STAP細胞が存在するならば、こうしたことが起こるとは考えにくく、そもそもSTAP細胞はなかったのではないかと強く疑わざるを得ない」とコメントした。
私はSTAP論文の疑惑が表面化した時点で、「突然変異だった可能性はある」と書いた。その時点では『ネイチャー』に投稿するほどの論文に名を連ねた研究者たちの顔ぶれから考えても、共著者のだれも「STAP細胞の作製過程を見ていなかった」などということは考えられなかったからだ。さらにバカンティ教授が作製方法をWebで公開したことからも、再現の困難なことは認めつつもSTAP細胞が存在する可能性は高いとみていた。
しかし、小保方氏が記者会見で「私は200回以上STAP細胞の作製に成功している」と言い切ったあたりから、頭の片隅に多少の疑念が生じだしたことも事実である。「なぜほかの研究者たちはだれも再現に成功しないのか」という記
者の質問に対しても「コツとレシピが必要で、それは特許の関係で公開できな
い」と疑惑を積極的に晴らそうとしなかったことも、私にとってはいぶかしかった。自身の研究者生命が絶たれようとしていている事態に、「特許もへったくれもないではないか」と正直思った。ただその時の私の追及の矛先は理研の体質と笹井氏の責任に向けられており、「理研がSTAP細胞作製の検証研究チームに、なぜ肝心の小保方氏を加えないのか」という批判は何度も行ってきた。
事ここに至って、小保方氏に対する疑惑が私の中で急浮上したのは、NHKのニュースによって、これまで小保方氏が主張してきた「単純なミスで、悪意のある不正ではない」という主張が根底から覆ったと考えざるをえなくなったからである。小保方氏が、あくまで「STAP細胞は存在する」と主張するなら、「コツとレシピ」を公開するか、理研に対して「検証研究チームに私を参加させてくれ。研究チーム全員の目の前でSTAP細胞を作製して疑いを晴らす」と申し入れるしかない。また理研も「検証研究チームの目の前でSTAP細胞を作ってみろ」と、小保方氏に命じるべきだ。そうすれば、単純な論文の作成ミスだったのか、STAP細胞の存在そのものが絵空事だったのか、はっきりする。それ以外にSTAP騒動に決着をつける方法はない。
さて本題に戻る。日本の大企業は今春9年ぶりにベースアップを行った。安倍総理の要請にこたえて、言うなら政労使の三者揃い踏みで実現したベースアップだった。安倍総理としてはアベノミクスを成功させるためには消費税増税による景気後退を極力抑えるためには、円安効果によって史上空前の利益を上げた輸出関連企業を中心に景気の牽引車にどうしてもする必要があった。
メディアもそろって好感を示した。「憲法違反の賃上げ」だということを知りながら、その指摘すら行わずに諸手を挙げて支持した。「お前らアホか」と言いたい。「憲法違反の賃上げ」ということを知らなかったとしたら、もっとアホと言わなければならない。
憲法に違反している法律は、言うまでもなく労働基準法である。労働基準法では、賃金の形態を「基準内賃金」と「基準外賃金」に分類している。
基準外賃金の方から説明しよう。その方がわかりやすいからだ。
労働基準法で基準外賃金の対象とされているのは、主に三つだ。扶養家族手当、住宅手当、通勤手当、である。すべて「属人的要素」つまり個々の従業員の個人的な諸事情に対して支給されている手当で、会社で仕事をした労働力に対する対価として支給される賃金ではない。そういう意味では年齢・学歴・勤続年数を基準にした基本給は、本来「基準外賃金」である。これらの要素は「職務遂行に要する労働力の価値」とは無関係だからだ。
これに対して基準内賃金は、基準外賃金を除くあらゆる名目の手当を含む賃金を指す。労働基準法では、時間外労働(残業、休日出勤など)に対する割増賃金の割増率の基準になる賃金である。
ところが、今春9年ぶりに行われたベースアップは、本来の意味での基準内賃金の底上げではない。慣行として連合(旧総評系)などが容認してきたせいもあるのだろうが、日本におけるベースアップは基準外賃金の中の基本給(年齢・学歴・勤続年数)により物価変動を加味して自動的に一律上下するはずの賃金)だけをアップすることにしたということである。こうしたベースアップは本来、労働基準法違反でなければおかしい。
