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いろいろ、野心は買いますが…… ~『華やかな野獣』2020エディション~

2020年02月08日 22時40分00秒 | ミステリーまわり
ドラマ『華やかな野獣』(2020年1月25日放送 NHK BS プレミアム『シリーズ・横溝正史短編集II 金田一耕助踊る!』 30分)

 『華やかな野獣(はなやかなやじゅう)』は、横溝正史の短編推理小説。「名探偵・金田一耕助」の登場するシリーズの一作。『面白倶楽部』1956年12月号に掲載された。
 ドラマ版の展開は、省略されている部分も多いが基本的に原作小説の通りである。登場人物のセリフや説明文章に関しては、誰の発言かを変更している部分もあり大幅に組み替えているが、ほぼ全てを原作小説の文章で構成している。金田一耕助以外の全ての登場人物を女性が演じているという配役がなされている。映像の中で犯人が着衣で海を泳いできているため、被害者のセーターとズボンを必要とした理由がわかりにくくなっている。原作小説では神尾警部補の部下は複数いるのだが、ドラマ版では青木刑事ひとりに簡略化されている。
 また、金田一耕助が突如として踊りながら推理を披露するという演出がある。

原作小説のあらすじ
 昭和三十一(1956)年、秋。横浜市本牧の、「吉田御殿」という異名を持つ邸宅「臨海荘」で、会員制の享楽的なパーティが行われていた。臨海荘は、パーティの主催者・高杉奈々子が父・啓策から遺産として相続した、豪奢な二階建ての洋館である。太平洋戦争後の混乱期に台頭した怪物である啓策は、自分の邸宅をいざとなったらホテルに転用できる構造に作っていた。そのため、パーティの参加者は広いホールで相手を見つけると、各々に客室へ引き上げて情事に及ぶことができた。これは性の享楽ということには寛大であるが法律的な不正は許さない奈々子が定めた、違法行為とならないためのルールでもあった。
 パーティの中には給仕たちやジャズバンドもいたが、その中には制服のボーイに変装した私立探偵・金田一耕助の姿もあった。毎月のパーティの場で麻薬の取引が行われていることを疑った奈々子の依頼で潜入し、参加者たちの動きを見ていたのである。そんなパーティの中、参加者たちは奈々子の姿が長時間見えないことを不審に思い始める。そして、部屋の様子を見に入った者たちが奈々子の死体を発見した。

主なキャスティング
33代目・金田一 耕助   …… 池松 壮亮(29歳)

高杉 奈々子 …… 芋生 悠(はるか 22歳)
高杉 啓一  …… 辻 凪子(24歳)
葛城 京子  …… 冨手 麻妙(あみ 25歳)
太田 寅蔵  …… 小林 きな子(42歳)
越智 悦郎  …… 門脇 麦(27歳)
神尾警部補  …… 我妻 マリ(?歳)
青木刑事   …… 愛 わなび(?歳)
吉岡監察医  …… アンミカ(47歳)
鷲尾 順三  …… 福島 リラ(39歳)
語り     …… 田中 要次(56歳)

演出 …… 佐藤 佐吉(55歳)

主な使用楽曲
オープニング     『愛あればこそ』(1974年 宝塚歌劇団)
メインタイトル     『ひと夏の経験』(1974年 山口 百恵)
金田一耕助のテーマ  『あざみの如く棘あれば』(1978年 茶木 みやこ)
パーティのBGM1   『SPLICING』(2013年 類家 心平)
パーティのBGM2   『セントルイス・ブルース』(1970年 南里 文雄)
ダイイングメッセージ  『行け!タイガーマスク』(1969年 森本 英世)
越智悦郎のテーマ   『別れのサンバ』(1969年 長谷川 きよし)
凶器発見       『特捜最前線 メインテーマ2』(1978年 木下 忠司)
高杉啓一の告白    『野獣死すべし TOKYOマシーン』(1980年 たかしま あきひこ)
金田一耕助の推理   『サマーツアー』(1982年 RCサクセション)
第二の死体      『アザミ嬢のララバイ』(1975年 中島 みゆき)
踊る金田一耕助    『涙の take a chance 』(1984年 風見 しんご)
奈々子の喜びの歌   『交響曲第九番第四楽章』(1824年 ルートヴィヒ=ヴァン=ベートーヴェン)
鷲尾の咆哮      『かちどきの歌』(1938年 灰田 勝彦)
奈々子の感謝のアリア 『復讐の炎は地獄のように我が心に燃え』(1791年 ヴォルフガング=アマデウス=モーツァルト)
殺意         『悪魔がにくい』(1971年 平田隆夫とセルスターズ)
事件解決       『フライデー・ナイト・ファンタジー』(1985年 ピエール=ポルト)


