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長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

これから読もうと思ってんだけどさぁ4  ~前勉強をつらつら~

2013年10月30日 23時05分18秒 | すきな小説
『奏(騒)楽都市 OSAKA 』(1999年 メディアワークス電撃文庫)

 『奏(騒 正式な表記は「騒」の上に「奏」が乗る作者の創作漢字)楽都市 OSAKA 』(そうがくとし おおさか)は、川上稔の「都市シリーズ」の第4作。前作『風水街都 香港』に続く上下2巻組み大長編。

 異世界の都市・大阪を描いた小説、およびプレイステーション用ゲームソフトである。両者は同じ世界観を共有しているが、ゲーム版が小説版の続編にあたるという関係にあり、どちらかがどちらかの原作という関係にはない。

あらすじ
 時は1996年12月。舞台は学生達が全ての主導権を握り、かつ東西で勢力が分裂してしまっている日本列島。
 西日本の首都・大阪はかねてよりの計画、「言詞加速器 IXOLDE(イゾルデ)」を完成させ、最強神器の開発を行おうとしていた。
 だがその最強神器を狙い、東日本の首都・「矛盾都市」東京の総長連合が大阪へと侵攻してくる。
 そしてまた、時を同じくして一人の少年が大阪へとやって来た。
 少年の名は陽阪勝意(ひざか しょうい)。大阪に伝わる秘伝において「近付く事を許すな」とされる、「己の詞を持たない少年」だった……


用語

大阪圏(おおさかけん)
 西日本の中心都市・大阪のこと。
 1983年(物語の13年前)に起きた「近畿動乱」以来、東日本と敵対している。IXOLDE による最強神器の開発を長年の悲願としており、本作での戦いはそれによって巻き起こったもの。

古都圏(ことけん)
 西日本の主要都市・京都(京都圏)と、奈良(奈良圏)が1970年に併合してできた都市圏のこと。
 西日本の有力な都市圏の一つで、特に南大門神社は古都圏の総意に強く影響する勢力である。その南大門神社の主張もあって、大阪圏のIXOLDE 完成と最強神器開発に反対しており、今回の開発立ち会いも監視としての意味あいが強い。

名護屋圏(なごやけん)
 中日本の主要都市・名古屋のこと。戦国都市(タービュレントシティ)・名護屋。
 日本の東西を分ける位置にあり、常に実戦や情報戦が繰り広げられる激戦地域として知られる。比較的大阪圏に協力的であり、今回の最強神器開発にも他意無く立ち会った。
 圏内には、13年前の「近畿動乱」で「言詞爆弾」が投下されたために「言詞構造」が破壊された砂漠地帯「詞変線(オルタード・ライン)」が存在している。

東京圏(とうきょうけん)
 都市世界における東日本の首都・東京のこと。矛盾都市(ゼノンシティ)・東京。
 東日本の中心であり、近畿動乱以来、大阪とは敵対を続けている。
 この東京を舞台としたのが、「都市シリーズ」第7作『矛盾都市 TOKYO 』(2001年)である。

冬に咲く桜並木
 略して「冬桜」とも。大阪圏のどこかにあるとされる並木道。
 近畿動乱の引き金となった場所で、近畿動乱中には大阪圏・東京圏の総長が「全ての不幸」と呼んでいた。東京圏総長連合副総長の葵聖が探している。

総長連合(そうちょうれんごう)
 日本の各都市に存在する、学生達の自治組織。
 作中の日本列島では、学生紛争の激化による国力の減衰を抑制するために、成人社会と学生社会との全権相互不可侵を取り決めた「校則法」が施行されている。
 全員が各都市最寄りの「御山(おやま)」で修行を積んだ学生であり、学力・戦闘力ともに一般の学生を遥かに超えている。総長と副総長を中心とし、副総長補佐や特務隊長などの役職が存在している。

御山(おやま)
 総長連合の幹部を育成するための機関。
 通常は半年の修行を経て、適性の有無が判断される。あらゆる面で能力の優れた者が集まっており、落第者でも大学卒業以上の学力を持つ。

大阪圏総長連合
 現在はIXOLDE による最強神器開発を計画している。総長は難波総一郎、副総長は平野某(登場せず)、第一特務隊長は崎誠次。

古都圏総長連合
 IXOLDE や最強神器の完成に反対している。総長は古都圏守護役を兼任する結城夕樹。

南大門神社(なんだいもんじんじゃ)
 奈良時代以来、「平城京」「長岡京」「平安京」といった畿内地方の首都の南を守護し続けてきた、奈良県大和郡山市内の小高い丘にある大きな神社。付属学校も存在している。
ここの筆頭である古都圏守護役は都市に根付く無量の心霊と対話する者であり、朱雀四十式を操る事もあって、古都圏において強い発言力を持つ。

名護屋圏総長連合
 比較的、大阪圏に協力的である。同圏の生徒会とは折り合いが悪い。総長は山下妙子、副総長は市村雄生、第一特務隊長は霞隆一。

東京圏総長連合
 最強神器を狙い、大阪圏へと侵攻してくる。総長は中村久秀、副総長は葵聖、第一特務隊長は池丸孝弘。

近畿動乱(きんきどうらん)
 1983年に発生した、東西日本の学生が敵対するきっかけとなった事件。大阪圏と東京圏の双方の総長が犠牲になって終結した。

和解動乱(わかいどうらん)
 本作における一連の抗争の通称。

技能(テック)
 教育機関によって取得できる、肉体や精神の専門技能のこと。
 特定の一動作を特殊能力のレベルにまで昇華させたものであり、無数の分野に体系化されている。これを発動させる事によって、ある程度の物理法則を無視して自身の行動・意思を制御する。

神器(リズム)
 神器の遺伝詞が宿った歌詞の無い音楽。その発動には個人の詞と、その音楽を込めたMD が必要である。
 右神器、左神器、重神器の三種が存在しているが、右神器以外の種は非常に数が少ない。なので主に右神器とその能力を指す。その強さによって「神(ハイ)」「帝(ミドル)」などと段階付けされ、その能力の内容を示す漢字一文字と繋げて神器の名前とする。

右神器(オーバーリズム)
 一般的な神器。

左神器(ワインドリズム)
 原始的な種であり、MD を必要としない。攻撃力が非常に強い。

重神器(ヘビィリズム)
 左右の神器とは全く異なる種。強大な能力を秘めているが、それを扱える者は非常に少ない。

草薙(くさなぎ)
 大阪圏総長連合総長・難破総一郎が使用する左神器。日本神話に由来する強力な切断能力を持つ。

炎神(えんじん)
 IXOLDE が開発した最強の神器。重神器としての名は「八又(やまた)」、荒神と併せて「二極神器」と称される。
 物体、術を問わずあらゆるものを貫通し、触れたものを絶対的に燃やし尽くす炎を生む。

荒神(すさがみ)
 重神器としての名は「十拳(とつか)」。あらゆる神器の効果を打ち消すことができる、攻めではなく護りのための重神器。

詞(ことば)
 各人の遺伝詞から導き出される、個性を表現する詩。神器を発動させる際に用いられる。

己の詞を持たない少年(ディスワーダー)
 何らかの要因によって己の詞を失った者の総称。己の詞を持たないがゆえに他者の詞に影響され易いが、低威力ながらもあらゆる右神器を使用できる。

殺活者(キリングホルダー)
 総長以外で殺人を犯した学生に与えられる異名。


登場キャラクター

陽阪 勝意(ひざか・しょうい)
 本編の主人公。字名「己の詞を持たない少年」、戦種「近接格闘師(クリティカルフォーサー)」、舞闘「南大門無手派」。
 飄々としたいい加減な性格で、かなりエロい。しかし夕樹のことになると必死になる意思の強さがある。元南大門食客で、夕樹の恋人になる。しかし「勝意が夕樹を護る」という約束を守れず、強襲してきた山下義兵を夕樹が殺害して以来、別れている。その時の負傷が額に残っているため、常にバンダナをしている。15歳から2年間、御山で修行するも総長連合に入れなかったという経歴を持つ。かつて西日本中学空手選手権で優勝した経験があり、予備動作無しで5m 以上の跳躍技能ができる。
 山下義兵死亡の直前に負傷で気絶しており、夕樹の義兵殺害に関する記憶が無い。そこに隠された事実があるらしい。