が、日本の労働基準法は「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない」(第4条)としているだけで、年齢・学歴・勤続年数の「3基準外賃金」についての差別的取扱いは認めている。はっきり言って憲法違反の法律だが、労働組合側も慣行として容認してきたし、輸出関連の大企業に対して安倍総理が要請したベースアップも、総理自身はそのことを百も承知で行っている。
そう言い切れるのは、竹中平蔵氏が著書『日本経済の「ここ」が危ない――わかりやすい経済学教室』で「安倍晋三内閣(※第1次)で同一労働同一賃金の法制化を行おうとしたが、既得権益を失う労働組合や、保険や年金の負担増を嫌う財界の反対で頓挫した」と述べていることからも明らかである。
安倍総理が実現したいとする100年後を見据えた日本社会の根本的改造の理念には、私も同感する要素が多いが、それが直ちには実現不可能となると対処療法的手法の行使によって、かえって目標が遠のいてしまう結果になっていることは、集団的自衛権行使問題で私は明らかにしてきた。現行憲法は日本が戦後の、何もかも失った占領下の時代に制定された憲法であり、日本国民の総意によらず、帝国議会・枢密院(天皇の最高諮問機関=帝国議会の上位に位置づけられていた)での採決を経て天皇が裁可した憲法である。当然、サンフランシスコ条約で独立を回復して主権を取り戻した時点で、天皇の裁可によって制定された現行憲法は無効になっていたはずだ。
当時の吉田内閣が、朝鮮特需で息を吹き返した日本経済を本格的な回復軌道に乗せるため、あえて憲法改定を行わず日本の国力のすべてを経済再建に注いだ意図は理解できないではないが、当時の日本が国際社会に占めていた立場と現在とでは雲泥の差がある。日本が現在の国際的地位にふさわしい国際、とくに地理的には環太平洋の平和と安全に貢献すべき責務はきわめて大きい。その責務を果たすため、現行憲法の平和主義の理念は継承しつつ、現実的にそれを可能にするためには憲法を改正して環太平洋集団安全保障体制の構築に貢献すべき責任があることを、吉田内閣が主権国家としての義務を放棄してまで経済再建に国力のすべてを注がざるを得なかった事情を国民に誠意を持って説明すれば、日本国民はバカではない。集団的自衛権の行使を「行使できる要件」の限定までして憲法解釈によって可能にしようという対処療法的行為そのものが、かえって憲法の権威を損ない、国際社会に占める日本の立場にふさわしい権利・義務・責任を明確にした憲法に改定することを困難にしていることが、安倍総理にはまだ分かっていない。
賃金制度の問題に戻るが、日本特有の基本給制度は、アメリカをはじめとする米欧諸国の賃金体系にはありえない。徳川幕府が国家的精神規範として定着させた儒教とは、必ずしもまったく同じとは言えないと思うが、いちおう儒教国家とされている韓国の賃金形態は分からないが、昨日のブログで書いたように江戸時代に確立した「年功序列・終身雇用」の雇用形態を前提にしない限り、年齢や学歴を基準にした基本給という名目の賃金はありえない。NHKをはじめとして大メディアは少なくともアメリカには総局や支局を置いており現地アメリカ人も雇用している。そのアメリカで、日本型の賃金体系を実施したらたちまち「同一労働同一賃金の原則に違反している」として従業員から訴えられる。こうした違反行為に対する裁判所が下す判決はきわめて厳しい。日本のよ
うな情緒的な判決は絶対に下さない。
だから安倍総理が自ら座長を産業競争力会議が、基本給を基準にした時間外労働の割増賃金の規定を廃止しようと考えているのかが、現段階では全く分からない。何も具体的なことが分からない時点で問題点を指摘しても空転しかねないことを百も承知で、やはりこの機会に日本の将来を考えて、賃金体系の抜本的改革の提案だけはしておきたいと思う。
まず事実上従来の日本型雇用形態であった「年功序列・終身雇用」が早晩、完全に崩壊することは不可避であることはどなたもお分かりと思う。実際この雇用形態が維持されているのは公務員や準公務員の世界と、いちおう現時点でも成長を続けている大企業に限られている。一方建設業界などは人手不足で、労働力を海外からの「輸入」に頼らざるを得ない状態になっている。さらに少子高齢化に歯止めがかからない状況から、将来的には深刻な労働力不足に陥ることも確実視されている。