 いや~、テンション高いな~!! なんなんでしょうか、この前話『貸しボート十三号』との落差は。
 驚きましたね。各話各様の演出の違いを楽しむのがこの『シリーズ・横溝正史短編集』の醍醐味とは言いましても、まさかこんなに振れ幅が大きいとは! まさに実験精神と遊び心の隠れ里に迷い込んだかのような30分間でありました。圧倒的な勢いで突っ走ったかのような出来栄えでしたね。

 前話の『貸しボート十三号』も、「なぜ死体がそんな状態になっているのか?」という謎を中心に置いた本格的ミステリーとなっていたのですが、この『華やかな野獣』もまた、派手な意匠や飛び道具はふんだんに盛り込まれてはいるものの、その大元には「誰が殺したのか?」というごくごくシンプルな謎をすえた、純粋きわまりないミステリー作品となっていますよね。原作小説のボリュームは文庫本にして130ページあまりということで、奇しくも『貸しボート十三号』とほぼ同じであるわけなのですが、これもまた、30分というサイズにかなりぴったりなまとまり方になっていたと感じました。

 ただ、今回のドラマ化について言うと、まずなにはなくとも「出演者ほぼ全員が女性」という演出が何よりも先に目立っていましたよね。だって、冒頭に流れる音楽からして宝塚歌劇団の『愛あればこそ』なんですもんねぇ! これによって作品としてのリアリティが薄くなってしまうのは、むろんのこと織り込み済みなわけです。っていうか、先週の等々力警部が日本語カタコトだったのに続いて、今週の神尾警部補は外見もセリフ回しもフワフワ浮きまくりの不可思議キャスティングに! いやでも我妻さん、実に良いお味の出てらっしゃるお方でした。

 そもそも、映像化する際にあえてリアリティを重く見ない演出や美術設定にするという手法は、NHK BSプレミアムにおける『シリーズ・横溝正史短編集』および『シリーズ・江戸川乱歩短編集』お手のもののテクニックですし、特に『江戸川乱歩短編集』では名探偵・明智小五郎を女性の満島ひかりさんが演じてらっしゃいます。今回の逆ですよね。
 さらにさかのぼれば、実相寺昭雄監督の超名作映画『 D坂の殺人事件』(1998年)において、冒頭などでの大正時代の D坂界隈の風景がペーパークラフトで表現されていたり、小林芳雄少年を女優の三輪ひとみさんが演じているといったあたりの演出が想起されるわけなのですが、それにしても今回の『華やかな野獣』は度が過ぎてますな! 男装、白塗り、昭和歌謡曲……そして名探偵はなぜか踊りながら推理!! まさに全編クレイジーなテンションです。

