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「ああ、そうでした。そうそう、あれです。あれね、先生はいったいどこへ行こうって決めたんです? 前からそいつが気になってたんです」
「いや、どこっていうわけでもなく」
それは本当にそうなのだった。私には望むべきコペンハーゲンだのイルクーツクだのという場所が思いつかない。
「まぁ、どこか遠く……ここじゃない、どこか遠くですよ」
「うん」
急に帽子屋さんは子供のような返事をして、それから何度も何度もひとりで頷いた挙句、
「遠く。いいねぇ」
しみじみとして、そうつぶやいた。
「どこか遠く。それでいいんです。決めない方が。終わりのない方がね」
そうして帽子屋さんは、ずずっと音をたててお茶をすすった。
(吉田篤弘『つむじ風食堂の夜 (ちくま文庫)
』筑摩書房、2005年、p.130)
どこか遠く。終わりのない遠くへ。行き先は決めてない。決めないことにしている。
「いや、どこっていうわけでもなく」
それは本当にそうなのだった。私には望むべきコペンハーゲンだのイルクーツクだのという場所が思いつかない。
「まぁ、どこか遠く……ここじゃない、どこか遠くですよ」
「うん」
急に帽子屋さんは子供のような返事をして、それから何度も何度もひとりで頷いた挙句、
「遠く。いいねぇ」
しみじみとして、そうつぶやいた。
「どこか遠く。それでいいんです。決めない方が。終わりのない方がね」
そうして帽子屋さんは、ずずっと音をたててお茶をすすった。
(吉田篤弘『つむじ風食堂の夜 (ちくま文庫)
どこか遠く。終わりのない遠くへ。行き先は決めてない。決めないことにしている。
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