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口にして、あっと思う。
その、ほんの少しの、
微かな、ときめき。
あるいは、ひらめき。
とっさに、心に落ちて、
木洩れ陽のようにゆらめく
何か。幼い妖精たちの、
羽の音のような、
どこまでも透き通った明るさ。
食事のテーブルには、
ほかの、どこにもない、
ある特別な一瞬が載っている。
そこにあるもの、目に見えるもの、
それだけでなくて、そこにないもの、
目には見えないものが、
食卓の上には載っている。
心の、どこかしら、
深いところにずっとのこっている、
じぶんの、人生という時間の、
匂いや、色や、かたち、
あるとき、ある場所の、
あざやかな記憶。――
食事の時間は、なまめかしいのだ。
幸福って、何だろう?
たとえば、小口切りした
青葱の、香りある、きりりとした
食感が、後にのこすのが、
幸福の感覚だと、わたしは思う。
人の一日をささえているのは、
何も、大層なものではない。
もっと、ずっと、細やかなもの。
祖母はよく言ったものだった。
なもむげにすでね。
(何ごとも無下にしない)
長田弘「奇跡―ミラクル―」『長田弘全詩集
』みすず書房、2015年、611頁。
細やかな幸福の感覚を味わいたい。
その、ほんの少しの、
微かな、ときめき。
あるいは、ひらめき。
とっさに、心に落ちて、
木洩れ陽のようにゆらめく
何か。幼い妖精たちの、
羽の音のような、
どこまでも透き通った明るさ。
食事のテーブルには、
ほかの、どこにもない、
ある特別な一瞬が載っている。
そこにあるもの、目に見えるもの、
それだけでなくて、そこにないもの、
目には見えないものが、
食卓の上には載っている。
心の、どこかしら、
深いところにずっとのこっている、
じぶんの、人生という時間の、
匂いや、色や、かたち、
あるとき、ある場所の、
あざやかな記憶。――
食事の時間は、なまめかしいのだ。
幸福って、何だろう?
たとえば、小口切りした
青葱の、香りある、きりりとした
食感が、後にのこすのが、
幸福の感覚だと、わたしは思う。
人の一日をささえているのは、
何も、大層なものではない。
もっと、ずっと、細やかなもの。
祖母はよく言ったものだった。
なもむげにすでね。
(何ごとも無下にしない)
長田弘「奇跡―ミラクル―」『長田弘全詩集
細やかな幸福の感覚を味わいたい。
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