 でも、この一見むちゃくちゃ&破天荒な演出も、原作小説『華やかな野獣』を映像化するとしたのならば、きわめてまっとう&几帳面な判断と言わざるを得ません。まぁ、それはドラマ版のメイントリックをご覧になった方ならばおわかりかと思うのですが……
 つまるところ、この『華やかな野獣』は「お笑い小説」といいますか、「艶笑小説」のジャンルに入る作品でして、クライマックスでの金田一耕助の推理に浮き彫りにされる犯行現場はまごうことなき下ネタの嵐! 被害者と加害者とかいう以前に男と女、オスとメスというべき奴らのくんずほぐれつが、まるで見てきたかのように語り尽くされるという、「え……これ、なんの話してんの?」という時間が繰り広げられるのです。真実を追究してんのか、笑わせようとしてんのか……
 だからこそ、まともに男女を男女が演じたらさすがに生々しすぎて見るに堪えないかも……という判断から、性愛のあれこれをわざと絵空事にするために金田一以外のキャスティングを全員女性にしたのではないでしょうか。
 にしてもまぁ~、犯人役を演じた彼女は、そうとうえげつないギリギリの表現をやりきってましたよね。えらい! 彼女、犯人なのであえて誰とは言わないのですが、その後わたしの大大大好きなドラマの何人かいるヒロインのひとりを演じていらっしゃいます。その中では無難に清純な娘さんになっているわけですが、『華やかな野獣』でこんな汚れ役を演じたごほうびであの役をゲットしたのでは……という邪推をしてしまうほどの熱演でしたね。
 ただ、犯人を女性が演じてしまったことによって、冒頭の概要説明で触れたように映像中で犯人が着衣で海を泳いできているため、「被害者のセーターとズボンを必要とした理由」がわかりにくくなっているという非常に残念な欠落が生じています。ここ、ぜひとも「全裸に皮手袋に頭にタオル」というマヌケすぎる姿で笑いを誘って欲しかったのですが……そこはさすがにムリよねぇ。

 その犯人の気持ちに立ってみますと、今回の犯行に向けてそうとうに入念な計画を練りあげておきながら、満を持して臨むとターゲットは約2時間にもおよんでアンアンしてるし、想定外に殺してしまった人物はよりにもよって〇〇だったし、挙句の果てにゃあパーティ会場に天下の名探偵が潜伏していたという悪条件のフルコンボ……そりゃあ絶望して自殺しても無理はないか、という不運が続きましたね。これ、『刑事コロンボ』とか『古畑任三郎』みたいに犯人視点の倒叙ものにしても面白いかもしれません。金田一耕助がこともなげに事件を解決していく過程がこわすぎる!!
 ところで、「犯人の自殺」といえば、もはや金田一耕助ものの様式美のようなイメージもあるわけなんですが、今回の事件に限って言えば「犯人が生きていると警察の威信にとってあんまりよくない」という事情があるため、殺したとまではもちろん言いませんが、金田一は犯人の自殺を「黙ってスルーした」疑惑が極めて濃いですね。も~先生ったら!

 いっぽう、肝心のメイントリックに関しましても、まともに想像してみれば「え、そんなこと、できんの!?」という、むしろ金田一耕助の自称お孫さんのほうが解決しそうなトンチキなものです。ただし、作中で横溝先生はちゃんと「被害者は犯人よりも小柄」と説明していますし、トリック自体は、かのシャーロック=ホームズの至言「不可能な想定を消去していき、たとえいかにあり得そうになくても、残った想定こそが真実である。」を地で行く発想の転換が気持ちいいものになっています。にしても、そうとう筋力のある人でないと、そんなの無理じゃない……?

 総じてこの『華やかな野獣』は、作中での金田一耕助の「らしくない」ボーイ変装に象徴されるように、かくのごとく笑える要素が満載の「バカミス」になっているわけなのですが、よくよく考えてみますと、「不可思議な状態の死体」、「犯行現場から消えている衣服の謎」、そしてミステリー王道の「ダイイングメッセージ」と、エンターテイナーとしての横溝正史の旺盛なサービス精神と細心に張り巡らされた伏線がぜいたくに満載された傑作になっているのでした。いや~、ダイイングメッセージの「トラ」、これ一つをとっても、なんで「とら」じゃなくてカタカナの「トラ」なのかな?ってあたりのヒントの出し加減がお見事なんですよね! さすがは大横溝、長編小説よりもいくらか肩の力を抜いたおちゃらけ作品でも、決して手は抜きません。これぞプロフェッショナル!

