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「タートル」から「ミシガン」まで 歴史の断面図〜潜水艦「シルバーサイズ」博物館

2023-03-11 | 博物館・資料館・テーマパーク

潜水艦「シルバーサイズ」博物館の展示をもう少し続けます。

■ 潜水艦はどうやって潜航し浮上するのか?

潜水艦は「浮力」Buoyancy と「変位」Displacementという
二つの主要な力によって潜水および浮上します。

【アルキメデスの原理】


全体的または部分的に流体に浸された物体は、
物体によって押しのけられた流体の重量に等しい力によって浮上します。

あなたは海やプールでビーチボールを水中に押し込んで
そのまま保持しようと試みたことはありませんか?

深くボールを押し込めば押し込むほど抑えるのは難しくなります。
何かが深く水中で抑えられると、水はそれを押し上げようとします。

これが「アルキメデスの原理」ですが、これは
変位などの他の力にも依存します。

【変位】



沈む物体は、オブジェクト(物体)の体積に等しい量の流体を押し退けます。
(アルキメデスがこれを発見したきっかけが、
お風呂から溢れ出る水だったことを思い出してください)

コップ一杯の水に大きなビー玉を落とすと水が溢れ出しますね。
水に何か入れるとその体積に等しい量が押しのけられるのです。

例えば100トンの頑丈な鉄の棒を水中に投げると、体積がずれて沈みます。
しかし、その鋼鉄の棒が空のスペースを持つ船の形をしている場合、
同じ堆積の水を押しのけるというのは棒の場合と同じですが、
ただしこちらは内部の空のスペースがあるので、浮くことができるのです。

この際、浮いている船の変位と浮力は必ず等しくなければなりません。
ここで潜水艦の潜水の仕組みを図解で示します。

1浮上中     2潜入    3潜航中    4浮上中    5浮上完了

1. 潜水艦が潜水するとき、上部と下部の通気孔が開きます。

2.空気が上部から排出されると、水がバラストタンクの下部に入ります。

3.潜水艦が必要な深度に達すると、上部の通気孔を閉じますが、
そうするとバラストタンク(および圧力艦体)に十分な空気が残り、
潜水艦は水中に浮いたままの状態を保持します。

4.潜水艦が水中に留まるために十分な水を移動させると、
アルキメデスの原理によって艦体は下から押し上げられ、浮上します。

5.浮上すると、底部の通気孔が開かれ、艦内の圧縮空気の特別なタンクが
空気をバラストタンクに送り込み、中の水を押し出します。

すると潜水艦はアルキメデスの原理で押し上げられて水面に浮かびます。

潜水艦が水面に到達すると、外気から空気を吸い込み、
バラストタンクへの充填を完了することができるのです。


自分の過去ログを見ていたら、呉で「あきしお」を見学した時の
自衛隊による同じ原理の説明がみつかりました。

日本語のせいだけでなく、こちらの方がわかりやすいですね。



さて、冒頭のパネルには、かっこいいタイトルが付けられています。

Relative  Size: Cross Section of History
大きさ比較:歴史の断面図

独立戦争時代の小さな潜水艦「タートル」から、
今日の巨大な攻撃型潜水艦まで、
アメリカ海軍の潜水艦の長さ、幅(ビームと呼ばれる)および
その外観は時代につれ変化していきましたが、
必ずしも時代が下れば艦体が大きくなるというわけではありません。

ここではUSS「タートル」から最初の公式海軍潜水艦「ホランド」、
そして海洋をパトロールする最新クラスの潜水艦旗艦、
USS「バージニア」にいたるまでの、かつて存在した
いくつかのクラスの潜水艦の断面が実物大で示されています。

■ アメリカン・タートル American Turtle




巨大な円の中心となっているのは、独立戦争時代に
エズラ・リーとデビッド・ブッシュネルが考案した一人乗り潜水艦、

「ブッシュネル・タートル」Bushnell Turtle

という「潜水可能な」=submersible 船の艦体です。

ブッシュネルの亀は、「潜水艦の故郷」ともいわれる
コネチカット州グロトンの潜水艦部隊基地に併設された潜水艦博物館に
実物大のレプリカが展示されていたことから、当ブログでは
結構微に入り細に入りお話ししたことがあります。

