Luna's “ Life Is Beautiful ”

その時々を生きるのに必死だった。で、ふと気がついたら、世の中が変わっていた。何が起こっていたのか、記録しておこう。

共産党機関紙「前衛」論文「アメリカの経済介入はどう進められてきたか」スクラップ(下)

2006年02月08日 | 一般






(承前)---------

 

  郵貯が民営化されるということは、日本の公的貯蓄部門がなくなることを意味する。図3は「世界の公的貯蓄」の現状を示したものである。公的貯蓄部門がゼロやわずかなアメリカとイギリスでは、民間金融機関が少額預金者や低所得者を相手にしない「金融弱者排除」が社会問題化している。今後、日本でも金融弱者の排除が懸念される。簡易保険の民営化は、国民の生命の最低保障としての公的保険がなくなるということである。郵政民営化の本質は、アメリカと日本の金融界の利益のために、国民のくらしを支えてきた公的貯蓄や公的保険が消滅させられることにある。



 

医療制度「構造改革」


 


〈医療制度「構造改革」のねらい〉


  十月十九日、厚生労働省が「医療制度・構造改革試案」を発表した。高齢者の自己負担増や患者負担の引き上げをはじめ、国民皆保険制度を破壊する空前の大改悪案である。「試案」の内容と分析については「しんぶん赤旗」や本誌十二月号の谷本論文、梅津論文を参照されたい。また十二月一日には政府・与党の「医療制度改革大綱」が決定された。


  この医療制度「構造改革」にも、日本財界とアメリカの要求がこめられている。かれらの要求は、一言でいえば、公的医療の縮小と医療の市場化である。


  保険証一枚で受けられる公的医療の範囲を縮小し、保険の自己負担や自由診療部分(全額患者負担)を増やせば、公的な医療費を抑え込める。そうすれば、社会保険料負担や老人医療への拠出金など大企業の負担を抑制できる。また、公的保険でみる医療の範囲が縮小すれば、国民はいざという時のために、民間の医療保険などに加入せざるをえない。自己負担と自由診療部分が増えれば増えるほど、アメリカや日本の保険会社、医療サービス会社が儲かる。企業負担の抑制と同時に、儲けの場が拡大する(医療の市場化)という意味で、医療制度「構造改革」はかれらにとって一石二鳥の「改革」である。


  そのために公的医療費の「総額管理方式」をはじめとする医療費抑制のための制度設計、「自己負担増」、「混合診療」の解禁、「株式会社の参入」が財界とアメリカの要求の中心になっている。


  「総額管理方式」とは、医療費総額の伸びを経済成長率に連動させて抑制しようというもので、「景気の悪いときは病気をするな」という滅茶苦茶な論理である。厚生労働省「試案」や「大綱」では、さらに公的医療費を抑制するために、「新たな高齢者医療保険制度の導入」や「都道府県による医療費抑制競争」などが打ち出されている。「自己負担」についても高齢者の窓口負担の引き上げ、入院患者の居住費・食費の全額自己負担化、高額療養費の負担上限額の引き上げなど、かつてない規模の改悪メニューである。


  「混合診療」とは、公的保険がきく診療(保険診療)と保険がきかない自由診療(保険外診療)を組み合わせることをいう。すでに、特定の大病院でおこなう心臓移植などの「高度先進医療」や、差額ベッドなどの「特定療養費制度」で、例外的に「混合診療」が認められている。「混合診療」の解禁とは、患者の支払い能力がそのまま医療の格差となってあらわれる医療制度への変質を意味する。同時に、保険会社や医療サービス会社、薬品、医療機器会社にとっては、儲けの場を広げることに他ならない。


  具体的に、日本財界とアメリカの動き、政府内部の議論の過程についてふれておきたい。



 

