A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

未読日記420 「没後50年 鹿子木孟郎展」

2010-06-25 22:12:07 | 書物
タイトル:没後50年 鹿子木孟郎展
編集:三重県立美術館(荒屋鋪透・中谷伸生)、神奈川県立近代美術館(原田光)、京都国立近代美術館(島田康寛)、岡山県立美術館(宮本高明・妹尾克己)
制作:大塚巧藝社
発行:三重県立美術館神奈川県立近代美術館京都国立近代美術館岡山県立美術館
発行日:1990年
内容:
三重県立美術館(1990年9月29日~11月4日)、神奈川県立近代美術館(1990年11月10日~12月24日)、京都国立近代美術館(1991年2月26日~3月24日)、岡山県立美術館(1991年4月3日~5月6日)において開催された「没後50年 鹿子木孟郎展」の図録。

ごあいさつ
「鹿子木孟郎展に際して」河北倫明(美術評論家)
「19世紀後半のフランスの美術教育――国立美術学校と私立画塾――」高階秀爾(東京大学教授)
「鹿子木孟郎と日本近代」陰里鐵郎(三重県立美術館長)
カタログ
「洋行以前の鹿子木孟郎」宮本高明(岡山県立美術館学芸員)
「イポールの鹿子木孟郎――作品《ノルマンディーの浜》を巡って」荒屋鋪透(三重県立美術館学芸員)
「水彩画論争と鹿子木孟郎」原田光(神奈川県立近代美術館学芸員)
「主題をとおして見た鹿子木孟郎の芸術」島田康寛(京都国立近代美術館主任研究官)
出品作品一覧
鹿子木孟郎年譜
鹿子木孟郎文献抄
Takeshiro Kanokogui – 1874-1941

購入日:2010年6月6日
購入店:町家古本はんのき
購入理由:
 ANEWAL Galleryの方より教えて頂き訪ねた「町家古本はんのき」で購入。
なぜ、鹿子木孟郎なのかというと、大正から昭和20年代にかけて日本各地の鳥瞰図を描いた吉田初三郎のことを調べていたところ、初三郎の師が鹿子木であることがわかり、本書を探していたのである。しかし、展覧会が1990年開催と時間がたっているためか、先日訪れた三重と京都の美術館では図録販売はなされておらず、関西の図書館では納品もされておらず見ることができなかった。これでは東京に行った時か、少し値段は張るがネットで買うか・・・と迷っているときだったので偶然に感謝したい。
 その鹿子木孟郎だが、まったく興味関心さえ持たれていない画家かもしれない。実際、私が一部の京都の大学院生、研究者の方に鹿子木のことを話してもノーリアクションであった(美術史系ではないから当然かもしれないが・・)。おそらく見たことのない人が多いだろうし、見たとしても特色もない近代日本の洋画で片づけられてしまう画家であろう
 それはともかく、私は吉田初三郎の描く鳥瞰図に鹿子木孟郎の影響があると考えている。例えば、初三郎がダイナミックに描き出す山々の風景や崖の岩肌を見ると、渓流や森林、海岸の風景画を得意としたという鹿子木の影響が僅かに感じられるのである。フランスのアカデミズム絵画の伝統を受け継いだ鹿子木の絵画技法が、吉田初三郎の鳥瞰図へと変転して受け継がれていると考えると、実に興味深いと思うのは私だけか。
 そして、19世紀フランス絵画における風景画とは風景をパノラマ的に描き出す「風景」の発見だったとすれば、19世紀パリにおけるパノラマ館の流行、写真の発明、ステレオ写真へと問題は派生する。3度のフランス留学を経験した鹿子木が日本にもたらしたのは、絵画技法だけでなく、19世紀フランスにおける新たな視覚経験も日本にもたらしたのかもしれない。