ブッシュネルの亀〜アメリカ潜水艦事始め

興味のある方はぜひご一読ください。

ここに記された潜水艦の最も大きな部分の「輪切り」ですが、
そのほとんどが「縦切り」による輪切りなのに対して、
この「タートル」だけは横に切っています。


一人が内部に自転車を漕ぐような形で乗るため、
どうしても縦長の樽状にせざるを得なかったんですね。
スペックは、

【American Turtle】
1775年
乗員:1
潜航深度:ほぼ水面
速度:3mph(時速4.8km)


そして「タートル」からは格段に大きい群青色の輪は、


USS「ホランド」Holland SS-1



このいちばん手前のブルーの物体が「ホランド」です。
可愛らしいですね。



これも立って乗るのか・・。

艦の発明者であるジョン・ホランドの名前にちなんで命名された、
SS-1つまりアメリカ合衆国最初の公式潜水艦ということになります。

この「公式」は最初に艦番号が与えられたという意味であり、
実際の「最初のアメリカ海軍潜水艦」は、
フランス人技術者が開発した「アリゲーター」でした。

「ホランド」の性能諸元は以下の通り。

USS Holland SS-1
1900-1910

全長:19m
ビーム:3m
潜水深度:3m
最大速度:水上航走時 8
潜航中 5
乗員:7
推進:ガス/電気

 USS「シルバーサイズ」Silversides SS-236 
「ガトー」Gato



いきなり3倍くらい大きくなった茶色い円は、
当ブログで説明してきた潜水艦「シルバーサイズ」を表します。

第二次世界大戦中活躍した「シルバーサイズ」については
今までお話ししてきましたので、説明は省きます。

性能諸元

USS「シルバーサイズ」1
1941ー1946
「ガトー」「バラオ」「テンチ」級潜水艦

全長:95.02m
ビーム:8.31m
乗員:士官654
試験深度:90m
最大速:水上 時速37km 水中 時速16km
推進:ディーゼルエンジン


「シルバーサイズ」は「ガトー」級ですが、
艦体の大きさがほぼ同じである同時代の「バラオ」「テンチ」も
輪の中に一緒に名前が記されています。

 USS「シルバーサイズ2」SilversidesII
「スタージョン」級原潜 SSN-679



緑色で表されている潜水艦は、
原子力潜水艦2代目「シルバーサイズ」です。



進水式のときと思われます。
セイルのところに立っている一団は乗員(予定)でしょうか。
日本では引き渡し式を経るまで正式にはまだ自衛隊のものではないので、
進水式の時にはまだ乗り込んでいないと認識していますが、
アメリカではこのへんがちょっと違っているのかもしれません。

ディーゼル機関から原子力潜水艦に移行して、
いちばん変わったのがなんといっても艦体の大きさだと思いますが、
実は「シルバーサイズ」」のガトー級と「スタージョン」級は
いうて5mしか全長が違いません。

確かに艦体の輪切りを見る限り、かなり大きくなっていますが、
しかし、居住性が良くなったかというとそれは疑問です。

「シルバーサイズ」2が生まれたグロトンの潜水艦博物館には
史上初めての原潜「ノーチラス」が展示されていて、見学しましたが、
ディーゼルボートと比べても決して居住区は広くありませんでした。

これは、見学者には立ち入りを許されなかった艦の後部、
原子力機関の区画にスペースが割かれているからと考えられます。

乗り込む乗員数もほぼ2倍に増えているせいもあって、
艦内のコンパートメントはやたら細かく区切られており、
閉所に弱い人は確実に精神をやられそうに見えました。

原子力潜水艦はその気になれば永久に潜航可能
(これが本当のスティル・オン・パトロール)ですが、
人間がそれでは「もたない」ので、必ず適度に上陸させるのだそうです。

余談ですが、「スタージョン」級の命名基準は、
ディーゼル式の頃からの伝統を受け継いで魚の名前となっていますが、
3隻だけ、海軍出身上院議員の名前を冠した艦が存在します。

