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行進曲「軍艦」〜映画「音楽大進軍」

2016-11-26 | 映画

ディアゴスティーニの「戦争映画コレクション」の最終配信がこの映画でした。
「音楽大進軍」。

音楽映画でありながら戦争映画とされているのはなぜかというと、
この映画が戦時下で軍の検閲の元に制作されたという点でしょう。

話の筋は極めてシンプルで、楽器店の一店員がある日、
一流の音楽家を集めた皇軍慰問のための演奏会を行うことを思いつく。
実在の音楽家たちに出演を承諾させるというのが話のコアで、最後は
その演奏会のシーンで終わり。というものです。

はっきり言ってあまり面白い映画ではありません。
至るところで検閲のために回収されないままになってしまった伏線があり、
真面目に見ていると?となってしまったり、セリフが検閲を意識した
建前のものばかりで、笑いのツボも全く今とは違うせいです。


当時の日本における第一線の音楽家たちの演奏が記録されている
貴重な資料であるということを除けば、この映画ははっきり言って
ありがちな展開のなんのひねりもない駄作といってもいいでしょう。

しかし、むしろなぜ面白くないのかを考察する意味はあると思い、
その主たる原因となった政府の干渉について考えてみました。

劇中流れる音楽を取り上げながらお話ししていきましょう。



時代を感じさせるロゴですね。
この映画はもともと

「音楽大夜会」

というタイトルの予定でしたが、戦時下ということで、
このような内容ともそぐわないものに変えさせられました。
もうここからして波乱を感じさせますね。
ちなみに映画の始まる前に、

「撃ちてし止まむ」

という大きなロゴも現れます。


♪ 行進曲「軍艦」



昔の映画で目が釘付けになるのは、ロケで今も残る
建物がそのまま出てくるところです。

ご存知銀座和光ビル。
舞台は銀座の楽器店から始まります。



なんと、日本橋三越の吹き抜けのパイプオルガンではないですか!

現在でも演奏が行われ買い物客の耳を楽しませているこのオルガン、
昭和5年にアメリカから購入したもので、このホールには
昭和10年から設置されています。

映画ではこの下のフロアに楽器を並べて、ここが主人公の勤める
タカラ楽器店であるという設定。



このパイプオルガンの演奏から映画は始まりますが、
それがなんと「軍艦行進曲」なのです。

もちろん軍艦行進曲には何の文句もありませんが、パイプオルガンでねえ・・・。

それにこの井伊とかいう演奏者、メロディ間違えてるし、
パイプオルガンなのに足ペダルも使ってないんですー。(泣)



展示品のピアノで機嫌よく演奏に合わせて弾くふりをするロッパ。
当楽器店の店員にすぎませんが、音楽を愛することにかけては
人後に落ちない男、栗原六郎太を演じます。


 
こちら富士山麓のリゾートホテルに滞在する会社社長。
タカラの社長の盟友の佐伯が、楽器店にブラスバンドのための楽器を
大量発注することから話が進んでいきます。




そこでロッパ、社長命令により社長滞在のホテルまで営業で赴きます。
そのバスに同乗してきて意味もなくロッパに絡む謎のデブ。(岸井明)

最初から最後まで、このデブの正体はわかりませんでした。
全てをかき回す元凶となるキーマンなんですが(笑)

♪ 婦人従軍歌

バスに乗っている女性が車中歌うのがこの歌。
この女性たちは看護婦だったのか?と思いますが違います。
彼女らはホテルに慰問演奏に行く舞踊団のダンサーたち。



道中バスのパンクで客を一人下ろしていくということになり、
ロッパと岸井、さっそくお前が残れデブ、とデブ同士罵り合い。
いくらなんでも富士山麓で客を降ろして歩かせますかね。



社長の滞在している富士山五湖ぞいのホテル。
ここで、近くの療養所にいる皇軍傷病兵を招いての
慰問音楽会が行われることになっていました。

♪ 荒城の月 バイオリン 櫻井潔



櫻井潔というバイオリニストは、戦前戦後を通して人気があり、
様々な日本の歌をタンゴ風にアレンジしたりして、タンゴの
日本での普及を積極的に行ってきた人です。

この荒城の月の演奏も、導入はツィゴイネルワイゼン風ですが、
リズムはタンゴにアレンジしたものです。
中間部にはカデンツァもあり。



古川ロッパという名前は今ではあまり知る人もいなくなりましたが、
1936年頃に最盛期だった芸達者なコメディアンで、戦前は
ロッパ一座の座長として「天下を取ったような」(本人談)状態でした。

男爵家の出で、養子に出された先も満鉄の役員、祖父は帝大総長、
本人も早稲田大学から文藝春秋に編集者として入社したという経歴ゆえ、
プライドが高く、そのせいか傲慢で、エノケンなどのスターが次々に出てきて
時代に取り残されたときに、かつての知人は誰も付いてきれくれませんでした。

戦後にはその人気は凋落していたといいますが、このころは
その陰りが現れ始めたものの、威光はまだまだ健在、といったところでしょうか。

ロッパ一座が解散するのは戦後すぐのことになります。



このシーンで慰問されているという設定の傷病兵は、なんとびっくり本物。
伊東の療養所から招いた本物の軍人たちだったそうです。


 
メインダンサーは高田せい子。 
浅草オペラの時代に活躍した舞踊家です。

♪ 海行かば



海行かばの演奏ではオーケストラも全員が立ち上がり、
本物の療養兵士たちもこのように共に合唱を行います。
この後彼らは列を組んで芝生の向こうに歩いていくのですが、
遠目に見ても脚を引きずっている人が何人か・・・。