結城 夕樹(ゆうき・ゆうき)
 古都圏総長・古都圏守護役。字名「殺括者」、戦種「遠隔神術師(エナジーガンナー)」、神器「水神(アクア・ハイ)」「凍神(コールド・ハイ)」「霊帝(ガイスト・ミドル)」、舞闘「南大門神術派」。
 寡黙で冷徹な性格で、排他的な態度を崩さないが、今のようになったのは勝意が約束を守れなかったためだとされている。かつては勝意の恋人だったが、現在は別れている。守護役として心霊と対話する能力を持ち、総長として戦闘兵器「朱雀四十式」と「鳳星」を操る。右目は山下義兵に潰されたため、朱雀四十式を操るための義眼「鳳凰」が移植されている。
 勝意との別れ、義兵殺害にある事実を隠している。

難波 総一郎(なんば・そういちろう)
 大阪圏総長。字名「鬼沈め」、戦種「近接武術師」、神器「草薙」、舞闘「紫電流改」。
 平安時代中期に都に巣食う鬼を退治したという武将・渡辺綱(953~1025年)の末裔。
 寡黙にして無骨、実直な性格。2年前にIXOLDE の暴走で生まれた鬼と戦った際に四肢と右目を失い、現在はそれらの義体を装着している。大阪圏総長として、IXOLDE による最強神器開発を先導する。

山下 妙子(やました・たえこ)
 名護屋圏総長。字名「竜后」、戦種「全方位義体師(スチールマスター)」、神器「雷神(サンダー・ハイ)」、舞闘「我流」。18歳。
 快活であっけらかんとした性格で、人なつっこい。山下義兵の妹で、同じ詞を持つ。義兵を殺した夕樹を恨んでいるが、勝意の彼女に相対する主張から、自分の意思は抑えている。御山での勝意との試合中に右腕を失ったため、大八竜帝を装着している。

崎 誠次(さき・せいじ)
 大阪圏総長連合第一特務隊長。神器「圧神(プレッシャー・ハイ)」。
 公私共に難破総一郎を支える。槍術技能を得意とする。勝意を「己の詞を持たない少年」であるとして危険視した。

市山 雄生(いちやま・ゆうせい)
 名古屋圏副長。西日本空手無差別級一位。神器は「爆神」。両腕と眼を義体化し、強化内臓を呑んでいる。

霞 隆一(かすみ・りゅういち)
 名古屋圏総長連合第一特務隊長。爆神神器とナイフの投術を得意とする。武闘は「裏五家流」。

結城 繊雅(ゆうき・せんが)
 夕樹の祖母で、元御山・高野山教官長、関西寺社連盟長。大阪一の槍使いと言われたが、13年前に引退している。現在67歳。

中村 久秀(なかむら・ひさひで)
 東京圏総長。神器も技能も使えないがゆえ、「奏音の領主(ホワイトノイズ)」としての能力を持つ。舞闘は「伊庭式」。
 近畿動乱の際に東京圏総長だった姉・緑の遺した神器を奪うため、また、予言を果たし王になるために大阪に侵攻する。
 東日本空手無差別級一位。

高田 清犠(たかだ・せいぎ)
 「速読歴(ファストリーダー)」の字名を持ち、他人の唇から予言を詠むことができる。
 狗神使いであり、自身の遺伝詞から生まれた狗神・太郎丸を連れている。太郎丸は敵意に反応し、彼女を護る。
 久秀の恋人。孝弘の従姉妹でもある。

太郎丸(たろうまる)
 狗神。七十二の分身を持ち、主の意志を通訳する。

葵 聖(あおい・ひじり)
 東京圏副長。全方位格闘師。神陰流の継承者。
 かつて両親が見たという「冬に咲く桜」を探している。孝弘の恋人。

池丸 孝弘(いけまる・たかひろ)
 東京圏総長連合第一特務隊長。言霊師(ワードマスター)。舞闘は「帝式真呼流」。
 清犠の従兄弟であり、過去に彼女の遺伝詞から狗神を生み出した。

伊庭 優明(いば・まさあき)
 御山の教員で、近畿動乱時の大阪圏第一特務長。久秀の師匠。繊雅の元教え子。

岩井 参蔵(いわい・さんぞう)
 豪商・法善寺家の執事長で、難波総一郎の有力な擁護者。大阪圏最大の情報網を統括している。前・法善寺グループ特殊部隊部長。

山下 義兵(やました・ぎへい)
 山下妙子の兄で、かつての名護屋圏総長。結城夕樹との果たし合いで殺されている。

中村 緑(なかむら・みどり)
 中村久秀の姉で、かつての東京圏総長。13年前の近畿動乱で死亡している。繊雅の元教え子。

久木 右大(くき・うだい)
 かつての大阪圏総長。13年前の近畿動乱で死亡している。緑の恋人。繊雅の元教え子。

二条 誠(にじょう・まこと)
 九代前の古都圏総長。使う神器は「鉄神」。舞闘は「洋門二条流」。

藤原
 栃木県の日光に住む15歳の少女。使う神器は「水帝(アクア・ミドル)」。華厳の滝に潜り、滝壺の底に咲く「白い花」を目撃する。


登場機械
言詞加速器「 IXOLDE(イゾルデ)」
 最強神器「炎神」製造のために大阪圏が開発した、巨大な言詞加速器。大阪府立第二高等学校の地下に設置されている。

衛星「朱雀四十式」
 南大門神社が保有する世界唯一の戦闘用人工衛星。結城夕樹が「鳳凰」を介して操る。天蓋の外側から粒詞砲での砲撃や流体給弾を行い、粒詞砲の最大出力は地上の半径1キロを壊滅させることができる。

巨杖「鳳星(ほうせい)」
 南大門に伝わる、喪失技巧(デステクノ)で作られた巨杖。朱雀四十式との連携によって強力な砲撃を放てる。

義腕「第八竜帝(だいはちりゅうてい)」
 山下妙子の左腕に装着されている義腕。竜の力を持つ「竜帝」と称される機種の一つ。
 竜の眼を内蔵しており、自らの意思で装着者を選ぶ。全部で9つの形態を取り、最終形態では喪失技巧級の戦闘力を発揮し、都市ひとつを壊滅させる破壊力を持つという。

義眼「鳳凰」
 結城夕樹の右目に埋め込まれた赤い瞳の義眼。移植された者は朱雀四十式に単独通信が可能となる。


ゲーム
 キングレコードから1999年3月に発売されたプレイステーション用2枚組ゲームソフト。2010年7月よりガンホー・オンライン・エンターテイメントからプレイステーション3、プレイステーションポータブル向けのゲームアーカイブスソフトとして配信中。
 内容は小説版の続編にあたるが、共通して登場するキャラクターや直接つながる要素はほぼない。
 なお、1998年4月~99年3月にはゲームソフトと小説と連動したラジオ番組『池澤春菜のぱちモン OSAKA 』(ラジオ日本 毎週土曜日深夜0時30分~1時)が放送されていた。番組パーソナリティはゲームソフトに出演していた声優の池澤春菜(22歳)。

あらすじ
 時は小説版の「和解動乱」が終結したのちの1998年。西日本の首都・大阪圏は25年以上の建造期間をへて、ついに世界を変えることができるという全世界広告塔「 BABEL(バベル)」を完成させ、企業と学生にその使用権を争わせる NET戦争を行う。



作中での関連年表

1944年 第二次世界大戦における敗色濃厚なドイツ第三帝国、「言詞爆弾」を全世界の主要都市に投下。世界の都市概念が崩壊し、各都市がそれぞれ独自の発展を遂げる端緒となる。
    この際の「言詞崩壊」により、地球の成層圏には透明な力場「大天蓋」、世界の各都市の上空には同様な「天蓋」が発生し、人類は宇宙への進出が不可能となる。
    同時に、電波も上空を通過することが不可能となり、全世界のネットワークが事実上、断たれる。