「ウィリアム・H・ベイツ」SSN-680

「L・メンデル・リヴァース」SSN-686

「リチャード・B・ラッセル」SSN-687

らがそれです。

性能諸元

USS「シルバーサイズII
「スタージョン」級
1969-1994

全長:90.8m
ビーム:9.7m
潜航深度:396m
最大速度:25
推進:原子力 蒸気タービン
乗員:士官 14 兵員 95


■ USS「バージニア」Virginia SSN-774
「バージニア」級攻撃型原子力潜水艦



薄いブルーに塗られた潜水艦です。

旗艦「バージニア」が海軍に引き渡された2004年10月12日は、
かつてUSS「ホランド」が就役したのと同じ日だったそうです。


いかに「バージニア」級が大きいかは、上に人が乗っている状態でないと
よくわからないでしょう。(写真はUSS『ノースカロライナ』)

性能諸元

USS「バージニア」Virginia SSN-774
2004-

全長:114.9m
ビーム:10.3m
乗員:士官 兵員 113
最大潜航深度:250m
最大速度: 水上時速 46 km 水中 59 km
推進:加圧水型原子炉 蒸気タービン



USS「ミシガン」Michigan
SSBN-727/SSGN-727

「オハイオ」級原子力潜水艦



そしていちばん外側の最大の輪で表されたのが「ミシガン」。
実は「バージニア」級より20年も前に就役したタイプです。

「必ずしも時代が下れば大きいというわけではない」

というのはこのことを言うのですね。
原子力推進を得てどんどん艦体を大きくしていき、
「オハイオ」級では大きさの限界に挑戦しました的になりましたが、
潜水艦ってこれほど大きくする必要ある?と自制&自省した結果が、
「バージニア」級のサイズダウンだったのでしょうか。

ちなみに、「ホランド」級と比較すると、

全長 9倍
ビーム 4.3倍
乗員数 22倍

となります。



続く。



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4 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
攻撃型原潜とミサイル原潜の差 (Unknown)
2023-03-11 06:38:14
>原子力推進を得てどんどん艦体を大きくしていき「オハイオ」級では大きさの限界に挑戦しました的になりましたが、潜水艦ってこれほど大きくする必要ある?と自制&自省した結果が「バージニア」級のサイズダウンだったのでしょうか。

これは、オハイオ級は元々、弾道ミサイル原潜で、弾道ミサイル用の垂直発射筒が船体の大部分を占めているからです。バージニア級は攻撃型で、弾道ミサイル発射筒はありません。トマホークの垂直発射筒がありますが、トマホークは魚雷と同じ大きさで、ミサイルが小さいので、垂直発射筒も小さいです。
返信する
艦の大きさ (お節介船屋)
2023-03-11 10:48:01
>潜水艦ってこれほど大きくする必要ある?
船屋が何時も考えるのは用兵側からの要求が何かにより、検討するのが常に大きさです。
「オハイオ」級は画期的な長距離と高精度のトライデントSLBMを24基搭載することを要求され、この多弾頭核ミサイルの寸法、発射筒が艦体の直径、大きさを決める要因であり、艦中央部に24基の発射筒を装備されたことから、水中排水量19,000tともなりました。

攻撃原潜のような速力が要求されませんでしたので水中24ktです。なお現在は核削減協定から20基搭載となっています。

なお代替で建造中の「ディストリクト・オブ・コロンビア」級はトライデントD-5が8基少ない16基となりましたが僅かに大きく、水中排水量20,801t、全長171m、幅13.1mで2031年から竣工、「オハイオ」級と交代します。推進は原子力ターボ・エレクトリックとなり、機関区画のスペースの増加があり、この大きさとなったようです。ギア・ボックス不用となり、静粛性が一層高まります。

