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メンデルスゾーン『弦楽のための交響曲第9番ハ短調』。

2006年08月31日 11時47分16秒 | わたしの好きな曲

    

天才少年メンデルスゾーン。
すごいですね、この人の小さい頃は。
その神童ぶりを示した小さい頃の無数の音楽と、その“天才少年”が成長してできたおっさんの彼の音楽を聴き比べるのが好き。ちゃんと天才少年が別の物になってしまっています。すごいなあ天才の人は。
とりわけ天才少年の彼の作品として聴きごたえがあるのが、、12歳から14歳にかけてたてつづけに書かれた13曲(14曲?)の弦楽のための交響曲、通称“練習交響曲”です。そのアダ名の通り、“神の手”を持った彼が、小さいうちにやりたい事を全部やってここに詰め込んでおけ、と考えて暴れ回ったかのような感があり、なのに全13曲の各曲とその構成にまったくスキの無いところがすごい。

少年メンデルスゾーンの天才少年なさまを示すエピソードは、挙げるときりがないのですが、相当、彼は自分の余り溢れる才能を鼻にかける嫌な少年だったみたいです。それは仕方が無いことなのかしら。小林秀雄の『モオツァルト』の冒頭に出てくる「べエトォヴェンの第五交響曲をピアノで弾いてみせて老ゲエテにぶつぶつ言わせたエピソード」も、12歳前後の(つまりこの交響曲群を書いていた前後の)話らしいです。小林秀雄の本にはその時のメンデルスゾーンの年齢が書いてなかったので、もっと青年っぽい頃の話だと思ったぜ。やな少年だ。で、この交響曲集にも、その時期のメンデルスゾーンが自分の才能に酔いしれている様子が如実に表れていて、でもそれがとても良い形で結晶化しているんですよねぇ。メンデルスゾーンはロマン派に分類される作曲家かと思うのですが、ここに見る少年メンデルスゾーンは明らかに古典派の大家であり、ハイドンとモーツァルトとベートーヴェンをきちんと取り込んで、さらにちゃんと進化させている。(まだベートーヴェンは生きている頃でしたけどね)

この13曲の中で「傑作」と呼んでもいいのは、後代の「メリュジーヌ」を思わせる暗い雰囲気の単一楽章作品の第10番ロ短調、きっちりかっちりが心地良い第11番ヘ長調、鮮烈流麗無比な第12番ト短調の3曲だと思うのですが、私がそれ以外に好きな物に、第8番ニ長調と第9番ハ短調の2曲があります。全13曲の練習交響曲の中で、この2曲の付近でメンデルスゾーンの作風が劇的に進化する様子が、手に取るように目に見えてくるからです。すごく気持ちよくなれます。(第7番も捨てがたいけれど)

特に、今日挙げようと思った第9番ハ短調。
これは正直言って、「ドギツさ」を狙っています。クドイほどの打撃音が頻発する。喩えて言うならば、「ベニヤでできた階段を、鉄の靴をはいてスキップで駆けのぼる」、そんな感じですかね。だけど、終始そんな感じなのに、しまいまで聴くのは苦痛にはならず、視聴後の感触も(爽やかではないが)イヤでは無い。これはセンスがとても良く、インパクトを最上限に活かすことに成功しているということです。言い換えれば、交響曲というワクの中に、奔放に暴れ回るようとするものの芽を全部押し込めてしまっている。まさに職人わざ、古典派作品の最終形態をみごと実現できていると思います。

各楽章(全4楽章)の特徴を詳しく挙げていきたいところですが、全部同じ書き方になりそうなので、やめた。要は、ハイドンっぽいところが支配的かと思ったら、モーツァルトっぽくもあり、ベートーヴェンの最良の部分ってこんな感じだよね、と思ったら、いやいやシューベルトの若い頃の作品かも、と納得してしまったり、要するに、そう言う感じで手が込んでいてとても刺激的だということです。
第3楽章のメヌエットで、超強烈な叩く感じのメヌエット旋律のあとに、スイス民謡から取ったというトリオ旋律が出てくるのですが、これがとても懐かしい感興をもたらしてくれるもので、とても気持ちが良い。
それから、この曲だけでなくすべての作品で少年メンデルスゾーンは、曲の締めくくりの部分(コーダ)に一番持てる限りの力を注いだと思われるのですが、この曲のそれはとても手が込んでいて、感心してしまいます。
第7番から第9番までの三曲は古典的な4楽章で構成されているのですが、これ以降の作品は、楽章制的な安定感を壊していく方向に行く(10番=単一、11番=5楽章、12番=3各章)そうです。

 

13歳頃のメンデルスゾーンの肖像を私は2つほど目にした事があるのですが、本によれば「後期ゴシック時代の天使のような」と言われているそうですが、そんな彼が(才能に関しては)とんでもない厭な性格の少年だったとは。しかし、彼は才に満ち溢れていると同時に実家がとんでもないお金持ちだったのに、そっち方面では性格的な嫌な噂を(私は)聞いた事がないので、ほほえましい風景だとは思う。

  
≪すばらしい若書き交響曲を書いていた頃の肖像画2つ≫
でも彼はすごい金持ちのぼんぼんだったので、もっとあるかもしれませんね、肖像画。

 

☆ヤーコプ・ルードヴィヒ・フェーリクス・メンデルスゾーン=バルトルディ作曲
弦楽交響曲全集(全13曲)
(1821~23年作曲)
コンツェルト・ケルン、1994~96年
(テルデック-DasAlteWerk、1997年) 3枚組 

コメント
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