1945年2月 アメリカ合衆国・ソヴィエト連邦・イギリス帝国3ヶ国の首脳による「ヤルタ会談」の結果、第二次世界大戦で投入された主要兵器「超常識飛行艦『dp』シリーズ」、「グラソラリアン言詞板」、「風水五行三法」、「アティゾール計画式自動人形」などが違法とされ廃止される。
   5月 ドイツ第三帝国、降伏。

1950年 朝鮮戦争勃発にともない派生した安全保障問題をめぐり、活発化した学生運動や暴力の低年齢化が問題となる。

1962年 学生の武力的行為一切を取り仕切り、学生を正しく先導する役職を組み込んだ「番付式司導格認定制度」、いわゆる「番格制度」が執行される。

1963年 肉体や精神の特定の一動作を特殊能力のレベルにまで昇華させた専門技能「テック」が学校教育に導入される。

1965年 番格の「司導格徒長認定試験制度」が制定され、第零から第九まで、10ヶ所の修行場が全国に創設される。

1969年 1959~60年に展開された安保闘争などの反省から、番格制度から大学生が完全排除される。

1970年 京都圏と奈良圏が併合され「古都圏」となる。

1972年 1944年以来断たれていた全世界でのネットワークの復活をうたう全世界広告塔「 BABEL 」、大阪圏で建造開始。

1978年 MD ウォークマンの販売が開始され、廉価な神器が大量発生する。

1983年 近畿動乱、勃発。

1984年 名護屋圏郊外で「格爆弾」が爆発。これによって発生した砂漠地帯「詞変線(オルタード・ライン)」が東西日本の「壁」となる。
    東京圏総長・中村緑と大阪圏総長・九木右大、茨城山中にて消息を絶つ。2人の持っていた二極神器「荒神」と「炎神」も喪失される。これにより、近畿動乱終結。
    近畿動乱の影響により、全世界広告塔「 BABEL 」の建造が一時中止となる。

1985年 日本の学生代表が分化代表制となり、国内の東西での学生交流が事実上、断絶する。この対処として、臨時教育委員会より「東西往復許可書」が発行されることとなる。

1986年 東京圏で「帝都第一高等学校」、大阪圏で「大阪府立第一高等学校」、名護屋圏で「安土国立高等学校」が創立し、東西の臨時教育委員会、海外からの留学生、優秀生徒たちの専用学校となる。
    関東地方と関西地方を結ぶ航空網が復興する。

1988年 オルタード・ラインの修復が開始される。

1991年 MD ウォークマンを小型化したチップ・ウォークマン、販売開始。

1992年 大阪府立第二高等学校の地下で開発された言詞加速器「 IXOLDE(イゾルデ)」による最高速神器の抽出、開始。

1993年 オルタード・ラインの修復にともない、新幹線、復興。

1996年 大阪圏にて大規模テロ活動が連続発生する「和解動乱」が勃発する(小説版の内容)。

1997年 全世界広告塔「 BABEL 」の建造が本格的に再開される。
    大阪圏にて「 NET 戦争 BABEL争奪戦」の出場者募集と選考が開始され、関東地方の学生も選考に参加する。

1998年 「 NET 戦争 BABEL争奪戦」の選考が終了し、争奪戦が開始される(ゲーム版の内容)。
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これから読もうと思ってんだけどさぁ3  ~前勉強をつらつら~

2013年10月20日 23時23分22秒 | すきな小説
『風水街都 香港』(1998年6~7月 メディアワークス電撃文庫)

 『風水街都 香港』(ふうすいがいとホンコン)は、川上稔の「都市シリーズ」の第3作。シリーズ初の上下巻組み大長編作品である。
 異世界の香港を舞台としたファンタジー小説で、この作品から、本格的に連続した「都市シリーズ」の内容が始まる。
 過剰な量の設定と伏線のため、内容を「難解過ぎる」と評する声も多い。
 文庫イラストは、川上と同じくゲーム制作会社TENKY に所属するイラストレーターのさとやす。本作以降、「都市シリーズ」のイラストは全てさとやすが担当している。

 物語は香港返還直前の1997年6月13日から始まっており、「都市シリーズ」で初めて刊行時に近い現代が舞台となっている。


作中での香港の歴史

331年 中国第6の統一王朝・晋帝国(当時は東晋帝国第3代皇帝・成帝の治世)、歴史上で初めて香港島を支配下におく。

1839年9月 清帝国とイギリス帝国との間でアヘン戦争が勃発する。

1842年8月 イギリス帝国の勝利により南京条約が締結されアヘン戦争終結、第一神罰戦
 イギリス帝国、自由放任主義(レッセフェール)をもって香港島を領有支配
 香港島の住民は異族(グラソラリアン)の襲来に備えて、香港洞と九龍(クーロン)半島に地下都市を造営して徹底抗戦を行った。
 この戦争は丸一年にわたったが、天使族の仲介による和平をもって終息した。
 香港洞の最深部で『飛翔歌』が誕生する。

1843年 天使族と人間との間に生まれた史上初の匪天(ひてん or ナイン・アンゲル)・黄大全、誕生。

1863年 のちのアークスRDC の母体となる「アークス貿易機関」発足。

1895年 第二神罰戦
 革命論述会「興中会」過激派のテロ活動によって、香港洞の最深部で細菌兵器が爆発し、香港洞は死の井戸となる。

1898年 第二神罰戦、終結
 戦争責任追求の結果、九龍半島などを含む香港地域全体の1997年までの清帝国からの租借権をイギリス帝国が行使する。
 抵抗力の強い天使族は生き残ったため、細菌兵器の爆発をイギリス側の天使族の自作自演による陰謀と解釈する説が流布した。

1912年1月 中華民国、樹立。

1914年7月 第一次世界大戦、勃発。

1918年11月 第一次世界大戦、終結。

1921年7月 演劇街都・上海で中国共産党、発足。

1925年 第三神罰戦
 中国共産党幹部・劉少奇の活動により香港地域で反イギリスの長期ストライキが決行される。
 中華民国政府軍の急進派が香港を奪回するために進軍し、市街地内で商店街からの軍事的援助を受けた香港人民警察と戦闘を開始する。
 この戦争の終結と復興において、アークスRDC を中心とする大企業群が発展。香港は世界に名だたる貿易都市に成長した。

1939年9月 第二次世界大戦、勃発。

1941年12月 太平洋戦争が勃発し、大日本帝国陸軍がイギリス帝国軍に勝利し香港地域を占領する。

1945年8月 太平洋戦争が終結し、香港地域はイギリスに返還される。

1949年10月 中国共産党、中華人民共和国を樹立する。
    12月 中華民国総統・蒋介石、中国国民党政府の首都を南京から台湾島の占術街都・台北に遷都し、中華民国を台湾島とその周辺島嶼のみを実効支配する国家に再編成する。

1950年6月 朝鮮戦争の勃発により、戦争難民が香港地域に大量に流入する。

1956年 膨張した労働者階級による暴動が拡大し、九龍暴動事件が発生。

1958年 第四神罰戦
 中華人民共和国政府軍の急進派が本土地下通路から香港洞に侵入して戦闘を開始する。
 その際、化学兵器が再び香港洞内で爆発し、天使族の免疫機構を破壊した。
 以後、天使族は地上での抵抗力を回復するために人間と交わり匪天が急増するが、それは天使族への迫害の始まりにもなった。

1967年 中国本土での文化大革命に呼応した中国共産党系住民による反イギリス暴動が発生。

1973年 第五神罰戦
 香港裏社会の内紛が発展し、国境付近の中国政府軍も巻き込んだ戦争が勃発する。
 その結果、香港商店師団(ホンコン・ヤード)が創設され、この戦争に乗じて匪天に責任を転嫁した末の匪天狩りが横行する。なお、終戦間際の6月30日の夜、香港全土の人間が香港の滅びる悪夢を見るという怪現象が発生した。

1984年 イギリスと中華人民共和国の首脳会談により、香港地域の返還を再確認した「中英共同声明」が発表される。

1989年 中国本土で経済解放運動が開始される。

1997年7月1日 香港地域が中華人民共和国に返還される。


主な登場キャラクター

アキラ
 熾天使(天使位階第一位)と人間との間に生まれた匪天。香港一の風水師(チューナー)で、香港商店師団(ホンコン・ヤード)の衛生課巡査。本名は李良月(リ・リャンユエ)。
 ダブルリーの妹。

