あぢぢぢぢ~。みなさまどうもこんばんは、そうだいでございます。
いよいよ始まっちゃいましたね、7月が! 東北はまだ梅雨明けしてないんですが、日本の半分くらいはもう明けて夏に入ってるということで、猛暑日のニュースが毎日続いてますねぇ。こっから10月くらいまでが長いんだよなぁ!
つい昨日のことなんですが、私の住む山形市の周辺でもものすんごいゲリラ豪雨が発生したそうで。私の自宅ではなんにも影響がなかったのですが、つい隣の市では道が冠水とか停電とか、ものすごかったそうです。でもいかんせん予測しづらいんでね……臨機応変に対処するしかありませんか。
ちょうど、全国ニュースにもなったそのゲリラ豪雨が起きていた頃、私は映画館にいて、遅ればせながらデミ=ムーア主演の話題の映画『サブスタンス』を観ていました。
いや~、なかなかエッジのきいた映画ですばらしかったです! 途中から、「これ漫☆画太郎先生の『ババアゾーン』の映画化だっけ?」と錯覚してしまうような凄惨な地獄絵図が繰り広げられていたのですが、もういくとこまでいって笑うしかないことになっちゃってましたね。デミ=ムーアさんの女優根性は5大陸に鳴り響くでぇ!
内容はほんとに、『笑ゥせぇるすまん』とか『アウターゾーン』の一話でもおかしくないような因果応報の幻想譚なのですが、主人公の破滅の仕方のしつっこさがさすがハリウッドというか、徹底的な感じだったので、その突き抜け感があっぱれでしたね。いろいろツッコミたいところもあるのですが、メインの女優さん2人の全力演技とスピード感で押し切った感じ。
よくよく見るとキューブリック監督の『シャイニング』(1980年)オマージュも露骨だし、画面が真っ赤に染まるクライマックスもピーター=ジャクソン監督の『ブレインデッド』(1992年)で観たことのある風景だし、比較するのはかわいそうですがデイヴィッド=リンチほどの映像美学も感じはしなかったものの、途中から迷走しまくりだったアリ=アスター監督の『ボーはおそれている』よりもずっとわかりやすくて好感の持てる一本槍スタイルだったので、スッキリ爽快な後味でした。でも、私が観た回は「終映時刻18:30」だったんですよね……夕飯の食欲わかねぇ~!!
そういえば、最近は私、観る映画観る映画、客層が同世代かそれ以上の方々ばっかりで「わしも歳をとったのう……」とか慨嘆していたのですが、この『サブスタンス』を私が観た時の客層はみごとに私以外全員10~20代のわこうどばっかりで(そして8割女子)、しかも「わたし芸術系の大学生ですが、なにか……?」みたいなとんがった1人客が多かったので、日本の未来も明るいなと思いました。みんな、ルサンチマンもってこぉぜぇ!!
さて、そんな前置きはさておきまして、今回はいよいよ、えっちらおっちら問はず語りで続けてきた「荒俣宏の『帝都物語』関連小説を読む」企画の中の風水ホラー小説「シム・フースイ」シリーズを読んでいく記事の最終回となります! いや~ついにここまできちゃいましたか!
そういえば、このシリーズのレギュラーヒロインの有吉ミヅチさんも、ほんとにいたら絶対に『サブスタンス』観てるような気がする……ミヅチさんは1971年生まれだそうですから、もし実際に生きていたら54歳ですか。どこで何してるんだろうねぇ。
シム・フースイ Version 5.0『絶の島事件』(1999年10月)
『絶の島事件』(たえのしまじけん)は、荒俣宏の風水ホラー小説。「シム・フースイ」シリーズの第5作。1999年に『鳥羽ミステリー紀行 どおまん・せいまん奇談』という題名で出版社ゼスト(ゲーム会社アートディンクの子会社)から単行本が出版され、2001年9月に角川書店角川ホラー文庫で文庫化された。
本作は、2025年5月時点では「シム・フースイ」シリーズの最終作となっている。
本作に『帝都物語』シリーズの登場人物は再登場しないが、主人公・黒田龍人の祖父・黒田茂丸が、幼少期の龍人に「気をつけろ。ドーマンセーマンに。この印をもつ者に、気をつけろ。」と語ったエピソードや、魔人・加藤保憲が使っていたと思われる五芒星の縫い取られたハンカチを黒田家が所有しているという言及がある。
あらすじ
絶の島(たえのしま)。400年前に地震のため鳥羽の海に消えた、幻の島。
1999年6月。この島を探し出してほしいとの依頼を受けた風水師・黒田龍人は、現地で九鬼水軍が残したといわれる秘宝の謎に巻き込まれる。果たして龍人と助手ミヅチは「どおまん・せいまん」の謎を解き、秘宝を見つけ出すことができるのか。
おもな登場人物
中村 元
三重県鳥羽市の鳥羽水族館企画室長で、鳥羽水族館創設者の中村幸昭(はるあき)の娘婿。古代からの風水伝承をテーマにした鳥羽市の町おこしキャンペーンの監修を黒田龍人に依頼する。真夏日にもスーツとネクタイを欠かさない、よく日焼けした角ばった顔の小柄な紳士(ミヅチよりも背が低い)。個人的に5千万円の借金に苦しんでおり、そのために鳥羽湾内にある小島「ミキモト真珠島(旧名・相島)」にある「真珠博物館」で発生した宝石盗難事件の被疑者の一人として鳥羽署にマークされている。もとは鳥羽水族館でアシカやイルカ、スナメリのトレーナーをしていた。
志多 勝彦(しだ かつひこ)
鳥羽駅前のショッピングビル「鳥羽一番街」社長。丸顔で嫌味の無い若手経営者。警察沙汰を起こしながらも強引に町おこしキャンペーンを進める中村を不安視している。
松月 清郎
真珠博物館の学芸員。銀縁のメガネをかけている温厚そうな顔だちの男。江戸川乱歩の研究も行っており、乱歩が1936年に鳥羽の海女を撮影したフィルム映像に映り込んだ「2人の少女」の謎を解明しようとする。
野町 貴子
真珠博物館の学芸員。中村と交際しているという噂が立っており、そのために中村の宝石盗難の共犯ではないかと鳥羽署に疑われている。
岩田 貞雄
伊勢神宮の図書館「神宮文庫」に勤務する神道研究家で、鳥羽市の歴史に詳しい生き字引。江戸川乱歩と親交のあった画家で民俗学研究家の岩田準一(1900~45年)の次男。準一は竹久夢二(1884~1934年)の弟子であり、鳥羽の真珠島をモデルとした乱歩の中編探偵小説『パノラマ島奇談』(1926~27年連載)の挿絵を担当しており、乱歩がプライベートで鳥羽の海女を撮影したフィルム映像にも一緒に映っている。
黒田 龍人(くろだ たつと)
本シリーズの主人公。1958年7月生まれの痩せた、切れ長な一重まぶたの目の男性。「都市村落リゾート計画コンサルタント」として東京都中央区九段の九段富国ビル5階1号で事務所「龍神プロジェクト」を開いているが、インテリアデザイナーとして風水の鑑定も行っている。風水環境をシミュレーションできるコンピュータプログラム「シム・フースイ」の開発者の一人。黒が好きで、黒い長髪に黒いサマーセーター、黒のサンドシルクズボンに黒のレイバンサングラスで身を固めている。喫煙者。事務所を離れる時もノートパソコンを持ち歩いてシム・フースイで調査する。その他に風水調査のために小型の望遠鏡も携帯している。異変が起きた際には、魔物を調伏するという仏法と北の方角の守護神・毘沙門天の真言を唱える。
