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長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

なんで今さら!? 10年前の Jホラー映画を観てみよう ~映画『零 ゼロ』~

2025年07月14日 23時40分49秒 | ホラー映画関係
 どもどもみなさま、こんばんは。そうだいでございます。
 いやもう、毎日あっぢぃくてあっぢぃくて……これもう、南東北地方も梅雨明けしてんだろ!
 私の職場では毎年、市の夏祭りで出店を出してまして、今年は再来週にその祭りがある予定なのですが、今からもう恐ろしくてなんねぇよ……どのくらいの酷暑になりそうなのか、わかったもんじゃねぇや!

 というわけで、今年もすでに梅雨明けする前から夏本番が始まっているかのような惨状に突入しているわけなのですが、今回は夏といえばこれ!ということで、ホラー映画の話題といきたいと思います。
 いや、ほんとだったら今ごろ、辻村深月先生原作の最新映画『この夏の星を見る』の感想記事でも上げてそうなものだったのですが、なんてったって肝心の映画上映が山形県ではまだなもんなので。しょうがないので別の映画にしちゃうわけです。

 この夏のホラー映画といえば、矢口史靖監督の『ドールハウス』(6月公開 主演・長澤まさみ)と、我が『長岡京エイリアン』のホラー映画関連の記事でもしょっちゅうその名が挙がる「1990年代ホラー映画界の女帝」菅野美穂さまがかなり久しぶりにこの業界におもどりになられた、白石晃士監督の『近畿地方のある場所について』(8月8日公開予定)の2作がかなり話題になっているようですね。
 どちらの監督さんも、矢口監督は TVのオムニバスドラマ『学校の怪談 春の呪いスペシャル』(2000年)内のエピソード『恐怖心理学入門』(主演・安藤政信)で、白石監督は映画『貞子 vs 伽椰子』(2016年)で日本ホラー史上にその名を残す方々ですから、決して観客の期待を裏切る出来のものにはなっていないでしょう、たぶん……このお二人に限ってそういうことはないでしょうが、近年は「え、お前ほどのビッグネームで、その出来!?」と愕然としてしまう、やたら監督の名前だけ有名なホラー映画まがいがチラホラしていますので、なんか二の足を踏んじゃうのよね。最悪、怖くなくてもいいから、少なくとも鑑賞前より気分が悪くなる映画を作るのだけはやめていただきたい。

 『ドールハウス』は、まだ映画館でやってるのかな。ちょっと観に行くタイミングを逸してしまいました。ホラー映画とは関係ないのですが、私は矢口監督の作品といえば、なんてったって『ひみつの花園』(1997年)が大好きで。主演の西田尚美さん(当時27歳)が、失礼ながら今からは想像もつかない程にかわいくてかわいくて! 予算のタイトさを全く隠そうとしないインディーズな姿勢に賛否は別れるかも知れませんが、私は大学生時代に VHSビデオを買って夢中になってました。

 そんなわけで今回は、『ドールハウス』ではなく、なぜか10年も前に公開された「ちょっと本線からはずれた」ホラー映画にスポットライトを当ててみたいと思います。
 え? なんで今さらこの作品なのかって? そりゃ、このひどい暑さを中条あやみさんの涼しげな美貌で吹っ飛ばしたいからに決まってるでしょうがぁ!! その中条さんも、今や立派な人の妻ってわけよぉ。時の流れを感じますね……


映画『零 ゼロ』(2014年9月公開 105分 角川大映)
 『劇場版 零 ゼロ』は、大塚英志によるホラー小説『零 女の子だけがかかる呪い』(2014年8月刊 角川ホラー文庫書き下ろし)を原作とした青春ミステリーホラー映画である。制作と配給は角川書店。興行収入1.2億円。

 原作小説の作者である大塚による角川ホラー文庫版のあとがきによると、本作の映画化を前提としたゲーム『零』シリーズの制作スタッフとの打ち合わせの場では、すぐにオーストラリアの幻想映画『ピクニック at ハンギング・ロック』(1975年 監督ピーター=ウィアー)の名が挙がり、そこから「女学校の寄宿舎の物語」や「少女が一人だけ生還する」といった設定が引用されたという。また、同じく寄宿制学校の物語ということで、萩尾望都の少女マンガ『トーマの心臓』(1974年連載)を翻案した青春幻想映画『1999年の夏休み』(1988年 監督・金子修介)や、「同じ演劇を繰り返し上演する」設定として、吉田秋生の少女マンガ『櫻の園』(1985~86年連載)やそれを原作とする映画(1990年版と2008年版の2作あり)のイメージも話題に上ったという。そのため大塚は、ゲーム開発スタッフの心の中に密かにあった、もう一つの『零』を小説化したと語っている。

 また大塚は、本作公開日の翌日に発売された『零』シリーズ第5作『零 濡鴉ノ巫女』のテーマが「水」であることから、本作も民俗学者・折口信夫の『水の女』(1927~28年発表)に代表される「神の花嫁」研究を物語の骨子にしたと語っている。
 原作小説は、大塚の妻で小説家の白倉由美の文章や、シンガポールのマンガ家フー・スウィ・チンのイラストもイメージ源にして執筆された。角川ホラー文庫版にはフーの挿絵も収録されている。

 監督・脚本を務めた安里麻里は、「都会的な女子高生ホラーではない、もうちょっとフィクション度の高いもの」を目指したという。ゲームの『零』シリーズが原作であることについては、「ゲームが持つ特殊な世界観は面白いチャレンジだった」と語り、また「今回の映画は女の子のために作られているような、女の子のためのホラーといってもいい側面があると思う」、「普段ホラーは見ないというような女の子にも見てほしい」と語っている。

 本作の内容はゲームの『零』シリーズとは直接の関係は無いが、主人公のミチが使用する小道具などとしてカメラが重要な役割を果たし、作中では二眼レフカメラ型、蛇腹が下開きで縦長方形のフォールディングカメラ型、左開きで横長方形のスプリングカメラ型、観音開きで横長方形のコンパクトカメラ型の4種類のカメラが登場する。
 本作の撮影ロケ地には、女学園の外観に明治二十二(1889)年竣工の旧・福島県尋常中学校「安積歴史博物館」(福島県郡山市)、女子寮の外観に明治四十一(1908)年竣工の旧・皇族有栖川宮別邸「天鏡閣」(福島県猪苗代町)、貯水場の場面に1932年竣工の旧・芦山浄水場跡(茨城県水戸市)が使用された。
 安積歴史博物館は2022年3月に発生した福島県沖地震で被災したため、2025年7月現在まで休館となっている。


あらすじ
 2月10日。ある地方の山の上にある、ミッション系の全寮制女学園。女生徒のカスミは、同級生の中でも最も美しいアヤに憧れを抱いていた。アヤは「午前0時になる千分の一秒前。写真にキスをすれば、同じ呪いにかかる。」と語る。そして写真にキスをした少女は、次々と失踪してしまうのだった。これは神隠しなのか、それともアヤがかけた呪いなのか。女の子だけにかかる呪い、その正体とは……


おもな登場人物
月守 アヤ(つきもり あや)…… 中条 あやみ(17歳)
 本作の主人公。女学園の高等科3年生。女学園の中で最も美しいと評判の少女で、周囲からは憧れのカリスマ的存在。卒業間近の2月3日から1週間、寮の部屋に閉じこもってしまう。

風戸 ミチ …… 森川 葵(19歳)
 もう1人の主人公。女学園の高等科3年生。写真撮影が趣味で、卒業後に写真家を目指して東京に上京しようか悩んでいる。友人が次々と神隠しに遭ったことを機に、アヤと共に事件の謎に迫る。

鈴森 リサ …… 小島 藤子(20歳)
 女学園の高等科3年生。同級生のアヤに憧れる。イツキの親友。好きな色はオレンジ。金持ちの御曹司との見合いの縁談が進んでいる。

菊之辺 イツキ …… 美山 加恋(17歳)
 ネイルサロンを開くことを夢見る女学園の高等科3年生の生徒。親友のイツキが憧れているアヤに嫉妬し、生徒達が失踪するのはアヤが呪いをかけたせいだと信じている。

野原 カスミ …… 山谷 花純(17歳)
 女学園の高等科3年生。ミチの友人で、アヤに憧れを抱いている。やや内気な性格。卒業後は短大に進学する予定。

藤井 ワカ …… 萩原 みのり(17歳)
 女学園の高等科3年生。アイドルになることを夢見るマイペースな生徒。眼鏡をかけている。

リツコ …… ほのか りん(17歳)
 女学園の高等科3年生クラスの学級委員長。

麻生 真由美 …… 中村 ゆり(32歳)
 女学園の教師を務めるシスター。花の園芸栽培に詳しい。弟で学園の用務員の崇と同部屋で生活している。

麻生 崇 …… 浅香 航大(22歳)
 真由美の弟で、女学園の用務員。右足が不自由で常に引きずって歩き、人との会話が苦手で寡黙。園芸栽培が得意である。

メリーさん …… 中越 典子(34歳)
 女学園のふもとの町に住んでいる、全身をゴスロリ風衣装でかためてウィッグをつけた女性。女学園の卒業生だと自称しており、彼女が在学していた頃から「午前0時の呪い」の噂は存在していたと語る。遅くとも明治時代から町にある古い写真館の家の娘だったが、現在は写真館は廃業して地元のコンビニに加工パン食品をおろす工場でパート勤務をしている。本名は草薙和美。写真撮影が趣味の小学生の息子・進がいる。

学園長 …… 美保 純(54歳)
 全学園生徒70名弱、教員シスター4名のミッション系の全寮制女学園「セイジツ学園(字が不詳)」の学園長。

唐津 九郎(からつ くろう)…… 渡辺 裕也(31歳)
 女学園の失踪した生徒5名の葬儀を執り行った業者の、スキンヘッドの男。死体に触るとその死体の声(残留思念)が聞こえる、イタコに近い霊能力を持っている。普段は不愛想だが正義感が強く、困っている人は放っておけない性格。「黒鷺宅配便」と名入れのされた黒塗りのクラシックカーを運転している。
 ※本作の原作を担当した大塚英志が同じく原作を務めるホラーマンガ『黒鷺死体宅配便』(作画・山崎峰水 2000年から角川書店のマンガ雑誌にて連載中)の主人公で、映像作品に登場したのは本作のみとなる(2025年7月時点)。

槙野 慧子(まきの けいこ)…… 柳生 みゆ(23歳)
 唐津と共に葬儀会社で働く、金髪に染めた髪の毛をハーフツインにした女性。アメリカに留学してエンバーミング(遺体衛生保全技術)の資格を取得している。陽気な性格で、アニメキャラのコスプレのような衣服を着ている。
 ※唐津と同じく『黒鷺死体宅配便』のレギュラーキャラクターで、映像作品に登場したのは本作のみとなる(2025年7月時点)。


≪原作小説と映画版との主な相違点≫
・原作小説の女学園の校名は「聖ルーダン女学園」だが、映画版の女学園は「セイジツ学園(字が不詳)」。
・聖ルーダン女学園は有名大学への進学率の高いお嬢様学校だが、セイジツ学園は大学進学の言及がある卒業生はいない(短大進学か就職)。
・原作小説のミチには、片方の目で霊が見える特殊能力があり、それを嫌って常に左右どちらかの霊が見える方の目に黒い眼帯をつけている(見える目は変わる)が、映画版のミチにその設定はなく物語の途中から両目で霊が見えるようになる。
・原作小説のカスミは高等科3年生クラスの学級副委員長となっているが、映画版ではその設定は言及されない。
・原作小説の女学園のシスターの名前は「鷺宮足穂(さぎのみや たるほ)」だが、映画版では「麻生真由美」となっている(弟の名前はどちらも崇)。
・失踪した生徒たちの遺体の発見される時間的推移と遺体の状況、リサが発見された経緯が、原作小説と映画版とで違う。
・原作小説ではアヤは謹慎の名目で女学園内の聖堂の塔に監禁されていたが、映画版では自主的に寮の自室に引きこもっている。
・原作小説ではメリーさんの本名は「山田和美」だが、映画版では「草薙和美」(息子の名前はどちらも進)。
・原作小説でいう神社が映画版の貯水場、「オフィーリアのアルバム」がメリーさんの実家の写真館の所蔵写真に置き換えられている。
・原作小説ではメリーさんと鷺宮足穂との因縁関係が明らかになるが、映画版ではメリーさんと麻生真由美との関係は全く言及されない。
・原作小説の方が唐津九郎と槙野慧子の出番が多い。2人が乗る車は原作小説ではワゴン車だが、映画版ではクラシックカー。
・原作小説では学級委員長のリツコが重要な役割を果たすが、映画版ではほぼ出番はない。
・原作小説では女学園に伝わる『オフィーリアの歌』の歌詞の内容が重要な意味を持つが、映画版では歌自体は唄われるものの物語には特に関係してこない。


 ……いや~ほんと、なんで2025年のいま、この作品を取り上げるのでしょうか。

 この映画の内容とは気持ちいいまでに一切関連が無いのですが、映画の原作にあたるゲーム版の『零』シリーズについての基本情報も、いちおう載せておきましょう。私、そもそもゲームをコーエーの歴史シミュレーションゲーム以外に全くやった経験がないので、このシリーズもぜんっぜん知らないんですよね……完全なる門外漢であいすみませぬ。


ゲーム『零』シリーズとは
 『零(ゼロ)』は、テクモ(現コーエーテクモ)から発売された日本のサバイバルホラーゲーム『零(ゼロ)』(2001年発売)を第1作とするシリーズである。シリーズ全体のブランド名は「 project zero」。
 カプコンの『バイオハザード』(1996年)のヒットから始まったサバイバルホラーゲームブームの時流にあった2001年12月に PlayStation 2で第1作『零』が発売され、日本国外版、リメイク、外伝なども含めて数多くシリーズ化され現在に至っている。
 シリーズ最大の特徴は、カメラを攻略アイテムや武器にしている点、西洋文化を背景にしたホラーゲームが多かった中で日本の文化もしくは和洋折衷の世界観にした点、幽霊や心霊現象による恐怖を演出している点などであり、映画『リング』(1998年公開)が火付け役となった Jホラーブームの時流に重なっていた。シリーズのソフト累計発売本数は、2014年時点で130万本。

 正統シリーズの第1作『零』、第2作『零 紅い蝶』(2003年)、第3作『零 刺青ノ聲』(2005年)、第4作『零 月蝕の仮面』(2008年)、第5作『零 濡鴉ノ巫女』(2014年)の5作品は、内容はそれぞれで独立しているが、登場人物の設定を中心に世界観や時間軸が繋がっている。
 時代設定は『零』が1986年、『紅い蝶』が1988年夏、『刺青ノ聲』が1988年12月、『濡鴉ノ巫女』が2000年前後となっている。『月蝕の仮面』は1980年代とされているのみで正確な時系列関係は不明である。
 正統シリーズ5作の他に、外伝作品として2012年にホラーゲーム『心霊カメラ 憑いてる手帳』(ニンテンドー3DS )が発売されている。シリーズの中では第4作『月蝕の仮面』の次に制作されたが、AR技術やジャイロセンサーなど3DS 本体の機能を駆使した作品となっている。

 ゲーム以外のメディアミックスとしては、2004年7月にゲーム第2作『零 紅い蝶』を基にしたテーマパーク向けホラーアトラクション『4D 零』、2014年には大塚英志の小説『零 女の子だけがかかる呪い』を原作としたホラー映画『零 ゼロ』、ホラーマンガ『零 影巫女』、2021年12月に第1作『零』を基にしたホラーアトラクション『デリバリーお化け屋敷 絶叫救急車 Ver.零』などが展開された。


 ……とまぁ、こういう感じですので、どうやら「少女が主人公」、「日本が舞台」、「カメラが重要なアイテムになる」という要素くらいしかゲーム版と映画版との間には関連性がないようです。なお、ゲーム版シリーズには共通して「麻生」という姓のキャラクターが登場するのだそうで、その点、映画版でも重要なキャラクターに麻生姓の人物がいるので、なにかしらのにおわせはあるのかも知れません。
 私みたいなゲーム版に全く疎い人間にとっては、映画を観ている最中に知らない要素が出てきて混乱してしまうおそれがまるで無かったので、ありがたいっちゃありがたかったのですが、それって正直、この映画が『零』を標榜する意味合いが希薄ということなのでは……これ、ゲーム版のファンの方々にとってはどうなの!? まぁ、中途半端に各方面に色目をつかった結果、『ドラゴンボール エボリューション』みたいなどの層からも支持されない激甚災害を生むよりはマシなのかな。

 映画版はおそらく、私のようにゲーム版のことを全く知らない客層も取り込むために、可能な限りゲーム版に依拠しない内容にしたのでしょうが、そうなると、そもそもこの映画が『零』である意味が限りなくゼロに近づいてしまうという、この狂おしいほどのアンビバレンツ……いちおう、この映画単体で見ても「午前零時の呪い」というオリジナル要素があるのでタイトルが『零』な理由はついているように見えるのですが、実際に観てみると、女学園内の真夜中の呪いの儀式のくだりが関わるのは映画の真ん中くらいまでで、それも実は生徒たちの連続失踪事件の真相とはさほど関係が無いブラフだったという肩透かしで終わってしまうので、そんなに題名にするほど『零』かぁ?という消化不良感が残ってしまいます。かといって、大塚さんの小説版のサブタイトル『女の子だけがかかる呪い』のほうがいいのかというと……こっちもこっちで女性層向けの作品にしてはセンスが、ねぇ。オヤジですよね。

 そいでもって、基本情報で字数もすでにだいぶかさんでしまいましたので、ちゃっちゃとこの作品を観た感想を述べてしまいたいのですが、


ぜんぜん怖くない……最初から最後まで「ジャンルが違うんで怖さで勝負してません」という言い訳がみなぎる、雰囲気映画ぞこない


 ということになりますでしょうか。言い方が非常に厳しくなってしまい申し訳ないのですが、ほんとにそんな感じなんですよ。ホラー映画としての腰が引けまくり! トム=サヴィーニ御大の爪の垢(ちょっぴりスパイシー)でも煎じて飲めい!!

 う~む。この映画、そもそも本編を観る前に基本情報を調べてみた時点で、原作者の大塚さんが『ピクニック at ハンギング・ロック』とか『1999年の夏休み』とかいうものすごい先人たちの名を挙げてるし、監督は監督で「普段ホラーは見ないというような女の子にも見てほしい」とかのたまってるしで、なんか「ホラー映画として見ないでください」って主張してる感が強いんですよね。それで実際に観てみたら、ああいう感じでしょう?
 ジャンルとして相当に難物な、監督の映像センスと俳優さんがたの高レベルで繊細な演技力が要求される「そっち方面」をあえて狙うという、その志の高さは買いたいのですが、それ、大ヒットしたホラーゲームの満を持しての実写映画化でやるべき企画かな!? 『零』シリーズのファンからしたら、よそでやっとくれって感じですよね。
 そもそも、大塚さんは「ゲーム版の制作スタッフと話してるうちにこの方向性の物語が引き出せた」と、意地悪に見れば責任逃れみたいな発言もしているようなのですが、これが本当だとしたら、それってゲームスタッフが無意識のうちに「これをゲームにしたって売れないよな」とボツにしていた構想を拾ったってことじゃないですか。いやいや、そんなぐだぐだな材料で映画作っていいのかね……ま、実際に映画になっちゃったから、いいのか。

 とにもかくにも、この映画はホラー映画なんだかファンタジー映画なんだかわかんない出来の作品になっていまして、いちおう青春ファンタジーとして観れば、なんてったって当時17歳の中条あやみさんの美貌を眺めてるだけである程度は満足できるし、福島県の2つの明治建築を外観に展開されるロケーションも素敵な作品となっています。今どきからすれば「105分」という上映時間も良心的ですよね。短くは感じませんが。
 ただその、やっぱり「ホラー映画」とか「『零』シリーズの映画化作品」として観てしまうと、厳しいところはあるんじゃないかなぁ。ネット上の評判がわりと賛否はっきり分かれてしまっているのは、この作品を「何として観るのか」という観客の想定によって左右するところが大きいからなのではないでしょうか。

 ただ、これだけははっきりと言えるのですが、この作品は「ホラー」、「ファンタジー」、「旬のアイドル青春もの」、どの方面においても「この作品でしか味わえない」という突出したなにかを持った作品にはなりえていません。ジャンルを一本に絞らずに逃げ道を作った。そのぐらぐらした姿勢のぶれが、全方位に詰めの甘さを残してしまう「器用貧乏」さ、いわば「多角的じゃなく無角的」の典型のような仕上がりを生んでしまったのではないでしょうか。あまい、丸美屋プリキュアカレーなみに甘い!!