こうした事態を打開するために、若年労働力の増加に期待ができない状況にある以上、非正規社員の正規社員化、とくに非正規社員に多い結婚で主婦層になっていったん仕事から離れた女性の社会復帰を促すこと、また能力が衰えていないにもかかわらず定年で仕事を奪われて第二の人生をやむなく送っている高齢者の再活用を促すしか解決方法はない。
そのためには、正規社員の時間外労働時間を極力減少し、その穴を埋める方策として主婦層の職場復帰の機会を増やしたり、高齢者の再雇用を強力に進めて行く方策として政府の有識者会議である「産業競争力会議」で労基法の見直しをするのは当然であり、連合や共産党ばかりか朝日新聞も4月28日付社説で「何時間働いたかではなく、どんな成果を上げたのかで賃金が決まる。それ自体は、合理的な考えだ」としながら、続けて「だが、過大な成果を求めれば、長時間労働を余儀なくされ、命や健康がむしばまれかねない。その危機感が薄いのが心配だ」と書いたのは、共産党や連合の主張の受け売りにすぎず、朝日新聞の論説委員が自分の頭で考えて共産党や連合と同じ結論に達したとしたら、「産業競争力会議」が何を目的として労基法を改定しようとしているかを自分の思考力で考える習慣を失っていると考えるべきだろう。
はっきり言って日本企業の賃金体系は、曲がりなりにも「年功序列・終身雇用」を前提として生活給部分(年齢や学歴、勤続年数など)を「基本給」として維持し、物価上昇率をスライドさせて上昇させてきた。過去9年間大企業が基本給を据え置いてきたのはデフレ現象によって物価が下落を続け、生活給部分の家計上昇と差引してプラス・マイナス=ゼロと見なしてきたからである。
今春、政府が輸出関連の大企業に円安誘導による結果として企業の業績が輸
出関連企業を牽引車として軒並み改善されたのを見て、安倍総理がじきじき経
財団体に「賃金アップで従業員に報いてほしい」と異例の要請をしたのも、消
費税増税による景気後退を懸念して、消費者の購買意欲が冷え込まないようにと願って打った大芝居だったのである。
これは結果論だが、安倍総理の単眼思考が「功を奏した」ことを意味する。安倍総理はデフレ不況の原因を単眼思考で「円高」によって輸出産業が打撃を受ける一方輸入品が格安で日本に入ってきたことがデフレの原因、とみていた。しかし、物価を左右する要因は為替だけではない。インターネット・ショッピング(オークションも含む)やアウトレット店の拡大、そして何よりもスーパーやデパートに打撃を与えたのが100円ショップの予想をはるかに上回る拡大であった。とくに100円ショップが食料品や日常品の価格を従来の市場相場から大幅に引き下げ、近辺のスーパーも対抗上値下げを余儀なくされたことが大きく効いた。
安倍総理が歴代総理では考えられなかった海外、とくに経済成長しつつある新興国をたびたび訪問して日本産業界の営業本部長として飛び回り、日本製品や日本の技術をセールすするため行脚したことは、日本国民の一人として素直に感謝している。総理は国内でもデパートなどを度々視察しているようだが、デパートだけ見て回っても消費税増税の影響はつかめない。100円ショップは消費税が増税したといっても一品に付き増税分はたった3円にすぎず、私が近辺の100円ショップの店長数人に聞いた結果として「客離れはまったく生じていないので胸をなでおろしている」と話す店長が大半だったし、スーパーは代表格のイオンとイトーヨーカドーが売れ筋の自社ブランド商品の消費税込み価格を据え置くという戦略に出たため客足も落ちていない。消費税増額の影響がもろに出たのは増税前の駆け込み需要が爆発した電気量販店と、高額ブランド商品の販売を中心にしてきたデパートくらいである。自動車は増税と引きかえの減税処置もとったため駆け込み需要はそれほど生じず、消費税増税と自動車税軽減の相殺で販売にあまり影響は出なかったようだ。ただ影響が大きかったのは、日米TPP交渉で日本の軽自動車に対する自動車増税がダブルパンチとなって、駆け込み需要が増大した反動は予想されていた通り大きかったようだ。