夏場は常にエアコンで室温を20℃に設定して仕事をする。1995年頃から、地上げや土地競売にまつわるトラブル、大手ゼネコン株で失敗しサラ金破産で危機に陥った人々を救う仕事も行っている。スクーバダイビングを40、50回行った経験がある。
有吉 ミヅチ(ありよし みづち)
黒田の4年来のパートナーで「霊視」の能力を有する女性。1971年2月生まれ。北海道余市市(架空の自治体だが北海道余市町は実在する)の出身だが、自分の素性は龍人にも話さない。その霊能力の維持のために自らに苦痛を課す。病的に痩せた体形で、龍人と同じように黒を好み、黒いセーターに黒のミニスカートもしくは黒タイツをはいている。髪型は刈り上げに近い短髪。常に青白い顔色で薄紫色の口紅を塗っている。胸に七支刀をデザインした銀のペンダントをつけている。いわゆる霊道や都会の猫道、野生の獣道を感知する能力に長け、それらの道をなんなく踏破できる非常に高い運動能力とバランス能力の持ち主。仏法と北の方角を守護する神・毘沙門天に仕える巫女で、自身を鬼門封じの武神・弁財天の生まれ変わりだと信じている。龍人の仕事の手伝いはしているが、風水の効能はあまり信じていない。
現在は2代目にあたる黒猫のお通(おつう)を飼っている。鬼神を捕縛する武器として、人間の女性の黒髪で編み上げたロープを携行している。
江戸川乱歩が好き。エアコンの冷気が嫌い。右手首に、龍人から受けたストレスのために自傷したリストカット跡が2本ある。
橋本 ミチ
鳥羽湾最大の島・答志島の和具港に住む海女。夫の太一とアワビ採り漁をしていた際に妖怪ともかづきに出遭う。
目崎博士
毎年夏に伊勢湾の神島に滞在して、伊勢湾の海底地形や絶の島の推定地を調査している M大学の地形学教授。スクーバダイビングの経験が豊富で、鳥羽の地理と歴史に詳しい。大柄でたくましい体格で、手入れをしていない白髪まじりの頭髪の中年男。青みがかった目をしていて、笑うとえくぼができる。探検帽に探検靴、ちゃんちゃんこのような青のベストにカーキ色の半ズボンを着て、常に虹色に輝く偏光サングラスをかけている。心理療法の一種である「変性意識療法」への造詣が深い。最新のコンピュータ技術の教育にも熱心で、神島の神島小学校(全校生徒24名)に通信回線をつなぎ、テレコングレス(テレビ電話を使ったヴァーチャル会議)も可能なコンピュータ端末と大型液晶スクリーンを導入して生徒への指導にあたっており、NHK のTV番組にも出演した経験がある。
おもな用語解説
ともかづき
三重県鳥羽市や志摩市で伝承される海の妖怪。名前は同地方の古い方言で「一緒に潜水する者」の意味。
ともかづきは、海女などの海に潜る者そっくりに化けて一緒について来るという。ともかづきに遭遇するのは曇天の日といわれる。ともかづきは海女を暗い場所へ誘ったりアワビを差し出したりする。この誘いに乗ると命が奪われると恐れられている。また、ともかづきは蚊帳のような被膜をかぶせて海女を苦しめるともいい、ある海女は持っていたノミで無我夢中にこの膜を破って助かったという伝承もある。ともかづきが出たという話を聞くと、近隣一帯の村の海女たちは2,3日海に潜らなくなるほど、ともかづきは大変に恐れられていたという。
海女たちはこの怪異から逃れるために、五芒星と格子の模様を描いた「ドーマンセーマン」と呼ばれる魔除けを描いた衣服や手ぬぐいを身につける。ドーマンセーマンは、陰陽道で知られる安倍晴明や蘆屋道満に由来するともいわれるが、トモカヅキとの関連性はよくわかっていない。
ともかづきは溺れ死んだ海女の亡霊とされているが、科学的には過酷な長時間の海中作業によって陥る譫妄症状ではないかと言われ、イルカの一種で体色の白いスナメリの見間違いではないかという説もある。ともかづきと同様の怪異は静岡県南伊豆町や福井県坂井市の海女のあいだでも伝承されているが、共通して海女が大勢で作業を行なっている際には一切出現せず、単独作業を行なっている時にのみ現れるという。
本作では頭から足先まで真っ白な姿で常に笑い顔を浮かべながら出現する。
しろんご祭り
三重県鳥羽市の伊勢湾にある菅島で受け継がれている、海女の伝統行事。毎年7月11日に開催され、海女らが雌雄つがいのアワビ「まねきあわび」を誰が一番早く獲れるかを競い、勝者は1年間菅島の海女頭になれる。獲ったアワビは、神域として一年を通じて禁漁区に指定されている白浜(通称しろんご浜)の丘の上に鎮座する白髭神社(しらひげじんじゃ 通称しろんごさん 菅島神社の境外社)に奉納され、海上の無事安全と豊漁が祈願される。ちなみに、まねきあわびは生物学的な雌雄つがいではなく、メガイアワビを雌貝、クロアワビを雄貝とする。メガイアワビの数は他のアワビに比べて極端に少ないため採取が難しい。
白髭神社の祭神・白髭明神は日本神話の神・猿田彦であるとされ、猿田彦には伊勢国阿邪訶(あざか 現・三重県松阪市)の海で漁をしていた時に比良夫貝(ひらふがい)に手を挟まれ溺れたという伝承があることから、海女を守護する神とされている。本作では、白髭神社の「白(しら)」が古代朝鮮半島の新羅王国(現地語でシラ)と通じることから、猿田彦も中国大陸南部から渡来して海女文化を伊勢国に広めた先住民「安曇族」が信仰していた外来神だった可能性を示唆している。
日和見師(ひよりみし)
江戸時代に伊勢湾に面する鳥羽の日和山に立ち、海の状態を観察して、そこを航行する帆船「千石船」に明日の天候と海況を予報していた専門職集団。日和見師のルーツは江戸時代以前に天候を予測していた古代の陰陽師や聖(日知り)にさかのぼり、航海術や地相占術を受け継ぐ風水師の役割も果たしていた。
九鬼 嘉隆(くき よしたか 1542~1600年)
戦国時代に九鬼水軍の棟梁となり、豊臣政権の有力大名として朝鮮半島にまで遠征した武将。関ヶ原合戦で西軍についた責めを負って自害した際に、九鬼家の居城・鳥羽城のあった鳥羽湾の中でも最大の島である答志島の山上に首が埋められたとされ、嘉隆は現在も鳥羽の守護神として崇敬されている。答志島には嘉隆の首塚の他にも「胴塚」や「血洗い池」の史跡が残っている。
九鬼家
南北朝時代の貞治年間(1362~66年)に、紀伊国熊野から鳥羽に北上してきたといわれる海賊党。紀伊国にいた頃は熊野神宮や修験道に関わりがあり、捕鯨技術を持った海の民であった可能性が高い。九鬼家第十一代当主・嘉隆の時に伊勢国司・北畠具教の攻撃を受けて鳥羽から三河国に亡命したが、織田家の水軍棟梁として躍進し、志摩一国の大名として返り咲いた。嘉隆は関ヶ原合戦で西軍についたために戦後に答志島で自害したが、嘉隆の次男・守隆が徳川家に従ったことで九鬼家は志摩鳥羽藩の藩主として存続した。九鬼家が海賊だった時代に集めた財宝が鳥羽の島々のどこかに隠されているという伝説が残っている。
