A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

未読日記458 「美しき九州」

2010-12-19 23:37:45 | 美術
タイトル:美しき九州 「大正広重」吉田初三郎の世界
編者:益田啓一郎
編集協力:北九州市立自然史・歴史博物館 日比野利信
撮影協力:フォトオフィス・トオノエ、有川宜博、加藤昭彦、川口隆、松尾健、山田満穂
デジタルアーカイブ:合資会社アソシエWEB地図の資料館
発行:有限会社海鳥社
印刷・製本:大村印刷株式会社
発行日:2009年2月10日
定価:2300円+税
内容:
B5判、111ページ、ソフトカバー

第1章 吉田初三郎と九州観光
 初三郎作品の魅力
 パノラマ地図の誕生
 泉都別府に夢を賭けて
 日本新八景と国立公園
 戦中・戦後の活動
第2章 パノラマ地図の世界
 都市の「発展」を記念する(都市図)
 拡がる鉄道と沿線(鉄道沿線図)
 温泉王国九州(温泉・旅館図)
 神々の九州(神社図)
 外地への夢(外地図)
 その他作品
研究概要・資料
 印刷技術の進化と初三郎作品
 初三郎作品に出会える所(九州・山口編)
 吉田初三郎略年表
 吉田初三郎研究の課題と活用
 吉田初三郎作品リスト(九州・山口編)
 協力先・参考文献一覧/研究会のご案内
(目次より)

購入日:2010年12月4日
購入店:ジュンク堂書店 京都店
購入理由:
 タイトル通り「「大正の広重」吉田初三郎の世界」を知りたくて購入。本書は、平成20年10月11日~11月30日に北九州市立自然史・歴史博物館にて開催された「美しき九州の旅―『大正広重』初三郎がえがくモダン紀行―」の展覧会図録を再編纂したものである。展覧会の内容は「九州の旅」に焦点があてられてはいるが、図版ではそれ以外の地域の作品も多く掲載されている。
 本書の見どころは、これまでの初三郎本のなかでも最も未公開資料の掲載が多い点であろう。家族に宛てた書簡類、地図以外の作品として絵巻、ポスター、絵はがきなどの作品図版も掲載され、知られざる1面を見ることができる。
 だが、これほど豊富に資料や図版が掲載されながら、まとまった論文の1つもないのが残念だ。資料類は文字のテキスト化もなく、作品図版も小さいので、地図上の文字が判読できず読むこともできない。こういった作品上の文字情報及び文字資料類は可能であれば日本美術の展覧会図録のようにテキスト化してほしかった。
 巻末の「吉田初三郎研究の課題と活用」を読むと、編者の益田氏はグラフィック・デザインを仕事とするデザイナーであるようだ。その仕事上、デザインの資料を探す過程で初三郎の作品に出会い、収集を始めたのが初三郎研究のきっかけだという。初三郎研究というのは、このような在野の個人研究者やコレクターの方が中心となって進められているのが現状で、学芸員、研究者による研究参加を望みたい。
 また、今後の初三郎研究のためにも、資料類をまとめた初三郎全集をどこかの出版社から出版して頂けるとうれしいのだが。



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2 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
その本の編著者です (益田啓一郎)
2011-01-02 16:43:34
はじめまして。
拙著を紹介いただきありがとうございます。
批評いただき有り難いのですが、この本は図版や文章の解読研究としての資料集ではありません。また論文を書くために資料を集めているものでもなく、年々散逸する資料の一端を、その存在を記すことに注力したものであることをご理解ください。

小さな紙面での図版の掲載には限界があります。コレクター精神で資料を非公開にしている訳でもなく、中途半端な紙上公開は無意味との考えています。iアプリなどとの提携による各資料の段階的な公開をめざしていますが、あくまで個人レベルでの活動とご認識を。予算がある学者様の研究とは状況が異なります。

また、初三郎の研究そのものは始まったばかりです。研究はまだまだ在野の個人研究者によるものが大半で、資料の散逸はここ数年で大変な早さで進みました(複数のご遺族が資料を手放して)。

本書は、初三郎の5系統のご遺族すべてにご協力いただき、散逸する前の資料の全体像を九州に絞って集約したものです。事実、ここに掲載の資料の3割近くはすでに所有者の手元を離れ、散逸しています。その点は本書に記載している訳ではありませんが、ご理解いただけると幸いです。

資料群はいつでも当方で閲覧可能です。ご希望なら連絡ください。
益田啓一郎(WEB地図の資料館)
http://www.asocie.jp/hatsu/
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Unknown (ひらたたけし)
2011-01-04 01:22:56
 コメントありがとうございます。この度は誤解を招く記述をしてしまい、申し訳ございません。記述の一部を改稿させて頂きました。
 本書に内容については不満点ばかりを強調してしまいましたが、頂きましたコメント通り、資料の公開を念頭に置いた編集方針はとても有意義なものだと認識しております。本書で初めて知る事実や作品も多く、初三郎研究にとって得るところが多い書籍として大変感謝しており、その研究成果に敬意を感じております。
 誠に勝手ではありますがブログの性格上、書き散らかした言葉として、ご寛恕頂ければと存じます。また、資料群の利用につきましては、お言葉に甘えて別途ご連絡をさせて頂きたいと存じます。何卒よろしくお願い申し上げます。
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