 映画本編を最初から観ていって、他記事でやってる視聴メモのようにひとつひとつ気になるポイントを挙げていってもいいのですが、なんてったって2014年の、さほど話題にもならなかった映画を克明に追ったところでどうなんだという気もしますし、ましてや記事を前後編に分ける気にもなりませんので、非常にざっくりとではありますが、本作の詰めの甘さを象徴するような点をいくつか例示していきたいと思います。問題は他にももっといっぱいあるのですが、ほんとにちょっとだけ、かいつまんで!


〇中条あやみさんの小顔が、他キャストにとってかなりキツい
 これはアイドル映画として決して無視できない問題ですね。要するに、中条さんが異次元に小顔すぎるので、それ以外の十二分に美人であるはずの共演者の皆さんのスタイルが、相対的にふつうに見えてしまうのです。
 特に同級生役の小島藤子さんなんか、私も大好きなのですが、中条さんと並んでしまうと、なんとも難しいんですよね。中条さんにとっても不憫な話なのですが、この映画に出演して得をする女優さんが中条さん以外にいないという焼け野原な惨状が実に哀しいです……雑誌『 Seventeen』大人気モデルの競演という大看板を打ち出したアイドル映画なはずなのに、暗めな画面設計なうえに中条さん一強だから、なんだか寂しいんですよ!
 中条さんとダブル主演の森川葵さんも、やたらびっくりしたり呆然としたりする演技だらけで髪の毛もベリーショートだから、なんだか息つぎ穴から出てきたところをホッキョクグマに狩られる瞬間のアザラシみたいな表情ばっかりだし。
 ただ単体でかわいい女の子を集めたらいいって話じゃないんですね。大切なのは、並んだ時の見た目のバランスなんだなぁ。

〇監督の「引きショット多用癖」がホラーの雰囲気を致命的にそいでしまう
 具体的に言うと、中条さんが「冬枯れの沼の水面を歩いてくる」シーンと、「女学園の礼拝堂で天井から舞い降りて来る」シーンで、この作品の監督は、中条さんとそれを見て驚愕する人物の背中を丸ごと客観視する引き画面のショットを入れるのですが、これが驚くほど観客を「なんだ、ただ中条さんが来るだけじゃん。」と冷静に醒めさせてしまう逆効果を生んでしまうのです。人間が水面の上を歩いてきたり上空からふわ~と降りて来る現象は確かに超常的な現象ではあるのですが、その人間が学生服を着た華奢な少女であるという現実もまた、引きショットは平等に説明してしまうので、怖くもなんともなくなってしまうのです。中条さんだし、画としては美しいのかも知れませんが、なんだかこういう引きの画って、目の前で起きている異常現象に全く感情を揺さぶられない誰かが冷め切った視線で離れた場所から見ているようで、共感もへったくれもなくなっちゃうんですよ。
 別に美術館で絵を見てるんじゃないんですから……お話を楽しもうとしてくれてるお客さんを突き放すのはやめてほしいですよね。

〇音楽がひどい……メインテーマが『サスペリア』そっくり
 映画音楽がまるで無個性で、どのシーンでも全く印象に残らないのですが、ほうぼうの重要なシーンで意味ありげに流れるオルゴールみたいな曲が、女学園ものホラー映画の世界的な超有名作『サスペリア』(1977年)のメインテーマと瓜二つなのは、オマージュを軽く通り越して、もはや YouTubeかなんかの著作権対策でちょちょいっといじって作ったフリー音楽のようで安っぽいこと山のごとし! 流れるたびに「もうちょっと自分で工夫しろや!」という気分になってしまいます。また、よりにもよって『サスペリア』とは……いろんな大先輩にケンカ売ってんな!!

〇ゲーム版に関連は薄いくせに、全く無関係な作品のキャラがしゃしゃり出てくる
 これ、原作者の大塚さんが別で原作を務めているマンガ『黒鷺死体宅配便』の主要キャラ2人が、後半にかなり重要な役回りでゲスト出演してくることを言ってるんですけどね……
 いや、これゲーム『零』シリーズの映画化作品ですからね? それなのに、ゲーム版のキャラをさしおいて別作品のキャラが出てくるって、それ……やって誰が喜ぶの?
 百歩譲って、すでに『黒鷺死体宅配便』のほうが映画か TVで実写映像化されていて、そこに出ていたキャストがカメオ出演するとかっていう話ならば、それでも『零』シリーズのファンにとっては甚だ迷惑な話ですがありえそうな話ではあります。角川だし。
 でも、この場合はそれですらないんですよ……そんなん、本筋のマンガの実写化もまだないのによそさまの世界に突然出てくるんですから、『黒鷺死体宅配便』のファンの方々だって呆れかえりますよね。
 ほんとに、これ誰が喜ぶんだ……? 大塚さんのファンか? 大塚さんのファンにしたって、こんな筋の通らないことを「お遊びなんだから、そんな怒らないでよ。」みたいな顔して押し通す奴のファンだなんて、恥ずかしくてよそ様に言えなくなっちゃいますよね。

 いやはやこの世の中に、これほどまで観客が喜ぶビジョンが見えないゲスト出演があったとは……ま、そのゲスト出演したキャラを演じた2人のうちのひとりが、後に『ひみつ×戦士 ファントミラージュ!』で準レギュラー出演されていた柳生みゆさんだし、このくらいにしときましょ。
 ほんと、誰か止める人はいなかったのか?

〇中越典子さん演じるメリーさんのキャラがぶれっぶれ
 これは言うまでもなく、中越典子さんの演技力に難があると言いたいのではありません。ともかく、登場するシーンごとにメリーさんの人格と情緒が別人みたいに違っているのです。
 だいたい、このメリーさんのように、妙齢であるのにも関わらずしょっちゅうゴスロリ衣装に厚化粧をして町中を闊歩している人物って、なにかしら生活感のない、人間らしさを超越した「道化(トリックスター)」であり「越境者」であり、物語を終結へ導く「デウスエクスマキナ」にもなりえる存在だと思うのですが、そんなメリーさんが、ふつうに化粧を落として町のパン工場でパート勤めをして息子をちゃんと養ってるとか……どんな算段があって、そんな冷や水ぶっかけな舞台裏暴露をしちゃってるんでしょうか。せっかく作ったメリーさんの設定を、「単にそういうコスプレ趣味もある常識的な市民」におとしめてるだけなんじゃないの? いや、それはもったいないっつうか……じゃ、なんのためにメリーさんを用意した!?
 さらに、メリーさんは女学園のふもとの町に昔からある写真館の娘で、その素性が話の本筋にも関わってはくるのですが、それがなおさらメリーさんの浮遊性を地上に引きずり落とす効果も生んでしまうので、イメージ元になったと思われる実在の怪人「横浜のメリーさん」の足元にも及ばないフツー感にまみれてしまうんですよね。
 ある時は天衣無縫なコスプレおばさん(失礼ながら)、ある時は休憩スペースで疲れた表情で俯くパート主婦、またある時は息子を堅実に育て上げている母さん……こう書くと面白いキャラのようなのですが、主人公じゃないんでね。そのすべてが脈絡なくシーンごとにぶつ切りになってしまっているのです。
 うーん、これにはさすがの中越さんもお手上げでしたかね。ちゃんとキャラに血を通わせない作者の責任を、俳優さんに放り投げないでほしいですよね。


 とまぁ、その他にもいろいろ申したいことはあるのですが、それでも、繰り返しますが中条あやみさんの若き日のかんばせをぼんやり鑑賞するぶんには全く問題ない作品でありますので、お好きな方はどうぞ、という感じで。私としては、中条さんの魅力の源泉だと確信している部分がばっちり画面に収められているカットもありましたので、特にその点に関して不満はございません。ほら、冬の福島が撮影の舞台だから、観ていて十二分に涼しくなれるし。
 それ以外にも、「ノーハンドで顔からきれいにぶっ倒れる、森川さん入魂の失神アクション」とか、「水中にただよう少女が一瞬で中条さんに成長する CG演出」とか、はっとさせられるカットはあったので、中古で DVDを購入した甲斐はあったかな、と感じております。

 あぁ! あと、この映画でロケに使われていた安積歴史博物館って、2022年の地震のせいで閉鎖中なんでしょ!? そうなっちゃうと、今となっては、その端整なたたずまいをふんだんにカメラに収めた本作も史料的な価値が出てきちゃうのかもしんない。そうならないように、一日も早く復旧再公開していただきたいものですが。再開したら絶対に行きます、安積歴史博物館!

 うら若き17歳だった中条さんもそうですが、映画制作時にはあって当たり前だったものはすぐに失われ、いつしかフィルムの中にしか残っていないものになっていくんですねい。しみじみ!

 私も、一日一日の出逢いを大切に感じて生きていこう! 分不相応にしゃしゃり出ることなかれ……本日の教訓ヨ!!
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わかるのに4年かかりました ~小説『ゴジラ シンギュラポイント』いまさら感想~

2025年07月12日 23時03分43秒 | 特撮あたり
 え~、どもどもこんばんは、そうだいでございます。毎日毎日、あっちぃっすね……
 もういい加減、私の住む東北地方南部も梅雨明けしていいでしょっつうか、もう明けてんじゃなかろうかという疑惑も濃厚なのですが、夏が始まったとしか思えない猛暑がすでに始まっております。日差しが実にキツイ!

 「夏」と言えば、辻村深月先生原作の映画『この夏の星を見る』(監督・山元環)が今月の4日からついに公開……されてるはずなのですが、なんと私の住む山形県では公開予定日が1ヶ月後の8月16日からということになっとりまして……もう夏も後半じゃねぇかァ!
 しかも、私の経験では県庁所在地の山形市(映画館は3館)で公開されてなくても、お隣の天童市のイオンシネマではやってるというフォローがあったのですが、今回は私の家から100km くらい遠くにある鶴岡市の映画館でしかやる予定がないというていたらく。なんじゃ、このひどい扱いは!? ダメだずねぇ~!
 まぁ、しょうがないので来月のお盆明けに1泊で温泉かどっかに泊まりつつ映画を観るというステキな旅行の口実にさせていただきました。やったぜ~。今年のお盆はあんまり休めなさそうな気配がしてるんで、ちょうどよかったっすよ。鶴岡市の「まちなかキネマ」っていう映画館も、いつか行きたいと思ってたんで好都合!
 映画そのものを観るのはしばらくお預けなのですが、楽しみにしつつ7月を乗り切っていこうと思うとります。ま、暑い暑い言ってるうちにあっという間に8月も過ぎるでしょ。


 そんでもって今回は、そういった2025年のつれづれとはまっっっったく関係のない『ゴジラ シンギュラポイント』の小説版を最近やっと読み終わったよ、という話のまとめでございます。予想通り、前回は設定資料とおまけを並べるだけで終わっちゃったし……ちゃっちゃといこう!

 2021年の春から夏にかけて TVアニメシリーズとして放送されていた『ゴジラ シンギュラポイント』でしたが、「シリーズ構成・円城塔」という大看板にたがわず、その内容はなんとあの、「昭和ゴジラシリーズ最大の鬼子」ともいえる「正義の巨大ロボット・ジェットジャガー」を科学的に説明のつく存在に仕立て上げて、さらにはゴジラによる世界崩壊を止める最期の希望にするという、とんでもないチャレンジに挑む大野心作だったのです!
 いや~、これには放送当時の私も、毎週毎週固唾をのんで見守っておりました。まさか、よりによってゴジラシリーズの中でも最も触れ方の難しい「禁忌きっず」ジェットジャガーを真正面からフィーチャーするとは……その心意気や、最高なり!

 リアルタイムで視聴していた頃は、正直言ってお話について行くのが精いっぱいで、紅塵とかオーソゴナル・ダイアゴナライザーとか謎のインド民謡『 ALAPU UPALA』とかの聞きなれない要素に翻弄されまくりだったのですが、実はそういったディープな SF&ミステリー的な流れとバランスを取るかのように、往年のゴジラシリーズのスター怪獣のゲスト出演も散りばめられていて、少なくとも定石ハズしばっかりで終わってしまった感のあるアニメ映画版『ゴジラ』3部作とは比較にならない満足度がありました。さすがに、私が最も愛する三つ首のあのお方までは出られませんでしたが(小説版では……?)、メカゴジラを出すようで全く出さなかったアニゴジへの当てつけのように、最終話の最後の最後で起動メンテ中のロボゴジラを見せたサービス精神は素晴らしかったと思います。エンディングアニメもお遊び感いっぱいでしたよね!

 正直申しまして、このシンギュラポイント版のゴジラのデザインは非常に個性の際立ったもので、私も今もって「好き」とは言えないクチなのですが、それはもうムッキムキの外国人力士にしか見えないアニゴジ版やハリウッド版のゴジラも同じことなので(異様に小顔なマイゴジも好きじゃないです)、そこはもう何も申しますまい。それ以外の幼体ゴジラたちとかアンギラスとかのリデザインは素晴らしかったですよね。ムビモンのソフビ、ゴジラ・ウルティマとサルンガ以外は全部買いましたよ~。マンダはちょっと深海魚っぽくなって気持ち悪かったけど。ラドンはなんか平成以降のギャオスみたいなポジションになってましたね……数はいいから、強いのを1頭ドンっと出してほしかった! ちっちゃいのがひと山いくらっていう出演の仕方って、やらされたラドンさんやギャオスさんはどんな気分なんですかね……ラドンさんなんて、来年で芸歴70年なんだぜ。

 とにもかくにも、本作は物語の芯の部分を、あの日本を代表する前衛 SF小説家の円城塔さんが手がけているということで、ちょっとするとインターネット上の AIが意志を持ち始める過程や、日本の房総半島と東京を舞台にした怪獣災害と、そこから遥か遠く離れたインドの地下秘密基地での動向が同時進行で語られる多角的視点、そして何よりも主人公のメイとユンの2人が全く直接には出逢わずにネット上で連絡を取りながら各自で解決策を模索していくという徹底したリモート展開がかなり複雑に交錯しているので、放送しているエピソードを1回でも、いや、1分でも見逃すとついていけなくなる可能性のある、TVシリーズとしては非常にハードルの高いクオリティの作品、それこそが、この『ゴジラ シンギュラポイント』だったのです。今振り返っても、よく最終回までやりきって完結させたな、というギリギリな構成だったと思います。
 これはやっぱり、一見かなり面食らいがちな円城塔先生の世界観を、ゴジラをはじめとした非常に認知度の高い東宝怪獣たちのリニューアル復活や、加藤和恵さんと石野聡さんによるかなり見やすいポップなキャラクターデザインで、用意周到に何重にもくるんで娯楽作品に仕上げたという作戦が成功したのではないでしょうか。まさにこの作品は、円城塔ワールドの骨格と東宝ゴジラシリーズの血肉、そのどちらが欠けても面白くならない理想的なコラボレーションだったのです。なんと言っても、まず骨組みに円城塔を招聘するというギャンブラーな姿勢が最高ですよね! 安易なお祭り作品にはしないぞという。

 作品の内容について考えてみますと、本作は、物語のパターンでいえば典型的な「歴代怪獣総登場もの」と言えると思います。

 1954年の初代『ゴジラ』いらい70年以上続いているゴジラシリーズ、というか日本の特撮作品の歴史なのですが、非常にざっくりと内容で分類しますと、以下の5種類に分けることができるのではないでしょうか。もちろん、2つ以上の分類がミックスされている作品もいっぱいあるので、人によっては違う解釈になる作品もあるのでしょうが、わかりやすい作品を例に挙げますと、


A、単体怪獣の災害もの …… 『ゴジラ』(1954年)、『ゴジラ』(1984年)、『シン・ゴジラ』(2016年)、『ゴジラ -1.0』(2023年)など

B、2大怪獣の対決もの …… 『ゴジラの逆襲』(1955年)、『キングコング対ゴジラ』(1962年)、『ゴジラ VS キングギドラ』(1991年)、『ゴジラ×メカゴジラ』(2002年)など

C、地球怪獣 VS 侵略者もの …… 『怪獣大戦争』(1965年)、『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』(1972年)、『大怪獣総攻撃』(2001年)、『キング・オブ・モンスターズ』(2019年)など

D、歴代怪獣総登場もの …… 『怪獣総進撃』(1968年)、『ゴジラ ファイナルウォーズ』(2004年)、小説『ゴジラ 怪獣黙示録』(2017年)、『ゴジラ シンギュラポイント』(2021年)など

E、主人公の成長ファンタジーもの …… 『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』(1967年)、『オール怪獣大進撃』(1969年)、『小さき勇者たち ガメラ』(2006年)など


 どうですか? これに沿って好きな特撮作品を考えてみると面白いですよね? 意外と数種類のハイブリッドになってる作品がほとんどですが。

 今回の『シンギュラポイント』も、私は Dタイプだと言いましたが、よくよく考えてみると主人公チームおよびジェットジャガーの成長物語ということでE ともとれるし、他の怪獣たちに比べて明らかにゴジラだけが別格に恐ろしい脅威になっているので、ゴジラ一強という意味ではA ともいえるわけなんですよね。最終話でのゴジラ VS ジェットジャガーの決戦の構図はB の醍醐味だし……結局ほぼ全部じゃねぇかァ!!

 まぁまぁ、かくのごとく、この『ゴジラ シンギュラポイント』という作品は、おなじみの東宝スター怪獣たちが新たなスタイルでアップデートされるお祭りタイトルでありながらも、様々な面で前代未聞な挑戦をしている、ものすごい野心作なのでございます。まずジェットジャガーをゴジラの相手にしているという時点でとんでもないことですし! これ、言うまでもなく『フェス・ゴジラ4 オペレーション・ジェットジャガー』(2023年)の前の作品ですからね。

 本作が、ただの歴代怪獣総登場ものの更新にとどまらないことは、作中で明に暗に示されたさまざまな設定を見てもあきらかなのですが、パッと思い出せるものを挙げるだけでも、

1、出現する怪獣たちに明らかなフェイズと棲み分けが存在する。
2、ゴジラが成長に合わせて形態変化する。
3、怪獣たちが常識外なスピードで巨大化する理屈が「紅塵」で説明される(そしてジェットジャガーも!)。
4、怪獣たちの出現で世界の秩序が崩壊する過程が克明に描かれている。
5、「1954年に回収された巨大生物の骨」という謎が通底している。

 というおもしろ要素があるのです。お話が特撮でもあり SFでもあり、ミステリーでもあるんですよね。
 これらの一つ一つを見てみると、全てが過去のゴジラシリーズ作品へのオマージュだったり、あまり詳細に触れられなかったモヤっとした部分にあえてスポットライトを当てるような、過去に残された宿題への回答だったりしていることがよくわかります。単に円城塔先生がゴジラシリーズという食材の調理に挑みましたという話じゃなくて、先生、そうとう前から食材がどの土地でどう生まれ、どう育ち実ったのかを綿密に調べ上げた上でキッチンに立ってるなという気迫がひしひしと伝わってくる陣容になっているんですね。ただ仕事を受けたから、自分のやりたいようにやってるんじゃねぇんだぞと!