〈日本経団連の動き〉


  日本経団連は、〇四年九月の意見書「社会保障制度等の一体的改革に向けて」、および同年十一月発表の「〇四年度・規制改革要望」で、「公的医療保険制度の守備範囲の見直し」と「混合診療」の解禁など「医療・保健サービス分野において民間活力が発揮できる環境を整えていくべき」と主張している。さらに同年十二月の「財政の持続可能性確保に関する提言」では「公費負担に関する目標額をかかげ、改革工程を明らかにすること(「総額管理方式」)」「保険外サービスと保険サービスの併用を進めること(混合診療)」「免責額を設定し、一定額以下については全額自己負担とすること(保険免責制度)」そして「何よりも老人医療費の伸びを抑制すること」を要求している。


  〇五年五月の提言「医療制度のあり方について」では、「公的給付費については名目GDP成長率を基軸にして伸び率を抑制することが重要」と再度強調し、「総額管理」に抵抗する厚生労働省の姿勢を批判、伸び率を抑制する手段として「個別課題ごとに国、地方自治体、保険者、医療機関、国民などが実施主体となり、到達目標と実施計画を策定、実行し、その評価を進めること」を強く求めている。

 同年六月発表の「〇五年度・規制改革要望」でも「経済と整合的な目標を設けて公的な医療給付を適正化する必要があり、思い切った規制改革の実現を図るべきである」とし、「営利法人による保険医療機関の経営参入の容認」や「一般小売店で販売が可能な医薬部外品等の拡大」などを要求している。

 また同年十月に発表した「二〇〇六年度の医療制度改革に向けた日本経団連のスタンス」では、「公的医療保険制度は相互扶助と個人の自助を基本とし、給付内容を、重度の病気やけがで生命や生活に支障がある人への医療サービスに重点化する必要がある」とのべ、公的医療給付費の総額を抑制するための政策目標の設定とアクションプランを求めている。具体的には、「公的医療給付費の総額目標」として、二〇一〇年度の公的医療給付費を四兆円抑制し、三十兆円以内に抑えることを提案している。さらに「高齢者の自己負担増(原則、入院二割、入院外三割)」、「公的給付範囲の見直し(入院時の食費・居住費の全額自己負担、保険免責制の導入、高額療養費の上限見直しなど)」、「高齢者医療制度の創設」や、「保険者の再編・統合」、「診療報酬の見直し」、「混合診療」の拡大、「株式会社の参入」を要求している。



 

〈アメリカの動き〉


  日本の医療分野にたいするアメリカの規制緩和要求も長年にわたりおこなわれてきた。


  アメリカの要求の中心は、医薬品や医療機器を日本への売りつけるための規制緩和、医療保険分野への進出とシェアの拡大である。日本の公的な健康保険料の支払は約十六兆円だが、民間の医療保険等への支払はすでに二十六兆円に達しており、うち外資系のシェアは約二割で、この二、三年で一・五倍に増加している。またアメリカのAIG傘下の生命保険会社三社(アリコ、エジソン、スター)は、〇四年の保険料収入が日本生命を抜き、国内トップに躍り出た。とくにこれからは「混合診療」の解禁、「株式会社の参入」が強い要求となっている。



 
「規制改革・競争政策イニシアティブ(「年次改革要望書」)


 九八年、九九年の「年次改革要望書」では、「革新的」な医薬品・医療機器の導入をすすめるための規制緩和が要求の中心である。また「医療サービスの規制撤廃」という項目では、病院経営などへの参入規制の撤廃を検討すべきとしている。「保険」の項目では「アメリカの保険会社に対して日本の保険分野の規制を撤廃し、市場を開放するという日本の金融監督庁とその他の関係機関の努力を歓迎する」としつつ、「保険提供における民間部門の役割を最大限にする一方、政府の役割は最小限に」とのべ、民間の新保険商品の認可などいっそうの規制緩和を求めている。