 お話をドラマ版に戻しますが、今回のキャスティングで私が特に「おおっ」と注目してしまったのは、吉沢警察医を演じたアンミカさんでした。吉沢警察医って、前作の『貸しボート十三号』の原作小説に出てきた「吉岡」警察医さんとは別人ですよね……まぎらわしい。
 アンミカさんといやぁ~あんた、昨今のバラエティ番組出演とかワイドショーのコメンテーターとかいうキャリアはどうでもよろしい。重要なのはなんてったって、20年前に(もうそんな昔になるのか……)テレビ東京で深夜に放送されていた伝説のシュールコント番組『バミリオン・プレジャー・ナイト (Vermilion Pleasure Night)』(2000年) への出演ですよ。うをを、「主婦マニア」~!!
 今回のアンミカさんの出演は、その『バミリオン・プレジャー・ナイト』内でのコーナーの脚本や演出を手掛けていた佐藤佐吉さんが『華やかな野獣』を撮るから、というよしみがあったそうですが、たった十数秒の出番とはいえ、約20年ものブランクを全く感じさせない突き抜けた演技はお見事でした。あの、意味のありそでなさそな映像のリピート! なつかし~な~、オイ!!
 『バミリオン・プレジャー・ナイト』といえば、この番組も出演者のほとんどが女性という特徴がありました。総じて時代感覚がよくわからない、ハデハデでレトロフューチャーな衣装&メイクをしていたのも、どことなく本作に少なからぬ影響を与えているような気がします。

 とまぁ、とりあえず本作を観て気がついたことをつらつらと挙げてみましたが、まとめてみますと、このドラマ版『華やかな野獣』は、パッと見るとかなり突飛な意匠に満ちた野心作のように見えるわけなのですが、もともと原作小説の味わいからして、バリエーション豊かな金田一耕助サーガの中でも番外編であるかのような「お笑い作品」の色合いが強いために、非常に順当な演出の仕方であるという、むしろまともきわまりない調理法をほどこされた作品なのである、という感想を持ちました。

 ただ、ちょっとばかし苦言を呈したいとするのならば、作品の演出としては、登場人物は特徴的な格好をしているし、そして何よりも、山口百恵に茶木みやこに長谷川きよしといった、好きな人にはたまらない往年の歌謡曲がとめどなく流れる BGM選曲もなかなか良かったわけなのですが、それによって原作の「まじめにミステリーもやってますよ。」感が薄れてしまったきらいがあったかと。
 犯人を女優さんに演じてもらうという選択は、テレビで放送する以上は仕方のない判断だったのかもしれませんが……やっぱり、「犯人がなぜ被害者の衣服を盗んだのか?」という魅力的な問題に対して、答えの必要性を無くしてしまうかのような不親切な改変をしてしまうのは、さていかがなものかと。でもこれ、じゃあ原作通りにやればよかったのかよ!というと、女優さんである以上、ストレートには映像化できませんよねぇ。難しいな~!! でも、他の部分でこれほどなんやかんやの味付けをしている本作だったのならば、ぜひともここでも、視聴者が「なるほどぉ~!!」と膝を打ってしまうような「解答」を見せていただきたかった。やっぱり、なんといっても「原作小説を可能な限り忠実に映像化」を旨とする『シリーズ・横溝正史短編集』である以上、本作のようになんとなくうやむやにしてしまう処理はしてほしくなかったのです。

 いや~、ほんとに惜しいんですよ! だって、私が考えますに、この『華やかな野獣』は、「時代設定」という観点から見ても、作中のどこにも「昭和三十年代の作品」の忠実な映像化として問題のある要素がない、かなり純粋なミステリー作品に仕上がっているのです。
 そもそもこの作品は、ひとつの洋館の中で発生した連続殺人事件を描いており、なおかつかなり早い段階で警察が到着して昨夜の乱痴気パーティの出席者をおさえているため、ミステリー小説の中でもひときわ魅力的な「クローズド・サークル」の設定、つまりは「陸の孤島もの」になっています。そうなると映像も、洋館の中とそこにいる人達だけで完結するものになるので、通信機器や社会制度といった、原作(1956年)と映像化された現在(2020年)との落差を感じさせる要素が出てきづらくなるわけです。たとえスマホを持っていたとしても、捜査のために警察が使用を禁じている、とも解釈できるし。