絶の島(たえのしま)
別名「鯛ノ島」。戦国時代の天文六(1537)年の三河大地震と翌年の熊野大地震によって水深10~15m の海底に沈んだという言い伝えが残る、直径2km ほどの島。伊勢湾の島々の中でも最も本土から遠い神島(かみしま 三島由紀夫の小説『潮騒』の舞台として有名)の、南の沖10km の地点にあったといわれ、かつては神島と砂州でつながり、鳥羽湾から見て神島の玄関口のような役割を果たしていたとみられる。絶の島の伝承は神島に多く残っており、神島は鳥羽湾や伊勢神宮から見て鬼門にあたる北東に位置するため、絶の島にも伊勢・志摩国全体の鬼門封じの役割があったと思われる。
あわ(輪)
伊勢湾の神島にある八代神社で、毎年元旦の未明に行われる伝統行事「げーたー祭り」で使用される、浜グミを丸めて白布で巻いた直径2m ほどの輪のことで、東から昇る太陽を象徴しているとされる。神島は、古代日本の神聖な場所である伊勢の旧斎宮、三井寺、大和の三輪山、仁徳天皇陵、天武・持統両天皇陵、淡路島をつなぐ龍脈「太陽の道」の東端にあたり、地形学でいう「中央構造線」と重なっている。
蘇民将来(そみんしょうらい)
8世紀初期に編纂された『備後国風土記』に登場する人物であり、日本各地にその説話と民間信仰が広まっている。主にスサノオ(牛頭天王)を祀る神社で「蘇民将来」の名の記された護符と八角形の柱が伝わっており、災厄や疫病を祓い福を招く神として信仰されている。陰陽道では「天徳神」と同一視されている。蘇民将来と牛頭天王の信仰は、陰陽師の賀茂家によって播磨国から大和国、山城国に伝播し、紀伊国から熊野街道を通って伊勢国に伝わったといわれ、民衆は蘇民将来の子孫であることを示すために茅の輪を身に着けていたという。この信仰は現在も、鳥羽の海女が魔除けに使う九字切りやドーマンセーマン、神島のげーたー祭りのあわなどに残っているとされている。
亀卜(きぼく / かめうら)
古代中国大陸の陰陽学と道教を起源とする占術。天武天皇(?~686年)が在位五(676)年に陰陽寮を開設して日本独自の陰陽道を創始した以前に、卑弥呼(170?~248年)の時代から日本に渡来して、古代天皇家を支える「亀卜師(きぼくし)」として存在していた。かつて亀卜に使われるウミガメの甲羅は対馬国沖の神聖な海域で獲られていたが、垂仁天皇の時代(3世紀後半~4世紀前半)に伊勢神宮が創建されてからは、伊勢国の鳥羽沖で獲られたウミガメを使用するようになっていた。その歴史の古さから、古代朝廷では陰陽寮の占術よりも亀卜による神託を重んじていたという。
九字切り(くじぎり)
修験道に伝わる、遠くにいる敵を呪力で倒すための秘法。「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」の九字を四縦、五横に切る。
法師陰陽師(ほうしおんみょうじ)
播磨国の六甲山を発祥とする、僧形の修験者集団。古代朝廷は日本の陰陽道を独占するために陰陽寮の官人のみに陰陽師を限定し、もともと中国大陸で陰陽学を伝えていた僧侶が陰陽師になることを禁止したが、朝廷の傘下に入ることを嫌った呪術師たちが法師陰陽師となり、民間に陰陽道を伝えていくようになった。陰陽寮の陰陽師である安倍晴明(921~1005年)のライバルであったという芦屋道満(958?~1009年以降)は、この法師陰陽師の頭目であったという。
法道仙人
6~7世紀ごろにインドから中国大陸、朝鮮半島を経由して日本に渡来したという伝説の仙人。鉄の宝鉢を持ち、鉢を飛ばしてお布施を集める「飛鉢の法」を会得していたことから「空鉢(くはつ)」もしくは「空鉢仙人(からはちせんにん)」とも呼ばれる。播磨国の六甲山を中心に、六甲比命大善神社や吉祥院多聞寺など数多くの寺社の開山・開基として名を遺し、関東地方でも鉢山町や神泉町などの地名が法道に由来するといわれる。日本に渡る際に牛頭天王と共に渡ったとされる。芦屋道満はこの法道仙人の弟子であるという伝承が残っている。
土圭(とけい)
古代中国大陸の風水師が宮殿を建てる位置を決定するために発明した、太陽の方位を測る器材。L字型の指金のような形をしており、8尺(約24cm)の長い目盛付きの尺を垂直に立てて1尺5寸(約4.5cm)の短い尺を大地に寝かせ、夏至の日に南中する太陽がつくる長い尺の影が短い尺と重なる地点を、世界を支配できる王宮の建つべき「地中」としていた。地中に選ばれる位置は必ず「北緯34度32分」になるといわれ、実際に、中国大陸の歴代古代王朝の首都となった西安、洛陽、北京はことごとくこの緯度の付近にあるという。また、この緯度は古代日本の龍脈「太陽の道」とも一致する。
ドーマンセーマン
五芒星の形をした魔除けの印。ほぼ世界共通に存在し、もともとは人をとり殺す魔力を持つ「邪眼」に睨みつけられた時、その視線をそらすために使われた。日本では、史上最大の陰陽師で土御門家の開祖である安倍晴明にちなみ「晴明判」と呼ばれる。ドーマンセーマンとは紀伊国とその周辺地域で使われる言葉で、「ドーマン」は、これも有名な法師陰陽師である芦屋道満、「セーマン」は晴明のことといわれる。六芒星や籠目もドーマンセーマンの類のものである。
六芒星(ペンタグラマ)
同じ籠目型の呪符であっても、ドーマンセーマンのような五芒星とは別種のものである。2つの三角形を上向きと下向きとで組み合わせた六芒星は、日本では籠目の他に古代ユダヤ教の「ダビデの星」の意味も含む。強力な魔除けとなる呪符で、数秘学的に見ると6は完全数すなわち万能の霊力を持っている。
ミルトン・ハイランド=エリクソン(1901~80年)
アメリカの精神科医、心理学者で、催眠療法家として知られる。アメリカ臨床催眠学会の創始者で初代会長を務めた。催眠の臨床性・実践性向上のため精力的にワークショップを開き世界各国を行脚した。精神療法に斬新な手法を用いたことで知られ、「ユーティライゼーション(利用できる物はなんでも利用する)」をモットーとした臨機応変・変化自在な技法を用いて、その名人芸は「魔術師」とも呼ばれた。被験者ごとに異なるアプローチを行うべきだという信念から、振り子やコインといった特別な道具は一切使わず、技法の体系化は好まなかった。魅惑(不思議な体験)、嚇し(物理的なショック)、繰り返しによる疲労といった手法により、被験者の意識と身体を麻痺させて無意識の扉を開くカタレプシー(硬直)を利用した催眠療法を創始した。
……相変わらず基本情報がめっちゃくちゃ膨大になってしまって申し訳ないのですが、最終作なんだもの、このくらいまでふくらみもしますよ!