 上のポイントの2、は明らかに『シン・ゴジラ』でのゴジラの「蒲田くん」や「品川くん」形態を意識した設定であると思われるのですが、それだけに留まらず、「水生(魚類)」→「半陸生(両生類)」→「陸生(爬虫類)」→「完全ゴジラ」というふうに、地球上の生物の進化過程を超高速で追ったものになっているのが興味深いですね。鳥類はラドン、節足動物はクモンガに任せてんのかな……本来は陸海空オールオッケーな究極怪獣だったはずのバラダギ様が、なんかカエルみたいなぺたぺた四足歩行をしていたのはおいたわしくもありましたが、まぁこういう作品にゲスト出演できただけでも儲けものでしたよね。本来は護国聖獣にもなるはずだったのに……

 ポイントの4、に関しては、これはもう「そこを映画でやれや」という全特撮ファンからの総ツッコミを受けていた、アニゴジの前日譚的小説『怪獣黙示録』(2017年)をあらためてちゃんと映像化したという、ファンの留飲を大いに下げる粋なはからいだったと思います。当然ながら、『怪獣黙示録』のほうは「人類がゴジラによって地球から追い出される」という最悪の結果を招いてしまったわけなのですが、メイやユン、そしてジェットジャガーの大活躍によって、そこまでいかずにおよそ2ヶ月間ほどの世界的大混乱で済んだのは、非常に幸運だったと思います。ほんと、本作のゴジラ・ウルティマもほっといたらアニゴジのゴジラ・アースみたいになってたんでしょうね……そういえば、本作の最終話でサプライズ出演していたロボゴジラも、その昭和メカゴジラを彷彿とさせる正統派的なデザインからして、アニゴジが不必要に生んでしまったメカゴジラファンの方々の怨念に配慮したサービスだったのではないでしょうか。メカゴジラを怪獣型でなくするという発想自体はぶっ飛んでて好きなんですけど、ね……

 ポイント1、もけっこう面白い設定なんですよね。これは、『怪獣総進撃』やハリウッド版ゴジラのモンスター・ヴァースの世界観を大いに意識したアイデアなのではないでしょうか。
 ここは小説版でかなり明確に強調されている部分なのですが、本作に出現する怪獣たちは、全てがゆるやかな「連携」をとって地球に進出しているという特徴があります。要するに、それまでの過去の同じ分類の諸作は、たまたま同じ時期に全く性質も出現した理由も違う怪獣が世界各地に並び立って(中には X星人のような侵略者の意志で動いているものも混じっていますが)、会ったらなんとなく縄張り争い的なノリで闘うといった設定どまりにしていたように見えていました。ところがこの『シンギュラポイント』に登場する怪獣たちは、まるで全員が「紅塵」という全く新たなエネルギー体の先兵もしくは触手であるかのように、地球の陸海空にそれまであった古いエネルギー(生き物)を破壊するという同じ目的で動いているように見えるのです。そして、そこを小説版はさらに明確にし、「怪獣たちが会話しないまでも、意志のレベルで通じ合いながら各自で成長・活動している」とみられる描写も明らかにしているのでした。これは要するに、あの怪獣たちが『エヴァンゲリオン』シリーズ(旧もシンも)における使徒のような関係にある、ということなのではないでしょうか。新しいですね!

 とは言いましても、作中でもマンダとゴジラ・アクアティリス、ラドンとゴジラ・ウルティマあたりが闘っている描写もあったにはあったのですが、これはどっちかというと「喰うものと喰われるもの」の関係がはっきりした、肉食動物と草食動物のからみのような絶対的な論理(ゴジラが勝つに決まってる)の上で行われている日常の風景のようなもので、『キング・オブ・モンスターズ』のラドンのように「あわよくばオレが怪獣王に!」などという面白すぎる個性があるものでないことは明白でしょう。
 つまり、そういった小競り合いはあったとしても、怪獣たちが構成する「新たなる生態系」自体が一つの脅威となって旧世界を侵略しているという状況に変わりはないわけで、「勝った方が我々の敵です」じゃなくて、「闘っている場そのもの」が地球の敵なのです。よそでやっとくれ!!

 そして3、と5、のポイントに関してなのですが、東宝特撮映画の世界ではもはや問答無用の常識となっている「身長50m 以上の巨大生物がいきなり海の中や地面の下から出現して暴れ回る」という現象が、この地球上という条件下でどこまで「科学的に」説明できるのか。ここをリアルに追求するために必要だったのが「紅塵」という SF要素であり、その一方で、「開発者もそんな機能を搭載した覚えがないのに身長1.8m から50m に瞬時に巨大化して怪獣たちと闘う正義のロボット」という、理屈もへったくれもない渾沌ロボット・ジェットジャガーの「科学的説明」に真正面から挑戦したのが、自律型 AI「ペロ2」と「ユング」が合体することによって現出した究極の特異点「シンギュラポイント」だったわけなのです。
 とにかく、ポイント3、で強く伝わってくるのは、円城塔先生の「なんとなく、でかい怪獣が出てきて暴れる」という特撮界の理屈にならない「聖域」の存在を頑として許さない執念であると思います。シロナガスクジラよりも巨大な生物が、何の進化体系も経ていないのに、その巨体を陸上の重力にも耐えうるようにするための大量のエサの担保も得ていないのに、いきなりぬっと出てきて歩き回る……それも、形状も生態も全然ちがうやつらが何頭も、ほぼ同時に!

 こんなこと、科学的にあり得るはずがない……だったら、どうしたら科学的に説明できるか、考えてみよう!!

 ここよ! この、否定を否定で終わらせずに、どうやったら肯定できるのかを追究するという心意気ね! この漢気に惚れた!! この思考実験は、まさしく円城塔先生のような天才のみに許される「神のたはむれ」ですよね。

 比較するのも円城塔先生に対して失礼なのですが、これはいわゆる「昭和特撮ドラマのヘンなところ」をくさし、嗤ってバカにしていた『スーパージョッキー』くらいに端を発する平成の時代よりも、それこそ13フェイズくらい上の高みに飛翔した領域だと思います。予算の都合とか脚本制作の納期とか、そりゃもういろんなキッツい制約の中で、昭和の先人たちは綺羅星の如き珠玉の作品群を毎日毎週毎年のように汗水たらして創造してくれていたわけなんですよ。
 それをなんですか、「ゴジラはそんな体重じゃ絶対歩けない」とか、「ゼットンが火球を吐いたら地球どころか宇宙が崩壊する」とか、「ウルトラマンが空を飛んだら一瞬で身体がバラバラになる」とか、たかだか20世紀末程度の科学知識を持ちだしてダメだししまくりやがって……いや、私だって子どもの頃に柳田理科雄先生の本、めっちゃ夢中になって読んでましたけどね。

 まぁともかく、円城塔先生の『ゴジラ シンギュラポイント』の世界は、今まで「よくわかんないけど、あって当たり前のもの」というボンヤリした焦点の当て方にとどまり続けていた「怪獣」の存在を思いッきり白日の下に引きずり出してリアルなものにしてみる、という試みの場であったわけなのです。この知的冒険のたのしさよ!
 本作では、現実には存在しない未知の物質「紅塵」を用いてもろもろの怪獣問題を説明していたわけなのですが、地球の中で生まれたこの物質を中心にすえて物語を進めていた以上、そんな円城塔先生が、もしも地球の理屈を超越した「宇宙怪獣」を描くとしたら、どうなるのか!? そんな期待感もわいてきちゃいますよね。ヘンな形の魚どまりじゃなくて、先生が本意気で暴れ回らせるおギドラさまも、是非っとも読んでみたいナ~!!

 さてさて、そんな感じで物語の「はじまり」の原動力として円城塔先生がもちいたポイント3、だったわけなのですが、その一方で広がりに広がったこの世界観を回収し終結させる「おわり」の力こそが、残るポイント5、であったわけなのです。

 これはもう、詳しくはアニメ版と小説版を楽しんで、その「謎の骨」の正体を知っていただくに如くはないわけなのですが、ここで考えなければいけない問題こそが、本作『ゴジラ シンギュラポイント』が、「ゴジラと核兵器」の関係を全く描いていない珍しい作品である、ということなのです。

 そうなんです、本作では、ゴジラがあの身長50m 以上という巨体を保ち、口からとてつもない破壊力の光線を吐く理屈に関して、「核や放射能の影響で、古代生物の体質が大きく変異してそうなった」という説明が一切なされていないのです。ただし、本作の世界観で核に関する描写が全く無いのかというとそうでもなく、最初に出現した怪獣ラドンの体内に放射性物質が残留していたり、世界的な怪獣出現現象に混乱した大国が、核兵器で怪獣を駆除しようと画策したりと(結局未遂に終わる)いう言及もあるにはあるのですが、ともかく本作においてゴジラがゴジラであることに、核や放射能はまるで関係が無いのです。
 ゴジラと核の関係に関しては、1940年代以降の「現代科学の暴走による核兵器の開発競争の影響で生まれた怪獣ゴジラ」という構図は、実はすでにハリウッドのモンスター・ヴァース版(2014年~)のゴジラや、日本のアニゴジ三部作(2017~18年)のゴジラの時点で取り払われているのですが、それでもそれ以外の理由でゴジラが体内に大量の放射能を保有しているという性質は残されていました。人類の科学とは関係のない大自然の摂理で「地球由来」の放射能を身にまとっている、といった背景ですね。

 放射能と関係のないゴジラ。ちょっと、1954年の映画第1作の内容を思い出すだに、その発想はさすがにないんじゃないかと苦言を呈したくなる『シンギュラポイント』版のゴジラであるわけなのですが、これには円城塔先生らしい、ちゃんとした理由があるのではないかと思うのです。

 それは、1954年版『ゴジラ』が濃厚に語る「被害者ゴジラの物語」と、『シンギュラポイント』が表裏一体の存在であるために、それ以外の第2作以降で何度も使用され常態化していた「怪獣が強く巨大である理由としての核」を徹底的に排除する姿勢のあらわれだったのではないでしょうか。

 1980年代生まれの私なんかは、それこそ『VS ゴジラ』シリーズを産湯にして育ったような世代なので特に強く感じるのですが、1954年の『ゴジラ』以外の特撮作品の世界における核や放射能というものは、それが本当にシャレにならない悲劇性を秘めたものであるがゆえに、その恐怖を直接描くことはせずに、「なんだかわかんないけど怪獣を強大化させる理由の説明」で使われることが多かったのではないでしょうか。特に『ゴジラ VS キングギドラ』(1991年)におけるゴジラの「身長100m 化」の経緯などでの核の扱いなどはその最たるもので、1954年版『ゴジラ』の直接的な続編を標榜していた『ゴジラ VS デストロイア』(1995年)でさえ、ラストのあの有名な「オチ」では、放射能が非常にご都合主義的に物語を一件落着(?)させるための道具としてしか扱われていなかったではないですか。ま、あれはあれでフィクションなのですからいいのですが……

 核や放射能が怪獣を強化させるという理屈は、ゴジラシリーズだけでなく、特撮作品で反核を強く訴える代表例と言えばこれ、とすぐにその名が挙がる、『ウルトラセブン』第26話『超兵器 R1号』(1968年3月放送)でも、人類の科学力では殺すことのできない不死の怪獣「ギエロン星獣」が誕生するために利用されていました。有名なダン隊員のセリフ「血を吐きながら続ける、悲しいマラソン」に象徴されるように反核・反軍拡のメッセージ性の強烈なこのエピソードでさえ、「怪獣を思いきり強くするパワー源」と曲解できなくもない道具として核兵器が扱われていたのです。

 こういった、エンタテインメント作品である以上仕方がないとはいえ、そこらへんの「核と放射能」に関する特撮業界のなぁなぁ解釈がなかば伝統化していた状況もまた、円城塔先生は決して許せなかったのではないでしょうか。その結果として、怪獣、特にゴジラに核の匂いをまとわせないという決断に出たのでしょう。怪獣を巨大化、出現させる理由に核や放射能は一切使わないと。

 つまり、『シンギュラポイント』における核や放射能の意図的な「無視」は、特撮作品の伝統が生まれるべくもなかった1954年の特異点『ゴジラ』で描かれていた、左手もまともに動かせず両目の焦点も合わず、全身ケロイドだらけで尻尾を無様に引きずりながら上陸してきた初代ゴジラの「核実験の被害者」としての姿を真に尊重するがゆえに、そこに全く手を付けないという判断をとった姿勢のあらわれだったと思うのです。
 そして、尊重するがゆえに、その1954年版『ゴジラ』の物語を、『シンギュラポイント』完結のカギに結びつけたと。具体的にどう結びつけたのかは、是非ともアニメか小説をどうぞっつうことで! やっぱり、芹沢大助博士はすげぇんだなぁ!!


 まま、こんな感じで『ゴジラ シンギュラポイント』のものすごさを、今さらながら円城塔先生の小説版を読んで再認識した次第なのでございました。いやぁ、さすがは先生。
 これだけ精密な作品であるだけに、おそらく最終話でにおわされた「続編」が制作される可能性は限りなく低いような気もするのですが……円城塔先生が描く「2頭目のゴジラ」とロボゴジラの対決、観てみたいよねぇ~!! 正直、『ゴジラ -1.0』の続編よりも観てみたい。
 ただ、本作でここまでたくさんの要素を盛り込んじゃった以上、続きをやるとしたらどうしたって「宇宙怪獣」という魔境に手を出さざるを得なくなるだろうし。どうなっちゃうんでしょうかねぇ!? ここらへんのキングギドラ、ガイガンまわりの新解釈って、もうアニゴジの世界でやっちゃってるからなぁ。ハードルが高くなってるぞ~。

 円城塔ワールドの次なる特撮世界、気と首をなが~く3本にして、待ってま~す☆ ぴろぴろぴろ~。
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わかるのに4年かかりました ~小説『ゴジラ シンギュラポイント』いまさら資料編~

2025年07月10日 20時46分12秒 | 特撮あたり
『ゴジラ シンギュラポイント』(2021年4~6月放送 全13話 TOKYO MX ほか)
 『ゴジラ シンギュラポイント』は、ボンズおよびオレンジの共同制作による SF特撮 TVアニメシリーズ。TOKYO MX、BS11、Netflix にて放送・配信された。
 「ゴジラシリーズ」としては2017~18年に公開されたアニメ映画『 GODZILLA』三部作以来となるアニメ作品であり、日本で制作されたゴジラ作品では初の TVアニメシリーズである。
 本作は、第53回星雲賞(メディア部門)を受賞した。

 監督を担当した高橋敦史は、映画『ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』(2017年)での、原作マンガに基づきつつ物語を一から作る点や、SF要素を盛り込みつつエンターテインメントとしても成立させたアプローチから抜擢された。
 シリーズ構成を手がけた円城塔は、SF要素を組み込みつつ設定のリアリティを重視できることと、SFアニメシリーズ『スペース☆ダンディ』(2014年)で高橋と製作した経験があることから声がかかった。円城は当初、SF考証の監修としての参加であったが、設定と考証の繰り返しの末に別の脚本家への依頼が難しくなったため、ストーリー全体の構成と全話の脚本執筆を兼ねることとなった。この他、高橋とはスタジオジブリ作品、『青の祓魔師』、『ドラえもん』などで面識のあった山森英司、加藤和恵、沢田完がそれぞれ主要スタッフとして参加している。

 本作は、アニメ映画『 GODZILLA』3部作(2017~18年)との差別化や、完全な SFに振るかファンタジーに寄せるかで議論が重ねられたが、最終的には円城のアイデアを元にして、2030年の日本という現実の延長線上にある世界観を舞台に、天才的な才能をもった一般人の主人公2人が周囲の人間と協力してゴジラの脅威に立ち向かう本格的 SF作品となった。

 本作の主人公たちは頭脳でゴジラに対抗する設定だが、これは過去のゴジラシリーズの主人公の多くが非戦闘的なタイプであったことや、作品に謎解きの要素を加えようとした高橋の提案による。また、本作のゴジラはシリーズ初となる核エネルギーとは無縁の存在となっている。
 当初、円城の提示した脚本は映像化するには情報量が多く難解な部分もあったため、アクションやロボット、過去の東宝作品の表現といった要素を加えることで、受け手に配慮した作品作りが行われている。


おもなスタッフ
監督 …… 高橋 敦史(48歳)
シリーズ構成・SF考証・脚本 …… 円城 塔(48歳)
キャラクターデザイン原案  …… 加藤 和恵(40歳)
キャラクターデザイン・総作画監督 …… 石野 聡(50歳)
怪獣デザイン …… 山森 英司(53歳)
音響監督   …… 若林 和弘(56歳)
音楽     …… 沢田 完(53歳)
制作     …… ボンズ、オレンジ
主題歌『 in case...』(歌・BiSH)
エンディングテーマ『青い』(歌・ポルカドットスティングレイ)


小説『ゴジラ シンギュラポイント』(2022年7月刊 集英社)
 TVアニメシリーズ『ゴジラ シンギュラポイント』の構成・SF考証・脚本を担当した円城塔による小説。物語はジェットジャガーユング&ペロ2のナラタケ側と怪獣側の視点から語られ、本作におけるゴジラの目的や「ミサキオク」の地下に保管されていた骨の秘密などの詳細をうかがい知ることができる。なお、本作の時間設定は「2030年7月」となっており、作中では逃尾市の伝承の中に、ゴジラやラドンの他にヘドラらしき緑色の怪獣もいる言及がある。


おもな登場人物、キャラクター、怪獣、専門用語(キャスティングは TVアニメシリーズのもの)
神野 銘(カミノ メイ)…… 宮本 侑芽(24歳)
 本作の主人公のひとり。存在しない物質で構成された存在しない幻想生物を考える学問「ビオロギア・ファンタスティカ」を研究する大学院生。明るく朗らかな性格だが、物忘れが多いなど天才らしからぬ抜けた側面も持つメガネ女子。
 国際会議で不在だった笹本教授の代理として、旧嗣野地区管理局「ミサキオク」で突如鳴り始めたアラームの原因を調査依頼されたことが契機となり、ゴジラら怪獣たちとの戦いに関わる。

ペロ2(ペロツー)…… 久野 美咲(28歳)
 銘が、オオタキファクトリーのホームページからパソコンにダウンロードしたユン開発のコミュニケーション支援AI「ナラタケ」から生まれた犬型人工知能。銘のパソコンに住み着き彼女をサポートするが、メイの研究ノートを勝手に共著『幻想生物学序説』としてアップしたり明らかに独自の自我が芽生えているかのような動きを見せる。オオタキファクトリーの作業用ロボットにハッキングしてボディを操り、ラドンに襲われていた銘たちを助ける。

有川 ユン …… 石毛 翔弥(30歳)
 本作の主人公のひとり。何でも屋の側面も持つ町工場「オオタキファクトリー」に勤務するエンジニア兼プログラマー。24歳。プログラミングやロボット製造など多くのことに精通し、「ナラタケ」に代表される高度支援AI を開発する。常に冷静だが人との接し方に難のある性格である一方、危機の際には自ら立ち向かう勇気を持っている。
 幽霊屋敷と噂される、とある無人の洋館の調査を行ったことがきっかけで電波を発する怪獣の存在を知り、銘と同様に怪獣と関わることになる。

ジェットジャガー(ユング)…… 釘宮 理恵(41歳)
 ペロ2と同様に「ナラタケ」から生まれた人工知能。ユンのスマートフォンにインストールされたことで個性化し、冷静な性格と優れた情報整理能力を活用してユンをサポートする。ジェットジャガーに移植されてからは、青空を見上げながらボディを得たことに思いをはせたり子どもの遊びに付き合ったりと、独自の感情や人格に近いものが形成され始めているかのような動きを見せている。

