A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

未読日記34 「旅行記」

2007-05-28 23:42:19 | 書物
タイトル:旅行記 -書物による旅の記憶-
著者:有坂ゆかり
造本:Atelier空中線 間奈美子
発行日:2007年4月29日
内容:
京都にある恵文社一乗寺店の書斎ギャラリーコーナー、ガラスショウケースにて展示された有坂ゆかりの絵画展にあわせて発行された小冊子。書店の空間にあわせて、油彩画作品が展示された。この小冊子は展示作品とテキストが掲載され無料で持ち帰ることができる。

購入日:2007年5月26日
購入店:恵文社一乗寺店
購入理由:
無料配布されている冊子なので、持ち帰ったまでで購入理由もないのだが、タダだからといってなんでも持ち帰るわけではない。無料だからとタウンページやホットペッパーを旅先で持ち帰りはしないだろう。
 コンセプトは書物を通した旅、風景。彼女のテキストにあるように「現実の記憶だけではなく、本能の一部として埋め込まれた記憶、そして想像力の産物の記憶などが渾然一体となったものによって、個人が形作られていく」としたら、人が書物を読み、そこに風景を思い浮かべるとき、そこに立ち現われるのはどんな風景なのだろうか。作家・小説家は、読者が想像するであろう「風景」「視覚的イメージ」までは指定することができない。多くの人が知っているだろう「東京タワー」を想像することはできるだろうが、「その家の前には、ツツジが咲き誇っていた」とあれば、人はどんな想像をするというのか。花壇かもしれないし、柵ごしに見えるツツジかもしれない。例えば、中上健次の小説に登場する架空の花「夏芙蓉」を人はどのように「見る」のだろうか。小説空間あるいは書物を通して私の中に立ち現われてくる風景に、ことばとして気がつくことができた。

未読日記33 「若冲展」

2007-05-28 23:12:20 | 書物
タイトル:開基足利義満600年忌記念 
     若冲展-釈迦三尊像と動植綵絵120年ぶりの再会-
監修:辻惟雄、小林忠
出版社:日本経済新聞社
発行日:2007年5月13日
内容:
同名展覧会の図録。
「伊藤若冲は相国寺の大典禅師と親交のあった江戸時代の画家で、近年奇想の画家として注目を集めるようになりました。
 伊藤若冲は、父母永代の供養を願って釈迦、文殊、普賢の仏画三幅対と、三十幅の動植綵絵を描き、明和七年(1770)十月、相国寺に寄進しています。これら33幅は相国寺方丈に於いて行われる伝統的な儀式である観音懺法において方丈の周りにかけられたと伝えられています。まさに最高の仏画として描かれ、儀式に使用されてきたものでした。
 しかし明治時代、財政の危機に瀕した相国寺を立て直すために、当時の初代管長荻野獨園禅師は伊藤若沖の描いた動植綵絵三十幅を宮内省に献じて金壱万円の下賜金を得、それを資金に境内地一万八千坪を買い戻し現在の相国寺の面目を取り戻しました。以来動植綵絵三十幅は相国寺の手を離れ宮内庁の御物となっていました。
 今回120年の時を経て相国寺所蔵の釈迦三尊図3幅と現在宮内庁三の丸尚蔵館所蔵の動植綵絵30幅は再会を果たし、相国寺承天閣美術館に於いて一同に展観することが出来ました。多くの皆様に是非ともご覧いただきたいと思います。」(「若冲展」ホームページより)

購入日:2007年5月26日
購入店:相国寺承天閣美術館
購入理由:
若冲の傑作「釈迦三尊像図」(3幅)と「動植綵絵」(30幅)が120年ぶりに一同に展示される奇跡の展覧会。昨年、宮内庁三の丸尚蔵館にて修復を経た「動植綵絵」30幅が展示換えをしながら公開されたが、旧所蔵元である相国寺の美術館において釈迦三尊像を加えて完全版として展示される。図録も昨年の宮内庁三の丸尚蔵館「動植綵絵」展図録より、図版も大きく、カラリスト若冲の魅力が感じられる図録となっている。私としては、「釈迦三尊図」がすばらしかった。チベットのマンダラのような充溢する色彩に息が止まった。
 忘れられがちだが、若冲による水墨画「鹿苑寺大書院障壁画」(襖50面)も出品されている。こちらもキレがあり、爆ぜるような傑作である。
 近年の若冲ブーム、あるいは日本美術ブームの決定版であり、総決算ともいえる展覧会。