安倍総理はプライドのせいか、警備上の問題かは分からないが、スーパーや100ショップを視察していないが、これはカメラ撮影を駆使してでも視察効果を実感したほうがいい。また総理はゴルフがお好きなようだが、ゴルフ用品やゴルフウェアをだれか若いスタッフに頼んでネット・オークションで買ってみたらいい。また最近急増しているアウトレット店の人気ぶりもカメラ視察でいいから見ておいた方がいい。
デフレ現象は円高要因もあるが、こうした100円ショップでの買い物が若い人だけでなく高額所得者にとっても抵抗感がなくなってきたこと、とくにユニ
クロのファッションはいまや若い人にとってステータスにすらなっていること、
スーパーが100円ショップに対抗して販売価格政策を見直してきたこと、こうした複合的要因がデフレを招いたことも理解しておく必要がある。だから、日銀の金融政策によって円安誘導しても、確かに輸入品はインフレ要因の一つにはなりうるが、日本の消費者の輸入品離れが生じれば、日本への輸入価格の見直しは必至になり(海外のブランド商品は二重価格制を採用しており、とくに「日本仕様」としている商品は品質を高めているわけでもないのにバカ高い価格を設定してきた)、日本への輸出量を確保するため値下げせざるを得ない状況になっている。
話がちょっと賃金体系の改定問題から外れてしまったので、明日は本来の賃金体系の改定が何を目的にしているか、朝日新聞の頭の悪い論説委員の主張を論理的に検証しながら明らかにしていきたいと思う。(続く)
が、理研の論文調査委員会が「論文はねつ造と改ざんによる不正行為」と決めつけた以外にも、別の検証チームが論文の調査を行っており、理研の正式な調査委員会が「ねつ造と改ざん」の根拠とした二つの不正以外にも重大な不正が行われていたことを見つけ、すでに理研に報告書を提出しており、その報告書を理研が握りつぶしていたことがNHKの取材で明らかになった。私は科学者ではないので、その報告書についての評価はできないが、「STAP細胞が万能性を持つ証拠として2種類の異なる細胞から作ったとしていた2枚のマウスの写真が、実際には2枚とも同じ種類の細胞を使って出来たマウスの写真だった」という。また「異なる種類のマウスで撮影していたという2枚の写真が実際には1匹のマウスの写真だった」ともいう。
そこまで論文の不正が行われていたとすると、いかに世界的権威のあるバカンティ教授の後ろ盾があったとしても、STAP細胞の存在についての疑惑がぬぐえない段階になった。小保方氏の代理人を務める三木弁護士は「肝心の小保方氏に何の説明もなく、聞き取りもしていない、寝耳に水の話」と困惑している。日本分子生物学会の副理事長で九州大学の中山教授は「ここまでミスが重なるのは、明らかに不自然だ。STAP細胞が存在するならば、こうしたことが起こるとは考えにくく、そもそもSTAP細胞はなかったのではないかと強く疑わざるを得ない」とコメントした。
私はSTAP論文の疑惑が表面化した時点で、「突然変異だった可能性はある」と書いた。その時点では『ネイチャー』に投稿するほどの論文に名を連ねた研究者たちの顔ぶれから考えても、共著者のだれも「STAP細胞の作製過程を見ていなかった」などということは考えられなかったからだ。さらにバカンティ教授が作製方法をWebで公開したことからも、再現の困難なことは認めつつもSTAP細胞が存在する可能性は高いとみていた。
しかし、小保方氏が記者会見で「私は200回以上STAP細胞の作製に成功している」と言い切ったあたりから、頭の片隅に多少の疑念が生じだしたことも事実である。「なぜほかの研究者たちはだれも再現に成功しないのか」という記
者の質問に対しても「コツとレシピが必要で、それは特許の関係で公開できな
い」と疑惑を積極的に晴らそうとしなかったことも、私にとってはいぶかしかった。自身の研究者生命が絶たれようとしていている事態に、「特許もへったくれもないではないか」と正直思った。ただその時の私の追及の矛先は理研の体質と笹井氏の責任に向けられており、「理研がSTAP細胞作製の検証研究チームに、なぜ肝心の小保方氏を加えないのか」という批判は何度も行ってきた。