ガンマル
 五行師(バスター)。本名はローガン=マルドリック。欧州五行総家であるマルドリック家の次男。
 ジェイガンの弟。右手は義手である。自身専用の神形具(デヴァイス)「非皇(ナイン・ケーニヒ)」を持つ。

奉 鈴(ホウ リン)
 香港商店師団捜査課巡査長。風水師でアキラの上司。
 匪天のフェイ=ガーランドを捜索している。

山城 孔臥(コウガ)
 中国系ヴァンパイアと日本人のクォーター。香港商店師団捜査課巡査。
 リンの部下である。生まれと育ちは日本。不死者。

将軍
 香港商店師団特殊車両部隊大隊長。第四神罰戦の英雄と呼ばれる。
 元々は五行師だったが、現在は主に妻との遺伝詞(ライヴ)交換で得た風水能力を使用する。
 正体は「もうひとりの李琥」であり、妻は「もうひとりのルナ=アズエル」。
 かつて1842年に降りた後、現代ではなく1958年に帰り、未来を修正しようとした。

ダブルリー(李=リード)
 熾天使と人間との間に生まれた匪天。元アークスRDC 特務部。
 アキラの兄。

フェイ=ガーランド
 座天使(天使位階第三位)と人間との間に生まれた匪天。元アークスRDC 警備部・実衝課一課長兼全師団長。
 全身を義体化し、感情喪失機構を内蔵して自身の記憶を封じている。

ジェイガン=マルドリック
 死人。五行師。欧州五行総家であるマルドリック家の長男。
 ガンマル(ローガン)の兄で、生前のあだ名は弟と同じ「ガンマル」である。

ジーニアス=エライアス
 智天使(天使位階第二位)と人間との間に生まれた匪天。元アークスRDC 総務部。
 ジェイガンの子を身ごもっている。

李 ルナ(故人)
 熾天使。風水師。アキラとダブルリーの母親。旧姓はアズエル。
 第五神罰戦で、『新・ある風水師の手記』を記録する。
 李琥、黄大全とともに1842年に降り、香港の運命を知る。
 自身の寿命と香港の寿命とを入れ替え、『飛翔歌』を遺して1994年に死亡。

李 琥(故人)
 五行師。アキラとダブルリーの父親。
 第五神罰戦でルナ=アズエル、黄大全とともに1842年に降りる。
 香港の運命を知り、自身の寿命と香港の寿命とを入れ替えた。1994年に死亡。

黄 大全(故人)
 大天使位(天使位階第八位)の匪天。アークスRDC の創始者。香港の「裏の王」と呼ばれていた。
 天使族と人間との間に生まれた史上初の匪天だった。
 第五神罰戦でルナ=アズエル、李琥とともに1842年に降りる。
 香港の運命を知り、自身の寿命と香港の寿命とを入れ替えた。
 1997年に死亡(享年143歳)。


作中の専門用語

風水五行(チューンバスト)
 火風地水金の五行から、遺伝詞(ライヴ)を再生もしくは破壊する方術。
 神形具(デヴァイス)から自分の遺伝詞を送り込み、周囲の流体に干渉する。これを用いる者を風水師もしくは五行師(バスター)と呼ぶ。
 またその他の手段として、風水紋章(チューンエンブレム)と呼ばれるものを用いて風水を行う場合もある。

神形具(デヴァイス)
 風水五行を行うための道具。五行師が五行をもって創り上げる。
 楽器と武器が組み合わさったようなデザインであることが多い。

匪天(ひてん ナイン・アンゲル)
 異族の中でも、天使と人間の混血種のことを指す。
 第四神罰戦で化学兵器によって免疫機構を破壊された天使族が、抵抗力を持つために人間と交わり生み出した。
 多くの匪天は、香港島に存在する香港洞に居住している。

喪失技巧(デステクノ)
 香港では、陰陽と時虚遺伝詞、そして龍を呼ぶ法のことを指す。
 全てに関する文献資料は第五神罰戦で失われている。

才能家(タレント)
 基本段階を超越した風水五行を行える者のこと。
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これから読もうと思ってんだけどさぁ2  ~前勉強をつらつら~

2013年10月17日 23時07分23秒 | すきな小説
『エアリアルシティ』(1997年7月 メディアワークス電撃文庫)

 小説家・川上稔の代表作「都市シリーズ」の第2作で、異世界の都市ロンドンを描く長編ファンタジー小説。
 1995年の第2回電撃ゲーム小説大賞(現在の電撃小説大賞)にて、2次選考を通過。その後落選したが、翌96年の『パンツァーポリス1935』の金賞受賞を受けて、改稿された上で、1997年7月にデビュー後第1作として刊行された。
 次作である『風水街都 香港』(1998年6~7月)に直接通じる作品で、「自動人形(ザイン・フラウ)」や「言詞砲(バベル・カノン)」が登場するなど、都市シリーズの世界観を初めて前面に大きく打ち出した作品でもある。前作『パンツァーポリス1935』(1997年1月)に比べて設定などが難解になっている。
 文庫版のイラストはイラストレーターの中北晃二が担当した。

あらすじ
 15世紀後半以来、書物の中に封印されて魔物たちの国となったイギリス王国の架空都市ロンドンで、次々に異族たちが殺される事件が発生する。

物語の時間設定について
 作中で具体的に時系列が記されることはなかったが、「十数年前に発生した神と悪魔との戦争(神魔戦争)の影響で、人間界でも第一次世界大戦が勃発した。」という内容の会話があったり、ドイツ出身のラルフ神父が、「鉄血主義の我が国でも、あと少しで宇宙へ出ることが可能になるところでした。」と発言しているため、前作『パンツァーポリス1935』よりも過去、冒険家フーバー=タールシュトラーセの有人気圏外探査船の打ち上げ実験失敗よりも未来の、「1920年代後半」あたりが本作の時間設定であると考えられる。
※その後、「都市シリーズ」の第6作『機甲都市 伯林』の第2巻(2000年)で、本作が「1933年」に起こった出来事であることが明記された。う~ん……当たらずとも、遠からず?


主な登場キャラクター

アモン
 翼を持たない魔族。周囲からは「ニアデス(死にたがり)」と呼ばれている。
 もともと街頭孤児だったが、2年前の異族虐殺事件に関係して逮捕され、現在は酒屋店主の人狼ジョナサンのもとで保護観察期間中。

クラウゼル
 アイレポーク式自動人形。ロンドン警察庁の警察官。常に目を閉じていて視覚機能を持たない。

警部
 ロンドン警視庁に住む謎の男。言実化(オーバーライド)と言影化(オーバーロス)の能力に優れる。

フィルアス
 猫人。もともとは街頭孤児のリーダーで、現在は警部の部下。アモンのことをよく知る。

リックラント=ヴァレス
 人間。本名ライクル=ボルドーゾン。魔族と対等に闘うことができる「幻崩の衛士(ハウンド)」。欧州五行総家の生き残りである。
 1921年に魔物の襲撃を受けて妻を亡くしている。その際に魔物の血を浴び、悪魔契約術「駕契約(オーバーコントラクト)」を会得している。

モイラ=テルメッツ
 人間。本名エリス=テルメッツ。魔女の能力を持つ幻崩の衛士。
 かつてボルドーゾン家に仕えていた小間使いの生き残り。詠唱式魔術や結界術を用いる。

ラルフ=グルト
 人間。幻崩の衛士。神父でありながら神と天使を憎んでいる。長銃(ライフル銃)・散弾銃・短機関銃といった火器を駆使して異族を狩る銃師。

フランドル=アイレポーク
 ロンドン警視庁の地下室に住む自動人形技師。クラウゼルの親。

ジョナサン=ホランド
 人狼。酒屋「満月酒庫」の店長。アモンの保護観察を行っている。
 第一次世界大戦中に右腕を戦車砲で吹き飛ばされ、義腕を装着している。

グロース
 天使。ジョナサンの親友だが、アモンを苦手としている。

アイレン(故人)
 女性の木霊。2年前の異族虐殺事件で死亡している。アモンとは深い関係にあったらしい。
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これから読もうと思ってんだけどさぁ  ~前勉強をつらつら~

