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入間航空祭~「私は市民です」

2012-11-29 | 自衛隊

 

航空祭の風景です。

それにしても、基地の周りにほとんど隣接している住居のなんと多いこと。
これがすべて自衛官家族の住居というわけではないでしょう。
特に右写真のいかにも分譲のようなマンション、
最初から滑走路を眺めながら暮らしたい、というその筋の方向けに作られ、
そういう人たちのために販売されたとしか思えません。
おそらく、このマンションのパンフレットには、

「航空自衛隊基地滑走路の眺望を独り占め!
朝にはU-125のランアップ、そして次々と滑走路を飛び立つYS-11。
風を切って爆音を響かせるT-4の編隊、そして夜間訓練に瞬くC-47Jのライト。

遠い地平線が消えて、深々とした夜の闇に心を休めるとき、
はるか雲海の上を音もなく流れる気流は弛みない宇宙の営みを告げています。
満天の星を戴く果てしない光の海を(中略)何と饒舌なことでしょうか。

そんなあなたにお送りする、至福の暮らし。
航空自衛隊の飛行機とともに始まり、そして終わる一日。
このプレステッジとラグジュアリーな『ファーストシート』を今あなたに。
只今全戸好評分譲中」


などと書かれてあったに違いありません。

たとえそうでなくても、よそに住む選択肢がいくらでもあるのに
こんなところに住んでおいて「自衛隊の飛行機の騒音がうるさい」
などとはどの口が言うのか、と普通の人間なら思うものです。

ところが。

何日か前に「航空消音機」のことを調べたときにも少し書きましたが、
基地の周りに居住する人々というのはガンガンクレームを出すんですね。
騒音に対して。
ですからこそ自衛隊は、川崎製の航空消音装置などを設置し、
狭山市のホームページに飛行時間と夜間飛行の実地予定を明記し、
住民の理解を仰いでいるわけです。

このとき一連の「住民クレーム」(入間基地に限りませんが)について検索していたところ、
ヤフ知恵におけるこのような質問が引っかかってきました。
突っ込みどころ満載なので、そのままご紹介します。

タイトル
「入間基地の夜間訓練ですが私は狭山市民です」

私は狭山市民です子供が病で夕方涼しくなったので窓を網戸にしていたら、いきなりジェット機の爆音です夜間訓練は国の非常事態時のための訓練だそうですがその前に近隣市民への、配慮が全く感じられません。夜間飛行一回でどのくらいの費用がかかるのか知りたいのですが。

公正さを記すため、句読点も改行もないこの文章を忠実にタイプしました。
しかし、日本語の句読点の付け方というのは難しいものですね。
つけ方次第では、書き手の文章能力は勿論、学力、知的レベルまで
疑われてもしかたがないほどの壊滅的な打撃になってしまいます。
いや、この文章の書き手がどうというわけではなく・・・・自戒の意味も込めて。

そこで、文章の批判は差し置いてこの方のこの投稿を虚心坦懐に眺めると、
不思議なことがいくつかあるのに気づきます。

まず、この人は、いつからここに住んでいるのでしょうか。
「狭山市民です」とタイトルと冒頭で二回も繰り返しているところを見ると、
昨日今日引っ越してきたわけでもなさそうです。

夕方、窓を開けて網戸にしたらいきなりジェット機の爆音。
いかにも驚かされたかのように書いておられますが、
ジェット機のスピードを考えると、爆音というのはそういうものではないでしょうか。
そして、この方がここに引っ越してきて少なくとも一週間以上経つのであれば、
入間基地の夜間訓練は週三回行われているわけですから(狭山市HPによる)
初めて気づいたというのはあまりにも不思議な認識です。

前にも一度書いたことがありますが、わたしは息子を出産してほぼ一か月、
ほとんど赤子の顔しか見ない、赤子のことしか考えない生活を送っておりました。
今にして思えばつまらない過ごし方をしたなあと思わないでもないのですが、
それは、そのとき社会で何が起こっているのか、全く見えず聞こえず知りもせず、
世界から閉ざされた無重力のカプセルの中にいるような一か月でした。

この投稿者は、お子さんが病気であると最初に書いています。
つまり引っ越してきて以来、あのころのエリス中尉のように、病気の子供以外眼中になく、
基地の夜間訓練のことはこの日窓を開けて初めて知ったのでしょうか。

それならば言っている意味はよくわかります。

つまり、
「私は病気の子供がいる市民だが、基地の爆音がうるさい。
住民への配慮が感じられない。
こんな訓練に、税金を使うな」

この文章を三行でまとめるとこういうことになろうかと思います。

しかし質問の文中にあるように「国の非常事態のための訓練だそうだが」とあり、
「だから人殺しの軍隊である自衛隊は即刻解散せよ」
という結論に持っていかないあたりは、この投稿者はプロ市民ではなく、
単なる「善良な一エゴ市民」ではないかと想像されます。

狭山市の基地騒音課や航空自衛隊入間基地にクレームを入れるでもなく、
なぜこの人がヤフー知恵袋にこの質問を立てたのかはわかりませんが、
おそらく、自分の境遇に同情する人々が返答をしてくれると思ったのでしょう。

はたして、この質問に対して三つの回答が寄せられました。
意訳したうえ、簡潔にまとめてみます。

「子供の病気と騒音と何の関係があるの?
それに、夕方の離発着は夜間訓練じゃないし。
狭山市のHP見てから文句言え」

「近隣への配慮があるからHPに予定を記して回数制限もしてんだろ。
夜間訓練しなきゃ昼しか戦えない軍隊になっちまうんだよ!
ちなみに金額は一回何百万以上ですがそれが何か?」

「狭山市には先祖代々から住んでいるのですか?
後から引っ越してきてどの口が言うかこのモンスター住民が」

とまあ、若干(かなり?)乱暴な意訳ですが、ともかくこんな感じです。
つまり、三人ともこの投稿者に怒っています。
投稿者はこの誠意溢れる回答に満足したのか、三人で答えを締め切ってしまいました。



さて、まじめな話、基地は昭和13年からここにあるのですから、
昭和13年以前からここに住んでいて、かつどうしても騒音に耐えられなかった人は、
おそらく移転をしてしまっていると思われます。
転勤などで新たに移住してくる人もいるわけですが、
狭山市はこの基地騒音への対策、たとえば防音装置の取り付け(二重ガラスなど)には
補助金を出す、公共の建物などには最初から防音設備をつける、
そしてHPにおいて基地の所有機などを明示し、あるいは夜間訓練日を告知する、
と、入間基地と協力して取り組んでいます。
基地に設置された消音機もその対策の一環ですね。

沖縄の基地問題では、住民対基地ではなく、なぜか
「市民対基地」の様相を呈しており、市民は市民でも沖縄市民ではない、
なぜか東京や大阪から駆け付けた「市民」が、
オスプレイ反対を叫んで凧を揚げたりしている不思議な構図になっているようです。

この投稿者は「狭山市民です」と強調していますが、「市民」というのは「住民」というより
観念的な物言いをするときに、個人(そこに住んでいるかどうかを含めて)を観念の後ろに隠し、
理論武装するという意味で、より便利な自称なのかもしれないとつい思ってしまいました。
「市民運動家」から「プロ市民」という言葉が生まれたように。

つまり「病気の子供」と同じく「権利の主張」に基づく利益を得ようとするときに自分を守ってくれる
「パワードスーツ」みたいなもの、というのは言いすぎでしょうか。(←反語)