ということでありまして、2025年6月現在、荒俣先生の「シム・フースイ」シリーズは続刊が途絶えておりますので、この第5作が実質最終作ということになっております。
そして、当然ながら荒俣先生の『帝都物語』関連の小説はこれ以降も陸続と執筆されてはいくのですが、どうやら「作中の時間軸」という見方でいきますと、本作の「1999年」よりも後の時代設定になっている作品は無いようなんですね。ぜんぶが『帝都物語』以前の前日譚になっているようなんです。そして『帝都物語』の『未来宮篇』以降も『帝都物語外伝 機関童子』も、時間軸は「1998年」でしたから。
あっ、でも、平成版と令和版の『妖怪大戦争』2作と京極夏彦先生のやつが、いちおう魔人・加藤が出てくるから続編になんのかな。でも、あのへんは荒俣先生の小説ありきの話じゃないからな(ノベライズはあるけど)……果たして、あの令和版『妖怪大戦争』の続きはあるんだろうか? う~ん。
え~、じゃあこの『絶の島事件』が、あの長大なる『帝都物語』サーガの「実質最終章」になるってわけ!? いいんですか、そんな超重要な立ち位置で……
そうなんです、この作品、「シム・フースイ」シリーズ&『帝都物語』サーガの最終作というにはあまりにもあっけらかんとした、「黒田龍人、鳥羽にてちょっとした小事件に巻き込まれてタイヘンの巻」みたいなスケールのお話になっているんですよ! え? ミヅチさんはどこだって? 最後にちょろっと鳥羽にやって来るだけで、出番ほとんどない。
な、なんちゅうこっちゃ……これ、まさに「番外編」といった感じの、のほほんミステリ紀行じゃないか! タイトルに「殺人」がついてない時点でヤな予感がしてたんだよ……たいしたことない事件だなって。
ただ、こんな私の物言いから勘違いしないでいただきたいのは、この『絶の島事件』、決して面白くないわけじゃないんです。少なくとも、前作『闇吹く夏』よりは内容にけれん味もあるしオカルト要素もふんだんに配置されているので楽しい小説なんですよ。事件のスケールはシリーズ最小ですけど……
本作のキーワードは、ざっと挙げるだけでも「九鬼水軍の秘法」と「古代風水都市・鳥羽」、「海中に沈んだ幻の島」と「江戸川乱歩の秘蔵フィルムの謎」ということで、時代を超えて鳥羽にまつわる非常にうまみのあるミステリアスな食材がそろっている感じなのですが、正直、それらの伏線が想像しうる限り最も「しょぼしょぼっ……」とした感じで回収されて事件が解決しちゃった、という印象はいなめません。
いなめはしないのですが、まぁ伏線をほっぽり投げたまんまよりはマシですよね! ともかく、これだけのおもしろ要素が集まってるってだけで、なんか楽しくなっちゃうんですよね。心なしか、荒俣先生の筆のノリも軽やかで愉快です。
そして、なんかほんとに『なあばす・ぶれいくだうん』の気の利いた1話完結エピソードみたいな感じなんですが、鳥羽に来て事件を捜査している内にどんどん龍人がこんがらがってきて、佳境にふらっとやって来て話を聞いたミヅチがスパスパ~ッと解決しちゃうという流れが実に痛快なんですよね! 龍人が汗まみれで溜息をついてる姿を見て、ミヅチが「いい気味……フフ」と笑ってるカップリングが、2人の最終形として実にしっくりくるんです。
う~ん、そう考えると、「シム・フースイ」シリーズのこの2人は、『帝都物語』本編みたいな仰々しいクライマックスじゃなくて、こんな感じでつかず離れずの『トムとジェリー』みたいな関係のまま未完にするのが最善手なのかも。これでおしまいのほうが、シリーズを通してさんっざんひどい目に遭わされ続けてきたミヅチにとっては幸せなのか……ほんと、本作のミヅチは何の苦労もせずに「高みの見物」な天才探偵ポジションだもんな。龍人は最終作でみごとワトスン役に降格! インガオホー!!
ミヅチが探偵役と書きましたが、本作はほんとうに「シム・フースイ」シリーズの中でも特に異色な作品で、海の中の幻の島や九鬼の秘宝、フィルムに映った謎の少女たちや妖怪ともかづきと、相変わらず怪しげなアイテムはわんさと出てくるのですが、主軸となるお話は完全なるミステリなのです。ホラー小説では断じてないんですね。
これはおそらく、作中にも鳥羽に縁のある偉人として登場してくる江戸川乱歩への、荒俣先生なりの敬意のあらわれかと思えるのですが、繰り広げられる一連の謎は、いちおう論理的に成立可能なトリックを悪用した純然たる計画犯罪に起因することが立証されるのです。ドーマンセーマンとかペンタグラマとか言ってますが、式神や魔法なんか一切使われないのです。
ただ、かといってミステリとしてこの作品を楽しめるかと言われると……ま、寛大な心でお読みくださいって感じでしょうか。いや、たぶんこれは実際にできるトリックなんじゃないかと思うんですが……ほら、ポオの昔からトリックに動物はつきものですから……
ひとつ苦言を呈させていただけるのならば、登場人物の一人が「昔、水族館で海獣ショーのトレーナーをやってた」という重要な情報が物語のクライマックスになってやっと提示されるのでそこはアンフェアかなという感じはしましたが、私は本作のオチに納得はできました。
あと、メイントリックをサポートする第2のトリックとして、上の情報にもあるような催眠療法が重要な意味を持ってくるわけなのですが、ここは明らかに乱歩作品の中でも幻想系の傑作としてつとに有名な「ある短編小説」を明確に意識した内容になっているのが面白かったです。そうか、あれは科学的に説明がつかないこともない話だったのか……ヒントは、登場人物のひとりの名前!
まぁこんな感じで、本作は「ホラーの皮をかぶったミステリ」であり、「怪奇現象の皮をかぶった犯罪」ということになるので、ここまでシリーズの中でさんざん魔術的なことをしておきながら、最後の最後で『怪奇大作戦』みたいな別ジャンルをぶち込んでくるという、異例すぎる内容となっていたのでした。そもそも原題からして『鳥羽ミステリー紀行』だったんですから、案外、荒俣先生もほんとに肩の力をぬいた番外編のつもりで書いてたのかも。まさかそれが最終作になろうとは……なんか、『ウルトラマン80』とか『魁!!男塾』の最終回みたいな脱力感なんですよね。逆にそこがいいと言えばいいのですが。
最後にもう一つ、これはどうしても、本作を語る以上は言っておかねばならないことかと思うのですが、本作では、現在明らかにその史実性に疑問符のつく偽書として有名になっている、ある文書の内容が前提となって論が進んでいる部分があります。「九鬼」といったら、やっぱこれが出てくるでしょうねぇ。
当然ながら、荒俣先生も文章の中で「偽書の可能性が高い」とただし書きをつけてはいるのですが、「内容すべてを否定することもできない」として、その文書の中でまことしやかに語られている事項を、あたかも九鬼家の歴史的事実のように受け入れ、実質全肯定で取り入れているように見えるのです。
いや、ここは例えフィクションの中の話なのだとしても、やってはいけないことなのでは。私はここだけは容認してはいけないと思うんだよなぁ。「面白いから」「ロマンがあるから」という理由でオカルティックなウソを面白がった結果、1995年の日本で何が起きたのかを考えれば、そこは慎重になるべきなのではないかと思うんですよね。
ここはね……誰かが明確な目的をもってついた嘘と、幽霊やネッシーを信じることを一緒くたにしては絶対にいけないと思うんです。その線引きは、難しいかもしれないけど忘れないでいかないと大変なことになるぞと。
そういう思いもありましたので、私はこの『絶の島事件』を非常に興味深く読ませていただきました。ともかく、一筋縄ではいかない怪作なんです。
まぁ、もろもろ固いことを抜きにしましても、何度も言うように本作はミヅチの快刀乱麻を断つ探偵っぷりも爽快ですし、なんといっても第1作ぶりに情けない龍人の「早く助けろ!!」ネタが炸裂するので、やっぱりこの2人はそうとうな名コンビなんだなと実感させてくれる愉快痛快な小説となっております。こいつ、いっつも溺れてんな。スクーバの経験が30~40回あるとかなんとかほざいといてこのざまなんですから、黒田龍人のスネ夫っぷり、ここに極まれりという感じですね。
これ以降、四半世紀もこの2人の新たな冒険が読めていないのは非常に残念なのですが、まぁ、今はますますコンプライアンスうんぬん厳格な時代になっておりますので、龍人とミヅチのような愛憎なかばする関係は、主人公カップルとしては成立しづらくなってるのかも知れないし、やむをえないことなのでしょうかね。ストレスでミヅチに自傷行為をさせるわ、しじゅうセクハラ発言を浴びせかけるわ……こんなやつが主人公でいていいはずがないですよね。
1990年代の日本だからこそ続いたのかも知れない、時代のあだ花「シム・フースイ」シリーズ。今はただ、龍人とミヅチが程よい距離感で元気に生き続けていることを切に願いましょう。ま、続刊がないということはヒマしてるってことなんでしょ! 無事これ名馬!!
2025年だと設定上、ミヅチさんは54歳で龍人は67歳かぁ。荒俣先生、なんか書いてくれませんかね!? まだギリいけるっしょ!!