  二〇〇〇年の「要望書」は露骨である。「日本の医療機器・医薬品市場は世界第二位の規模である。しかしながら、この分野において世界的リーダーである米国の製造業者は、新製品の日本への導入を妨げるような規制による障害に引き続き直面している」とし、「当初三年間の『規制緩和及び競争政策に関するイニシアティブ』を通して日米両国政府は重要な成果を上げた(新薬承認処理期間の一二ヶ月への短縮、医療機器および医薬品承認の外国臨床データの利用拡大、特定の新医療機器への暫定価格の適用など)が、さらなる成果を上げる余地がまだかなりある」と踏み込み、「革新的」な医薬品の導入促進、「薬事制度」の改革、医療法人の定義の緩和と業務の外部委託化の推進を求めている。


  〇一年の「年次改革要望書」では、医療制度改革について「米国政府は日本が医療制度を改善するための手段として市場競争原理の導入と構造改革の遂行に焦点を定めていることを歓迎する」とし、「特に『総合規制改革会議』の提案を支持する」と強調した。「総合規制改革会議」の提案とは、同年七月二十四日に出された「重点六分野に関する中間とりまとめ」の第一項目に取り上げられた医療分野の規制緩和のことである。中身は「医療に関する徹底的な情報公開とIT化の推進」や「医療機関の広告及び情報提供に係る規制の抜本的見直し」「診療報酬体系の見直し(定額払い制度の拡大)」「医療機器・医薬品の価格算定改革」「公民ミックスによる医療サービスの提供(混合診療)など公的医療保険の対象範囲の見直し」「医療機関の経営形態の多様化」「医療分野の労働者派遣」等々で、何のことはない、もともとアメリカの要求を「総合規制改革会議」が代わりに打ち出したものに過ぎない。


  〇二年の「年次改革要望書」では、「医療機器・医薬品に関するすべての制度を規制する『薬事法』の改定が、制定後四〇年で初めて実施されていることを支持する」とし、アメリカの要求が実現しつつあることを歓迎している。また〇三年の「要望書」では、日本の医療改革の動きを歓迎。とくに「薬事法」の改正を評価したうえで、さらに医療機器・医薬品の承認および市場導入前の期間の迅速化をはかることを求めている。


  「投資イニシアティブ」 〇五年七月に発表された「日米投資イニシアティブ報告書」には、「米国企業はかねてから日本の医薬品、医療技術及び医療機器ビジネスに参画してきているが、医療サービス市場についても米国企業が参加し貢献する余地がある」とし、「混合診療」の解禁、「営利企業による医療サービスの提供」を要求している。


  「報告書」には、アメリカ側が「混合診療」の解禁を求めたことにたいし、厚生労働省が「今後とも、米国政府の要望に応じて、『混合診療』問題の改革の進展について、情報提供を継続する」と答えたことが記載されている。


  「営利企業による医療サービスの提供(株式会社の参入)」については、厚生労働省がアメリカと日本財界の要望にこたえて、当面「構造改革・特区」において株式会社による病院経営を許可していた(〇四年十月一日適用)。この「特区」については神奈川県が申請し、横浜に株式会社バイオマスターが美容外科の診療所を開設することになっている。このバイオマスターの株主には、オリックスやニッセイ・キャピタルなどが参加している。しかしこの「特区」についてもアメリカ政府は「報告書」のなかで「公的医療保険が適用されない自由診療の分野という狭い範囲のサービスしか認められていないことは不十分であり、魅力的ではない」と批判している。また「日本の医療法では地方自治体の裁量のもとで営利法人が病院や診療所の経営を行うことを実際には禁止していない」とわが国の法解釈にまで言及している。まさに内政干渉である。


  在日米国商工会議所(ACCJ) 医療分野へのアメリカ企業の進出とシエアの拡大は、在日米国商工会議所(ACCJ)が強力に日本政府に働きかけてきた。


  すでにACCJは「二〇〇一年版日米ビジネス白書」で「企業による病院経営の認可」や「医療機関が国民健康保険でまかなわれない治療、技術および医薬品の費用を民間保険に直接請求できるようにすること」を要求していた。