この人たちのうちどのくらいが生きて終戦を迎えたでしょうか。




「慰問演芸会を南方に送りましょう」

この慰問演芸会に感激した一楽器屋店員の一言でことが動き出します。
隣は社長の令嬢。

「大東亜共栄圏確立のために南方の前線で命を投げ出して
戦っていらっしゃる兵隊さんたちにも、今の演芸会を見せてあげたら
どんなに喜んでもらえるかと思うんです」

ロッパ、長ゼリフなので噛み噛み。

声帯模写の達人で、徳川夢声が病気で倒れた時に代わりにラジオ出演し、

後で徳川本人が「これは自分の声だ」といったという才能の持ち主ですが、
こういう演技はそう達者というわけではなかったようです。



本日の慰問団を仕掛けた会社社長、佐伯。(汐見洋)
この人のセリフがまたすごいよ?

「なるほど、慰問団を通じて銃後はこのように明るいということを知らせる。
そりゃいい思いつきだ。
皇軍慰問と同時に英米の勢力を駆逐した大東亜に生きる
我々の兄弟たち、特に南方の国々の兄弟たちにも是非見せてあげたいよ」

お上のご指導で言わされている感ありまくり。



楽器店が一流演奏家を集めるなんて、と反対の声もありますが、
予定調和でうまく収まり、(笑)ロッパは計画実現に奔走を始めます。

さっそく当代一の指揮者、岡倉雄作邸に依頼に行ったところ、
歌手として売り込むために日参していたデブとばったり。
慌て者のロッパと先輩社員(渡辺篤)はこれを岡倉のマネージャーと勘違い。
デブもその気になってマネージャーののふりをするので話はこじれる一方です。



ロッパと渡辺、ホテルの喫茶室で社長令嬢と面会。
この後庭で高杉妙子という歌手が「湖畔の宿」を歌うシーンは

「あまりにも脆弱で女々しく感傷的だ」

として丸々カットされました。
ついでに、会話では渡辺が池に落ちたということをいうのですが、
そこもカットされてしまったらしくなんのことだかわかりません。
慰問演芸会のシーンでも、タンゴ歌手の歌がカットされています。


さて、ここで社長令嬢、


「藤原義江さんなら私が話を通してあげる」

とノリノリで独身のロッパをぐいぐいリードして・・。



当時日比谷にあったNHK放送会館。
戦後は進駐軍に接収されていましたが、返還後ホールを増設し、
取り壊されてあとは日比谷シティ(富国生命本社ビル)となりました。

♪ さくらさくら

♪ 月月火水木金金

♪ 愛馬行進曲




和田肇というピアニストのことは全く知りませんでしたが、
その息子の和田浩治という俳優さんが亡くなる直前、

「僕の親父はピアニストで、年取ってからも毎日
必ずスケール(音階)の練習をしていました」


と言っていたのだけ覚えています。
ちなみにこの時に弾いているピアノはベヒシュタインです。

♪ 中国の太鼓 辻久子



なんと、バイオリニスト辻久子の演奏がフルで。
当時は「支那の太鼓」だったのですね・・・・。

この映画の制作時、1926年生まれの辻は18歳。
なんか18歳にみえないんですけど・・・。



ちなみに1951年の写真。何があった。
でも、現在のお姿はまた18歳の時に近くなっているようです。


♪ 兵隊さんよありがとう 東京音楽学校児童合唱団



まあ曲は慰問向きとして、まさかこの児童を
南方の慰問に送るつもりではないでしょうね?



放送センターで一線の音楽家たちの演奏を聴いて
何人かには出演依頼を済ませ、ご機嫌のロッパ。



「結構な催しじゃありませんか。ぜひ出ます」

社長令嬢のセレブ人脈恐るべし。
なんと当代一の人気俳優長谷川一夫山田五十鈴の依頼を取り付けました。



場面は変わり東宝映画撮影所。
東宝といえば映画「シンゴジラ」のオープニングは、昔のままのロゴでしたよね。



長谷川一夫と山田五十鈴の元禄花見踊り撮影がが行われております。
まあ、東宝撮影所と機材のいろいろを見せるためのコマでしょう。
ところが渡辺とロッパが撮影の邪魔をして追い出されるという波乱。

こんなことをしても出演を断られなかったのは奇跡です(棒)



渡辺には栄子という妹(里見藍子)がいてこの娘はロッパと恋愛中、
という設定なのですが、これもこの瞬間までわかりません。
検閲にあったせいか、惚れたはれたが全く語られないまま、兄が

「栗川と社長令嬢が怪しい」

と吹き込んで栄子がロッパに疑惑を持つという早回し展開。



「これ、あなたにあげます」

ロッパがカナリアをプレゼントして栄子は疑っていた自分を恥じるのでした。

なぜカナリアをプレゼントすれば浮気の疑いが晴れるのか。
むしろそれは怪しいと思うのが普通ではないのか。

といろいろ突っ込みどころはありますが、とにかく後半に続く。



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