事ここに至って、小保方氏に対する疑惑が私の中で急浮上したのは、NHKのニュースによって、これまで小保方氏が主張してきた「単純なミスで、悪意のある不正ではない」という主張が根底から覆ったと考えざるをえなくなったからである。小保方氏が、あくまで「STAP細胞は存在する」と主張するなら、「コツとレシピ」を公開するか、理研に対して「検証研究チームに私を参加させてくれ。研究チーム全員の目の前でSTAP細胞を作製して疑いを晴らす」と申し入れるしかない。また理研も「検証研究チームの目の前でSTAP細胞を作ってみろ」と、小保方氏に命じるべきだ。そうすれば、単純な論文の作成ミスだったのか、STAP細胞の存在そのものが絵空事だったのか、はっきりする。それ以外にSTAP騒動に決着をつける方法はない。
さて本題に戻る。日本の大企業は今春9年ぶりにベースアップを行った。安倍総理の要請にこたえて、言うなら政労使の三者揃い踏みで実現したベースアップだった。安倍総理としてはアベノミクスを成功させるためには消費税増税による景気後退を極力抑えるためには、円安効果によって史上空前の利益を上げた輸出関連企業を中心に景気の牽引車にどうしてもする必要があった。
メディアもそろって好感を示した。「憲法違反の賃上げ」だということを知りながら、その指摘すら行わずに諸手を挙げて支持した。「お前らアホか」と言いたい。「憲法違反の賃上げ」ということを知らなかったとしたら、もっとアホと言わなければならない。
憲法に違反している法律は、言うまでもなく労働基準法である。労働基準法では、賃金の形態を「基準内賃金」と「基準外賃金」に分類している。
基準外賃金の方から説明しよう。その方がわかりやすいからだ。
労働基準法で基準外賃金の対象とされているのは、主に三つだ。扶養家族手当、住宅手当、通勤手当、である。すべて「属人的要素」つまり個々の従業員の個人的な諸事情に対して支給されている手当で、会社で仕事をした労働力に対する対価として支給される賃金ではない。そういう意味では年齢・学歴・勤続年数を基準にした基本給は、本来「基準外賃金」である。これらの要素は「職務遂行に要する労働力の価値」とは無関係だからだ。
これに対して基準内賃金は、基準外賃金を除くあらゆる名目の手当を含む賃金を指す。労働基準法では、時間外労働(残業、休日出勤など)に対する割増賃金の割増率の基準になる賃金である。
ところが、今春9年ぶりに行われたベースアップは、本来の意味での基準内賃金の底上げではない。慣行として連合(旧総評系)などが容認してきたせいもあるのだろうが、日本におけるベースアップは基準外賃金の中の基本給(年齢・学歴・勤続年数)により物価変動を加味して自動的に一律上下するはずの賃金)だけをアップすることにしたということである。こうしたベースアップは本来、労働基準法違反でなければおかしい。
が、日本の労働基準法は「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない」(第4条)としているだけで、年齢・学歴・勤続年数の「3基準外賃金」についての差別的取扱いは認めている。はっきり言って憲法違反の法律だが、労働組合側も慣行として容認してきたし、輸出関連の大企業に対して安倍総理が要請したベースアップも、総理自身はそのことを百も承知で行っている。
そう言い切れるのは、竹中平蔵氏が著書『日本経済の「ここ」が危ない――わかりやすい経済学教室』で「安倍晋三内閣(※第1次)で同一労働同一賃金の法制化を行おうとしたが、既得権益を失う労働組合や、保険や年金の負担増を嫌う財界の反対で頓挫した」と述べていることからも明らかである。
安倍総理が実現したいとする100年後を見据えた日本社会の根本的改造の理念には、私も同感する要素が多いが、それが直ちには実現不可能となると対処療法的手法の行使によって、かえって目標が遠のいてしまう結果になっていることは、集団的自衛権行使問題で私は明らかにしてきた。現行憲法は日本が戦後の、何もかも失った占領下の時代に制定された憲法であり、日本国民の総意によらず、帝国議会・枢密院(天皇の最高諮問機関=帝国議会の上位に位置づけられていた)での採決を経て天皇が裁可した憲法である。当然、サンフランシスコ条約で独立を回復して主権を取り戻した時点で、天皇の裁可によって制定された現行憲法は無効になっていたはずだ。