  〇四年一月には「株式会社等による医療機関の所有、経営および運営の解禁について」という意見書を日本政府に提出。「株式会社等による病院経営を禁止することは患者の保護というよりは、強固な財政基盤と優れた経営を有する大規模な医療機関との市場原理に基づく全面的な競争から、個人経営の病院を保護するものとなっている」と批判、医療法第七条の「営利を目的として、病院、診療所等を開設しようとする者に対しては開設の許可を与えないことができる」という規定も、あくまで「できる」規定であり、「そのような申請を不許可にすることを義務付けるものではない」と、外国の民間団体がわが国の法解釈に噛みついている。さらにACCJは〇四年九月十三日の意見書で、「構造改革・特区」にたいしても、「高度先進医療」に限定していることや、国民健康保険制度の対象から外されていることなどをあげ、極端な制限をもうけていると批判している。またこの意見表明で「『企業病院』において実施できる医療行為の範囲は自由診療だけでなく、国民健康保険制度上の医療費還付対象となる通常の医療処置を含めること」「国民健康保険の適用がなければ、医療関係企業の大半にとって、大規模な市場開拓を行なうことは困難となる」と主張している。


  つまりアメリカは「株式会社の参入」と「混合診療」解禁がセットで実現することを求めているのである。


  そのねらいは、アメリカから企業病院が日本に直接参入するというよりも(アメリカでも株式会社病院は全体のわずか一割弱に過ぎない)、日本の一定規模以上の病院への「投資」と医療サービス、医療機器、医薬品での提携であろう。ACCJの〇四年一月の意見書でも、「現代の病院経営においては、先進技術に対する大規模な投資が必要とされている。現行規制は、民間企業に認められている株主資本による資金調達の機会を医療機関から奪っている。株主資本を利用することができなければ、民間の医療機関は、小規模な個人経営以上に規模を拡大していくことは不可能である」「医療機関が、資金の調達を多様な選択肢の中から選ぶことを可能にすることにより、日本のみならず海外からの医療サービス産業への新規参入が促進される」とのべている。実際には、赤字経営に陥っている病院を安く買い取り、「混合診療」病院に再生したうえで株式会社として高く売るという、外資お決まりの「投資」手法を目論んでいるのではないかと考えられる。

 



〈日本政府部内の動き〉


  日本財界とアメリカの要求は、公的医療の縮小と医療の市場化である。政府部内では、「経済財政諮問会議」と「規制改革・民間開放会議」が二人三脚で遂行してきた。二つの会議の経過を見ておきたい。


  「経済財政諮問会議」 「経済財政諮問会議」では、医療制度の「構造改革」について、たびたび議論されてきた。


  〇四年の議論の最大の焦点は「混合診療」の解禁だった。九月十日の会議では小泉首相が年内に解禁の方向で結論を出すよう指示。十一月十五日と十二月八日の会議では、解禁に抵抗する尾辻厚生労働大臣と小泉首相、民間委員との間で激した議論になっている。その議論の中で、十二月七日に「規制改革・民間開放推進会議」の宮内議長が、国会で全会一致で採択された「混合診療導入反対」の請願など無視してもよい旨の発言をしていたことが明らかになった。しかし結局、十二月十五日には、尾辻大臣と村上内閣府規制改革担当大臣の間で「混合診療」解禁の方向で「基本合意」が交わされることになる。


  〇五年の議論の最大の焦点は、医療費抑制のための「総額管理方式」だった。十月四日の会議では、「総額管理」に消極的な厚生労働省の姿勢に対し、財界の代弁者である民間委員からの批判が集中した。その後、十月十九日に出された厚生労働省の「医療制度・構造改革試案」には、財界が要求していた事項がおおむね盛り込まれ、「総額管理」についても、二〇二五年度において、現行制度で推移した場合五六兆円と見込まれる医療給付費を中期、短期の対策の結果、四九兆円に抑制することになるという「数値」が示された。