加藤 侍(カトウ ハベル)…… 木内 太郎(27歳)
 オオタキファクトリーの社員でユンの相棒。銘の高校時代の同級生であり、銘たちから「バーベル」とあだ名されるほど筋トレが趣味。
 ジェットジャガーを製作し整備・修理を行うほか、ラドンを誘き寄せるためにジャイロを改造した電波発信機をジェットジャガーに取り付けた。

大滝 吾郎 …… 高木 渉(54歳)
 「おやっさん」の愛称で呼ばれるオオタキファクトリーの社長。特許や資格、納品実績を多数保有する世界的科学者である一方、UFO や未確認生命体に目が無く、若いころから宇宙人襲来を予見して裁判沙汰を起こしてきた変人。ひらめきや勘に優れ、昔気質だが積極的に最先端技術を受け入れるところもあり、私財を投じてジェットジャガーを製造する。多くの怪しげな未確認生物を記録した古史料やゴシップ記事を収集している。

佐藤 隼也(サトウ シュンヤ)…… 阿座上 洋平(29歳)
 外務省から「ミサキオク」内偵の主任職員として出向してきた官僚。ミサキオクの地下に安置されていた巨大生物の骨の存在を知ったことをきっかけに、日本や世界各地で頻発する怪獣出現の原因を独自に探り始め、その過程で葦原道幸の過去を探ることになる。

鹿子 行江(カノコ ユキエ)…… 小岩井 ことり(31歳)
 外務省国際情報統括官組織第零担当情報分析員で佐藤の上司。陸上自衛隊の松原一佐とは旧知の仲。スティーヴンから持ち掛けられたアーキタイプ開発事業への出資を検討するために、葦原道幸を調査する。国家機密情報に詳しい。

海 建宏(カイ タケヒロ)…… 鈴村 健一(46歳)
 「独立自営ジャーナリスト」を自称し、SNS 上で動画チャンネル『極東怪獣チャンネル』を運営している素性不明の男。銘に接触して李からの招待状とアーキタイプを渡し、李のいるドバイへ行くよう勧めた。ラドンとアンギラスの調査を行いユンや侍と出会う。

李 桂英(リー ケイエイ)…… 幸田 夏穂(53歳)
 国際的合弁会社「シヴァ共同事業体」に出向している、計算化学を専門とする顧問研究員。葦原道幸の研究資料を基にアーキタイプ研究を行っている。ペロ2がネットにアップした銘の論文を見たことがきっかけで彼女を短期滞在型研究員としてドバイへ招聘し、彼女と共に葦原が残した「特異点」と「破局」についての謎を解こうとする。

松原 美保(マツバラ ヨシヤス)…… 志村 知幸(57歳)
 陸上自衛隊一佐。陸海空自衛隊の統合運用部隊である「怪獣対処統合任務部隊」に陸上自衛隊の代表として所属し、ゴジラ上陸後は駆除作戦の指揮を執る。妻との間に2人の息子がいる。物静かだが気さくな性格の男性で、外国語の習得能力が高い。

ティルダ=ミラー …… 磯辺 万沙子(63歳)
 シヴァ共同事業体の代表。李たちを利用して「オーソゴナル・ダイアゴナライザー」を開発する。人命よりも研究の完成を優先する非情な性格。

マイケル=スティーヴン …… 三宅 健太(43歳)
 ティルダに協力するイギリス保守第一党の政治家。何事も卒なくこなすエリート。自身はティルダと仲が悪く、海と協力関係にある。

葦原 道幸(アシハラ ミチユキ)…… 井上 和彦(67歳)
 ミサキオクの創設者。旧嗣野地区(現・逃尾市内)の漁村に生まれ、20歳代だった頃の1954年に巨大な生物が赤い海から出現し上陸する様子を目撃し、探し出した巨大生物の骨を研究、監視するためにミサキオクを設立した。50年前に紅塵やアーキタイプの研究を行っており、その際に「特異点(シンギュラポイント)」や「破局」と呼ばれるものを発見していたが、計算爆発を起こして現在は行方不明。

怪獣
 2030年に謎の音声電波が受信されたことを皮切りに確認されるようになった、既存の生態系を逸脱した巨大生物。円城塔の小説版では、すべての怪獣は個体や種に関係なく共通の記憶情報を共有しながらも互いに競合する関係であることが明かされる。太平洋マリアナ海溝と大西洋バミューダ海域から大量に発生した紅塵とともに出現し、海ではマンダ、沿岸部ではラドン、内陸ではアンギラスが群れを形成して世界全域の人類を襲った。それらの怪獣が定着した地域には、クモンガの群れも発生するようになる。

ゴジラ・アクアティリス
 本作におけるゴジラの第0形態。名前のアクアティリスはラテン語で「水生」の意味。
 深度900メートルの深海を速力50ノット(時速92.6km )で泳ぐ姿が潜水艦によって確認された。2030年7月29日に、東京湾内に侵入しようとしたマンダの群れを捕食しながら速力80ノットで東京湾に侵入し、8月9日に上陸する。モササウルスのような体型で四肢はヒレ状に、長い尾は先端に水かきの付いた尾ビレになっており水棲に適化している。ワニのように口吻が長く、触覚のように細いツノが頭部にある。表皮は赤く、通過すると付近の海は紅塵で赤く染まる。
 形態が『メカゴジラの逆襲』(1975年)に登場した水棲恐竜チタノザウルスに似ている。

ゴジラ・アンフィビア
 身長20m、全長50m。東京・築地に上陸したゴジラ・アクアティリスが陸生に適応した形態に変態した、ゴジラの第1形態。名前の「アンフィビア」はラテン語で「両生類」の意味。
 イグアナのような顔つきになり、四肢は爬虫類に似た形の脚となり四足歩行で進む。2030年8月10日に自衛隊の総攻撃を受けるが、口から -20℃以下の可燃性ガスを吐き、自衛隊の砲撃に引火して直径500m 範囲を焼き尽くし、爆風は直径4km に及んだ。さらに自分自身も爆炎に包まれ、炭化層の外殻に覆われたサナギのような状態になり活動停止する。体色は茶褐色で頭のツノの形状もアクアティリスから変化している。
 形態、特に頭部が『大怪獣バラン』(1958年)に登場したむささび怪獣バランに似ている。

ゴジラ・テレストリス
 身長30m。2030年8月20日に、サナギの状態となり活動停止していたゴジラ・アンフィビアが外殻を剥がして変態した、ゴジラの第2形態。名前のテレストリスは、ラテン語で「陸生」の意味。
 前脚は小さくなり後脚だけで立ち上がり二足歩行形態となっている。軟質の触手を体表から伸ばして自衛隊の砲弾を包み、爆発させて本体への衝撃を和らげるリアクティブアーマーのような防御能力を持ち、背ビレを青白く発光させながら口元に光の高熱リングを形成して吐き出す能力も見られる。角や尾ビレがなくなり頭部が小さくなっている。表皮は青い鱗状だが眉間から背ビレに沿って赤いラインがある。
 青みがかった体色と恐竜のような体型が、『キングコングの逆襲』(1967年)に登場した恐竜ゴロザウルスに似ている。光輪を口から吐く特徴は、ゴジラの幼体であるミニラへのオマージュである。

最強怪獣ゴジラ・ウルティマ
 身長50~100m 以上。2030年8月21日の自衛隊の総攻撃を受けたゴジラ・テレストリスが、翌22日に変態して究極の姿となったゴジラの第3形態。名前のウルティマは、ラテン語で「終わり」を意味する。
 千葉県逃尾市(にがしおし)で古くからその伝承が残っており、同市に太平洋戦争以前から存在する旧嗣野地区管理局電波観測所「ミサキオク」の地下には、ゴジラ・ウルティマの全身骨格が保管されていた。円城塔の小説版では、ゴジラ・ウルティマは当初このミサキオクにある同族の骨を完全破壊するために東京に上陸していたことが明らかにされた。
 自衛隊との交戦中にゴジラ・テレストリスから変態し、分厚い鎧が蛇腹状に重なったような強固な外皮で自衛隊の砲撃を寄せ付けず、背ビレと口内を青白く光らせ、口の前方に7つの光輪を放射して重力レンズで空間を1ヶ所に収縮させ、光輪の中央を貫くように熱線を発射し、東京を一瞬で火の海に変えた。紅塵をともなう生物共通の特徴である何重にも生えた歯が口腔内にあり、上アゴより下アゴの方が横幅が大きく張り出している。
 変態した直後はビルほどの大きさだったが、紅塵を吸収し続けて最終的に100m を超える巨体となった。人間ほどの大きさの巨大昆虫メガヌロンが背ビレ付近に寄生している。

電波怪獣ラドン
 体高5m、翼長10m。白亜紀後期の翼竜ケツァルコアトルスに似た飛行する怪獣。千葉県逃尾市で古来から残る伝承の中では、ゴジラと共にその存在が認識されていた。デンキウナギなどに見られる発電器官に類似した層状組織が細胞内にあり、胃に対応する器官がない。細胞組織から放射性物質ラドンが検出されたことが報道される中で、いつの間にか「ラドン」と呼ばれるようになった。鳴き声を使って高周波の電磁波を発信し、自身も特定の波長に反応する。獰猛な性質で動物や人間を襲い、電波に反応して電柱のトランスなどの電波の流れるものや電磁波を出すものを襲撃する習性があり、高音にも反応する。
 クチバシにはエラのような器官が発達しており、多数の歯が口腔内に密生している。後頭部のトサカは翼竜プテラノドンと同様に1本で、頭部や背ビレ、翼竜ランフォリンクスのような尻尾には半透明の被膜がある。
 2030年7月6日以降に数頭が千葉県逃尾市周辺で確認され、20日に2万頭を超える群れが赤く染まった房総半島南部沖の海中から出現し、身体から紅塵をまき散らしながら房総半島を襲撃した。その後、マリアナ海溝から出現した群れが環太平洋全域の沿岸を襲撃し、30日には大西洋バミューダ海域から出現した別の群れがアメリカ西海岸のニューヨーク、ワシントンDC、シカゴ、中米、南米大陸東岸を襲撃した。出現する時期によって個体の大きさや頭部の形状、体内器官の構造などが違う。

ジェットジャガー
 全高5.4m~。オオタキファクトリーが製造した搭乗型ロボット。オオタキファクトリーの社長である大滝吾郎が、「地球を守る活動」のために開発した。
 当初は千葉県逃尾市の逃尾商店街の七夕祭りの出し物として、胸部のコクピットで操縦するアトラクション仕様であったが、ラドン戦においてタブレットからの遠隔操縦ができるようにユンによってプログラムが再設定された。
 ラドン戦後に、損傷した下半身を作業用ロボットの三脚ホイールに接続し、バックパックには電波発信装置を取り付けた「ジェットジャガータンク」に改装された。アンギラス戦では捕鯨砲を武器として戦った。
 その後、さらなる修理改良によって大型の脚部に換装して全高7m に大型化し、制御AI としてユングを移植して戦闘に特化した無人機ロボットにバージョンアップされた。ユングとして会話することもできる。

未来予知怪獣アンギラス
 体高6m。ラドンの死体を求めて千葉県逃尾市に出現したと思われる、陸棲四足歩行の怪獣。背面部に大きな硬いトゲを無数に持ち、現実世界の生物の神経伝導速度では不可能な反応速度で動くことができる。前足は蹠行、後足は趾行と歩行形態が異なる独特な四肢を持ち、背中の装甲は尻尾の根元でツバメの尾羽根のように二股に分かれている。短時間で体長がさらに巨大化していた。最大の武器は、攻撃を受ける際に未来の危機を察知して体色が虹色に変化し、細かく背中のトゲを高速振動させることで敵の攻撃を跳ね返す能力と、高い跳躍力。
 2030年8月にはアメリカのニューメキシコ州でも群れが確認された。ラドンと同様に、群れによってトゲの数や形状、皮膚などの形態が大きく違っている。

マンダ
 全長210m。最高速力70ノット(時速約120km)で海中を泳ぎ、東京湾の浦賀水道沖で漁船を転覆させた、巨大なウミヘビのような海棲怪獣。東洋の龍に酷似した姿をしており、四肢と4本のツノ、2本の長いヒゲを持つ。全体的に爬虫類よりも魚類を彷彿とさせる形態だが、頭部付近についた短い前脚や赤いエラのような形状のヒレなどは、両生類のアホロートルを連想させるものとなっている。
 2030年7月27日に複数の個体が房総半島沖とドーバー海峡に出現し、群れを成して周囲を紅塵に染めながら隅田川やテムズ川を遡上していった。長い尾を武器とし、浦賀水道沖では13頭の群れが出現して漁船や海上保安庁のヘリコプターなどを襲った。8月にはアメリカ西海岸にも群れが出現した。

再生怪獣クモンガ
 全長2.8 m。2030年8月初めに東京湾沿岸の造船所に2体現れた虫型の怪獣。胴体部分が硬い甲殻に覆われて盛り上がり、クモというよりもヤシガニのような形態をしている。8本の脚のうち、特に巨大な2本の前脚は返しがついたトゲのような形状になっている。肉体を切断されても再生して活動を継続できる強い生命力を持ち、破壊された肉体を断面から溢れ出た体液で元の姿を形成させることもできる。その際に、ヘドラのような形状の新たな頭部と瞳が体液から形成されていた。群生して口から糸状の粘液を吐いて巣を作り、そこで捕らえた人間を繭のように糸で包み、体液を失ってミイラ化した状態の食料としてまとめて備蓄する。紅塵をまとわず、本作の中で唯一、人間を捕食する描写のあった怪獣。
 怪獣の中で最も現実世界に適化した種であり、現実世界の物質(人間など)を摂取して生命活動ができる反面、現実世界の法則性に縛られている。
 前脚がカマキリのように巨大な鋭い鎌状になった「カマンガ」形態、背中にトンボのような2対の羽を持ち飛行できる「ハネンガ」形態、クモンガ・カマンガ・ハネンガすべての性質を備える最強形態「ゼンブンガ」に変態できる。

モスラ
 ゴジラウルティマが出現した時に、翼長15cm ほどの大量の小さな個体が、紅塵に染まった空を舞っていた。小説版には登場しない。

メガヌロン
 ゴジラ・ウルティマの背ビレ付近に群生している、大人の人間ほどの大きさの巨大昆虫。
 小説版には明確には登場しないが、「ゴジラの体表にはまた新たな怪獣の幼体たちの姿が見え」という描写が存在する。

サルンガ
 体高7m、全長21m。シヴァ共同事業体が管理しているインド北方ウパラの研究施設の地下深くにあるアーキタイプ粒子の地底湖から出現した。
 丸いイボに覆われた緑色の皮膚を持ち、ヒヒとトカゲをかけ合わせたような姿をした四足歩行の怪獣で、猿のように長い四肢を持ち、四足歩行やナックルウォーク、鉄骨を飛び移ってよじ登るなど極めて高い運動能力を示す。性格は獰猛で攻撃的。サルンガの出現に合わせて紅塵も上昇し、さらに紅塵を煙幕のように使って身を守る様子から、紅塵をコントロールする能力も推測される。紅塵のエネルギーを吸収して巨大化し、最終的には体高10m を超えていた。
 名前の由来は、額の青い模様がヒンドゥー教の女神ヴィシュヌが使う天の弓「シャランガ」のように見えることから。

ブロブ / グレイグー
 ゴジラと共に出現した、紅塵を吸収して成長する植物怪獣。これらが自生する空間では時空間に歪みが生じる。小説版には登場しない。

ロボゴジラ( ROBOGODZILLA)
 対怪獣用決戦兵器。ミサキオクで発掘されたゴジラの骨格をベースに人工兵器で武装し、電子頭脳で制御されている。その製造にはスティーヴン、海、葦原が関係している。最終話のラストシーンにのみ、まだ起動していない状態で登場した。
 小説版には登場しないが、その代わりにエピローグで「三つの頭があってヒレが翼のように広がった金色の怪魚」が釣れたことを報じるスポーツ新聞の記事と、江戸時代末期の慶応二(1866)年に全身を固いウロコでおおわれたカメとイタチを合わせたような怪生物「豊年魚」が大坂の淀川に出現したことを報じる瓦版についての言及がある。

オーソゴナル・ダイアゴナライザー
 シヴァ共同事業体が開発した、アーキタイプの「フェイズ13」の段階にある存在。触媒のような働きを持ち、他のアーキタイプを結晶に変質させて分解・消滅させる性質がある。怪獣に対する唯一の対抗策として考えられているが、完成形でなければ完全な結晶化はできない。
 1954年版『ゴジラ』などに登場した超兵器オキシジェン・デストロイヤーに酷似した容器に入っており、略称も同じ「 OD」である。小説版では、オキシジェン・デストロイヤーとオーソゴナル・ダイアゴナライザーの関係が明らかにされている。

紅塵
 複雑な構造を持つ分子が集合してできた赤い砂のような物体。活性状態と非活性状態を持ち、通常の生物種の代謝系との反応が確認されない。
 後に、アーキタイプの13のフェイズのうち「フェイズ1」の段階のものであることが判明するが、サルンガがコントロールしたり、ラドンの生命活動を安定させるなど、ゴジラなどの怪獣がその巨大化した体躯と生態を維持するために必要なエネルギー源となっている。
 日本では、ラドンが出現した逃尾市のある房総半島南部沖の海域を赤く染め、漁業や農業に深刻な被害を与えた。

アーキタイプ
 紅塵を原料とする、従来の物理法則を超越した合成方法不明な新素材。強靭性や軽量性、優れた属性や剛性を備え、時には自己再生もすると言われ、エネルギー保存の法則を破るメカニズムを有する。時間逆行現象すら可能とする媒質で、過去へ送り込んだ光子を媒質に再度入射することでさらにエネルギーを増幅させることが可能とされており、李たちはこれを「葦原カスケード」と呼んでいる。

特異点(シンギュラポイント)
 ラドンをはじめとする未知の怪獣や紅塵が出現する、地球上の物理法則の破綻した正体不明の地点。60年前にインド・ウパラにあるシヴァ共同事業体の地下洞窟で発見されたが封印されていた。


 ……ヒエ~あいかわらず長くなってしまい大変に申し訳ございません!!
 あの、ごくごく簡単な私的感想文みたいなもんは、また次回に、ほんとにさらっと。
 やっと小説読めた……やっぱり円城塔はオモチロイなぁ!!