当時の吉田内閣が、朝鮮特需で息を吹き返した日本経済を本格的な回復軌道に乗せるため、あえて憲法改定を行わず日本の国力のすべてを経済再建に注いだ意図は理解できないではないが、当時の日本が国際社会に占めていた立場と現在とでは雲泥の差がある。日本が現在の国際的地位にふさわしい国際、とくに地理的には環太平洋の平和と安全に貢献すべき責務はきわめて大きい。その責務を果たすため、現行憲法の平和主義の理念は継承しつつ、現実的にそれを可能にするためには憲法を改正して環太平洋集団安全保障体制の構築に貢献すべき責任があることを、吉田内閣が主権国家としての義務を放棄してまで経済再建に国力のすべてを注がざるを得なかった事情を国民に誠意を持って説明すれば、日本国民はバカではない。集団的自衛権の行使を「行使できる要件」の限定までして憲法解釈によって可能にしようという対処療法的行為そのものが、かえって憲法の権威を損ない、国際社会に占める日本の立場にふさわしい権利・義務・責任を明確にした憲法に改定することを困難にしていることが、安倍総理にはまだ分かっていない。
賃金制度の問題に戻るが、日本特有の基本給制度は、アメリカをはじめとする米欧諸国の賃金体系にはありえない。徳川幕府が国家的精神規範として定着させた儒教とは、必ずしもまったく同じとは言えないと思うが、いちおう儒教国家とされている韓国の賃金形態は分からないが、昨日のブログで書いたように江戸時代に確立した「年功序列・終身雇用」の雇用形態を前提にしない限り、年齢や学歴を基準にした基本給という名目の賃金はありえない。NHKをはじめとして大メディアは少なくともアメリカには総局や支局を置いており現地アメリカ人も雇用している。そのアメリカで、日本型の賃金体系を実施したらたちまち「同一労働同一賃金の原則に違反している」として従業員から訴えられる。こうした違反行為に対する裁判所が下す判決はきわめて厳しい。日本のよ
うな情緒的な判決は絶対に下さない。
だから安倍総理が自ら座長を産業競争力会議が、基本給を基準にした時間外労働の割増賃金の規定を廃止しようと考えているのかが、現段階では全く分からない。何も具体的なことが分からない時点で問題点を指摘しても空転しかねないことを百も承知で、やはりこの機会に日本の将来を考えて、賃金体系の抜本的改革の提案だけはしておきたいと思う。
まず事実上従来の日本型雇用形態であった「年功序列・終身雇用」が早晩、完全に崩壊することは不可避であることはどなたもお分かりと思う。実際この雇用形態が維持されているのは公務員や準公務員の世界と、いちおう現時点でも成長を続けている大企業に限られている。一方建設業界などは人手不足で、労働力を海外からの「輸入」に頼らざるを得ない状態になっている。さらに少子高齢化に歯止めがかからない状況から、将来的には深刻な労働力不足に陥ることも確実視されている。
こうした事態を打開するために、若年労働力の増加に期待ができない状況にある以上、非正規社員の正規社員化、とくに非正規社員に多い結婚で主婦層になっていったん仕事から離れた女性の社会復帰を促すこと、また能力が衰えていないにもかかわらず定年で仕事を奪われて第二の人生をやむなく送っている高齢者の再活用を促すしか解決方法はない。
そのためには、正規社員の時間外労働時間を極力減少し、その穴を埋める方策として主婦層の職場復帰の機会を増やしたり、高齢者の再雇用を強力に進めて行く方策として政府の有識者会議である「産業競争力会議」で労基法の見直しをするのは当然であり、連合や共産党ばかりか朝日新聞も4月28日付社説で「何時間働いたかではなく、どんな成果を上げたのかで賃金が決まる。それ自体は、合理的な考えだ」としながら、続けて「だが、過大な成果を求めれば、長時間労働を余儀なくされ、命や健康がむしばまれかねない。その危機感が薄いのが心配だ」と書いたのは、共産党や連合の主張の受け売りにすぎず、朝日新聞の論説委員が自分の頭で考えて共産党や連合と同じ結論に達したとしたら、「産業競争力会議」が何を目的として労基法を改定しようとしているかを自分の思考力で考える習慣を失っていると考えるべきだろう。