いよいよ始まっちゃいましたね、7月が! 東北はまだ梅雨明けしてないんですが、日本の半分くらいはもう明けて夏に入ってるということで、猛暑日のニュースが毎日続いてますねぇ。こっから10月くらいまでが長いんだよなぁ!
つい昨日のことなんですが、私の住む山形市の周辺でもものすんごいゲリラ豪雨が発生したそうで。私の自宅ではなんにも影響がなかったのですが、つい隣の市では道が冠水とか停電とか、ものすごかったそうです。でもいかんせん予測しづらいんでね……臨機応変に対処するしかありませんか。
ちょうど、全国ニュースにもなったそのゲリラ豪雨が起きていた頃、私は映画館にいて、遅ればせながらデミ=ムーア主演の話題の映画『サブスタンス』を観ていました。
いや~、なかなかエッジのきいた映画ですばらしかったです! 途中から、「これ漫☆画太郎先生の『ババアゾーン』の映画化だっけ?」と錯覚してしまうような凄惨な地獄絵図が繰り広げられていたのですが、もういくとこまでいって笑うしかないことになっちゃってましたね。デミ=ムーアさんの女優根性は5大陸に鳴り響くでぇ!
内容はほんとに、『笑ゥせぇるすまん』とか『アウターゾーン』の一話でもおかしくないような因果応報の幻想譚なのですが、主人公の破滅の仕方のしつっこさがさすがハリウッドというか、徹底的な感じだったので、その突き抜け感があっぱれでしたね。いろいろツッコミたいところもあるのですが、メインの女優さん2人の全力演技とスピード感で押し切った感じ。
よくよく見るとキューブリック監督の『シャイニング』(1980年)オマージュも露骨だし、画面が真っ赤に染まるクライマックスもピーター=ジャクソン監督の『ブレインデッド』(1992年)で観たことのある風景だし、比較するのはかわいそうですがデイヴィッド=リンチほどの映像美学も感じはしなかったものの、途中から迷走しまくりだったアリ=アスター監督の『ボーはおそれている』よりもずっとわかりやすくて好感の持てる一本槍スタイルだったので、スッキリ爽快な後味でした。でも、私が観た回は「終映時刻18:30」だったんですよね……夕飯の食欲わかねぇ~!!
そういえば、最近は私、観る映画観る映画、客層が同世代かそれ以上の方々ばっかりで「わしも歳をとったのう……」とか慨嘆していたのですが、この『サブスタンス』を私が観た時の客層はみごとに私以外全員10~20代のわこうどばっかりで(そして8割女子)、しかも「わたし芸術系の大学生ですが、なにか……?」みたいなとんがった1人客が多かったので、日本の未来も明るいなと思いました。みんな、ルサンチマンもってこぉぜぇ!!
さて、そんな前置きはさておきまして、今回はいよいよ、えっちらおっちら問はず語りで続けてきた「荒俣宏の『帝都物語』関連小説を読む」企画の中の風水ホラー小説「シム・フースイ」シリーズを読んでいく記事の最終回となります! いや~ついにここまできちゃいましたか!
そういえば、このシリーズのレギュラーヒロインの有吉ミヅチさんも、ほんとにいたら絶対に『サブスタンス』観てるような気がする……ミヅチさんは1971年生まれだそうですから、もし実際に生きていたら54歳ですか。どこで何してるんだろうねぇ。
シム・フースイ Version 5.0『絶の島事件』(1999年10月)
『絶の島事件』(たえのしまじけん)は、荒俣宏の風水ホラー小説。「シム・フースイ」シリーズの第5作。1999年に『鳥羽ミステリー紀行 どおまん・せいまん奇談』という題名で出版社ゼスト(ゲーム会社アートディンクの子会社)から単行本が出版され、2001年9月に角川書店角川ホラー文庫で文庫化された。
本作は、2025年5月時点では「シム・フースイ」シリーズの最終作となっている。
本作に『帝都物語』シリーズの登場人物は再登場しないが、主人公・黒田龍人の祖父・黒田茂丸が、幼少期の龍人に「気をつけろ。ドーマンセーマンに。この印をもつ者に、気をつけろ。」と語ったエピソードや、魔人・加藤保憲が使っていたと思われる五芒星の縫い取られたハンカチを黒田家が所有しているという言及がある。
あらすじ
絶の島(たえのしま)。400年前に地震のため鳥羽の海に消えた、幻の島。
1999年6月。この島を探し出してほしいとの依頼を受けた風水師・黒田龍人は、現地で九鬼水軍が残したといわれる秘宝の謎に巻き込まれる。果たして龍人と助手ミヅチは「どおまん・せいまん」の謎を解き、秘宝を見つけ出すことができるのか。
おもな登場人物
中村 元
三重県鳥羽市の鳥羽水族館企画室長で、鳥羽水族館創設者の中村幸昭(はるあき)の娘婿。古代からの風水伝承をテーマにした鳥羽市の町おこしキャンペーンの監修を黒田龍人に依頼する。真夏日にもスーツとネクタイを欠かさない、よく日焼けした角ばった顔の小柄な紳士(ミヅチよりも背が低い)。個人的に5千万円の借金に苦しんでおり、そのために鳥羽湾内にある小島「ミキモト真珠島(旧名・相島)」にある「真珠博物館」で発生した宝石盗難事件の被疑者の一人として鳥羽署にマークされている。もとは鳥羽水族館でアシカやイルカ、スナメリのトレーナーをしていた。
志多 勝彦(しだ かつひこ)
鳥羽駅前のショッピングビル「鳥羽一番街」社長。丸顔で嫌味の無い若手経営者。警察沙汰を起こしながらも強引に町おこしキャンペーンを進める中村を不安視している。
松月 清郎
真珠博物館の学芸員。銀縁のメガネをかけている温厚そうな顔だちの男。江戸川乱歩の研究も行っており、乱歩が1936年に鳥羽の海女を撮影したフィルム映像に映り込んだ「2人の少女」の謎を解明しようとする。
野町 貴子
真珠博物館の学芸員。中村と交際しているという噂が立っており、そのために中村の宝石盗難の共犯ではないかと鳥羽署に疑われている。
岩田 貞雄
伊勢神宮の図書館「神宮文庫」に勤務する神道研究家で、鳥羽市の歴史に詳しい生き字引。江戸川乱歩と親交のあった画家で民俗学研究家の岩田準一(1900~45年)の次男。準一は竹久夢二(1884~1934年)の弟子であり、鳥羽の真珠島をモデルとした乱歩の中編探偵小説『パノラマ島奇談』(1926~27年連載)の挿絵を担当しており、乱歩がプライベートで鳥羽の海女を撮影したフィルム映像にも一緒に映っている。
黒田 龍人(くろだ たつと)
本シリーズの主人公。1958年7月生まれの痩せた、切れ長な一重まぶたの目の男性。「都市村落リゾート計画コンサルタント」として東京都中央区九段の九段富国ビル5階1号で事務所「龍神プロジェクト」を開いているが、インテリアデザイナーとして風水の鑑定も行っている。風水環境をシミュレーションできるコンピュータプログラム「シム・フースイ」の開発者の一人。黒が好きで、黒い長髪に黒いサマーセーター、黒のサンドシルクズボンに黒のレイバンサングラスで身を固めている。喫煙者。事務所を離れる時もノートパソコンを持ち歩いてシム・フースイで調査する。その他に風水調査のために小型の望遠鏡も携帯している。異変が起きた際には、魔物を調伏するという仏法と北の方角の守護神・毘沙門天の真言を唱える。