2013年10月06日 23時47分35秒 | すきな小説
川上 稔(かわかみ みのる 1975年1月3日生まれ)

 東京都出身。私立城西大学(埼玉県)経済学部卒業後、ゲーム制作会社「 TENKY」に所属。ゲーム作家としての代表作は『メリーメント・キャリング・キャラバン』(1998年)、『奏(騒)楽都市 OSAKA』(1999年)、『 Twelve 戦国封神伝』(2005年)など。
 1996年、『パンツァーポリス1935』で第3回電撃ゲーム小説大賞「金賞」を受賞し作家デビュー(その年の大賞受賞はなし)。以後、兼業作家として活動を続ける。小説家としての代表作は、共通の世界観「都市世界」上の出来事をまとめた『都市シリーズ』・『 AHEADシリーズ』。現在も同じ世界観の一部となる『境界線上のホライゾン』を執筆中(2013年10月時点で通算14巻)。
 「先生」と呼ばれることを嫌がる。

 綿密に構築された設定の下、改行と体言止めを多用する独特の文体で大長編を書く。作中には独自の造語や世界観が縦横無尽に散りばめられ、その全てを完全に理解するにはそれなりの精読や予備知識を必要とするものが多い。
 一般の小説に比べて改行が多いこともあるが、それを差し引いても相当に作品ごとの文章量が多く、電撃文庫の最多ページ数記録の上位は川上作品で独占されている。『終わりのクロニクル7』(最終第14巻 2005年)では、ついに電撃文庫史上初、ライトノベル文庫全体としても異例の「1091ページ」となったが、『境界線上のホライゾン2・下』(2009年)でそれをも突破した(全1154ページ)。そのページ数のため、全国の書店でブックカバーが付けられない事態が発生した。 ライトノベルとしては、単行本1冊ごとの平均ページ数が世界規模でも群を抜いて多い。 刊行速度は非常に速く、また大きな長編が終了した直後であるにもかかわらずすでに次作の構想を練っているなど創作意欲は非常に旺盛である。


「都市シリーズ」
『パンツァーポリス1935』(1997年1月)

 川上稔の代表作「都市シリーズ」内の「機甲都市伯林」(きこうとしベルリン)シリーズの第1作である。
 2作目からは以降の「都市シリーズ」の慣例に従い『機甲都市伯林』がメインタイトルとなり、それに続く『パンツァーポリス19××』はサブタイトルとなる。

 『パンツァーポリス1935』は、異世界のドイツ首都ベルリンを舞台とした小説。川上稔のデビュー作であり、1996年度第3回電撃ゲーム小説大賞(現在の電撃小説大賞)「金賞」受賞作である。後の『機甲都市伯林』シリーズに対して「旧伯林」と呼ばれる。マンガ家のしろー大野がイラストを手がけている。
 『機甲都市伯林』シリーズは『パンツァーポリス1935』の続編。1937年から1944年のベルリンを描いており、「旧伯林」に対して「新伯林」と呼ばれる。都市シリーズの第2期として始まった。第1作を遥かに凌ぐスケールとなっている。全5巻。

「機甲都市伯林」シリーズのあらすじ
 こことは異なる世界のドイツにて。
 1935年、ある新型航空戦艦を2人の男が奪取して逃走。ドイツ国軍は奪還のために追跡するが、新型機拿捕は失敗に終わる。新型航空戦艦はこの時、大気圏外飛行を世界で初めて成功させた。これを参考に、ドイツの極秘軍事機関「 G機関」がさらなる最新型航空戦艦「疾風」を制作することとなる。

作中での関連年表

962年 「救世者」がドイツを統一する(第一帝国)。
1698年 イギリスの発明家トーマス=セイヴァリ(1650~1715年)により「精霊式機関模型」が創られる。
1710年 イギリスの発明家トーマス=ニューコメン(1664~1729年)により精霊式機関が実用化される。
1853年 江戸幕府治世下の日本にアメリカ合衆国の黒船来航。鎖国制度廃止。
1871年 プロシア王国を母体としたドイツ帝国成立。第二帝国宣言。
1894年 イギリスに移民したアメリカ人発明家ハイラム=マキシム(1840~1916年)による精霊式飛行機の史上初飛行が成功する。
1901年 ドイツ人冒険家フーバー=タールシュトラーセ(22歳)、エジプトで「千王母の墓」を発見する。
1906年 ドイツ人技術者パウル=ヴァーグナー(31歳)、精霊式機関を応用した重力変化に成功する。
1914年 第一次世界大戦勃発。
1916年 フーバー、戦争中のフランスで「大空洞」を発見する。
1918年 ドイツ降伏。
1919年 第一次世界大戦の終結にともないドイツ帝国崩壊、ドイツ共和国成立。
1920年 ドイツ、世界初の有人気圏外探査船の打ち上げを試みるも、失敗。
1935年 ベルリン騒乱。
1937年 疾風事件。
1938年 大ドイツ帝国宣言(第三帝国)。
1939年 第二次世界大戦勃発。
1943年 新ベルリン騒乱。
1945年 ドイツ降伏。


第1作『パンツァーポリス1935』の登場キャラクター

ヴァルター=タールシュトラーセ
 主人公。傲岸不遜。冒険家だった父フーバーの後を追う。
 1911年生まれ、身長187cm、体重72kg。趣味は天体観測、好物はリップフェン(ハムステーキ)とモーゼルヴァイン(モーゼル産ワイン)。

パウル=ヴァーグナー
 1875年生まれ。世界初の宇宙航空戦艦「dp-xxx カイザーブルク(皇城)」の設計者で、開発も担当した。世界で指折りの紋章技師でもある。

エルゼ=ブロイアー
 1915年生まれ。ベルリン大学の学生で、ドイツでも五指に入る武器商人ガストン=ブロイアーの娘。ヴァルターやパウルらと出会い、「皇城」の改修を手伝うことになる。

マイアー=シュリアー
 ヴァルターの後輩で、お人よしのドイツ軍人。最新鋭戦闘機「フランメンリッター(炎騎士)」の操縦者。
 ベルリン騒乱を機にドイツ軍を脱走し、裏切り者(エルヴァタンゲン)と呼ばれる。
 アメリカに亡命した後に、元上司のオスカー少将と共に「反戦独立部隊(反独隊)」を創設する。

オスカー=ミリルドルフ
 1886年生まれ。ドイツ空軍少将で、第五師団「アイゼンフォーゲル(鉄鳥)」師団長。
 12歳年下の妻を持つ。典型的なドイツ軍人であるが娘思いでもある。
 ベルリン騒乱が原因で失脚し、後に退役してアメリカへ亡命する。

シュタインメッツ
 ブロイアー社の飛行機工場長。

フーバー=タールシュトラーセ(故人)
 1879年生まれ。数々の発見を為し遂げてきた冒険者。
 1920年、人類で初めて宇宙へ飛び出し、後に「フーバーの宝島」と呼ばれる通信を残して事故死する。

ミハイル=シュリアー
 1996年12月に、この『パンツァーポリス1935』の物語を祖父マイアーの証言に基づいて記録した著者。
 ミハイルによると、祖父はのちに軍人から冒険家に転進し、執筆した時点ではすでに物故している。


ドラマ CD
『パンツァーポリス ようこそ機甲都市伯林へ!』(1997年4月)
 ラジオドラマ番組『電撃大賞』(文化放送 毎週土曜日深夜2時00~30分)で、1997年2~4月に第12話まで放送。未放送の最終第13話を加え、日本コロムビアから2枚組CD が発売された。

主なキャスティング
ヴァルター=タールシュトラーセ …… 草尾 毅(31歳)
パウル=ヴァーグナー      …… 銀河 万丈(48歳)
エルゼ=ブロイアー       …… 永島 由子(26歳)
マイアー=シュリアー少尉    …… 石川 英郎(27歳)
オスカー=ミリルドルフ少将   …… 家弓 家正(64歳)
シュタインメッツ        …… 田の中 勇(64歳)
ドイツ空軍の尋問官       …… 中井 和哉(29歳)
ドイツ空軍の軍医        …… 麻生 智久(47歳)
オスカーの副官         …… 堀井 真吾(39歳)
エルゼの父ガストン       …… 阪 脩(66歳)
ヴァルターの父フーバー     …… 草尾 毅(2役)
ナレーション          …… 来宮 良子(65歳)
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やっと読めました  辻村深月『島はぼくらと』

2013年08月27日 22時58分28秒 | すきな小説
 ヒエダノアレー♪ どもどもこんばんは、そうだいでございます~。みなさま、今日も一日お疲れさまでございました!