はっきり言って日本企業の賃金体系は、曲がりなりにも「年功序列・終身雇用」を前提として生活給部分(年齢や学歴、勤続年数など)を「基本給」として維持し、物価上昇率をスライドさせて上昇させてきた。過去9年間大企業が基本給を据え置いてきたのはデフレ現象によって物価が下落を続け、生活給部分の家計上昇と差引してプラス・マイナス=ゼロと見なしてきたからである。
今春、政府が輸出関連の大企業に円安誘導による結果として企業の業績が輸
出関連企業を牽引車として軒並み改善されたのを見て、安倍総理がじきじき経
財団体に「賃金アップで従業員に報いてほしい」と異例の要請をしたのも、消
費税増税による景気後退を懸念して、消費者の購買意欲が冷え込まないようにと願って打った大芝居だったのである。
これは結果論だが、安倍総理の単眼思考が「功を奏した」ことを意味する。安倍総理はデフレ不況の原因を単眼思考で「円高」によって輸出産業が打撃を受ける一方輸入品が格安で日本に入ってきたことがデフレの原因、とみていた。しかし、物価を左右する要因は為替だけではない。インターネット・ショッピング(オークションも含む)やアウトレット店の拡大、そして何よりもスーパーやデパートに打撃を与えたのが100円ショップの予想をはるかに上回る拡大であった。とくに100円ショップが食料品や日常品の価格を従来の市場相場から大幅に引き下げ、近辺のスーパーも対抗上値下げを余儀なくされたことが大きく効いた。
安倍総理が歴代総理では考えられなかった海外、とくに経済成長しつつある新興国をたびたび訪問して日本産業界の営業本部長として飛び回り、日本製品や日本の技術をセールすするため行脚したことは、日本国民の一人として素直に感謝している。総理は国内でもデパートなどを度々視察しているようだが、デパートだけ見て回っても消費税増税の影響はつかめない。100円ショップは消費税が増税したといっても一品に付き増税分はたった3円にすぎず、私が近辺の100円ショップの店長数人に聞いた結果として「客離れはまったく生じていないので胸をなでおろしている」と話す店長が大半だったし、スーパーは代表格のイオンとイトーヨーカドーが売れ筋の自社ブランド商品の消費税込み価格を据え置くという戦略に出たため客足も落ちていない。消費税増額の影響がもろに出たのは増税前の駆け込み需要が爆発した電気量販店と、高額ブランド商品の販売を中心にしてきたデパートくらいである。自動車は増税と引きかえの減税処置もとったため駆け込み需要はそれほど生じず、消費税増税と自動車税軽減の相殺で販売にあまり影響は出なかったようだ。ただ影響が大きかったのは、日米TPP交渉で日本の軽自動車に対する自動車増税がダブルパンチとなって、駆け込み需要が増大した反動は予想されていた通り大きかったようだ。
安倍総理はプライドのせいか、警備上の問題かは分からないが、スーパーや100ショップを視察していないが、これはカメラ撮影を駆使してでも視察効果を実感したほうがいい。また総理はゴルフがお好きなようだが、ゴルフ用品やゴルフウェアをだれか若いスタッフに頼んでネット・オークションで買ってみたらいい。また最近急増しているアウトレット店の人気ぶりもカメラ視察でいいから見ておいた方がいい。
デフレ現象は円高要因もあるが、こうした100円ショップでの買い物が若い人だけでなく高額所得者にとっても抵抗感がなくなってきたこと、とくにユニ
クロのファッションはいまや若い人にとってステータスにすらなっていること、
スーパーが100円ショップに対抗して販売価格政策を見直してきたこと、こうした複合的要因がデフレを招いたことも理解しておく必要がある。だから、日銀の金融政策によって円安誘導しても、確かに輸入品はインフレ要因の一つにはなりうるが、日本の消費者の輸入品離れが生じれば、日本への輸入価格の見直しは必至になり(海外のブランド商品は二重価格制を採用しており、とくに「日本仕様」としている商品は品質を高めているわけでもないのにバカ高い価格を設定してきた)、日本への輸出量を確保するため値下げせざるを得ない状況になっている。
話がちょっと賃金体系の改定問題から外れてしまったので、明日は本来の賃金体系の改定が何を目的にしているか、朝日新聞の頭の悪い論説委員の主張を論理的に検証しながら明らかにしていきたいと思う。(続く)