弾道核ミサイル搭載潜水艦はロシア、中国、英国、フランスも搭載ミサイルで大きくなっており、攻撃潜水艦とは一線を画す艦です。

究極の攻撃原潜は「シーウルフ」級でしょうが冷戦終結で高性能高価であり、3隻で取りやめ、水中速力や潜航深度を緩和して民生電子機器導入、ライフ・サイクル・コスト低減等の実施で船価低減を図り、50隻以上の整備を実施中です。大きさも「シーウルフ」級より僅かに小さくなっています。魚雷発射管も少なく、要求が下がったので小さくなったようですが、相対的に用兵要求が過大となっていく傾向があり、タイプシップより大きくなる傾向にはあります。

概ね用兵要求により大きさが大きくなってきますが予算や技術で小さくしようとの葛藤が用兵、技術の長年の対立です。

単機能で小さいほうが船価低減、数も揃えられますが、あれもこれもの要求が多いのが常です。

参照海人社「世界の艦船」No567,921、988
返信する
艦の大きさ(一部訂正)再送 (お節介船屋)
2023-03-11 11:06:06
>潜水艦ってこれほど大きくする必要ある?
船屋が何時も考えるのは用兵側からの要求が何かにより、検討するのが常に大きさです。
「オハイオ」級は画期的な長距離と高精度のトライデントSLBMを24基搭載することを要求され、この多弾頭核ミサイルの寸法、発射筒が艦体の直径、大きさを決める要因であり、艦中央部に24基の発射筒を装備されたことから、水中排水量19,000tともなりました。

攻撃原潜のような速力が要求されませんでしたので水中24ktです。なお現在は核削減協定から20基搭載となっています。

なお代替で建造中の「ディストリクト・オブ・コロンビア」級はトライデントD-5が8基少ない16基となりましたが僅かに大きく、水中排水量20,801t、全長171m、幅13.1mで2031年から竣工、「オハイオ」級と交代します。推進は原子力ターボ・エレクトリックとなり、機関区画のスペースの増加があり、この大きさとなったようです。ギア・ボックス不用となり、静粛性が一層高まります。

「オハイオ」級は戦略パトロールで稼働率を上げるため、ブルーとゴールドの2クルー制を取っており、70日間の戦略パトローでル交代しています。

弾道核ミサイル搭載潜水艦はロシア、中国、英国、フランスも搭載ミサイルで大きくなっており、攻撃潜水艦とは一線を画す艦です。

究極の攻撃原潜は「シーウルフ」級でしょうが冷戦終結で高性能高価であり、3隻で取りやめ、「バージニア」級で水中速力や潜航深度を緩和して民生電子機器導入、ライフ・サイクル・コスト低減等の実施で船価低減を図り、50隻以上の整備を実施中です。大きさも「シーウルフ」級より僅かに小さくなっています。魚雷発射管も少なく、要求が下がったので小さくなったようですが、相対的に用兵要求が過大となっていく傾向があり、タイプシップより大きくなる傾向にはあります。

概ね用兵要求により大きさが大きくなってきますが予算や技術で小さくしようとの葛藤が用兵、技術の長年の対立です。

単機能で小さいほうが船価低減、数も揃えられますが、あれもこれもの要求が多いのが常です。

参照海人社「世界の艦船」No567,921、988
返信する
「スタージョン」級 (お節介船屋)
2023-03-11 13:08:54
ハープーンの搭載により水上艦船攻撃能力を強化した攻撃型原潜で1967年から1975年にかけて37隻が竣工しました。
スキップジャック級の涙滴型から魚雷型となったのに出力を増大させなかったので水中速力が25ktに低下しました。
「リチャード・B・ラッセル」SSN-687が最終艦でした。

エリス中尉の記述のとおりでスタージョンが3代目の名称以外2代目の艦名となっています。
「ウィリアム・H・ベイツ」SSN-680当初はレッドフィッシュ(Ⅱ)でしたが改名しました。

「シルバーサイズ」は1990年頃改造でセイル後方に特殊部隊用の小型潜水艇の収納設備DDSを搭載しました。
「リチャード・B・ラッセル」も改造でセイル後方に通信用ブイ格納所と縦舵の前方にGNATSと言う総合ソナー・システム用の大型ドームが設置されました。
1990年代末までの全艦退役しました。
参照海人社「世界の艦船」No567
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