≪特別ふろく 更新しました!2025年度版・東宝怪獣の作品登場回数ランキング!!≫
※2024年3月公開のハリウッド映画『ゴジラ×コング 新たなる帝国』までの歴代東宝特撮映画と東宝怪獣の登場する特撮作品( TVアニメシリーズ『ゴジラ シンギュラポイント』も含む)と、小説『 GODZILLA 怪獣黙示録』(2017年10月刊)、『 GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ』(2018年4月刊)に複数回登場した怪獣をまとめ、その回数をランキング付けしています。
※登場した作品によって性質が全く異なる怪獣であったとしても、同じ名前の場合は同じ怪獣として加算しています(例:宇宙超怪獣と超ドラゴン怪獣、護国聖獣み~んないっしょ)。
※同じ作品内に複数個体登場した場合は「1回」とカウントしています(例:メガヌロンやカマキラスの群体、モスラの幼虫と成虫など)。
※同じ「ゴジラの幼体」として登場するミニラとベビーゴジラは、性質の違いから別の怪獣として区別しています。
※『ゴジラ シンギュラポイント』に登場したゴジラ幼体の各形態は、そのモデルとなった東宝怪獣のリブート出演とみなしカウントします(チタノザウルス、バラン、ゴロザウルスとする)
※『ゴジラ VS スペースゴジラ』(1994年)に登場したフェアリーモスラと、『ゴジラ FINAL WARS』(2004年)に登場したモンスターX / カイザーギドラは、それぞれモスラとキングギドラの形態の一つと解釈して合算しています。
※アニメ『 GODZILLA 』三部作に登場した異星人エクシフは X星人、ビルサルドはブラックホール第3惑星人として合算しています。
※2019年以降に展開している上西琢也監督の『 G vs.G』シリーズおよび中川和博監督の『フェス・ゴジラ』シリーズへの出演はカウントしません。面白いですけど!
※円谷プロのウルトラシリーズで有名な「東宝怪獣の着ぐるみの改造」によって造形された怪獣はカウントしませんが、『ウルトラQ 』第23話『南海の怒り』に登場した「大ダコ スダール」だけは、改造もへったくれもなくまんま同じ形態なので、例外としてカウントに入れました。まぁ、ハレのピン仕事だし、いいじゃないの……
※怪獣の名前の前につく肩書は、最初に登場した時のものを使用しています。
※2018年までの時点で1作品にしか登場していない怪獣は省略しています(例:ショッキラス、サルンガなど)
※過去作の映像の流用のみで新規撮影がない作品はカウントしていません。市販の玩具を利用して撮影された TVドラマ『ゴジラアイランド』(1997~98年放送)もカウントしていません。
※アメリカ映画が発祥となっている怪獣キングコングは、東宝特撮映画もしくはゴジラと共演した作品のみをカウントしています。また、ゴジラが登場していないモンスター・ヴァース作品『キングコング 髑髏島の巨神』(2017年)出身の怪獣(スカルクローラーなど)は東宝怪獣とみなさずカウントしません。

第1位 水爆大怪獣ゴジラ(41作)
 注意:ハリウッド映画『 GODZILLA』(1998年)に登場した怪獣は、強足怪獣ジラのほうに加算しています。あしからず……

第2位 巨大蛾怪獣モスラ(19作)
 『モスラ』(1961年)、『モスラ対ゴジラ』(1964年)、『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964年)『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』(1966年)、『怪獣総進撃』(1968年)、『ゴジラ VS モスラ』(1992年)、『ゴジラ VS スペースゴジラ』(1994年)、『モスラ』(1996年)、『モスラ2 海底の大決戦』(1997年)、『モスラ3 キングギドラ来襲』(1998年)『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』(2001年)、『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』(2003年)、『ゴジラ FINAL WARS』(2004年)、『 GODZILLA 怪獣黙示録』(2017年)、『 GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ』(2018年)、『 GODZILLA 星を喰う者』(2018年)、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019年)、『ゴジラ シンギュラポイント』(2021年)、『ゴジラ×コング 新たなる帝国』(2024年)

第3位 宇宙超怪獣キングギドラ(11作)
 『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964年)、『怪獣大戦争』(1965年)、『怪獣総進撃』(1968年)、『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』(1972年)、『流星人間ゾーン』(1973年)、『ゴジラ VS キングギドラ』(1991年)、『モスラ3 キングギドラ来襲』(1998年)、『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』(2001年)、『ゴジラ FINAL WARS』(2004年)、『 GODZILLA 星を喰う者』(2018年)、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019年)

同 スーパーロボット怪獣メカゴジラ(11作)
 『ゴジラ対メカゴジラ』(1974年)、『メカゴジラの逆襲』(1975年)、『ゴジラ VS メカゴジラ』(1993年)、『ゴジラ×メカゴジラ』(2002年)、『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS 』(2003年)、『GODZILLA 怪獣惑星』(2017年)、『レディ・プレイヤー1』(2018年)、『 GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ』(2018年)、『GODZILLA 決戦機動増殖都市』(2018年)、『ゴジラ VS コング』(2021年)、『ゴジラ シンギュラポイント』(2021年)

第5位 空の大怪獣ラドン(10作)
 『空の大怪獣ラドン』(1956年)、『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964年)、『怪獣大戦争』(1965年)、『怪獣総進撃』(1968年)、『ゴジラ VS メカゴジラ』(1993年)、『ゴジラ FINAL WARS』(2004年)、『 GODZILLA 怪獣黙示録』(2017年)、『 GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ』(2018年)、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019年)、『ゴジラ シンギュラポイント』(2021年)

第6位 暴竜アンギラス(8作)
 『ゴジラの逆襲』(1955年)、『怪獣総進撃』(1968年)、『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』(1972年)、『ゴジラ対メガロ』(1973年)、『ゴジラ対メカゴジラ』(1974年)、『ゴジラ FINAL WARS』(2004年)、『 GODZILLA 怪獣黙示録』(2017年)、『ゴジラ シンギュラポイント』(2021年)

第7位 知的宇宙人 X星人(7作)
 『怪獣大戦争』(1965年)、『ゴジラ FINAL WARS』(2004年)、『 GODZILLA 怪獣黙示録』(2017年)、アニメ『 GODZILLA 』三部作(2017~18年)、『 GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ』(2018年)

同 大宇宙ブラックホール第3惑星人(7作)
 『ゴジラ対メカゴジラ』(1974年)、『メカゴジラの逆襲』(1975年)、『 GODZILLA 怪獣黙示録』(2017年)、アニメ『 GODZILLA 』三部作(2017~18年)、『 GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ』(2018年)

第9位 海魔 大ダコ(6作)
 『キングコング対ゴジラ』(1962年)、『フランケンシュタイン対地底怪獣』(1965年)、『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』(1966年)、『ウルトラQ 』(1966年)、『戦え!マイティジャック』(1968年)、『 GODZILLA 怪獣黙示録』(2017年)

同 守護龍マンダ(6作)
 『海底軍艦』(1963年)、『怪獣総進撃』(1968年)、『ゴジラ FINAL WARS』(2004年)、『 GODZILLA 怪獣黙示録』(2017年)、『 GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ』(2018年)、『ゴジラ シンギュラポイント』(2021年)

同 大グモ怪獣クモンガ(6作)
 『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』(1967年)、『怪獣総進撃』(1968年)、『ゴジラ FINAL WARS』(2004年)、『 GODZILLA 怪獣黙示録』(2017年)、『 GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ』(2018年)、『ゴジラ シンギュラポイント』(2021年)

同 原始怪獣ゴロザウルス(6作)
 『キングコングの逆襲』(1967年)、『怪獣総進撃』(1968年)、『行け!ゴッドマン』(1972~73年)、『 GODZILLA 怪獣黙示録』(2017年)、『 GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ』(2018年)、『ゴジラ シンギュラポイント』(2021年)

第13位 妖虫メガヌロン、古代昆虫メガニューラ、超翔竜メガギラス(5作)
 『空の大怪獣ラドン』(1956年)、『ゴジラ×メガギラス G消滅作戦』(2000年)、『 GODZILLA 怪獣黙示録』(2017年)、『 GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ』(2018年)、『ゴジラ シンギュラポイント』(2021年)

同 地底怪獣バラゴン(5作)
 『フランケンシュタイン対地底怪獣』(1965年)、『怪獣総進撃』(1968年)、『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』(2001年)、『 GODZILLA 怪獣黙示録』(2017年)、『 GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ』(2018年)

同 かまきり怪獣カマキラス(5作)
 『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』(1967年)、『ゴジラ・ミニラ・ガバラ オール怪獣大進撃』(1969年)、『ゴジラ FINAL WARS』(2004年)、『 GODZILLA 怪獣黙示録』(2017年)、『 GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ』(2018年)

同 ちびっこ怪獣ミニラ(5作)
 『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』(1967年)、『怪獣総進撃』(1968年)、『ゴジラ・ミニラ・ガバラ オール怪獣大進撃』(1969年)、『行け!グリーンマン』(1973~74年)、『ゴジラ FINAL WARS』(2004年)

同 サイボーグ怪獣ガイガン(5作)
 『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』(1972年)、『ゴジラ対メガロ』(1973年)、『流星人間ゾーン』(1973年)、『ゴジラ FINAL WARS』(2004年)、『 GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ』(2018年)

第18位 むささび怪獣バラン(4作)
 『大怪獣バラン』(1958年)、『怪獣総進撃』(1968年)、『 GODZILLA 怪獣黙示録』(2017年)、『ゴジラ シンギュラポイント』(2021年)

同 大怪力怪獣キングコング(4作)
 『キングコング対ゴジラ』(1962年)、『キングコングの逆襲』(1967年)、『ゴジラ VS コング』(2021年)、『ゴジラ×コング 新たなる帝国』(2024年)

同 人造人間フランケンシュタイン、サンダ、ガイラ(4作)
 『フランケンシュタイン対地底怪獣』(1965年)、『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』(1966年)、『行け!ゴッドマン』(1972~73年)、『行け!グリーンマン』(1973~74年)

同 凶悪怪獣ガバラ(4作)
 『ゴジラ・ミニラ・ガバラ オール怪獣大進撃』(1969年)、『行け!ゴッドマン』(1972~73年)、『行け!グリーンマン』(1973~74年)、『 GODZILLA 怪獣黙示録』(2017年)

同 大亀怪獣カメーバ(4作)
 『ゲゾラ・ガニメ・カメーバ 決戦!南海の大怪獣』(1970年)、『行け!ゴッドマン』(1972~73年)、『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS 』(2003年)、『 GODZILLA 怪獣黙示録』(2017年)

同 強足怪獣ジラ(4作)
 『 GODZILLA』(1998年)、『ゴジラ FINAL WARS』(2004年)、『 GODZILLA 怪獣黙示録』(2017年)、『 GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ』(2018年)

第24位 ロボット怪獣モゲラ(3作)
 『地球防衛軍』(1957年)、『ゴジラ VS スペースゴジラ』(1994年)、『 GODZILLA 怪獣黙示録』(2017年)

同 巨大エビ怪獣エビラ(3作)
 『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』(1966年)、『ゴジラ FINAL WARS』(2004年)、『 GODZILLA 怪獣黙示録』(2017年)

同 公害怪獣ヘドラ(3作)
 『ゴジラ対ヘドラ』(1971年)、『ゴジラ FINAL WARS』(2004年)、『 GODZILLA 怪獣黙示録』(2017年)

同 昆虫怪獣メガロ(3作)
 『ゴジラ対メガロ』(1973年)、『 GODZILLA 怪獣黙示録』(2017年)、『 GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ』(2018年)

同 電子ロボット ジェットジャガー(3作)
 『ゴジラ対メガロ』(1973年)、『 GODZILLA 怪獣黙示録』(2017年)、『ゴジラ シンギュラポイント』(2021年)

同 伝説怪獣 キングシーサー(3作)
 『ゴジラ対メカゴジラ』(1974年)、『ゴジラ FINAL WARS』(2004年)、『 GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ』(2018年)

同 恐竜怪獣 チタノザウルス(3作)
 『メカゴジラの逆襲』(1975年)、『 GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ』(2018年)、『ゴジラ シンギュラポイント』(2021年)

同 ベビーゴジラ、リトルゴジラ、ゴジラジュニア(3作)
 『ゴジラ VS メカゴジラ』(1993年)、『ゴジラ VS スペースゴジラ』(1994年)、『ゴジラ VS デストロイア』(1995年)

同 ゴジラ細胞生物セルヴァム(3作)
 アニメ『 GODZILLA 』三部作(2017~18年)

第33位 南極怪獣マグマ(2作)
 『妖星ゴラス』(1962年)、『 GODZILLA 怪獣黙示録』(2017年)

同 宇宙大怪獣ドゴラ(2作)
 『宇宙大怪獣ドゴラ』(1964年)、『 GODZILLA 怪獣黙示録』(2017年)

同 怪鳥 大コンドル(2作)
 『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』(1966年)、『 GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ』(2018年)

同 合成怪獣グリホン(2作)
 『緯度0大作戦』(1969年)、『 GODZILLA 怪獣黙示録』(2017年)

同 大いか怪獣ゲゾラ(2作)
 『ゲゾラ・ガニメ・カメーバ 決戦!南海の大怪獣』(1970年)、『 GODZILLA 怪獣黙示録』(2017年)

同 大蟹怪獣ガニメ(2作)
 『ゲゾラ・ガニメ・カメーバ 決戦!南海の大怪獣』(1970年)、『 GODZILLA 怪獣黙示録』(2017年)

同 バイオ怪獣ビオランテ(2作)
 『ゴジラ VS ビオランテ』(1989年)、『 GODZILLA 怪獣黙示録』(2017年)

同 魔獣バトラ(2作)
 『ゴジラ VS モスラ』(1992年)、『 GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ』(2018年)

同 完全生命体デストロイア(2作)
 『ゴジラ VS デストロイア』(1995年)、『 GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ』(2018年)

同 魔海獣ダガーラ(2作)
 『モスラ2 海底の大決戦』(1997年)、『 GODZILLA 怪獣黙示録』(2017年)

同 宇宙怪獣オルガ(2作)
 『ゴジラ2000 ミレニアム』(1999年)、『 GODZILLA 怪獣黙示録』(2017年)
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あらためて立ち返ろう読書メモ 小説シム・フースイ Version 5.0『絶の島事件』

2025年07月03日 20時54分37秒 | すきな小説
 あぢぢぢぢ~。みなさまどうもこんばんは、そうだいでございます。
 いよいよ始まっちゃいましたね、7月が! 東北はまだ梅雨明けしてないんですが、日本の半分くらいはもう明けて夏に入ってるということで、猛暑日のニュースが毎日続いてますねぇ。こっから10月くらいまでが長いんだよなぁ!
 つい昨日のことなんですが、私の住む山形市の周辺でもものすんごいゲリラ豪雨が発生したそうで。私の自宅ではなんにも影響がなかったのですが、つい隣の市では道が冠水とか停電とか、ものすごかったそうです。でもいかんせん予測しづらいんでね……臨機応変に対処するしかありませんか。

 ちょうど、全国ニュースにもなったそのゲリラ豪雨が起きていた頃、私は映画館にいて、遅ればせながらデミ=ムーア主演の話題の映画『サブスタンス』を観ていました。
 いや~、なかなかエッジのきいた映画ですばらしかったです! 途中から、「これ漫☆画太郎先生の『ババアゾーン』の映画化だっけ?」と錯覚してしまうような凄惨な地獄絵図が繰り広げられていたのですが、もういくとこまでいって笑うしかないことになっちゃってましたね。デミ=ムーアさんの女優根性は5大陸に鳴り響くでぇ!
 内容はほんとに、『笑ゥせぇるすまん』とか『アウターゾーン』の一話でもおかしくないような因果応報の幻想譚なのですが、主人公の破滅の仕方のしつっこさがさすがハリウッドというか、徹底的な感じだったので、その突き抜け感があっぱれでしたね。いろいろツッコミたいところもあるのですが、メインの女優さん2人の全力演技とスピード感で押し切った感じ。
 よくよく見るとキューブリック監督の『シャイニング』(1980年)オマージュも露骨だし、画面が真っ赤に染まるクライマックスもピーター=ジャクソン監督の『ブレインデッド』(1992年)で観たことのある風景だし、比較するのはかわいそうですがデイヴィッド=リンチほどの映像美学も感じはしなかったものの、途中から迷走しまくりだったアリ=アスター監督の『ボーはおそれている』よりもずっとわかりやすくて好感の持てる一本槍スタイルだったので、スッキリ爽快な後味でした。でも、私が観た回は「終映時刻18:30」だったんですよね……夕飯の食欲わかねぇ~!!
 そういえば、最近は私、観る映画観る映画、客層が同世代かそれ以上の方々ばっかりで「わしも歳をとったのう……」とか慨嘆していたのですが、この『サブスタンス』を私が観た時の客層はみごとに私以外全員10~20代のわこうどばっかりで(そして8割女子)、しかも「わたし芸術系の大学生ですが、なにか……?」みたいなとんがった1人客が多かったので、日本の未来も明るいなと思いました。みんな、ルサンチマンもってこぉぜぇ!!

 さて、そんな前置きはさておきまして、今回はいよいよ、えっちらおっちら問はず語りで続けてきた「荒俣宏の『帝都物語』関連小説を読む」企画の中の風水ホラー小説「シム・フースイ」シリーズを読んでいく記事の最終回となります! いや~ついにここまできちゃいましたか!
 そういえば、このシリーズのレギュラーヒロインの有吉ミヅチさんも、ほんとにいたら絶対に『サブスタンス』観てるような気がする……ミヅチさんは1971年生まれだそうですから、もし実際に生きていたら54歳ですか。どこで何してるんだろうねぇ。


シム・フースイ Version 5.0『絶の島事件』(1999年10月)
 『絶の島事件』(たえのしまじけん)は、荒俣宏の風水ホラー小説。「シム・フースイ」シリーズの第5作。1999年に『鳥羽ミステリー紀行 どおまん・せいまん奇談』という題名で出版社ゼスト(ゲーム会社アートディンクの子会社)から単行本が出版され、2001年9月に角川書店角川ホラー文庫で文庫化された。
 本作は、2025年5月時点では「シム・フースイ」シリーズの最終作となっている。
 本作に『帝都物語』シリーズの登場人物は再登場しないが、主人公・黒田龍人の祖父・黒田茂丸が、幼少期の龍人に「気をつけろ。ドーマンセーマンに。この印をもつ者に、気をつけろ。」と語ったエピソードや、魔人・加藤保憲が使っていたと思われる五芒星の縫い取られたハンカチを黒田家が所有しているという言及がある。

あらすじ
 絶の島(たえのしま)。400年前に地震のため鳥羽の海に消えた、幻の島。
 1999年6月。この島を探し出してほしいとの依頼を受けた風水師・黒田龍人は、現地で九鬼水軍が残したといわれる秘宝の謎に巻き込まれる。果たして龍人と助手ミヅチは「どおまん・せいまん」の謎を解き、秘宝を見つけ出すことができるのか。


おもな登場人物
中村 元
 三重県鳥羽市の鳥羽水族館企画室長で、鳥羽水族館創設者の中村幸昭(はるあき)の娘婿。古代からの風水伝承をテーマにした鳥羽市の町おこしキャンペーンの監修を黒田龍人に依頼する。真夏日にもスーツとネクタイを欠かさない、よく日焼けした角ばった顔の小柄な紳士(ミヅチよりも背が低い)。個人的に5千万円の借金に苦しんでおり、そのために鳥羽湾内にある小島「ミキモト真珠島(旧名・相島)」にある「真珠博物館」で発生した宝石盗難事件の被疑者の一人として鳥羽署にマークされている。もとは鳥羽水族館でアシカやイルカ、スナメリのトレーナーをしていた。

志多 勝彦(しだ かつひこ)
 鳥羽駅前のショッピングビル「鳥羽一番街」社長。丸顔で嫌味の無い若手経営者。警察沙汰を起こしながらも強引に町おこしキャンペーンを進める中村を不安視している。

松月 清郎
 真珠博物館の学芸員。銀縁のメガネをかけている温厚そうな顔だちの男。江戸川乱歩の研究も行っており、乱歩が1936年に鳥羽の海女を撮影したフィルム映像に映り込んだ「2人の少女」の謎を解明しようとする。

野町 貴子
 真珠博物館の学芸員。中村と交際しているという噂が立っており、そのために中村の宝石盗難の共犯ではないかと鳥羽署に疑われている。

岩田 貞雄
 伊勢神宮の図書館「神宮文庫」に勤務する神道研究家で、鳥羽市の歴史に詳しい生き字引。江戸川乱歩と親交のあった画家で民俗学研究家の岩田準一(1900~45年)の次男。準一は竹久夢二(1884~1934年)の弟子であり、鳥羽の真珠島をモデルとした乱歩の中編探偵小説『パノラマ島奇談』(1926~27年連載)の挿絵を担当しており、乱歩がプライベートで鳥羽の海女を撮影したフィルム映像にも一緒に映っている。