 これと比較してみますと、先週の『貸しボート十三号』は、演出した方の判断もあるのでしょうが、時代考証としてはけっこうアラが目立つといいますか、まぁどっちとも明言していないので決定的な間違いを犯しているとは言えないのですが、登場する大学の宿泊寮の間取り調度や大学生その他のファッションセンス(特に髪型)は非常に古臭い昭和っぽいものになっているのに、出てくる公衆電話は少なくとも平成時代以降の型であるし、大学生のみなさんも着ているのはナイキだのアンダーアーマーだのの今風のスポーツシャツ。金田一が飲んでいる紙パックジュースも、昭和のものをドラマ向けの小道具として復元したようなパッケージには見えないし、登場人物がヤケ酒をしている時に呑んでいたものも、どっからどう見てもここ数年で流行りだした缶チューハイ(もちろんプルトップ)。挙句の果てにゃあ、等々力警部の髪型は中途半端に伸びている髪を後ろで無造作に結っている志村けんリスペクトときたもんだ!
 うん、それが悪いというわけじゃあないんだけれども、「予算ないんだろーなー……」という哀しみを感じさせる中途半端な折衷感に満ちていたわけだったんですよね、『貸しボート十三号』は。

 なもんで、『華やかな野獣』にはそこらへんの雑味が無いぶん、純粋な知的ゲームとしての「誰が殺したのか?」がぞんぶんに楽しめる作品になっていたわけで、ダイイングメッセージしかり、無くなった凶器しかり、微妙に違和感の残る遺体の状況しかり、横溝正史先生が細心の上に細心を重ねて組み立てたミステリー問題を、そこだけはおちゃらけにせずにしっかりと分かり易く映像化して欲しいという要望はあったわけなのです。そこらへん、ちょっと……何度もしつこく言うんですが、「全裸でない犯人」の点だけ! そこだけちゃんとおさえてくれれば、あとは完璧だったんですよ~!! それ以外の説明は、かなり分かり易くなってましたよね。まぁ、「パンパカパ~ン♪」で、なんで青木刑事がヒゲを取ったのかは全然わかんないんだけど。

 あと、もうひとつだけ、ちょっとした不満が。
 これは……誰に言えばいいのかわかんないのですが、今シーズン全体のキャッチフレーズとなっていた「金田一耕助、踊る!」って、今作のあれ、ってことでいいんでしょうか……

 『貸しボート十三号』ではちょっと「踊る」と言える動きはなかったので、先週の予告もあったし、かなりの期待感を込めて今回での踊りを楽しみにしていたのですが……これは……
 いや、ヘタっていうわけではないんですけれども、なんていうか……少なくともシーズン全体の売り文句にするってほどのものじゃあ、ないんじゃないの? まぁ、来週の『犬神家の一族』がまだ控えているので、そこでこれ以上の踊りを披露してくれるかもしれないのですが。
 でも、これはね、池松壮亮さんが悪いというわけではないと思うんですよ。だって、向こうに回したのがよりにもよって、風見しんごさんの『涙の take a chance 』なんだものなぁ! これは相手が悪すぎますよ。本家に勝てるわけがないんだもの。だって、歌唱力だったらまだしも、ダンスでこの曲に挑戦するって、ちょっと無謀過ぎない!? こんなの、2010年代の第一線で活躍するプロのダンサーさんでも、なかなか難しいものがありますよ。