夏場は常にエアコンで室温を20℃に設定して仕事をする。1995年頃から、地上げや土地競売にまつわるトラブル、大手ゼネコン株で失敗しサラ金破産で危機に陥った人々を救う仕事も行っている。スクーバダイビングを40、50回行った経験がある。
有吉 ミヅチ(ありよし みづち)
黒田の4年来のパートナーで「霊視」の能力を有する女性。1971年2月生まれ。北海道余市市(架空の自治体だが北海道余市町は実在する)の出身だが、自分の素性は龍人にも話さない。その霊能力の維持のために自らに苦痛を課す。病的に痩せた体形で、龍人と同じように黒を好み、黒いセーターに黒のミニスカートもしくは黒タイツをはいている。髪型は刈り上げに近い短髪。常に青白い顔色で薄紫色の口紅を塗っている。胸に七支刀をデザインした銀のペンダントをつけている。いわゆる霊道や都会の猫道、野生の獣道を感知する能力に長け、それらの道をなんなく踏破できる非常に高い運動能力とバランス能力の持ち主。仏法と北の方角を守護する神・毘沙門天に仕える巫女で、自身を鬼門封じの武神・弁財天の生まれ変わりだと信じている。龍人の仕事の手伝いはしているが、風水の効能はあまり信じていない。
現在は2代目にあたる黒猫のお通(おつう)を飼っている。鬼神を捕縛する武器として、人間の女性の黒髪で編み上げたロープを携行している。
江戸川乱歩が好き。エアコンの冷気が嫌い。右手首に、龍人から受けたストレスのために自傷したリストカット跡が2本ある。
橋本 ミチ
鳥羽湾最大の島・答志島の和具港に住む海女。夫の太一とアワビ採り漁をしていた際に妖怪ともかづきに出遭う。
目崎博士
毎年夏に伊勢湾の神島に滞在して、伊勢湾の海底地形や絶の島の推定地を調査している M大学の地形学教授。スクーバダイビングの経験が豊富で、鳥羽の地理と歴史に詳しい。大柄でたくましい体格で、手入れをしていない白髪まじりの頭髪の中年男。青みがかった目をしていて、笑うとえくぼができる。探検帽に探検靴、ちゃんちゃんこのような青のベストにカーキ色の半ズボンを着て、常に虹色に輝く偏光サングラスをかけている。心理療法の一種である「変性意識療法」への造詣が深い。最新のコンピュータ技術の教育にも熱心で、神島の神島小学校(全校生徒24名)に通信回線をつなぎ、テレコングレス(テレビ電話を使ったヴァーチャル会議)も可能なコンピュータ端末と大型液晶スクリーンを導入して生徒への指導にあたっており、NHK のTV番組にも出演した経験がある。
おもな用語解説
ともかづき
三重県鳥羽市や志摩市で伝承される海の妖怪。名前は同地方の古い方言で「一緒に潜水する者」の意味。
ともかづきは、海女などの海に潜る者そっくりに化けて一緒について来るという。ともかづきに遭遇するのは曇天の日といわれる。ともかづきは海女を暗い場所へ誘ったりアワビを差し出したりする。この誘いに乗ると命が奪われると恐れられている。また、ともかづきは蚊帳のような被膜をかぶせて海女を苦しめるともいい、ある海女は持っていたノミで無我夢中にこの膜を破って助かったという伝承もある。ともかづきが出たという話を聞くと、近隣一帯の村の海女たちは2,3日海に潜らなくなるほど、ともかづきは大変に恐れられていたという。
海女たちはこの怪異から逃れるために、五芒星と格子の模様を描いた「ドーマンセーマン」と呼ばれる魔除けを描いた衣服や手ぬぐいを身につける。ドーマンセーマンは、陰陽道で知られる安倍晴明や蘆屋道満に由来するともいわれるが、トモカヅキとの関連性はよくわかっていない。
ともかづきは溺れ死んだ海女の亡霊とされているが、科学的には過酷な長時間の海中作業によって陥る譫妄症状ではないかと言われ、イルカの一種で体色の白いスナメリの見間違いではないかという説もある。ともかづきと同様の怪異は静岡県南伊豆町や福井県坂井市の海女のあいだでも伝承されているが、共通して海女が大勢で作業を行なっている際には一切出現せず、単独作業を行なっている時にのみ現れるという。
本作では頭から足先まで真っ白な姿で常に笑い顔を浮かべながら出現する。
しろんご祭り
三重県鳥羽市の伊勢湾にある菅島で受け継がれている、海女の伝統行事。毎年7月11日に開催され、海女らが雌雄つがいのアワビ「まねきあわび」を誰が一番早く獲れるかを競い、勝者は1年間菅島の海女頭になれる。獲ったアワビは、神域として一年を通じて禁漁区に指定されている白浜(通称しろんご浜)の丘の上に鎮座する白髭神社(しらひげじんじゃ 通称しろんごさん 菅島神社の境外社)に奉納され、海上の無事安全と豊漁が祈願される。ちなみに、まねきあわびは生物学的な雌雄つがいではなく、メガイアワビを雌貝、クロアワビを雄貝とする。メガイアワビの数は他のアワビに比べて極端に少ないため採取が難しい。
白髭神社の祭神・白髭明神は日本神話の神・猿田彦であるとされ、猿田彦には伊勢国阿邪訶(あざか 現・三重県松阪市)の海で漁をしていた時に比良夫貝(ひらふがい)に手を挟まれ溺れたという伝承があることから、海女を守護する神とされている。本作では、白髭神社の「白(しら)」が古代朝鮮半島の新羅王国(現地語でシラ)と通じることから、猿田彦も中国大陸南部から渡来して海女文化を伊勢国に広めた先住民「安曇族」が信仰していた外来神だった可能性を示唆している。
日和見師(ひよりみし)
江戸時代に伊勢湾に面する鳥羽の日和山に立ち、海の状態を観察して、そこを航行する帆船「千石船」に明日の天候と海況を予報していた専門職集団。日和見師のルーツは江戸時代以前に天候を予測していた古代の陰陽師や聖(日知り)にさかのぼり、航海術や地相占術を受け継ぐ風水師の役割も果たしていた。
九鬼 嘉隆(くき よしたか 1542~1600年)
戦国時代に九鬼水軍の棟梁となり、豊臣政権の有力大名として朝鮮半島にまで遠征した武将。関ヶ原合戦で西軍についた責めを負って自害した際に、九鬼家の居城・鳥羽城のあった鳥羽湾の中でも最大の島である答志島の山上に首が埋められたとされ、嘉隆は現在も鳥羽の守護神として崇敬されている。答志島には嘉隆の首塚の他にも「胴塚」や「血洗い池」の史跡が残っている。
九鬼家
南北朝時代の貞治年間(1362~66年)に、紀伊国熊野から鳥羽に北上してきたといわれる海賊党。紀伊国にいた頃は熊野神宮や修験道に関わりがあり、捕鯨技術を持った海の民であった可能性が高い。九鬼家第十一代当主・嘉隆の時に伊勢国司・北畠具教の攻撃を受けて鳥羽から三河国に亡命したが、織田家の水軍棟梁として躍進し、志摩一国の大名として返り咲いた。嘉隆は関ヶ原合戦で西軍についたために戦後に答志島で自害したが、嘉隆の次男・守隆が徳川家に従ったことで九鬼家は志摩鳥羽藩の藩主として存続した。九鬼家が海賊だった時代に集めた財宝が鳥羽の島々のどこかに隠されているという伝説が残っている。