 相変わらずの忙しさでございまして……夏休みもやっと終わろうかとしている頃合いで、お仕事も平常モードに戻りそうなんですが、まだまだなんのかんのとバタバタしております。あ~キッツい夏だった! いや、気候的には、まだ当分終わりそうにない暑さなんですけどね。

 忙しいは忙しいのですが、試験も終わっていちおう通勤時間に読書はできる余裕ができましたので、2ヶ月前に「わわっ!」と購入しておきながらも、ずっと読めないでいた新刊本をやっと読了することができました。
 これは読むのを楽しみにしてました!


『島はぼくらと』(辻村深月 2013年6月 講談社)

 瀬戸内海の小さな島・冴島(さえじま)。夏休み直前の7月。
 母と祖母の女3代で暮らす、伸びやかな少女、池上朱里(あかり)。美人で気が強く、どこか醒めた網元の一人娘、榧野衣花(かやの きぬか)。父のロハスに巻き込まれ、東京から連れてこられた青柳源樹(げんき)。熱心な演劇部員なのに、思うように練習に出られない矢野新(あらた)。
 島に高校がないため、高校2年生の4人はフェリーで本土に通う。「幻の脚本」の謎、未婚の母の涙、I ターン青年・本木真斗(まさと)の後悔、島を背負う大人たちの覚悟、そして、自らの淡い恋心。
 島の子は、いつか本土に渡る。17歳。ともにすごせる、最後の季節。旅立ちの日は、もうすぐ。別れる時は笑顔でいよう。
 故郷を巣立つ前に知った大切なこと……すべてが詰まった書き下ろし長編。第142回直木三十五賞受賞後、第一作。


 出ました、辻村深月大先生!
 今までの作品が文庫版になって刊行されたり、映画『ツナグ』の公開があったりしたし、先生も各誌で連載は続けているのでそれほどブランクがあった感覚はなかったのですが、この新作、『鍵のない夢を見る』いらい約1年後の刊行になるんですね! 満を持しての書き下ろし長編であります。
 そういえば、『鍵のない夢を見る』の連続 TVドラマももうそろそろ WOWWOWで放送開始になるんでしょ? これは観たいねぇ~。観たいんですが…… WOWWOWの契約どころか家に TVがないという問題外の状況ですので、涙をのんでソフト商品化を待ちたいと存じます。特に『石蕗南地区の放火』の映像化がとっても気になりますね~。いちばん好きだったから。木村多江さんと大倉孝二さんでしょ、これはおもしろくならないわけがいだろう!! 笑うしかないシチュエーションと、そのすぐ向こうで口を開けて待ち受けている恐怖、そして、そこさえもズンッと踏みつけて生き抜いていく主人公のつよさを観てみたいね~。

 さて、そんでもってこの『島はぼくらと』なんですが、短編集と長編作品という違いもさることながら、前作の『鍵のない夢を見る』とはロケーションも作品にただよう温度も、登場人物たちをとりまく時間の流れ方さえもがもまるで違った物語になっております。
 まず、これまでの辻村作品の舞台には、東京と目される大都市や小・中・高・大の学校の中といった、行き交う人間が非常に多いシチュエーションと同じくらいの頻度で、人口がかなり少ない地方都市も、初期作品の頃から選ばれていました。短編『おとうさん、したいがあるよ』(2007年)も長編『水底フェスタ』(2011年)もそうですし、先ほどの『石蕗南地区の放火』だって、現代日本の地方のある側面をものすご~く辻村さんらしい視点から切り込んだ名品だと思います。
 それらの過去の作品で描かれた地方都市は、明確な描写がなかったとしても、東京やそれに準じた大都市とけっこう地続きになっていて、主人公をはじめとした登場人物たちが、それを実際にやるかどうかは別としても、離れようと思えばいつでも自由に離れることができる距離感覚にある地方都市でした。あと、ロケーションとして「山々に囲まれた内陸の町」といったものが多かったのではないかと思います。

 ところが今回の『島はぼくらと』は、今までの地方とは全く状況の異なる「海に囲まれた離島」が舞台となっており、主人公たちは高校への通学という一見あたりまえの日常を通じて、「本土の人々」と「島の自分たち」という立場の違いを毎日のように感じる生活を送っているのです。これは自分の生まれた島に高校がないという事情のために、往復フェリーの出航時間の都合で放課後の部活動がほぼできないという事情であるわけなのですが、部活のコミュニケーションを他の生徒同様に楽しめないという支障の重大さは、学校ライフを送ったことのある人ならば誰しもが実感のわく深刻な問題ですし、であるにもかかわらず、それを問題として提起することもできず、ただひたすら「そういうもの」として受け入れるしかない島の主人公たちの淡々とした描写は、逆に今までの辻村作品をはるかに超えるリアリティをもって、「地方」の「本土(にある大都市)」へのまなざしを浮き彫りにしているように感じられました。
 それは、登場する若者みんなが本土へ行ってみたいと願っている、みたいな単純な構図ではなく、好きにしろ嫌いにしろ、常に意識せずにはおられない複雑な存在として、物心がついたそのときから「自分たちの島」と「本土」という二項対立がある、という前提なんですね。これは、そういう環境の下で育った経験のない私としては、非常に新鮮な感覚でした。ちょっとやそっとの田舎勝負では負けないくらいの地方都市で育ったつもりの私ですが、そんなに「近くて遠い存在」として別の文化圏を意識したことはなかったもんねぇ。ましてや、将来そことここのどっちで生きていき、そして死んでいくのか、なんていう人生の問題は……30歳をとうに過ぎた今ごろになって、やっとボンヤリ考えるようになったかな、なんていうていたらくでございます。

 ここで、この『島はぼくらと』で辻村先生が活き活きと創造した、物語上の架空の島「冴島(さえじま)」について、小説の中での描写からピックアップできる限りの要素をかき集めて、その特色を羅列してみたいと思います。見落とし御免!


冴島について
 面積10平方キロメートル。150年周期で活動する火山島で、島の中央に位置する火山「冴山」が最後に噴火したのは約60年前の1950年前後。行政上は冴島村。温泉地としても有名。毎年3月ごろは濃霧に覆われる日があり、その日は学校は臨時休校になる。
 「姫路」「淡路島」「大阪」「宝塚」に近いことや「本土の県庁所在地」という記述から、冴島は兵庫県の播磨灘(瀬戸内海東部)に存在する島であると推測される。
 本土からフェリー高速船で20分、片道交通費450円。本土のフェリー乗り場から島は直接には見えない。直通便の最終時刻は本土発16時10分。2階建てフェリーの定員は約80名。
 「I ターンの島」、「シングルマザーの島」と呼ばれる。
 高台の斜面に位置する菅多(すがた)地区(新の家がある)、高台の上の冴釣(さえづり)地区(朱里や蕗子の家がある)、海岸部の濱狭(はまさ)地区(ホテル青屋がある)などで構成されている。
 島には唯一のリゾートホテル「青屋」があり、経営者は東京からやって来た青柳源樹の父。
 オープン1年になる民宿「グリーンゲイブルズ」の他にも民宿や旅館はある。
 人口3千人弱で、高校はない。村立保育園がある(園長は新の母)。
 日用品と食材を扱う「加藤商店」、湾の近くに魚屋の「魚商」がある。
 魚の一夜干しやのりの佃煮、みかんジャム、みかんジュースを加工する食品加工品会社「さえじま」が2000年代から営業している(社長は朱里の母・明実)。「さえじま」の加工場は公民館の2階ホール。創業時は社員9名だったが、現在は約20名に拡大している。
 映画館も書店もないがパチンコ屋はある。冴島郷土館と公民館がある。
 冴島小学校と冴島中学校は島の中央部に隣り合わせに建っている。
 冴島小学校はかつて毎年の卒業生が平均20名ほどだったが、終戦直後の冴山噴火にともなう島民避難の影響で平均3名にまで激減した。現在は Iターン人口の増加のために17名までに回復し、近い将来に20名を超えることが予測される(5年前の朱里の代は4名)。
 冴山の中腹に神社があり、近年はパワースポットとして観光客に人気があるが、島民はあまり行かない。
 高台に、湾と本土を見わたせる公園がある。
 新聞は配送上の都合で昼前ごろに配達される。
 冴島には古くから「兄弟」という風習があり、血縁のない成人男性同士が成年時に杯を交わして、親戚同様の親密な関係になり相互の生活を扶助しあうネットワークが現在も活きている(兄弟契約は複数の相手と交わすことができるが、女性は兄弟になれない)。


