人はみな、それぞれの思想で作られた人間だけれど、思想の数の方が人間よりもはるかに少ないので、同一の思想を持った人間はみな似てしまうのですね。思想にはなんら肉体的なものが含まれてはいないから、一つの思想を持った人間を他の人間たちがただ肉体的にとりまいていても、彼らはいささかもその思想を変えることにならないのです。(p.212)
「それで一つの思想はね」と私はつづけた、「人間の利害にかかわりようのないものだし、その恩恵にあずかることもできないから、思想を持った人間は、利害に影響されないのですよ」(p.214)
そんなわけで、そこは戦場になったんだし、これからもなるだろう。どんな部屋でも画家のアトリエになるわけじゃないし、どんな場所も戦場になるわけじゃないんだ。あらかじめ定められた土地があるんだね。(p.224)
「失われた時を求めて5 第三篇 ゲルマントの方へ Ⅰ」
マルセル・プルースト 鈴木道彦訳 集英社文庫2006