A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

未読日記463 「ワイドビューの幕末絵師 貞秀」

2011-02-15 23:09:02 | 書物
タイトル:ワイドビューの幕末絵師 貞秀
編集:神戸市立博物館
担当:塚原晃、河村壮範、三好唯義
編集・制作:株式会社旭成社
発行:神戸市立博物館
発行日:2010年12月11日
定価:800円
内容:
神戸市立博物館で開催された「特別展 ワイドビューの幕末絵師 貞秀」(2010年12月11日(土)~2011年2月13日(日))の展覧会図録。
B5判、カラー、78ページ

「真の浮世絵師 五雲亭貞秀」塚原晃
1.絵師貞秀
2.横浜誕生
3.港につどう人々
「時代と風景を描く貞秀=玉蘭斎」三好唯義
4.富士山と地図
5.街道を翔ぶ 日本各地を描く
6.旅行ブームと吉田初三郎
略年譜
出品目録
参考文献

購入日:2011年2月6日
購入店:神戸市立博物館ミュージアムショップ
購入理由:
 江戸幕末の浮世絵師が「地図」を描いていた?と聞けば地図好きとしては見逃せない展覧会が今展である。その地図を描いた絵師こと五雲亭貞秀は、歌川国芳に私淑し、濃密で写実的な武者絵などで活躍をした絵師である。だが、その個性がもっとも発揮されたのが上空から街全体を俯瞰した鳥瞰図の数々である。本展のタイトルに「ワイドビュー」という言葉が付されているように、貞秀は3枚以上の木版画を連続させた横長大画面に横浜など各地の風景をダイナミックかつ緻密に描いている。さらに、橋本玉蘭斎の名で、江戸図・国絵図・世界地図なども手掛けるなど、絵師であり地図制作者でもあった。貞秀もまた奇想の絵師(画家)と言える1人かもしれない。
 貞秀の展覧会は、巻末の参考文献を見る限りでは、1997年に神奈川県立歴史博物館で開催された「横浜浮世絵と空とぶ絵師 五雲亭貞秀」展以来のようである。久しぶりの貞秀展の開催が現在の居住地である関西で行われるとは、私のために開いてくれたような気になってうれしくなる。
 さて、展示を見ると、噂通り驚異的な描画テクニックと偏執的なまでの地理描写に圧倒される。それがよくわかるのが、異国の人々を描いた人物画の下絵である。現存する数少ない下絵であるこの作品群を見ると、執拗なまでの描写密度に息が苦しくなるくらいである。
 鳥瞰図については、赤枠地に黒色で地名表記が施されているのが特色である。その札の数がこれまた異様に多い。鳥瞰図の細密に描かれた部分がおもしろく、見続けているうちに絵を見ているのか、地図を見ているのかわからなくなる。この目がクラクラしてくるような感覚は、後年の「大正の広重」吉田初三郎も叶わない気がする。見終わると薄暗い展示室のせいもあってか、目がチカチカした。
 残念なのは、図録がもっと大きければと思う。とはいえ、この金額で購入できたのはうれしかった。ちょうど財布に残っていた残金で買えたので助かった。