A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

memorandum 359 放射能

2016-09-12 23:16:16 | ことば
 ソ連からチェルノブイリ原子力発電所の事故が報じられた。放射能が漏れて、その一帯を汚染しているという。その記事を見ながら、原子力発電所の建物が、何故か美術館に似ていると思った。原子力発電所は各物質が漏れないように閉じ込めているが、美術館は芸術が漏れないように閉じ込めている。その建物がいずれも似たような比率で全国各地に建造されつづけている。しかし芸術もまた放射能のように、いずれは芸術作品から漏れ出るものだ。しかし放射能のような汚染は起こさない。芸術はむしろ漏れ出てふたたび世の中を豊潤にする。私たちはその漏れ出たものを路上に観察・採集して歩きながら、首に下げたカメラをガイガーカウンターのように感じている。
赤瀬川原平『芸術原論 (岩波現代文庫) 』岩波書店、2006年、179頁。

この文章は衝撃的だった。単行本が刊行されたのは1988年、原稿の初出は1986年であった。なんと予言的な一文だろうか。
美術館=原子力発電所のイメージは、私たちにさまざまな連想や妄想へと誘う。現在の芸術祭の流行は、芸術が世の中に漏れ出ている事態と言えるだろうか。私たちは、漏れ出た「芸術」を浴び、観察、採集しているだろうか。これは、赤瀬川原平から私たちに出された宿題だ。