 まぁ、こんな感じだそうなんですけれども。
 架空の町やコミュニティを舞台にする、という物語の立ち上げ方は辻村先生にとってはお手の物ですし、愛読者にとっても、ある作品の舞台と別の作品の舞台とが、空間として、あるいは時間としてどういったつながりを持っているのか、ということを想像するのも密かな愉しみになっているわけなのですが、主人公と環境との関係が今作同様に非常に濃厚なものとなっている近作『水底フェスタ』と比較しても、この『島はぼくらと』は、圧倒的なディティールの細かさをもって冴島という世界に生命を与えていることがわかります。

 ちなみに上にあげたように、登場人物たちの会話の中では近畿地方の実在の都市が言及されることが多いことから、私はこの冴島が岡山・広島よりも大阪・神戸の方に近い播磨灘に存在しているのではないかと類推したわけなのですが、実際の播磨灘には、冴島の面積10平方キロサイズという条件に合致する島は存在していないようです。村長のセリフにちらっと出てきたご近所の淡路島(瀬戸内海最大の島)は「約592平方キロ」ですって。でっけー!
 ただ、播磨灘にほぼ接していると言ってもいい、小豆島(香川県 面積約153平方キロ)の北に鹿久居島(かくいじま)という島があり(岡山県備前市)、これは面積約10平方キロということで広さ的にはピッタリなのですが、本土からの距離がたったの800メートル、シカやアオサギの保護区になっていて島民は15名前後ということで、これはちょっと冴島のモデルではないな~、という感じがします。それはそれで、辻村先生がこの鹿久居島を舞台にした作品を書いたらおもしろいような気もしますけど。
 さらにもうちょっと範囲を広げれば、香川県の広島(丸亀市 面積約12平方キロ 人口約450名)、豊島(てしま 土井町 面積約15平方キロ 人口約1300名)、直島(直島町 面積約8平方キロ)あたりが冴島に似た島にあげられ、特に直島は「アートの島」という特色を活かして人口は約3200名ということで、打ち出すカラーこそ違うものの、他の地方都市にはない武器をもって独立しているという点では冴島によく似ているスタイルがあると思います。いいですねぇ~、直島! アートうんぬんもいいんですけど、私はなんといっても島にあるっていう「崇徳天皇神社」にぜひとも参詣したいものですね! キャーアキヒトさまー!!
 「島の人口」という観点からみますと、現代の日本で、この冴島のように「面積10平方キロクラスで人口3千名ほど」という状態を維持している島は全国で見てもあまり多くはなく、宮城県気仙沼市の大島(面積約9平方キロ)で人口約4千名、広島県呉市の大崎下島(おおさき・しもじま 面積約13平方キロ)で人口約3300名、先ほどの直島、愛媛県上島町の弓削島(ゆげじま 面積約9平方キロ)で人口約3200名、長崎県小値賀町の小値賀島(おぢかじま 面積約12平方キロ)で人口約3200名、熊本県天草市の御所浦島(ごしょうらじま 面積約12平方キロ)で人口約2600名といったくらいになっていて、同じ広さはあってもだいたいはもっと人口が少ない(数十~2千名弱)、という島がほとんどのようです。さらに調べてみると、面積10平方キロクラスよりずっと大きくても諸条件によって人口がもっと少ない島もざらですし、面積がもっと狭いのに人口が3千名かそれ以上という島もありますが(三重県の答志島が面積約7平方キロで人口約3千名、兵庫県の家島が面積約6平方キロで人口約5500名、兵庫県の坊勢島が面積約2平方キロで人口約3千名)。いろいろ調べてみて、その結論が「人生いろいろ、島もいろいろ。」って……なんという徒労!!

 ただ、とにかくこの時代に離島の人口を維持し、さらに増加させるということの尋常でない困難さはなんとなくわかりますし、そこを「 Iターンの島」「シングルマザーの島」という方策で成功させているという冴島の大矢村長の、かつて大阪の私立大学で経済学の教授をしていたという経歴が裏打ちする豪腕ぶり、そして、村長としては在任6期目で20年以上もその職についているという事実がもたらす「功罪」にまでしっかりと主人公の視線を向けさせている作者の筆には、単なるフィクションとは処理しきれない確かな説得力がありました。

 そう、ここが今までの辻村作品とはかなり趣が異なる点かと感じたのですが、この作品では、明確な「終結」というものは、登場するキャラクターの誰にももたらされないのです。

 『島はぼくらと』は、4つの章段で構成されたゆるやかな連作形式の長編となっております。第1章は物語の主人公である朱里とその親友の源樹、衣花、新を取り巻く冴島とそこに住む人々の紹介を行った上で、冴島にあるという「幻の脚本」を探しに来た自称作家の霧崎ハイジの巻き起こす波紋を描きます。第2章は冴島に暮らす Iターン住民の多葉田(たばた)蕗子とその娘・未菜(2歳 冴島生まれ)母子の過去と、島に訪れる蕗子の両親や、謎の中年男・椎名のエピソード。第3章は冴島の食品加工品会社「さえじま」の立ち上げに尽力した地域活性デザイナー・谷川ヨシノと島の大矢村長との衝突からのヨシノの旅立ちと、Iターンのウェブデザイナー・本木真斗の素性が明らかになる小事件。そして第4章の朱里たちの東京への修学旅行にからむ大冒険と、それによって明らかとなる「幻の脚本」の真相から、4人の少年少女のこれからをつづるクライマックス、エピローグへと続いていきます。

 そういった半オムニバス形式である上に、ひとつの章段の中でもがっつり大きな事件が発生するわけでなく、同じ時期に起きた様々な小エピソードが並列して起き、一見何の関係も無いようなそれらが次第に絡まり合って……という感じで、この作品はある意味では、それまでの辻村ワールドではあまり見られなかったような「ゆるやかな空気」に満ちたものになっています。まず辻村小説といえば、読む者の「忘れてしまいたい記憶」をゴリッゴリと掘り起こすかのような鋭利な人物描写と、徹底的に追い詰められた登場人物がその超逆境をはね返して「生きていこう」とするエネルギーを呼び覚まし再生していく、地獄のような通過儀礼を連想してしまう方も多いかも知れません。まぁ、そこが病みつきになってしまうわけなんですが……
 ところがこの『島はぼくらと』に関しては、物語の中心に位置する4人の少年少女は、それぞれに抱える実にリアルな人生の背景こそあるものの、極端に言ってしまえばごく普通の離島に住む高校生であり、小説の中軸に据えられるような大事件など特に起きず、いっさいのエピソードは彼女ら彼らの周囲を通り過ぎて行き、しかるべき時間の流れに従って4人はふつうに高校を卒業し、冴島と自分、そして他の3人と自分との関係の変化を受け入れていくのです。

 ふつう! ふつうの話だこれ!! でもそこが、いい!!

