じっと見つめることをまなんだ。
そしてじっと考えることをまなんだ。
考えるとは、深く感じるということだ。
そのようにして、ひとは火にまなんだ。
そして、火に、運命をまなんだ。
人の、人としてのあり方をまなんだ。
われわれは火の人種なのだと思う。
われわれとは火を共に囲むもののことだ。
火のことばが、われわれのことば。
火が、ささげる祈りだった。
火が、かかげるべき理想だった。
火が、あかあかとした正義だった。
こごえるものは、火をもとめた。
みずから信じるものは、火をかざした。
われわれの歴史は、火の歴史だ。
ときに、われわれの愚かさゆえに、
家々は火にのまれ、火につつまれた。
町々は燃えあがり、燃えつきた。
業火である、身を灼く火。
戦火である、にくしみの火。
劫火である、地をおおう火。
われわれは災いを、火にまなんだ。
そして、絶望を、火にまなんだ。
われわれは怒りを、火にまなんだ。
にもかかわらず、われわれは
何より、うつくしさを、火にまなんだ。
火を入れる。それは浄め、極めることだ。
火はつねに、本質をとりだす。
目に見えないうつくしさを、目に
はっきり見えるようにするのは、火だ。
われわれの日々の悦びは火の贈りものだ。
火の食事をして、火の時間を過ごす。
火の書物を読み、火の音楽を聴く。
近きにあって、遙かより望める火。
明るさであって、その外に
濃い闇を浮かびあがらせる火。
火を、われわれは神々から盗んだのだ。
火を盗んで、われわれは
魂を、かがやく無を、手に入れたのだ。
火という隠喩がなければ、われわれの
精神はきっと、ずっと貧しかっただろう。
三本の蝋燭が、われわれには必要だ。
一本は、じぶんに話しかけるために。
一本は、他の人に話しかけるために。
そしてのこる一本は、死者のために。
長田弘「黙されたことば」『長田弘全詩集』みすず書房、2015年、359-360頁。
火を灯そう。自分に、他人に話しかけよう。
そしてじっと考えることをまなんだ。
考えるとは、深く感じるということだ。
そのようにして、ひとは火にまなんだ。
そして、火に、運命をまなんだ。
人の、人としてのあり方をまなんだ。
われわれは火の人種なのだと思う。
われわれとは火を共に囲むもののことだ。
火のことばが、われわれのことば。
火が、ささげる祈りだった。
火が、かかげるべき理想だった。
火が、あかあかとした正義だった。
こごえるものは、火をもとめた。
みずから信じるものは、火をかざした。
われわれの歴史は、火の歴史だ。
ときに、われわれの愚かさゆえに、
家々は火にのまれ、火につつまれた。
町々は燃えあがり、燃えつきた。
業火である、身を灼く火。
戦火である、にくしみの火。
劫火である、地をおおう火。
われわれは災いを、火にまなんだ。
そして、絶望を、火にまなんだ。
われわれは怒りを、火にまなんだ。
にもかかわらず、われわれは
何より、うつくしさを、火にまなんだ。
火を入れる。それは浄め、極めることだ。
火はつねに、本質をとりだす。
目に見えないうつくしさを、目に
はっきり見えるようにするのは、火だ。
われわれの日々の悦びは火の贈りものだ。
火の食事をして、火の時間を過ごす。
火の書物を読み、火の音楽を聴く。
近きにあって、遙かより望める火。
明るさであって、その外に
濃い闇を浮かびあがらせる火。
火を、われわれは神々から盗んだのだ。
火を盗んで、われわれは
魂を、かがやく無を、手に入れたのだ。
火という隠喩がなければ、われわれの
精神はきっと、ずっと貧しかっただろう。
三本の蝋燭が、われわれには必要だ。
一本は、じぶんに話しかけるために。
一本は、他の人に話しかけるために。
そしてのこる一本は、死者のために。
長田弘「黙されたことば」『長田弘全詩集』みすず書房、2015年、359-360頁。
火を灯そう。自分に、他人に話しかけよう。