絶の島(たえのしま)
別名「鯛ノ島」。戦国時代の天文六(1537)年の三河大地震と翌年の熊野大地震によって水深10~15m の海底に沈んだという言い伝えが残る、直径2km ほどの島。伊勢湾の島々の中でも最も本土から遠い神島(かみしま 三島由紀夫の小説『潮騒』の舞台として有名)の、南の沖10km の地点にあったといわれ、かつては神島と砂州でつながり、鳥羽湾から見て神島の玄関口のような役割を果たしていたとみられる。絶の島の伝承は神島に多く残っており、神島は鳥羽湾や伊勢神宮から見て鬼門にあたる北東に位置するため、絶の島にも伊勢・志摩国全体の鬼門封じの役割があったと思われる。
あわ(輪)
伊勢湾の神島にある八代神社で、毎年元旦の未明に行われる伝統行事「げーたー祭り」で使用される、浜グミを丸めて白布で巻いた直径2m ほどの輪のことで、東から昇る太陽を象徴しているとされる。神島は、古代日本の神聖な場所である伊勢の旧斎宮、三井寺、大和の三輪山、仁徳天皇陵、天武・持統両天皇陵、淡路島をつなぐ龍脈「太陽の道」の東端にあたり、地形学でいう「中央構造線」と重なっている。
蘇民将来(そみんしょうらい)
8世紀初期に編纂された『備後国風土記』に登場する人物であり、日本各地にその説話と民間信仰が広まっている。主にスサノオ(牛頭天王)を祀る神社で「蘇民将来」の名の記された護符と八角形の柱が伝わっており、災厄や疫病を祓い福を招く神として信仰されている。陰陽道では「天徳神」と同一視されている。蘇民将来と牛頭天王の信仰は、陰陽師の賀茂家によって播磨国から大和国、山城国に伝播し、紀伊国から熊野街道を通って伊勢国に伝わったといわれ、民衆は蘇民将来の子孫であることを示すために茅の輪を身に着けていたという。この信仰は現在も、鳥羽の海女が魔除けに使う九字切りやドーマンセーマン、神島のげーたー祭りのあわなどに残っているとされている。
亀卜(きぼく / かめうら)
古代中国大陸の陰陽学と道教を起源とする占術。天武天皇(?~686年)が在位五(676)年に陰陽寮を開設して日本独自の陰陽道を創始した以前に、卑弥呼(170?~248年)の時代から日本に渡来して、古代天皇家を支える「亀卜師(きぼくし)」として存在していた。かつて亀卜に使われるウミガメの甲羅は対馬国沖の神聖な海域で獲られていたが、垂仁天皇の時代(3世紀後半~4世紀前半)に伊勢神宮が創建されてからは、伊勢国の鳥羽沖で獲られたウミガメを使用するようになっていた。その歴史の古さから、古代朝廷では陰陽寮の占術よりも亀卜による神託を重んじていたという。
九字切り(くじぎり)
修験道に伝わる、遠くにいる敵を呪力で倒すための秘法。「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」の九字を四縦、五横に切る。
法師陰陽師(ほうしおんみょうじ)
播磨国の六甲山を発祥とする、僧形の修験者集団。古代朝廷は日本の陰陽道を独占するために陰陽寮の官人のみに陰陽師を限定し、もともと中国大陸で陰陽学を伝えていた僧侶が陰陽師になることを禁止したが、朝廷の傘下に入ることを嫌った呪術師たちが法師陰陽師となり、民間に陰陽道を伝えていくようになった。陰陽寮の陰陽師である安倍晴明(921~1005年)のライバルであったという芦屋道満(958?~1009年以降)は、この法師陰陽師の頭目であったという。
法道仙人
6~7世紀ごろにインドから中国大陸、朝鮮半島を経由して日本に渡来したという伝説の仙人。鉄の宝鉢を持ち、鉢を飛ばしてお布施を集める「飛鉢の法」を会得していたことから「空鉢(くはつ)」もしくは「空鉢仙人(からはちせんにん)」とも呼ばれる。播磨国の六甲山を中心に、六甲比命大善神社や吉祥院多聞寺など数多くの寺社の開山・開基として名を遺し、関東地方でも鉢山町や神泉町などの地名が法道に由来するといわれる。日本に渡る際に牛頭天王と共に渡ったとされる。芦屋道満はこの法道仙人の弟子であるという伝承が残っている。
土圭(とけい)
古代中国大陸の風水師が宮殿を建てる位置を決定するために発明した、太陽の方位を測る器材。L字型の指金のような形をしており、8尺(約24cm)の長い目盛付きの尺を垂直に立てて1尺5寸(約4.5cm)の短い尺を大地に寝かせ、夏至の日に南中する太陽がつくる長い尺の影が短い尺と重なる地点を、世界を支配できる王宮の建つべき「地中」としていた。地中に選ばれる位置は必ず「北緯34度32分」になるといわれ、実際に、中国大陸の歴代古代王朝の首都となった西安、洛陽、北京はことごとくこの緯度の付近にあるという。また、この緯度は古代日本の龍脈「太陽の道」とも一致する。
ドーマンセーマン
五芒星の形をした魔除けの印。ほぼ世界共通に存在し、もともとは人をとり殺す魔力を持つ「邪眼」に睨みつけられた時、その視線をそらすために使われた。日本では、史上最大の陰陽師で土御門家の開祖である安倍晴明にちなみ「晴明判」と呼ばれる。ドーマンセーマンとは紀伊国とその周辺地域で使われる言葉で、「ドーマン」は、これも有名な法師陰陽師である芦屋道満、「セーマン」は晴明のことといわれる。六芒星や籠目もドーマンセーマンの類のものである。
六芒星(ペンタグラマ)
同じ籠目型の呪符であっても、ドーマンセーマンのような五芒星とは別種のものである。2つの三角形を上向きと下向きとで組み合わせた六芒星は、日本では籠目の他に古代ユダヤ教の「ダビデの星」の意味も含む。強力な魔除けとなる呪符で、数秘学的に見ると6は完全数すなわち万能の霊力を持っている。
ミルトン・ハイランド=エリクソン(1901~80年)
アメリカの精神科医、心理学者で、催眠療法家として知られる。アメリカ臨床催眠学会の創始者で初代会長を務めた。催眠の臨床性・実践性向上のため精力的にワークショップを開き世界各国を行脚した。精神療法に斬新な手法を用いたことで知られ、「ユーティライゼーション(利用できる物はなんでも利用する)」をモットーとした臨機応変・変化自在な技法を用いて、その名人芸は「魔術師」とも呼ばれた。被験者ごとに異なるアプローチを行うべきだという信念から、振り子やコインといった特別な道具は一切使わず、技法の体系化は好まなかった。魅惑(不思議な体験)、嚇し(物理的なショック)、繰り返しによる疲労といった手法により、被験者の意識と身体を麻痺させて無意識の扉を開くカタレプシー(硬直)を利用した催眠療法を創始した。
……相変わらず基本情報がめっちゃくちゃ膨大になってしまって申し訳ないのですが、最終作なんだもの、このくらいまでふくらみもしますよ!