 私、冗談でなく、今回のドラマ版『華やかな野獣』の最大の意義は、この日本に、かつて風見しんごというとてつもないダンサーがいた(アイドルという意味では残念ながらないのですが)という歴史的事実を、令和に生きる私たちに思い知らせてくれたことなのではないかと考えています。正直、高杉奈々子のキャラクターに山口百恵はちょっと違うんじゃないかとか、選曲について気にかかる点はちょいちょいあるのですが、金田一耕助の天才的名推理に、同じく天才である風見しんごのダンスをドッキングさせたのには感服つかまつりました。
 ただよぉ、そうなると、曲でなく「ダンス」の面で池松さんが映像の中で挑戦しなきゃあいけなくなるわけで……そうなるとまぁ、ああなっちゃうわけです。また、純粋に池松さんのダンスだけを独立して見ても、私もデカい口はたたけませんが、そんなにお上手なわけではないですよね……いや、あれは屋外の粗いコンクリートの上で、あんな踊りにくい靴を履いて踊ってるのも良くないんですよ。とにかく、周囲の池松さんへの無茶ぶり感がハンパない!! いじめか!?

 今回での使用を通じて『涙の take a chance 』の存在を知った方は、もちろんすでに見ている方も多くおられますかとは思いますが、ぜひとも当時の歌番組の中で風見しんごさんが踊っている、真面目に踊りながら唄っている映像を検索して観ていただきたい。そして、しびれていただきたい!! 『涙の take a chance 』の魅力は、「楽曲10%」に対して「ダンス90%」くらいの配分なのではないのでしょうか。んまぁ~、素晴らしいですよね。とにかくうまい、かつ、きれい! 1コ1コの振りが、まるで定規ではかったのかのような几帳面さに満ちているんですよね。そこが実に日本人的だし、現在の風見さんの生き方にも通じているし、そして、横溝正史先生の「鬼手仏心」の筆に実にふさわしくもあるという。う~ん、なんというジャストフィット感!!

 字数がいい加減にかさんできましたのでそろそろおひらきにしたいと思いますが、今回の初ドラマ化された『華やかな野獣』に対する、わたくしの総じての感想を一言で申しますと、「惜しい!」になるでしょうか。「おもしろい!」じゃなくて、どうしても「惜しい!」なんだよなぁ。

 前回の『貸しボート十三号』と連続で見てみますと、金田一耕助の短編(中編)ものは、そりゃ容量が多くないんだから当然なんですが、金田一耕助の天才性が問答無用に際立ちます。その方向性が、クールな池松金田一が演じると、どうしても「いとも簡単に解決する」が強めになり、ともすれば「つまんなそうにパパっと一蹴する」になりかねない恐れがある。その危険性を感じる部分もありました。
 その危険を避けるためなのか、今回は「ダンス」に挑戦した池松金田一だったわけなんですが……まぁ、そのパターンは、もういいかな!?

 名探偵の天才性が悪い意味で際立つ。その問題への果敢な挑戦の例として私が真っ先に想起するのは、なんといってもイギリスはグラナダTV の、ジェレミー=ブレット主演版の『シャーロック・ホームズの冒険』シリーズの後期作品群です。詳しく言えば、ホームズ役のジェレミーさんの体調不良が目に見えてきた第5・6シーズン(『事件簿』と『思い出』)ごろの作品になるでしょうか。
 このあたり、さすがそこまで映像化される順番が後回しになっていた作品群なだけあり、まともに映像化したら、そんなにおもしろくない! でも、そこを、「ジェレミーさんの老いと病を隠さない」という正面突破、関ヶ原合戦における島津軍の捨てがまり戦にも匹敵する命がけの選択によって一発逆転、他に類を見ないいぶし銀の味わい深い傑作ぞろいに昇華させでいるわけです。最終話の『ボール箱』なんか、事件の内容的にも作品的にも原作小説はどうしようもないちんちくりん(ごめんないさい!)であるわけですが、映像化された『ボール箱』は、誰がどう見ても文句のつけようのない、堂々たるジェレミーホームズの掉尾を飾るにふさわしい傑作となっています。っていうか、もうジェレミーさんはこれ以上1カットもホームズを演じないでください! 休んで!! と観る者が祈らずにいられない痛々しさに満ちているという……

 ま、そんなレベルまでとは言いませんが、今後も、様々なアプローチに挑戦していく、息の長~いシリーズになっていって欲しいと願います。がんばれけっぱれ、池松金田一~!!

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