黒田 龍人(くろだ たつと)
 本シリーズの主人公。1958年7月生まれの痩せた、切れ長な一重まぶたの目の男性。「都市村落リゾート計画コンサルタント」として東京都中央区九段の九段富国ビル5階1号で事務所「龍神プロジェクト」を開いているが、インテリアデザイナーとして風水の鑑定も行っている。風水環境をシミュレーションできるコンピュータプログラム「シム・フースイ」の開発者の一人。黒が好きで、黒い長髪に黒いサマーセーター、黒のサンドシルクズボンに黒のレイバンサングラスで身を固めている。喫煙者。事務所を離れる時もノートパソコンを持ち歩いてシム・フースイで調査する。その他に風水調査のために小型の望遠鏡も携帯している。異変が起きた際には、魔物を調伏するという仏法と北の方角の守護神・毘沙門天の真言を唱える。
 夏場は常にエアコンで室温を20℃に設定して仕事をする。1995年頃から、地上げや土地競売にまつわるトラブル、大手ゼネコン株で失敗しサラ金破産で危機に陥った人々を救う仕事も行っている。スクーバダイビングを40、50回行った経験がある。

有吉 ミヅチ(ありよし みづち)
 黒田の4年来のパートナーで「霊視」の能力を有する女性。1971年2月生まれ。北海道余市市(架空の自治体だが北海道余市町は実在する)の出身だが、自分の素性は龍人にも話さない。その霊能力の維持のために自らに苦痛を課す。病的に痩せた体形で、龍人と同じように黒を好み、黒いセーターに黒のミニスカートもしくは黒タイツをはいている。髪型は刈り上げに近い短髪。常に青白い顔色で薄紫色の口紅を塗っている。胸に七支刀をデザインした銀のペンダントをつけている。いわゆる霊道や都会の猫道、野生の獣道を感知する能力に長け、それらの道をなんなく踏破できる非常に高い運動能力とバランス能力の持ち主。仏法と北の方角を守護する神・毘沙門天に仕える巫女で、自身を鬼門封じの武神・弁財天の生まれ変わりだと信じている。龍人の仕事の手伝いはしているが、風水の効能はあまり信じていない。
 現在は2代目にあたる黒猫のお通(おつう)を飼っている。鬼神を捕縛する武器として、人間の女性の黒髪で編み上げたロープを携行している。
 江戸川乱歩が好き。エアコンの冷気が嫌い。右手首に、龍人から受けたストレスのために自傷したリストカット跡が2本ある。

橋本 ミチ
 鳥羽湾最大の島・答志島の和具港に住む海女。夫の太一とアワビ採り漁をしていた際に妖怪ともかづきに出遭う。

目崎博士
 毎年夏に伊勢湾の神島に滞在して、伊勢湾の海底地形や絶の島の推定地を調査している M大学の地形学教授。スクーバダイビングの経験が豊富で、鳥羽の地理と歴史に詳しい。大柄でたくましい体格で、手入れをしていない白髪まじりの頭髪の中年男。青みがかった目をしていて、笑うとえくぼができる。探検帽に探検靴、ちゃんちゃんこのような青のベストにカーキ色の半ズボンを着て、常に虹色に輝く偏光サングラスをかけている。心理療法の一種である「変性意識療法」への造詣が深い。最新のコンピュータ技術の教育にも熱心で、神島の神島小学校(全校生徒24名)に通信回線をつなぎ、テレコングレス(テレビ電話を使ったヴァーチャル会議)も可能なコンピュータ端末と大型液晶スクリーンを導入して生徒への指導にあたっており、NHK のTV番組にも出演した経験がある。


おもな用語解説
ともかづき
 三重県鳥羽市や志摩市で伝承される海の妖怪。名前は同地方の古い方言で「一緒に潜水する者」の意味。
 ともかづきは、海女などの海に潜る者そっくりに化けて一緒について来るという。ともかづきに遭遇するのは曇天の日といわれる。ともかづきは海女を暗い場所へ誘ったりアワビを差し出したりする。この誘いに乗ると命が奪われると恐れられている。また、ともかづきは蚊帳のような被膜をかぶせて海女を苦しめるともいい、ある海女は持っていたノミで無我夢中にこの膜を破って助かったという伝承もある。ともかづきが出たという話を聞くと、近隣一帯の村の海女たちは2,3日海に潜らなくなるほど、ともかづきは大変に恐れられていたという。
 海女たちはこの怪異から逃れるために、五芒星と格子の模様を描いた「ドーマンセーマン」と呼ばれる魔除けを描いた衣服や手ぬぐいを身につける。ドーマンセーマンは、陰陽道で知られる安倍晴明や蘆屋道満に由来するともいわれるが、トモカヅキとの関連性はよくわかっていない。
 ともかづきは溺れ死んだ海女の亡霊とされているが、科学的には過酷な長時間の海中作業によって陥る譫妄症状ではないかと言われ、イルカの一種で体色の白いスナメリの見間違いではないかという説もある。ともかづきと同様の怪異は静岡県南伊豆町や福井県坂井市の海女のあいだでも伝承されているが、共通して海女が大勢で作業を行なっている際には一切出現せず、単独作業を行なっている時にのみ現れるという。
 本作では頭から足先まで真っ白な姿で常に笑い顔を浮かべながら出現する。

しろんご祭り
 三重県鳥羽市の伊勢湾にある菅島で受け継がれている、海女の伝統行事。毎年7月11日に開催され、海女らが雌雄つがいのアワビ「まねきあわび」を誰が一番早く獲れるかを競い、勝者は1年間菅島の海女頭になれる。獲ったアワビは、神域として一年を通じて禁漁区に指定されている白浜(通称しろんご浜)の丘の上に鎮座する白髭神社(しらひげじんじゃ 通称しろんごさん 菅島神社の境外社)に奉納され、海上の無事安全と豊漁が祈願される。ちなみに、まねきあわびは生物学的な雌雄つがいではなく、メガイアワビを雌貝、クロアワビを雄貝とする。メガイアワビの数は他のアワビに比べて極端に少ないため採取が難しい。
 白髭神社の祭神・白髭明神は日本神話の神・猿田彦であるとされ、猿田彦には伊勢国阿邪訶(あざか 現・三重県松阪市)の海で漁をしていた時に比良夫貝(ひらふがい)に手を挟まれ溺れたという伝承があることから、海女を守護する神とされている。本作では、白髭神社の「白(しら)」が古代朝鮮半島の新羅王国(現地語でシラ)と通じることから、猿田彦も中国大陸南部から渡来して海女文化を伊勢国に広めた先住民「安曇族」が信仰していた外来神だった可能性を示唆している。

日和見師(ひよりみし)
 江戸時代に伊勢湾に面する鳥羽の日和山に立ち、海の状態を観察して、そこを航行する帆船「千石船」に明日の天候と海況を予報していた専門職集団。日和見師のルーツは江戸時代以前に天候を予測していた古代の陰陽師や聖(日知り)にさかのぼり、航海術や地相占術を受け継ぐ風水師の役割も果たしていた。

九鬼 嘉隆(くき よしたか 1542~1600年)
 戦国時代に九鬼水軍の棟梁となり、豊臣政権の有力大名として朝鮮半島にまで遠征した武将。関ヶ原合戦で西軍についた責めを負って自害した際に、九鬼家の居城・鳥羽城のあった鳥羽湾の中でも最大の島である答志島の山上に首が埋められたとされ、嘉隆は現在も鳥羽の守護神として崇敬されている。答志島には嘉隆の首塚の他にも「胴塚」や「血洗い池」の史跡が残っている。

九鬼家
 南北朝時代の貞治年間(1362~66年)に、紀伊国熊野から鳥羽に北上してきたといわれる海賊党。紀伊国にいた頃は熊野神宮や修験道に関わりがあり、捕鯨技術を持った海の民であった可能性が高い。九鬼家第十一代当主・嘉隆の時に伊勢国司・北畠具教の攻撃を受けて鳥羽から三河国に亡命したが、織田家の水軍棟梁として躍進し、志摩一国の大名として返り咲いた。嘉隆は関ヶ原合戦で西軍についたために戦後に答志島で自害したが、嘉隆の次男・守隆が徳川家に従ったことで九鬼家は志摩鳥羽藩の藩主として存続した。九鬼家が海賊だった時代に集めた財宝が鳥羽の島々のどこかに隠されているという伝説が残っている。

絶の島(たえのしま)
 別名「鯛ノ島」。戦国時代の天文六(1537)年の三河大地震と翌年の熊野大地震によって水深10~15m の海底に沈んだという言い伝えが残る、直径2km ほどの島。伊勢湾の島々の中でも最も本土から遠い神島(かみしま 三島由紀夫の小説『潮騒』の舞台として有名)の、南の沖10km の地点にあったといわれ、かつては神島と砂州でつながり、鳥羽湾から見て神島の玄関口のような役割を果たしていたとみられる。絶の島の伝承は神島に多く残っており、神島は鳥羽湾や伊勢神宮から見て鬼門にあたる北東に位置するため、絶の島にも伊勢・志摩国全体の鬼門封じの役割があったと思われる。

あわ(輪)
 伊勢湾の神島にある八代神社で、毎年元旦の未明に行われる伝統行事「げーたー祭り」で使用される、浜グミを丸めて白布で巻いた直径2m ほどの輪のことで、東から昇る太陽を象徴しているとされる。神島は、古代日本の神聖な場所である伊勢の旧斎宮、三井寺、大和の三輪山、仁徳天皇陵、天武・持統両天皇陵、淡路島をつなぐ龍脈「太陽の道」の東端にあたり、地形学でいう「中央構造線」と重なっている。

蘇民将来(そみんしょうらい)
 8世紀初期に編纂された『備後国風土記』に登場する人物であり、日本各地にその説話と民間信仰が広まっている。主にスサノオ(牛頭天王)を祀る神社で「蘇民将来」の名の記された護符と八角形の柱が伝わっており、災厄や疫病を祓い福を招く神として信仰されている。陰陽道では「天徳神」と同一視されている。蘇民将来と牛頭天王の信仰は、陰陽師の賀茂家によって播磨国から大和国、山城国に伝播し、紀伊国から熊野街道を通って伊勢国に伝わったといわれ、民衆は蘇民将来の子孫であることを示すために茅の輪を身に着けていたという。この信仰は現在も、鳥羽の海女が魔除けに使う九字切りやドーマンセーマン、神島のげーたー祭りのあわなどに残っているとされている。

亀卜(きぼく / かめうら)
 古代中国大陸の陰陽学と道教を起源とする占術。天武天皇(?~686年)が在位五(676)年に陰陽寮を開設して日本独自の陰陽道を創始した以前に、卑弥呼(170?~248年)の時代から日本に渡来して、古代天皇家を支える「亀卜師(きぼくし)」として存在していた。かつて亀卜に使われるウミガメの甲羅は対馬国沖の神聖な海域で獲られていたが、垂仁天皇の時代(3世紀後半~4世紀前半)に伊勢神宮が創建されてからは、伊勢国の鳥羽沖で獲られたウミガメを使用するようになっていた。その歴史の古さから、古代朝廷では陰陽寮の占術よりも亀卜による神託を重んじていたという。

九字切り(くじぎり)
 修験道に伝わる、遠くにいる敵を呪力で倒すための秘法。「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」の九字を四縦、五横に切る。

法師陰陽師(ほうしおんみょうじ)
 播磨国の六甲山を発祥とする、僧形の修験者集団。古代朝廷は日本の陰陽道を独占するために陰陽寮の官人のみに陰陽師を限定し、もともと中国大陸で陰陽学を伝えていた僧侶が陰陽師になることを禁止したが、朝廷の傘下に入ることを嫌った呪術師たちが法師陰陽師となり、民間に陰陽道を伝えていくようになった。陰陽寮の陰陽師である安倍晴明(921~1005年)のライバルであったという芦屋道満(958?~1009年以降)は、この法師陰陽師の頭目であったという。

法道仙人
 6~7世紀ごろにインドから中国大陸、朝鮮半島を経由して日本に渡来したという伝説の仙人。鉄の宝鉢を持ち、鉢を飛ばしてお布施を集める「飛鉢の法」を会得していたことから「空鉢(くはつ)」もしくは「空鉢仙人(からはちせんにん)」とも呼ばれる。播磨国の六甲山を中心に、六甲比命大善神社や吉祥院多聞寺など数多くの寺社の開山・開基として名を遺し、関東地方でも鉢山町や神泉町などの地名が法道に由来するといわれる。日本に渡る際に牛頭天王と共に渡ったとされる。芦屋道満はこの法道仙人の弟子であるという伝承が残っている。

土圭(とけい)
 古代中国大陸の風水師が宮殿を建てる位置を決定するために発明した、太陽の方位を測る器材。L字型の指金のような形をしており、8尺(約24cm)の長い目盛付きの尺を垂直に立てて1尺5寸(約4.5cm)の短い尺を大地に寝かせ、夏至の日に南中する太陽がつくる長い尺の影が短い尺と重なる地点を、世界を支配できる王宮の建つべき「地中」としていた。地中に選ばれる位置は必ず「北緯34度32分」になるといわれ、実際に、中国大陸の歴代古代王朝の首都となった西安、洛陽、北京はことごとくこの緯度の付近にあるという。また、この緯度は古代日本の龍脈「太陽の道」とも一致する。

ドーマンセーマン
 五芒星の形をした魔除けの印。ほぼ世界共通に存在し、もともとは人をとり殺す魔力を持つ「邪眼」に睨みつけられた時、その視線をそらすために使われた。日本では、史上最大の陰陽師で土御門家の開祖である安倍晴明にちなみ「晴明判」と呼ばれる。ドーマンセーマンとは紀伊国とその周辺地域で使われる言葉で、「ドーマン」は、これも有名な法師陰陽師である芦屋道満、「セーマン」は晴明のことといわれる。六芒星や籠目もドーマンセーマンの類のものである。

六芒星(ペンタグラマ)
 同じ籠目型の呪符であっても、ドーマンセーマンのような五芒星とは別種のものである。2つの三角形を上向きと下向きとで組み合わせた六芒星は、日本では籠目の他に古代ユダヤ教の「ダビデの星」の意味も含む。強力な魔除けとなる呪符で、数秘学的に見ると6は完全数すなわち万能の霊力を持っている。

ミルトン・ハイランド=エリクソン(1901~80年)
 アメリカの精神科医、心理学者で、催眠療法家として知られる。アメリカ臨床催眠学会の創始者で初代会長を務めた。催眠の臨床性・実践性向上のため精力的にワークショップを開き世界各国を行脚した。精神療法に斬新な手法を用いたことで知られ、「ユーティライゼーション(利用できる物はなんでも利用する)」をモットーとした臨機応変・変化自在な技法を用いて、その名人芸は「魔術師」とも呼ばれた。被験者ごとに異なるアプローチを行うべきだという信念から、振り子やコインといった特別な道具は一切使わず、技法の体系化は好まなかった。魅惑(不思議な体験)、嚇し(物理的なショック)、繰り返しによる疲労といった手法により、被験者の意識と身体を麻痺させて無意識の扉を開くカタレプシー(硬直)を利用した催眠療法を創始した。


 ……相変わらず基本情報がめっちゃくちゃ膨大になってしまって申し訳ないのですが、最終作なんだもの、このくらいまでふくらみもしますよ!

 ということでありまして、2025年6月現在、荒俣先生の「シム・フースイ」シリーズは続刊が途絶えておりますので、この第5作が実質最終作ということになっております。
 そして、当然ながら荒俣先生の『帝都物語』関連の小説はこれ以降も陸続と執筆されてはいくのですが、どうやら「作中の時間軸」という見方でいきますと、本作の「1999年」よりも後の時代設定になっている作品は無いようなんですね。ぜんぶが『帝都物語』以前の前日譚になっているようなんです。そして『帝都物語』の『未来宮篇』以降も『帝都物語外伝 機関童子』も、時間軸は「1998年」でしたから。
 あっ、でも、平成版と令和版の『妖怪大戦争』2作と京極夏彦先生のやつが、いちおう魔人・加藤が出てくるから続編になんのかな。でも、あのへんは荒俣先生の小説ありきの話じゃないからな(ノベライズはあるけど)……果たして、あの令和版『妖怪大戦争』の続きはあるんだろうか? う~ん。

 え~、じゃあこの『絶の島事件』が、あの長大なる『帝都物語』サーガの「実質最終章」になるってわけ!? いいんですか、そんな超重要な立ち位置で……

 そうなんです、この作品、「シム・フースイ」シリーズ&『帝都物語』サーガの最終作というにはあまりにもあっけらかんとした、「黒田龍人、鳥羽にてちょっとした小事件に巻き込まれてタイヘンの巻」みたいなスケールのお話になっているんですよ! え? ミヅチさんはどこだって? 最後にちょろっと鳥羽にやって来るだけで、出番ほとんどない。

 な、なんちゅうこっちゃ……これ、まさに「番外編」といった感じの、のほほんミステリ紀行じゃないか! タイトルに「殺人」がついてない時点でヤな予感がしてたんだよ……たいしたことない事件だなって。

 ただ、こんな私の物言いから勘違いしないでいただきたいのは、この『絶の島事件』、決して面白くないわけじゃないんです。少なくとも、前作『闇吹く夏』よりは内容にけれん味もあるしオカルト要素もふんだんに配置されているので楽しい小説なんですよ。事件のスケールはシリーズ最小ですけど……

 本作のキーワードは、ざっと挙げるだけでも「九鬼水軍の秘法」と「古代風水都市・鳥羽」、「海中に沈んだ幻の島」と「江戸川乱歩の秘蔵フィルムの謎」ということで、時代を超えて鳥羽にまつわる非常にうまみのあるミステリアスな食材がそろっている感じなのですが、正直、それらの伏線が想像しうる限り最も「しょぼしょぼっ……」とした感じで回収されて事件が解決しちゃった、という印象はいなめません。
 いなめはしないのですが、まぁ伏線をほっぽり投げたまんまよりはマシですよね! ともかく、これだけのおもしろ要素が集まってるってだけで、なんか楽しくなっちゃうんですよね。心なしか、荒俣先生の筆のノリも軽やかで愉快です。

 そして、なんかほんとに『なあばす・ぶれいくだうん』の気の利いた1話完結エピソードみたいな感じなんですが、鳥羽に来て事件を捜査している内にどんどん龍人がこんがらがってきて、佳境にふらっとやって来て話を聞いたミヅチがスパスパ~ッと解決しちゃうという流れが実に痛快なんですよね! 龍人が汗まみれで溜息をついてる姿を見て、ミヅチが「いい気味……フフ」と笑ってるカップリングが、2人の最終形として実にしっくりくるんです。

 う~ん、そう考えると、「シム・フースイ」シリーズのこの2人は、『帝都物語』本編みたいな仰々しいクライマックスじゃなくて、こんな感じでつかず離れずの『トムとジェリー』みたいな関係のまま未完にするのが最善手なのかも。これでおしまいのほうが、シリーズを通してさんっざんひどい目に遭わされ続けてきたミヅチにとっては幸せなのか……ほんと、本作のミヅチは何の苦労もせずに「高みの見物」な天才探偵ポジションだもんな。龍人は最終作でみごとワトスン役に降格! インガオホー!!