ということでありまして、2025年6月現在、荒俣先生の「シム・フースイ」シリーズは続刊が途絶えておりますので、この第5作が実質最終作ということになっております。
そして、当然ながら荒俣先生の『帝都物語』関連の小説はこれ以降も陸続と執筆されてはいくのですが、どうやら「作中の時間軸」という見方でいきますと、本作の「1999年」よりも後の時代設定になっている作品は無いようなんですね。ぜんぶが『帝都物語』以前の前日譚になっているようなんです。そして『帝都物語』の『未来宮篇』以降も『帝都物語外伝 機関童子』も、時間軸は「1998年」でしたから。
あっ、でも、平成版と令和版の『妖怪大戦争』2作と京極夏彦先生のやつが、いちおう魔人・加藤が出てくるから続編になんのかな。でも、あのへんは荒俣先生の小説ありきの話じゃないからな(ノベライズはあるけど)……果たして、あの令和版『妖怪大戦争』の続きはあるんだろうか? う~ん。
え~、じゃあこの『絶の島事件』が、あの長大なる『帝都物語』サーガの「実質最終章」になるってわけ!? いいんですか、そんな超重要な立ち位置で……
そうなんです、この作品、「シム・フースイ」シリーズ&『帝都物語』サーガの最終作というにはあまりにもあっけらかんとした、「黒田龍人、鳥羽にてちょっとした小事件に巻き込まれてタイヘンの巻」みたいなスケールのお話になっているんですよ! え? ミヅチさんはどこだって? 最後にちょろっと鳥羽にやって来るだけで、出番ほとんどない。
な、なんちゅうこっちゃ……これ、まさに「番外編」といった感じの、のほほんミステリ紀行じゃないか! タイトルに「殺人」がついてない時点でヤな予感がしてたんだよ……たいしたことない事件だなって。
ただ、こんな私の物言いから勘違いしないでいただきたいのは、この『絶の島事件』、決して面白くないわけじゃないんです。少なくとも、前作『闇吹く夏』よりは内容にけれん味もあるしオカルト要素もふんだんに配置されているので楽しい小説なんですよ。事件のスケールはシリーズ最小ですけど……
本作のキーワードは、ざっと挙げるだけでも「九鬼水軍の秘法」と「古代風水都市・鳥羽」、「海中に沈んだ幻の島」と「江戸川乱歩の秘蔵フィルムの謎」ということで、時代を超えて鳥羽にまつわる非常にうまみのあるミステリアスな食材がそろっている感じなのですが、正直、それらの伏線が想像しうる限り最も「しょぼしょぼっ……」とした感じで回収されて事件が解決しちゃった、という印象はいなめません。
いなめはしないのですが、まぁ伏線をほっぽり投げたまんまよりはマシですよね! ともかく、これだけのおもしろ要素が集まってるってだけで、なんか楽しくなっちゃうんですよね。心なしか、荒俣先生の筆のノリも軽やかで愉快です。
そして、なんかほんとに『なあばす・ぶれいくだうん』の気の利いた1話完結エピソードみたいな感じなんですが、鳥羽に来て事件を捜査している内にどんどん龍人がこんがらがってきて、佳境にふらっとやって来て話を聞いたミヅチがスパスパ~ッと解決しちゃうという流れが実に痛快なんですよね! 龍人が汗まみれで溜息をついてる姿を見て、ミヅチが「いい気味……フフ」と笑ってるカップリングが、2人の最終形として実にしっくりくるんです。
う~ん、そう考えると、「シム・フースイ」シリーズのこの2人は、『帝都物語』本編みたいな仰々しいクライマックスじゃなくて、こんな感じでつかず離れずの『トムとジェリー』みたいな関係のまま未完にするのが最善手なのかも。これでおしまいのほうが、シリーズを通してさんっざんひどい目に遭わされ続けてきたミヅチにとっては幸せなのか……ほんと、本作のミヅチは何の苦労もせずに「高みの見物」な天才探偵ポジションだもんな。龍人は最終作でみごとワトスン役に降格! インガオホー!!
ミヅチが探偵役と書きましたが、本作はほんとうに「シム・フースイ」シリーズの中でも特に異色な作品で、海の中の幻の島や九鬼の秘宝、フィルムに映った謎の少女たちや妖怪ともかづきと、相変わらず怪しげなアイテムはわんさと出てくるのですが、主軸となるお話は完全なるミステリなのです。ホラー小説では断じてないんですね。
これはおそらく、作中にも鳥羽に縁のある偉人として登場してくる江戸川乱歩への、荒俣先生なりの敬意のあらわれかと思えるのですが、繰り広げられる一連の謎は、いちおう論理的に成立可能なトリックを悪用した純然たる計画犯罪に起因することが立証されるのです。ドーマンセーマンとかペンタグラマとか言ってますが、式神や魔法なんか一切使われないのです。
ただ、かといってミステリとしてこの作品を楽しめるかと言われると……ま、寛大な心でお読みくださいって感じでしょうか。いや、たぶんこれは実際にできるトリックなんじゃないかと思うんですが……ほら、ポオの昔からトリックに動物はつきものですから……
ひとつ苦言を呈させていただけるのならば、登場人物の一人が「昔、水族館で海獣ショーのトレーナーをやってた」という重要な情報が物語のクライマックスになってやっと提示されるのでそこはアンフェアかなという感じはしましたが、私は本作のオチに納得はできました。
あと、メイントリックをサポートする第2のトリックとして、上の情報にもあるような催眠療法が重要な意味を持ってくるわけなのですが、ここは明らかに乱歩作品の中でも幻想系の傑作としてつとに有名な「ある短編小説」を明確に意識した内容になっているのが面白かったです。そうか、あれは科学的に説明がつかないこともない話だったのか……ヒントは、登場人物のひとりの名前!
まぁこんな感じで、本作は「ホラーの皮をかぶったミステリ」であり、「怪奇現象の皮をかぶった犯罪」ということになるので、ここまでシリーズの中でさんざん魔術的なことをしておきながら、最後の最後で『怪奇大作戦』みたいな別ジャンルをぶち込んでくるという、異例すぎる内容となっていたのでした。そもそも原題からして『鳥羽ミステリー紀行』だったんですから、案外、荒俣先生もほんとに肩の力をぬいた番外編のつもりで書いてたのかも。まさかそれが最終作になろうとは……なんか、『ウルトラマン80』とか『魁!!男塾』の最終回みたいな脱力感なんですよね。逆にそこがいいと言えばいいのですが。
最後にもう一つ、これはどうしても、本作を語る以上は言っておかねばならないことかと思うのですが、本作では、現在明らかにその史実性に疑問符のつく偽書として有名になっている、ある文書の内容が前提となって論が進んでいる部分があります。「九鬼」といったら、やっぱこれが出てくるでしょうねぇ。
当然ながら、荒俣先生も文章の中で「偽書の可能性が高い」とただし書きをつけてはいるのですが、「内容すべてを否定することもできない」として、その文書の中でまことしやかに語られている事項を、あたかも九鬼家の歴史的事実のように受け入れ、実質全肯定で取り入れているように見えるのです。
いや、ここは例えフィクションの中の話なのだとしても、やってはいけないことなのでは。私はここだけは容認してはいけないと思うんだよなぁ。「面白いから」「ロマンがあるから」という理由でオカルティックなウソを面白がった結果、1995年の日本で何が起きたのかを考えれば、そこは慎重になるべきなのではないかと思うんですよね。
ここはね……誰かが明確な目的をもってついた嘘と、幽霊やネッシーを信じることを一緒くたにしては絶対にいけないと思うんです。その線引きは、難しいかもしれないけど忘れないでいかないと大変なことになるぞと。
そういう思いもありましたので、私はこの『絶の島事件』を非常に興味深く読ませていただきました。ともかく、一筋縄ではいかない怪作なんです。
まぁ、もろもろ固いことを抜きにしましても、何度も言うように本作はミヅチの快刀乱麻を断つ探偵っぷりも爽快ですし、なんといっても第1作ぶりに情けない龍人の「早く助けろ!!」ネタが炸裂するので、やっぱりこの2人はそうとうな名コンビなんだなと実感させてくれる愉快痛快な小説となっております。こいつ、いっつも溺れてんな。スクーバの経験が30~40回あるとかなんとかほざいといてこのざまなんですから、黒田龍人のスネ夫っぷり、ここに極まれりという感じですね。
これ以降、四半世紀もこの2人の新たな冒険が読めていないのは非常に残念なのですが、まぁ、今はますますコンプライアンスうんぬん厳格な時代になっておりますので、龍人とミヅチのような愛憎なかばする関係は、主人公カップルとしては成立しづらくなってるのかも知れないし、やむをえないことなのでしょうかね。ストレスでミヅチに自傷行為をさせるわ、しじゅうセクハラ発言を浴びせかけるわ……こんなやつが主人公でいていいはずがないですよね。
1990年代の日本だからこそ続いたのかも知れない、時代のあだ花「シム・フースイ」シリーズ。今はただ、龍人とミヅチが程よい距離感で元気に生き続けていることを切に願いましょう。ま、続刊がないということはヒマしてるってことなんでしょ! 無事これ名馬!!
2025年だと設定上、ミヅチさんは54歳で龍人は67歳かぁ。荒俣先生、なんか書いてくれませんかね!? まだギリいけるっしょ!!