飛び出せ! 北の宇宙基地

北の地である北海道で、人工衛星の開発などを行っている 北海道工業大学 佐鳥研究室の活動日記です。

第2章 スピンオフ事業: 葉もの野菜の鮮度評価に関するハイパースペクトル技術の応用化研究(1)

2006-07-28 21:06:23 | 北海道衛星

鮮度という言葉は日常的に使われているが、しかし明確な定義は無い。刈り取り直後からの時間経過で糖質などの成分が分解されることを鮮度の指標にする研究事例もあるが、しかし、それは鮮度そのものではない。そこで、私たちは植物細胞の活性度を鮮度と定義し、それを光で計測する装置を開発した。ここでは製品化に至るまでのハイパースペクトル技術の応用化研究を紹介する。

鮮度測定の原理は、植物の葉の表面に可視から赤外までの光を照射し、各波長の反射光強度(反射スペクトル)から、葉緑素の光吸収量の強弱を読み取ることにより、植物細胞の活性度、つまり光合成する能力を直接計測している。反射スペクトルに反映される細胞の活性度は野菜の品種によって千差万別である。これは人間で例えるならば肌の色の違いから体調の良し悪しを計測するようなものであり、当然のことながら、各々の野菜に固有な個性を鮮度計算アルゴリズムに反映させる必要がある。鮮度計測のイメージを図2-22に示す。鮮度の単位は[HS](HS:ハイパースペクトル)と命名した。

鮮度測定器の使い方は簡単で、センサー部を葉の先端から5センチまでの表(おもて)面に軽く当てて計測スイッチを押せば、1秒後に細胞の活性度(鮮度値)が0~100[HS]までの数値に換算されて表示さる。刈り取り直後の野菜の場合には80以上の数値が出るが、トラックで移送されてスーパーに2~3日後に陳列された時には60~70[HS]程度まで落ちている。見切り品として売られている野菜を測ってみると、おおよそ鮮度値40[HS]前後の数値のものが多いようだ。


図2-22 鮮度計測の原理(概念図)

一般に、生鮮野菜の鮮度(細胞の活性度)は時間や環境と共に変化する。図2-23は収穫後の野菜の鮮度が時間経過に伴って劣化していく一般的な変化を示している。収穫後のある一定期間はある程度の鮮度(活性度)を維持しているのだが、あるレベルまで下がると一気に劣化が進行し、植物として死に至る。このレベルは鮮度値でいえば40[HS]付近にあたる。


図2-23 葉もの野菜の鮮度の時間履歴

それでは、鮮度値というのは細胞レベルで何を見ているのかを説明する。図2-24はホウレン草の顕微鏡写真をハイパースペクトルカメラで撮影したものである。図中の①と③は葉緑素の多い部位であるが、撮影するために用いる光源の熱で徐々に細胞が劣化していき、差が出ている。それぞれの部位での吸収スペクトルを比較すると、①では吸収強度が高いのに対して、②では全体的に低いレベルまで落ちている。600nm付近のくぼみは葉緑素(クロロフィル)による吸収スペクトルを示しているが、葉緑素の吸収量だけを見ても両者の違いは明らかといえる。私たちが葉もの野菜の「鮮度」と表現している概念はこのような細胞レベルでの光合成能力、つまり葉緑素の光吸収能力を見ているのである。ホウレン草の細胞の光合成能力をNDVI的な評価で簡易的に可視化した例を図2-25に示す。黄色い部分が細胞の活性度が高く、弱ってくるに従って青から黒っぽい色に変化している。


図2-24 細胞の活性度とスペクトル特性の関係


図2-25 細胞の活性度の可視化

図2-26にはマクロに葉緑素の光吸収能力を可視化した例である。計測にあたり、ホウレン草の房から葉を一枚ずつ剥がしてハイパースペクトルカメラで撮影し、それを同様な手法で可視化した。日数が経過するに従って黄色い部分が少なくなり、茎の根元から徐々に劣化が進行している様子が見て取れる。下の数値は色の変化に対応する鮮度値である。


図2-26 光合成吸収能力のマクロな変化


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