 ミヅチが探偵役と書きましたが、本作はほんとうに「シム・フースイ」シリーズの中でも特に異色な作品で、海の中の幻の島や九鬼の秘宝、フィルムに映った謎の少女たちや妖怪ともかづきと、相変わらず怪しげなアイテムはわんさと出てくるのですが、主軸となるお話は完全なるミステリなのです。ホラー小説では断じてないんですね。
 これはおそらく、作中にも鳥羽に縁のある偉人として登場してくる江戸川乱歩への、荒俣先生なりの敬意のあらわれかと思えるのですが、繰り広げられる一連の謎は、いちおう論理的に成立可能なトリックを悪用した純然たる計画犯罪に起因することが立証されるのです。ドーマンセーマンとかペンタグラマとか言ってますが、式神や魔法なんか一切使われないのです。

 ただ、かといってミステリとしてこの作品を楽しめるかと言われると……ま、寛大な心でお読みくださいって感じでしょうか。いや、たぶんこれは実際にできるトリックなんじゃないかと思うんですが……ほら、ポオの昔からトリックに動物はつきものですから……
 ひとつ苦言を呈させていただけるのならば、登場人物の一人が「昔、水族館で海獣ショーのトレーナーをやってた」という重要な情報が物語のクライマックスになってやっと提示されるのでそこはアンフェアかなという感じはしましたが、私は本作のオチに納得はできました。

 あと、メイントリックをサポートする第2のトリックとして、上の情報にもあるような催眠療法が重要な意味を持ってくるわけなのですが、ここは明らかに乱歩作品の中でも幻想系の傑作としてつとに有名な「ある短編小説」を明確に意識した内容になっているのが面白かったです。そうか、あれは科学的に説明がつかないこともない話だったのか……ヒントは、登場人物のひとりの名前!

 まぁこんな感じで、本作は「ホラーの皮をかぶったミステリ」であり、「怪奇現象の皮をかぶった犯罪」ということになるので、ここまでシリーズの中でさんざん魔術的なことをしておきながら、最後の最後で『怪奇大作戦』みたいな別ジャンルをぶち込んでくるという、異例すぎる内容となっていたのでした。そもそも原題からして『鳥羽ミステリー紀行』だったんですから、案外、荒俣先生もほんとに肩の力をぬいた番外編のつもりで書いてたのかも。まさかそれが最終作になろうとは……なんか、『ウルトラマン80』とか『魁!!男塾』の最終回みたいな脱力感なんですよね。逆にそこがいいと言えばいいのですが。

 最後にもう一つ、これはどうしても、本作を語る以上は言っておかねばならないことかと思うのですが、本作では、現在明らかにその史実性に疑問符のつく偽書として有名になっている、ある文書の内容が前提となって論が進んでいる部分があります。「九鬼」といったら、やっぱこれが出てくるでしょうねぇ。
 当然ながら、荒俣先生も文章の中で「偽書の可能性が高い」とただし書きをつけてはいるのですが、「内容すべてを否定することもできない」として、その文書の中でまことしやかに語られている事項を、あたかも九鬼家の歴史的事実のように受け入れ、実質全肯定で取り入れているように見えるのです。

 いや、ここは例えフィクションの中の話なのだとしても、やってはいけないことなのでは。私はここだけは容認してはいけないと思うんだよなぁ。「面白いから」「ロマンがあるから」という理由でオカルティックなウソを面白がった結果、1995年の日本で何が起きたのかを考えれば、そこは慎重になるべきなのではないかと思うんですよね。
 ここはね……誰かが明確な目的をもってついた嘘と、幽霊やネッシーを信じることを一緒くたにしては絶対にいけないと思うんです。その線引きは、難しいかもしれないけど忘れないでいかないと大変なことになるぞと。

 そういう思いもありましたので、私はこの『絶の島事件』を非常に興味深く読ませていただきました。ともかく、一筋縄ではいかない怪作なんです。
 まぁ、もろもろ固いことを抜きにしましても、何度も言うように本作はミヅチの快刀乱麻を断つ探偵っぷりも爽快ですし、なんといっても第1作ぶりに情けない龍人の「早く助けろ!!」ネタが炸裂するので、やっぱりこの2人はそうとうな名コンビなんだなと実感させてくれる愉快痛快な小説となっております。こいつ、いっつも溺れてんな。スクーバの経験が30~40回あるとかなんとかほざいといてこのざまなんですから、黒田龍人のスネ夫っぷり、ここに極まれりという感じですね。

 これ以降、四半世紀もこの2人の新たな冒険が読めていないのは非常に残念なのですが、まぁ、今はますますコンプライアンスうんぬん厳格な時代になっておりますので、龍人とミヅチのような愛憎なかばする関係は、主人公カップルとしては成立しづらくなってるのかも知れないし、やむをえないことなのでしょうかね。ストレスでミヅチに自傷行為をさせるわ、しじゅうセクハラ発言を浴びせかけるわ……こんなやつが主人公でいていいはずがないですよね。

 1990年代の日本だからこそ続いたのかも知れない、時代のあだ花「シム・フースイ」シリーズ。今はただ、龍人とミヅチが程よい距離感で元気に生き続けていることを切に願いましょう。ま、続刊がないということはヒマしてるってことなんでしょ! 無事これ名馬!!

 2025年だと設定上、ミヅチさんは54歳で龍人は67歳かぁ。荒俣先生、なんか書いてくれませんかね!? まだギリいけるっしょ!!
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あらためて立ち返ろう読書メモ 小説シム・フースイ Version 4.0『闇吹く夏』

2025年06月29日 19時11分21秒 | すきな小説
 え~、みなさまどうもこんばんは! そうだいです。
 なんだかんだ言ってるうちに6月も終わっちゃいますね~。今年も半分すぎちゃいましたよ! 早いねぇ。
 私の住む山形はまだ梅雨明けしてないんですが、なんかすでに猛暑日が続いております……今月すでに暑さでダウンしちゃってるんで、本格的な夏に入ってまた同じ目に遭うのはヤダな~! とにもかくにも水分補給を欠かさずに備えていきましょ。

 そんなこんなで、私たちの生きている2025年はどうやら無事に夏を迎えることができそうなのでありますが、今回取り上げますのは、誰が望むでもなく勝手気ままに続けている「荒俣宏の『帝都物語』関連作品を読みつくす」企画の更新でございます。こっちはちゃんと夏、来たかな!?
 現在は『帝都物語』本編シリーズを通りすぎまして、そこにセミレギュラーで登場していた風水師・黒田茂丸、その孫が主人公となっている「シム・フースイ」シリーズの諸作を読み進めているのですが、それも今回で4作目ということで、いよいよ佳境に入ってまいりました!


シム・フースイ Version 4.0『闇吹く夏』(1997年6月)
 『闇吹く夏』は、荒俣宏の風水ホラー小説。「シム・フースイ」シリーズの第4作として角川書店から単行本の形で出版され、99年4月に角川ホラー文庫で文庫化された。文庫版の表紙絵には、ドラマ『東京龍』(1997年8月放送)にて使用された CG画が流用されている。
 本作に『帝都物語』シリーズの登場人物は再登場しない。

あらすじ
 異常気象……1997年6月。黒く怪しい闇が、夏の到来を阻んでいた。
 雨が降り続け、人々は不安をかきたてられ、東京はカビに覆われようとしていた。
 時を同じくして、遥か南太平洋ではエルニーニョ現象が起こっていた。南米大陸ナスカ高原の呪術師は、渇ききった砂漠で雨乞いの儀式を開始した。その裏で密かに進行する首都移転計画の影には、暗黒の帝都建設の陰謀があった。異常気象の謎を解くため、風水師・黒田龍人は東北地方へと飛んだ。
 もう、夏はこないかもしれない……


おもな登場人物
太田黒 喜作
 岩手県花巻市で「羅須地人農業青年団」(会員56名)の中心人物となり、冷害対策の研究を行っている80歳代の小柄な禿頭の老人。1931年から3年間、花巻市在住の童話作家で農業指導者の宮沢賢治(1896~1933年)に師事し、農業科学を学んでいた。

太田黒 真魚(まお)
 喜作の孫で、切れ長な目の美女。男勝りなきっぷの良い性格。

荻野 良雄
 「羅須地人農業青年団」の団長。29歳。五分刈りで長い顔にあばたの残る、たくましい体格の青年。他の団員たちと共に太田黒喜作の弟子となり、宮沢賢治の農業理論を継承・実践している。慇懃で控えめな話し方が特徴。前歯が2本欠けているためか老けて見える。配布部数200部の機関紙『羅須地人』を編集・発行している。

イチロー
 「羅須地人農業青年団」の団員。寡黙で小柄な丸顔の青年。

庄野 夕子(しょうの ゆうこ)
 黒い長髪に透き通るような白い肌の美女。背が高く、ハイヒールを履くと黒田龍人と同じくらいの背丈になる。国立東京外国語大学言語文化学部中国語科に在籍中だった1982年もしくは83年に、中国返還前の香港で、かつて清帝国宮廷に仕えていた風水師・劉の運営する「香港風水研究所」に入所し、龍人や李東角と共に活動していた。現在は李と共に劉の研究所を引き継き筆頭格となっている。龍人が独自に完成させた「シム・フースイ」の原型は、もともと夕子たちと共同開発したものだった。劉が理想としていた、世を正し国を富ませる「国家風水」を標榜し、都市や国家を創造するための風水術を活動原理とする。国土庁(現・国土交通省)の依頼を受け、極秘計画に参画する田網奇鑛の地相鑑定事務所に協力する。

黒田 龍人(くろだ たつと)
 本シリーズの主人公。1958年7月生まれの痩せた、切れ長な一重まぶたの目の男性。「都市村落リゾート計画コンサルタント」として東京都中央区九段の九段富国ビル5階1号で事務所「龍神プロジェクト」を開いているが、インテリアデザイナーとして風水の鑑定も行っている。風水環境をシミュレーションできるコンピュータプログラム「シム・フースイ」の開発者の一人。黒が好きで、黒い長髪に黒いサマーセーター、黒のサンドシルクズボンに黒のレイバンサングラスで身を固めている。喫煙者。事務所を離れる時もノートパソコンを持ち歩いてシム・フースイで調査する。その他に風水調査のために小型の望遠鏡も携帯している。異変が起きた際には、魔物を調伏するという仏法と北の方角の守護神・毘沙門天の真言を唱える。
 本作からジャケットのポケットに細長い革製の鞭を携行するようになり、数人の男たちを圧倒するほどの格闘能力を持つようになった。また、格闘術も1~2人の大男を倒せる程度には上達している。正座が苦手。
 かつて10代を沖縄県石垣島で過ごしていたが、21歳の頃(1979もしくは80年)に、龍人の祖父・黒田茂丸と親交のあった風水師・劉の運営する香港風水研究所に入所した。しかし1985年頃にシム・フースイの原型を持って離脱・帰国していた。当時、龍人と交際していた夕子によると、愛する女性に加虐的な態度をとる性癖があり、ミヅチに対しても身体的暴行を加えるだけでなく(だが性的交渉はことごとくミヅチに拒絶される)、聞くに堪えない猥談を語り続けるセクハラも繰り返し行う。ただし、これはミヅチの心身を常に不安定な状態に置くことによって強力な霊能力を維持させ続けるためにあえて行っている処置であると本人は考えている。

有吉 ミヅチ(ありよし みづち)
 黒田の4年来のパートナーで「霊視」の能力を有する女性。1971年2月生まれ。北海道余市市(架空の自治体だが北海道余市町は実在する)の出身だが、自分の素性は龍人にも話さない。その霊能力の維持のために自らに苦痛を課す。病的に痩せた体形で、龍人と同じように黒を好み、黒いセーターに黒のミニスカートもしくは黒タイツをはいている。髪型は刈り上げに近い短髪。常に青白い顔色で薄紫色の口紅を塗っている。胸に七支刀をデザインした銀のペンダントをつけている。いわゆる霊道や都会の猫道、野生の獣道を感知する能力に長け、それらの道をなんなく踏破できる非常に高い運動能力とバランス能力の持ち主。仏法と北の方角を守護する神・毘沙門天に仕える巫女で、自身を鬼門封じの武神・弁財天の生まれ変わりだと信じている。龍人の仕事の手伝いはしているが、風水の効能はあまり信じていない。
 現在は2代目にあたる黒猫のお通(おつう)を飼っている。鬼神を捕縛する武器として、人間の女性の黒髪で編み上げたロープを携行している。その他に、龍人から護身用に与えられた革製の鞭も携行し、龍人と同じように数人の男たちを圧倒するほどの格闘能力を持っている。

田網 奇鑛(たあみ きこう)
 白髪まじりの中年男。メディアでも多く取り上げられる有名な建築家だったが、5年前に起きた『ワタシ no イエ』事件(「シム・フースイ」シリーズ第1作)で自身の事業を黒田龍人につぶされて以来、龍人を強く恨み復讐の機会をうかがっていた。
 本作では「地相鑑定士」の「毛綱阿弥之助(けづな あみのすけ)」と名乗り、岩手県花巻市の中心街にオフィスを構えて国土庁の極秘計画に参画し、紫色のスタンドカラースーツを着て暗躍する。敵を罠に誘い込む「八門遁甲術」を使うことができる。
 モデルは、ドラマ『東京龍』を放送した NHKハイビジョンのエンターテイメント番組『荒俣宏の風水で眠れない』(1997年放送)にもゲスト出演していた建築家の毛綱毅曠(もづな きこう 1941~2001年)。

久保田 晃
 田網の地相鑑定事務所の幹部。40歳ほどの大柄な男。

八大将軍
 田網に従う8人の屈強な大男たち。全員が「八門遁甲術」を駆使することができ、常に黒革でできた菱形の防塵マスクを着けている。


おもな用語解説
地鎮(じちん)
 日本で古代から陰陽師が執り行っていた、結界を張って地中に潜む鬼を封じ、人間が安全に住める場所を造成する地相術。新しい田畑や村、都などの都市を作る際に行われていた。

やませ(山背)
 主に東北地方や北海道、関東地方の太平洋側で5~9月頃に吹く、冷たく湿った東もしくは北東の風(偏東風)のこと。寒流の親潮の上を吹き渡ってくるために低温であるため、やませが続くと太平洋側沿岸地域では最高気温が20℃を越えない日が多くなり、日照不足と低温による水稲を中心とする農産物の作柄不良(冷害)を招き、地域の経済活動に大きな悪影響を与える。下層雲や霧、小雨や霧雨を伴うことが多い。
 本作では「闇風」という字があてられ、風水で繁栄や豊作、幸福をもたらすとされる龍脈をはね返す、分厚い壁のような邪気の大気「シャ」の一種と解釈されている。黒田龍人によれば、宮沢賢治の短編小説『風の又三郎』(没後発表)に登場する風の又三郎は「シャ」のことであるという。

風(ふう)
 風水でいう世界の各方位とそれぞれの土地の特色のことで、大風や台風の際に吹く強風のことではない。古代の中国大陸では各方位に神がおり、それぞれの神の意志を四方に伝達する使者が「風」であるとされていた。それぞれの方位の特色をそこに住む人々に伝える存在であることから、「風土」、「風俗」、「風習」、「風味」、「風景」、「風格」などの語源となっている。生命エネルギーを運んでくる陽の力を持つ。

水(すい)
 風水でいう陰の力の象徴。生命エネルギーを留め蓄える役割がある。物事の標準や雛型、基本であり、水の力によって土地は理想の形「局」を形成することができる。「水準」の語源となっている。風水では、尾根が充分に張り深い山ひだと谷があり龍の胴体のように起伏の多い山と、ヘビのように曲がりくねった川のある、中国の山水画に描かれるような土地が最強の局であるとされている。

地下大将軍
 金星を神格化した存在で、風水用語で「太白(たいはく)」ともいう。大将軍星は、天をめぐる8柱の軍星(いくさぼし)の中でも最強とされ、陰陽道では「金神(こんじん)」と呼ばれ畏れられている。大将軍星が地上に降りると各方位を巡る遊行神となり、大将軍のいる方位を侵犯すると祟られると信じられている。地下大将軍の名の刻まれた赤い釘を「風水釘」といい(韓国では「チャンスン」と呼ばれる)、これを大地に刺すと邪気を払う能力があるが、悪用するとその土地の龍脈を断ち切り災いをもたらしてしまう。

香港風水研究所
 1977年に劉が設立した、史上最古の風水師の近代的研究養成機関。18世紀の清朝から存在していた風水術の一派の教えを引き継ぐ形で創設された。原則として女性や外国人も受け入れる。

祖山(そざん)
 陽の気を生み出し、土地に龍脈を送り込む聖山のこと。花巻市にとっては約40km 北北西にある岩手山(薬師岳)がそれにあたる。

朔の鬼門(さくのきもん)
 宇宙の四方軸に対して地球の軸(地軸)が23.5°ずれていることから、月の始まりである「朔」の数日前(27日ごろ)の約15分間に、地球とそれを取り巻くエーテル体の宇宙空間との間に生じるわずかな隙間「空芒(くうぼう)」のこと。これこそが真の鬼門であり、風水ではここから魔物が出没して地上に現れるとされているが、逆にこの隙間に地上の災厄の原因を駆逐・封印する秘術も存在する。

テレコネクション理論
 ノルウェーの気象学者ヤコブ=ビヤークネス(1897~1975年)が1961年に提唱した、地球の各地域でばらばらに発生する気象現象が、遠く離れた別の地域の気象現象と連動していると考える理論。連動の媒体となるのは、大気圧の差によって生じる気の流れ(偏西風、貿易風、ジェット気流など)と、海流の温度差から生じるエネルギーであり、南米のエルニーニョ現象が日本も含む環太平洋全体の気象に大きな影響を与えるのも、この理論で説明できる。

精霊迎え(しょうりょうむかえ)
 あの世へ祖先の霊を送る送り火として行われる、宗教的な聖山で松明の炎による文字や図形を描く行事。風水思想では、聖山の中のマグマに代わるエネルギーを龍脈に注入する効果がある。京都の大文字焼きが有名。

パラカ(パリアカカ)
 インカ神話において、ペルー中部高地のワロチリ地方で伝承される、創造神4柱の中の1柱。水の神で、火の創造神ワリャリョ・カルウィンチョを倒した。半人半蛇で双頭の神。天を支配し、気象を司り、風を止めて砂漠に雨を降らせると伝えられる。


 ……はいっ、というわけでありまして「シム・フースイ」シリーズ第4作『闇吹く夏』の登場なのでありますが、どうやらこのシリーズ全5作の中でも、知名度においてピークとなるのがこの作品のようなんですね。
 と言いますのも、この『闇吹く夏』は、それまでのシリーズ作が3作すべて角川ホラー文庫の書き下ろしだったのと違って、1997年にいったん単行本として刊行されてから99年に角川ホラー文庫で文庫化されたという経緯がありまして、それに歩調を合わせて、97年に TVドラマ化、99年にゲームソフト化という、これまたシリーズ初のメディアミックスが試みられたタイトルとなったのです。そして、この『闇吹く夏』が文庫化された99年に出た次の第5作をもってシリーズも刊行が途絶えているので、結果的に言えば今回の第4作が、いろいろとメディア露出度が最も恵まれた作品、ということになるのでした。
 振り返れば、荒俣先生の『帝都物語』シリーズに関しては映画化、マンガ化、OVAアニメ化とそうとうに華々しいメディアミックスがあったわけなのですが、この「シム・フースイ」シリーズは今回の TVドラマ化とゲーム化のみということで、比較すれば若干さみしい気もするのですが、まぁ、上の情報をご覧いただいてもおわかりのように、シリーズの主人公である黒田龍人も助手のミヅチちゃんも、かなり人間性にクセのあるキャラクターなんでね……むしろ、よく NHKでドラマ化してくれたなって感じです。

 さて、そういった展開がなされた『闇吹く夏』なのでありますが、単行本化と文庫化とで2年の時間差がありながらも、この「原作小説」「TVドラマ版」「ゲーム版」の3つは、全て「東京を中心に常識外の長雨が続く」という基本設定が共通しています。つまり、3つとも『闇吹く夏』というお話のバージョン違いという捉え方をして良いようなのです。そして、この3つは全てきれいに別の物語になっているのです。なんじゃこら!?