 これ、それまでの辻村ワールドとは明らかに違う空気が流れていますよ。いや、厳密に言えば辻村先生はこの『島はぼくらと』にいたる前段階として、短編集『ロードムービー』(2008年)で「ふつうの人々を描く」というテーマにチャレンジしていたように思えます。そしてそれらの短編で手ごたえを得たうえで、満を持して冴島とその住民の世界を精緻に創造する作業に入ったのではないでしょうか。
 そう考えてみると、この『島はぼくらと』は、けっこう『ロードムービー』のきれいな裏返しであると納得できる構図になっています。要するに『ロードムービー』というのは登場人物が非日常な世界に出て旅をするお話なわけですが、『島はぼくらと』はその真逆で、登場人物がずっと住み続けている日常世界に「非日常な風」が吹き過ぎてゆくというお話なのです。人が動くか世界が動くか、地動説か天動説かという違いなだけ! いや、「だけ」で済む違いじゃねぇか。

 なんか、こういう「人と世界」の、どっちもそんなに大きくは変わらないけど着実に時は過ぎて影響は与えあっていくという微妙な距離感を想像するときに、私の脳内にいつも必ず浮かぶイメージに、子どもの頃に観た、藤子不二雄A の『まんが道』のドラマのオープニングか何かの、主人公たちが画面中央で道を歩いて、その横を他の登場人物たちや印象的な風景とか建物が行き過ぎていく光景を連想してしまいます。でもこれって、私みたいな大した事件にも巻き込まれずになんとなく生きてきた人間にとっては、いちばんしっくりくる「人生のイメージ」なのでありまして、なんか気になるな~と思った人が早々にはるか彼方に消えていってしまって、後でふと「あの人なにしてるかな……」と思いを馳せたり、そうかと思ってたら突然道の先からその人がひょっこり出てきたりするという人生の出逢いの面白さを、最も的確に表しているような気がするのです。いっさいは、私の傍を過ぎ去ってゆく……

 そうは言いましても、この『島はぼくらと』にだって、高校生でありながら脚本コンクールで最優秀賞を取れる程の作品を書いてしまう才覚を持つ新や、自己主張の激しい俗物そのものの霧崎ハイジ、気のよさそうなおっちゃんのようで実はえげつない権力を行使する大矢村長といった感じに強烈な印象を残すキャラクターは登場しますし、第4章の修学旅行中の怒涛の展開にいたっては、読んでいて「そんな奇跡、ある!?」と叫びかねないファンタジックな高揚感に満ち満ちています。まさか、終盤のいいところであの人が出てくるとはねぇ……でも、それが単なるファンサービスにとどまらずに、実にその人らしいエネルギッシュな活躍をしてくれるのは非常に痛快ですね。これって、まさにこの4人のような、この世界にまだまだ希望を抱いている幼い頃に、誰しもが「あぁ、ピンチの今、あこがれのあの人が助けに来てくれたら最高だな……」なんて夢想していた奇跡そのものですよね。でも、それは単なるご都合主義なのではなく、主に朱里の熱意と新の不動の意志がもたらした必然の対価であることは間違いないでしょう。
 いやそれにしても、自分の脚本をパクられても微塵も動じず、伝説の脚本家の手になる幻の作品にも怖気づかずにアップデートに挑む新くんって、精神力どうなっとんの!? 今作中最大のバケモンだな……でも、この力の原動力って、「僕はこの好きなことでは絶対に誰にも負けない。明日は、今日よりもっと良い作品を書ける。」という新の自信ですよね。それが口先だけでなく、ちゃんとすぎる程の内実を伴っていることは作中で証明されているわけなのですが、このたくましさはそのまま、辻村先生がこの作品を読む少年少女に見せたい、そして持っていてもらいたい「未来へ続くちから」そのものなのではないでしょうか。

 作品中の登場人物をもって作者を語ることは絶対に慎重であるべきことですが、それを承知の上で言わせていただきますと、『島はぼくらと』の中で、その精神のあり方が最も辻村先生に近いのは新くんなんじゃなかろうか。その後の辻村先生のさらなる活躍を観るだに、その無尽蔵なエネルギーの原点、はじまりの特異点には、おそらく新くんのような、ごくごくフツーで、それでいて胸の内に異様な熱さのマグマを秘めた子どもがいるのだろうなぁ。
 いやいや、辻村先生に近いのは新くんじゃなくて、第4章に出てくるスペシャルゲストだろうと思われる方もいらっしゃるでしょうが、そっちの方はあくまでも4人を助けるスーパーヒーローといいますかデウスエクスマキナなのでありまして、強引に解釈するのならば、辻村先生の過去のキャラクター化が新くんで、理想の具現化がスペシャルゲストさんなのではないでしょうか。いかな先生といえども、いちいち彼女のように少年少女のねがいに応えていたら休む暇もなくなってしまいますからね……

 とまぁこんな感じで、この『島はぼくらと』は、辻村先生の作品群の中では、その日常感というか爽快感が、他にない唯一無二の存在感を放っているさわやかな作品です。なんか、デビューからずっと張り詰めた空気の中で全力投球を続けてきた辻村先生が『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』(2009年)あたりでひとつの頂点に達して、少しひと息ついてから、この『島はぼくらと』でスポーン!!と自分の中の「天井」を吹き飛ばして、さらなる高みへと上昇を始めたような気がします。小説家になって10年、ついにここから新たなフェイズへと入っていく扉となる重要な作品、それこそがこの『島はぼくらと』なんじゃないでしょうかね。

 だいたい、これくらいで私の言いたいことはあらかた言ったのですが、このような少年少女に広く読んでいただきたい作品の中にも、やはり辻村ワールド名物の毒気たっぷり社会見学ツアーは用意されています。私にとって特に印象に残ったのは、蕗子さんが冴島にやって来たいきさつと、第4章のスペシャルゲストキャラがつぶやいた霧崎ハイジへの脚本評でした。

 オリンピックの銀メダリストとなった蕗子さんの周辺に吹きすさぶ無数の人間の賞賛と欲望の嵐の恐ろしさは、かなりのリアリティをもって克明に描かれています。「有名になると親戚が増える」という現象が、無邪気に、しかし容赦なく蕗子さんの生きるエネルギーを奪い取っていく。それなのに、奪い取っている側はただ何気なく軽口をつぶやいているだけ、しかも飽きたらすぐ忘れるという、この被害と加害にかかる負担の理不尽すぎるアンバランスさは、なにもオリンピック選手だけに限らない、誰にでも襲いかかりうるネット社会の恐怖を簡潔に語っていますよね。この問題は、ここだけで独立した一つの作品になってもおかしくない重さを持っていますよ……冴島の人々のおかげでご両親とも再会できたし、この蕗子さんの場合は救われて現在の日々を手に入れているわけなのですが、そこにいたるまでには、本土での過酷すぎる闘いがあったのでしょう。そこから生まれた未菜ちゃんという命もまた、奇跡。

 もうひとつの霧崎ハイジ評ですが、「ごちゃごちゃ探偵役がうんちく垂れる場面以外は、かなりいい」という言葉は、ある意味で、狭い解釈でのミステリー小説ジャンルからの脱却を、辻村先生がフィクションの中ではっきり明言した瞬間であるような気がします。当然、ごちゃごちゃ言う探偵役を付け足した霧崎の卑劣さを見越した発言であるわけなのですが、それ以上に辻村ワールドが目指すものが、「小説の中」というせせこましい井戸の中をこぢんまりと整理する機能しかない名探偵なぞ必要とせず、もっと広い意味でのミステリーである「人間の不思議さ」を見つめる小説であることを宣言していると、私は読んじゃうんだなぁ。ミステリー小説との決別といってしまうと、かなり大げさな言い方になってカチンとくる向きもあるかも知れないのですが、そもそも、人間のヘンなところが生むトラブルを「謎」というのならば、この世の小説のほとんどがミステリーですもんね。人間が人間たる理由を問い続ける辻村先生のスタンスに、デビュー時からブレは1ミクロンも無いと思いますよ。

 『島はぼくらと』、非常にいい小説だと感じました。これから、辻村先生がどういった新作を世に出していくのか、可能性は計り知れません。でも確実に言えるのは、これから生まれるどの作品のどの登場人物にも、必ずこの『島はぼくらと』に出てくる冴島のような故郷と、平々凡々な、それでいてとっても暖かい過去の思い出があるという、人間味あふるる厚みがある、ということです。悪役にだって、脇役チョイ役にだって。

 様々な個性と才能、ジャンルが氾濫するこの世の中において、オンリーワンの世界をつむぎ続ける辻村深月先生の、次なるディケイドの展開を楽しみにしましょう! 行ってらっしゃ~い!!
コメント (3)
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