 ただ、『帝都物語』シリーズという、メディアミックスとは名ばかりで実質的にメディアが違うどころか内容からしてほぼ別作品と言って良い映画作品が当たり前に横行していた惨状をすでに体験している私や賢明な読者の皆様ならば、もはやこの程度のことで動揺するようなこともないでしょう。角川書店がからむメディア化作品なら日常茶飯事ですよね!
 察しますに、単行本とほぼ一緒に放送された TVドラマ版は「東京に長雨」という基本設定だけを共有した状況で小説とドラマ脚本が並行して執筆され、2年後のゲーム版もまた、サブタイトルが『帝都物語ふたたび』となっているように、小説の内容とは全く関連しない「そのころ東京では……」的な外伝として自由に制作されていたのではないでしょうか。まぁ、2年前の小説をわざわざゲーム化したってねぇ……しかも舞台、東京じゃなくて岩手県だし。

 という経緯がありますので、今回はやや変則的に、「小説版」と「TVドラマ版」と「ゲーム版」とで、別々に内容に関するつれづれをつぶやいていきたいと思います。なので少々長くな……いや、長いのは通常営業か。

≪小説版に関して≫
 まず荒俣先生が執筆した小説の『闇吹く夏』についてなのですが、本作はほんとに TVドラマ版ともゲーム版とも内容が全然違っているので、何かの他作品の「原作小説」にはなりえていません。ですので、そういう意味で「小説版」という表記にさせていただきます。

 内容についてなのですが、実はこの小説版は3バージョンの中でも最も「東京が関係ない」お話となっており、作品の舞台はほぼ100% 岩手県花巻市となっております。
 ふつう、岩手県がフィクション作品の舞台となると、かなりの高確率で「遠野」が選ばれそうなものなのですが、本作は実に堅実に「冷害にあえぐ花巻市」という、ビックリするほど地味なセレクトになっており、メガロポリス東京はもちろんのこと、シリーズ第2作『二色人の夜』の舞台となった沖縄県石垣島と比較しても、だいぶ異色なチョイスとなっております。

 なので、まぁ……岩手県と同じ東北の民である私が言うのも心苦しいのですが、かなり印象の薄い作品なんですよね、この小説版って。
 やませっていう自然現象が、東北地方にとってそうとうに恐ろしい災厄だということは当然知ってはいるのですが、私は日本海側の山形県の人間なので、やっぱり実際に体験する機会は無かったので実感がわかない部分は否めませんし、今までの「シム・フースイ」シリーズ諸作にあった「異常発生するカビ」とか「動き回るサンゴ岩」とか「東京都庁に埋められたチャンスンの呪い」とかいうけれん味たっぷりのオカルト要素に比べると、やけにリアルで現実的なんですよね。やませとかエルニーニョとか……

 当然、本作を執筆する荒俣先生も、そこらへんのインパクトの弱さは重々承知していたのか、「黒田龍人の過去を知る元恋人・庄野夕子の登場」とか「第1作の敵キャラ田網奇鑛の復活」とか「はるか遠く南米ペルーの守護神の助っ人出演」とかいうテコ入れもどしどし取り入れてはいるのですが、やはり物語の本筋は「不作にあえぐ農家を助けんべや」という土くさいものなので……いや、それは非常に大事な内容なんですけれどもね。
 ただ、古代アジアの広い地域で、国境を越えて研究・伝承されてきた風水を作品の共通テーマにしている以上、いつかこのシリーズの中で「民衆の生活を助ける風水」の理論を真正面から描く必要はあったわけなので、一見非常に地味な内容の本作を世に出すことも、荒俣先生にとっては避けるわけにはいかない必然だったのではないでしょうか。一国の帝都をマジカルに守護し、悪疫悪霊をズビズバ退治させるだけが風水じゃないってことなのよね。そういう意味で、本作をちゃんと書き切った荒俣先生は本当に誠実な方です。

 そして奇しくも、私がこの記事を書いている2025年は何を隠そう、この農業の問題に関してかなり切実に差し迫った危機に瀕している年でもあるのです。1997年に本作が世に出た頃からすでに言及されていた、農家さんに降りかかる理不尽な社会の圧力をほったらかしにしておいた結果が、このざまなのです。いや~、今年この小説を読めて本当によかった。

 もう一つ、この作品の中では「首都機能移転計画」という裏テーマも語られるのですが、結局は頓挫するものの、東京に代わる新首都の候補地として、この花巻市も検討されていたという驚愕の事実が後半で判明します。
 でもこれについては、2011年3月の惨禍を経た現代から見ると、小説の世界ならではの夢物語、という思いがよぎりますね。事実は小説よりも奇なり……

 いろいろ申しましたが、結論としては、この小説版はシリーズの中でも一番目立たない、と言わざるをえない作品になっております。いや、風水の「風」と「水」の意味とか、龍人 VS 夕子の構造に象徴される「民衆の風水」と「国家の風水」の対立とか、非常に重要なテーマも見え隠れしているのですが、いかんせん派手な見せ場がクライマックスの北上川の水龍とペルーのパラカ神とのコラボくらいしかないんですよね……渋滞の車列のテールライトを利用する作戦とか展開のアイデアは素晴らしいんですけど、オカルティックな飛躍が少ないというか。

 庄野夕子の登場も面白くはなりそうだったのですが、結局ミヅチ以上のヤバい魅力を持っているわけでもない常識的な大人の女性でしたし、まさかの復活を遂げた田網先生も、なんの反省もなく相変わらずヘンなカビのまざった仏舎利を持ち込んでくるしで、せっかく前半でいろいろと提示されたおもしろ要素が、ちゃんと昇華されないままシュンとしぼんで終わっちゃった、みたいなうらみが残りました。
 強いてあげれば、いつのまにかミヅチのひそみにならったかのようにムチを使って1人2人の相手はやっつけられるくらいは戦闘力が上がった龍人の成長だとか、シリーズ4作目にしてやっと主人公とヒロインの関係らしくなったラストでの2人の抱擁とかが本作の見どころではあったのですが、正直いいまして、今回取り上げる3バージョンの中で最も荒俣ワールドらしくないおとなしさがあるのも、先生ご自身が執筆したはずのこの小説版だったのでありました。
 う~ん……キビシ~っ!


≪TVドラマ版に関して≫
TV ドラマシリーズ『東京龍 TOKYO DRAGON』(1997年8月放送 全4話)
 NHK のハイビジョン試験放送にて1997年8月25日から4夜連続で放映されたエンターテイメント番組『荒俣宏の風水で眠れない』内で放送された、「シム・フースイ」シリーズ作品を原作とした1話約30分のミニドラマシリーズ。
 『荒俣宏の風水で眠れない』は2部構成となっており、第1部がドラマ、第2部が風水を易しく解説したミニ講座『東京小龍』(出演・田口トモロヲ、荒俣宏、建築家の毛綱毅曠)となっていた。
 本作は再編集され、1997年11月に映画『風水ニッポン 出現!東京龍 TOKYO DRAGON』(配給エースピクチャーズ)として劇場公開された。
 なお、本作は映画編集版がビデオリリースされたが DVDソフト化はされていない。

おもなキャスティング(年齢はドラマ初放映当時のもの)
黒田 龍人   …… 椎名 桔平(33歳)
有吉 ミズチ  …… 中山 エミリ(18歳)
庄野 夕子   …… 清水 美砂(26歳)
矢崎 昭二   …… 中尾 彬(55歳)
佐久間     …… 清水 綋治(53歳)
新井 美樹   …… さとう 珠緒(24歳)
鈴木 英夫   …… 三代目 江戸家 猫八(75歳)
サキコ     …… 若松 恵(17歳)
ゼネコン役員  …… 寺田 農(54歳)
留守電の依頼客 …… 青野 武(61歳)
黒田 茂丸   …… ミッキー・カーチス(59歳)

おもなスタッフ(年齢はドラマ初放映当時のもの)
監督 …… 片岡 敬司(38歳)
脚本 …… 信本 敬子(33歳)、山永 明子(40歳)
音楽 …… 本多 俊之(40歳)
CGI スーパーバイザー …… 古賀 信明(38歳)


 というわけで、お次は単行本と同時期に放送され、のちに劇場公開もされたこの TVドラマ『東京龍』についてでございます。
 上にもある通り、この作品は現在は鑑賞が非常に限定された作品となっておりまして、私も有志が動画投稿サイトにあげられていた、劇場公開用に編集された VHS版を鑑賞して内容を確認いたしました。なんでビデオリリースで止まってるんだろ……別に何かしらのオトナの事情が察せられるような内容のドラマではなかったのですが。出ている俳優さんの権利関係なのかな。

 お察しの通り、このドラマに登場する黒田龍人と茂丸、庄野夕子、そして有吉「ミズチ」は、原作小説に出ている同名のキャラクターとはまるで別人のような設定になっています。そりゃそうよね、原作通りの龍人とミヅチなんか1990年代でも、アダルト業界以外では映像化は困難だったでしょ……まだ当時お元気だった実相寺昭雄監督だったら、平気で映像化してたかもしんないけど。

 このドラマ版における黒田龍人は、特に人間的にクセの強いこともない好青年で、「シム・フースイ」システムを使って市井の人々の生活上の悩みに応える私立探偵のような仕事をしており、庄野夕子は龍人と半同棲の関係にある有名キー局の人気お天気キャスター(風水の知識ゼロ)、有吉ミズチは沖縄の与那国島で海底ツアーのインストラクターのバイトをしている高校生となっています。ミズチはもともと東京の龍人とは縁もゆかりもなかったのですが、二色人のような強力な神の導きで東京の龍人のもとを訪ね、半分助手のような居候を決め込むこととなります。その他、龍人の祖父である黒田茂丸もドラマ版の重要なキーマンとして龍人の回想シーンの中でのみ登場するのですが、日々、どっかの山の中の滝壺近くで太極拳の鍛錬にはげむカンフーの達人みたいな人物として描かれています。そんな描写、『帝都物語』にも「シム・フースイ」シリーズにも全然なかったのに……
 当然、そんな祖父の背中を見て育った龍人も、ドラマ中で激しいアクションこそないものの、考えが煮詰まった時は事務所の屋上で太極拳を行い集中力を高める習慣があるし、演じているのも脂の乗り切った椎名桔平さんなので、原作小説のイメージとはまるで違う胸板の厚い人物となっています。黒い服が好きなとこくらいしか成分が残ってない!

 ただし、よくよく観てみますと、さすが荒俣宏先生が完全監修した TV番組内で放送されていたこともあってか、だいぶ省略されてはいるものの作中で風水の基本ルールはしっかりと龍人の口から説明されておるし、東京一円が異常な長雨の被害によってインフラを中心に深刻な機能不全に陥っている惨状も地味ながらちゃんと描写されています。また、本作に小説版やゲーム版のような明確な敵キャラは設定されていないのですが、かつて黒田茂丸が東京に施した風水の封印が土地開発によって破壊されて龍脈が暴走したことが長雨の原因だったことを解明した龍人が、茂丸と縁の深い与那国島の神の導きによって上京してきた霊感の強い少女ミズチと協力して龍脈を救う一大作戦を仕掛ける、という内容になっておりまして、非常に理路整然としたわかりやすい風水ファンタジードラマとなっております。ホラーではないですね、NHK 制作のドラマらしくぜんっぜん怖くなかったです。
 上のように、ドラマに登場する有吉ミズチは、ミヅチというよりはシリーズ第2作『二色人の夜』のゲストヒロインだった少女サヨのキャラ設定を色濃く踏襲しており、ドラマの夕子も同作の東京から来た OLくみ子のように明るい性格のポジティブな女性となっています。ミズチの故郷が『二色人の夜』の石垣島でなく与那国島に変わっているのは、与那国島沖にある海底遺跡と噂される地形のミステリーをドラマに取り入れたためですね。遺跡じゃないらしいけど。
 ただし、もちろんミズチを演じる中山エミリさんが『二色人の夜』のサヨのように悲惨きわまりない霊感体験をするところなんか映像化できるわけがないので、荒ぶる神に襲われる描写もビックリするほどマイルドなものになっています。ミズチが与那国島の実家で「タマ」という名前の猫を飼っているのは、原作小説へのオマージュでしょうか……さすがに「お通」という名前にするのは今どきの女の子っぽくなかったか。

 こういう内容なので、小説版にあったような龍人とミヅチ、夕子の複雑な人格設定や愛憎関係などはあるべくもないのですが、地味な作りながらも中尾彬さんや清水綋治、猫八師匠にさとう珠緒さんといった通ごのみで適材適所なキャスティングが非常に手堅く、クライマックスでの CG作画で描写された雨龍の姿も1990年代後半の TVドラマとしてはかなり健闘している方で、制作年代が近い映画『帝都物語外伝』のように観て損をするたぐいの作品でないことは間違いありません。いや、あの映画にも負けちゃう作品なんて、そうそうないけどね。

 本当に、いま鑑賞が簡単なソフト商品になっていないのが不思議でしょうがないくらいにウェルメイドな作品ではあるのですが、確かにあえてリリースし直すほど派手な出来のドラマでもないので、事実上の封印状態にあるのもやむをえないことかと思えてしまいます。
 あ~、こういう目立たない作品も掘り起こされるくらいに、日本の景気も良くなんねぇかなぁ~!


≪ゲーム版に関して≫
プレイステーション用ゲームソフト『闇吹く夏 帝都物語ふたたび』(1999年4月リリース ビー・ファクトリー)
 「シム・フースイ」シリーズ第4作『闇吹く夏』(1997年6月刊)を原作としたホラーアクションアドベンチャーゲーム。
 黒田龍人のほか、『帝都物語』の重要人物・キャラクターも登場する。現在使用されていない地下鉄駅(千代田区の東京地下鉄道・万世橋駅跡がモデル)や無人の地下街など、知られざる東京の風景を再現したステージも設定されている。

あらすじ
 世界的異常気象が東京にも押し寄せる1999年、7月。
 大学生の木村ヒロシは、偶然に拾ったコンピュータプログラムを起動させたことから、恐ろしい事件に巻き込まれる。
 狂い始めた東京の風水の謎とは? 「表」と「裏」の2つのステージを行き来しながら謎を解き明かし、風水を正すべく木村は立ち上がった……

登場する怪異
・首無し武者 ・付喪神「鉄入道」 ・魍魎「骸火」 ・妖怪「火車」 ・妖怪「びしゃがつく」 ・寺本洋子の霊 ・神内の式神 ・魍魎「濡蟲」 ・妖怪「わいら」 ・妖怪「木霊」 ・木霊学天則 ・妖怪「がしゃどくろ」

アニメパートのキャスティング(年齢はゲームソフトリリース当時のもの)
木村 ヒロシ …… うえだ ゆうじ(31歳)
首守 美和  …… 川崎 恵理子(26歳)
陰陽師・神内 …… 岡野 浩介(29歳)
黒田 龍人  …… 古沢 融(36歳)
寺本 秀造 / 龍岡 皇紀 …… 茶風林(37歳)

おもなスタッフ(年齢はゲームソフトリリース当時のもの)
監督・脚本 …… やすみ 哲夫(45歳)
キャラクターデザイン …… 末吉 裕一郎(37歳)
音楽    …… 野沢 秀行(サザンオールスターズ 44歳)、TAKA( TAM TAM ?歳)


 最後に、99年にリリースされたゲーム版についてなのですが、これは『闇吹く夏』というタイトルを持ちつつも、小説版とはまるで違った内容となっております。
 小説版での黒田龍人は、基本的に岩手の花巻市に出張しているので東京にはいなかったのですが、このゲーム版はその穴を埋めるかのように、主人公(ゲームのプレイヤー)が、東京圏の長雨の原因を探るために遠方に出かけた龍人と「シム・フースイ」システムのオンライン機能を通して連絡を取りながら、東京の東西南北の聖地をめぐって「帝都東京の大怨霊」の謎に迫るという内容になっております。ただし、龍人が出張しているのは海を渡った韓国なので、小説版とゲーム版とが完全にリンクしているわけでは決してありません。

 おぉ~、久しぶりのお出ましですね、帝都東京の大怨霊サマ!!
 そうなんです、このゲーム版はサブタイトル『帝都物語ふたたび』の看板にたがわず、小説の「シム・フースイ」シリーズのどれよりも濃厚に『帝都物語』の内容を継承した物語になっており、さすがに魔人・加藤保憲こそ出てはこないものの、マサカド公はもちろんのこと、『帝都物語』本編での地下鉄開発作戦に殉じて爆破・廃棄された、あの人造ロボット「学天則」が、妖怪・木霊に侵食された形で復活して強豪敵キャラになるという、ファン狂喜のゲスト出演もあるのです。マニアック~!!
 それにしても、『ウルトラセブン』の改造パンドンとか『ゴジラ VS キングギドラ』のメカキングギドラみたいに、いったん敗退した生身の怪獣が一部をメカ化して復活するという流れは昔からよく聞くのですが、その逆でもともとメカだったものが半分くらい植物化して復活するという展開にはたまげましたね。みごとな発想の転換!

 内容はアドベンチャーゲームらしく、東京に東西南北4ヶ所ある霊的スポットを主人公がめぐり、龍人の助言を得たり謎の陰陽師・神内の妨害やサポート(こいつがベジータみたいに複雑な立ち位置なんだ!)を受けながら将門の霊を鎮めるというわかりやすい流れになっております。ここでの東京圏の長雨の原因は、魔人・加藤の帝都壊滅計画のひそみにならって将門の怨霊を暴走させようとする、韓国を拠点とする風水秘密結社のもたらした災厄のひとつとなっており、ドラマ版ほど深刻に描写されてはいません。
 まぁ、単純明快なゲームらしく、作中に登場するオカルト要素は風水というよりも若者に大人気な「陰陽師」や「妖怪」をモチーフとした呪術結界や敵キャラが多い、典型的なホラーものとなっているのですが、魔人・加藤とは直接の関係はないものの、登場する妖怪たちのデザインがことごとくパイプがついたり車輪がついたりと、半分以上メカメカしいものになっているので、このゲームの6年後に公開された映画『妖怪大戦争』(監督・三池崇史)で復活した加藤が錬成・使役していた付喪神「機怪」(こちらのデザインはあの韮沢靖サマ!!)に先行したものになっているのが興味深いです。びしゃがつくとかわいらとか、妖怪のチョイスも実にシブくていいですね!


≪まとめ≫
 いや~今回も長くなってしまいすみません!!

 以上、『闇吹く夏』にまつわる3バージョンをざっとおさらいしてみたわけなのですが、お話として一番わかりやすくまとまっているのは TVドラマ版、『帝都物語』ファンに嬉しいのはゲーム版ということでありまして、最も地味で目立たない出来なのは荒俣先生おんみずからが執筆した小説版……という結果とあいなりました。なんじゃぁ、こりゃあ!!

 いや、内容的にいちばん風水をまじめに扱ってるのは小説版なんですけど、ね。

 荒俣先生、せっかくの TVドラマ化とゲーム化がついてくるタイミングだったのに、よりによってど~してシリーズ中随一に地味な内容にしちゃったんだろうか……ミヅチもゲストヒロインも大してひどい目に遭わないし、かなり「らしくない」内容なんですよね。先生、さすがに丸くなっちゃったのか? これも時代の流れなんでしょうか。

 でも、今回の小説版のラストで、しじゅうツンケンしていた龍人とミヅチの関係も大きな転換を迎えたのかもしんないし、ついにこのシリーズも、事実上の最終作である次作に向けて大きく動いたのかも知れませんね!

 さぁ、泣いても笑っても、次回の第5作で「シム・フースイ」シリーズはおしまいです!
 ここまでやっちゃったんですから、固唾をのんでその終幕を見届けることにいたしましょう!!

 ……おもしろいといいな……
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