  しかし十月二十七日の「経済財政諮問会議」で、民間議員からは経済規模から策定したものではなく、ただの見通しと試算に過ぎないとの厳しい批判が続出した。「医療はあくまで積み上げ。総額規制はできない」という立場の尾辻厚生労働大臣とのあいだで激しいやりとりが交わされたが、「総額管理方式」は財界の強い要望であり、小泉首相も指示をしていた事柄である。最後に小泉首相が「小さな政府を目指すのであれば、経済財政状況を考えないと保険を維持できない。何らかの手法が必要だ」と一喝。その数日後の内閣改造で、尾辻氏はわずか一年で厚生労働大臣を交代させられた。


  その後、十二月一日決定の政府・与党の「大綱」には、「将来の医療費の規模の見通しを示すにあたっては、その対国民所得費比や対GDP比を示す」という文言が挿入されることになった。


  「規制改革・民間開放推進会議」 「規制改革・民間開放推進会議」の議長である宮内義彦氏は、〇二年一月二十六日号の『週刊東洋経済』のインタビューに答え、医療分野の規制緩和について次のように語っている。「医療はGDPの七%(約三十五兆円)という大マーケットです」「医療イコール保険だけではなく『自由診療も認めよ』という考え方です。公は保険、民は自由診療で、公民ミックスで多様な要求に応じればよい」「金持ち優遇だと批判されますが、金持ちでなくとも、高度医療を受けたければ、家を売ってでも受けるという選択をする人もいるでしょう」「企業が病院を経営してもよい。利潤動機の株式会社に、人の命を預かる医療を担わせるとは何事かと言われるわけですが(笑)」


  医療は儲けの場であるという考え方が如実にあらわれている。宮内氏が最高責任者をつとめるオリックス・グループ自身、オリックス生命保険を持っており、医療保険を販売している。利益を受ける当事者が政策を答申する責任者になっているのである。宮内氏はたびたび「経済財政諮問会議」にも出席し、規制改革の最重要課題が「混合診療」の解禁だと主張している。


  財界の要求については、毎年、日本経団連の「規制改革要望書」がこの会議に提出されており、会議での直接のヒヤリングもおこなわれてきた。〇四年十一月二十二日の会議では、日本経団連の大久保行政改革委員会共同委員長が出席し、「『混合診療』の解禁は長年の懸案事項である。特定療養費制度の拡充という形ではなく、真の『混合診療』解禁の早期実現に向けて、重点的に取り組みをいただきたい」と意見表明している。


  同日の会議には、アメリカ側からジェームス・ズムワルト米国大使館経済担当公使も出席し、意見表明をおこなっている。「アメリカ政府は、日本の規制緩和について非常に関心がある」と前置きし、十月十四日に日本側に出した「年次改革要望書」と「日米投資イニシアティブ報告書」を紹介しながら、「営利目的の病院」「医療サービスの外部委託」「特区の利用」「混合診療」の四点で規制緩和を急ぐよう求めている。


  また「ニュービジネス協議会」(社団法人)の存在も見逃せない。「ニュービジネス協議会」は、規制緩和によって生まれるニュービジネスを当て込んだ企業の集まりである。オリックス、アメリカンファミリー生命、セコム、シダックスなど国内外の企業が参加し、政策提言や研究、情報交換をおこなっている。〇二年九月二十六日には「総合規制改革会議」に呼ばれ、「混合診療」の解禁や株式会社の参入要件の緩和を求めている。「ニュービジネス協議会」の会長には、医療・福祉分野でフードサービスをおこなう企業であるシダックスの代表取締役・志太勤氏が就任している。志太勤氏は「規制改革・民間開放推進会議」のメンバーそのものであり、毎回の会議で委員として「ニュービジネス協議会」の利益を代表する発言をおこなっている。


  これら日本財界とアメリカの要求は、〇四年十二月二十四日の会議で決定された「規制改革・民間開放の推進に関する第一次答申」に盛り込まれ、小泉首相に提出された。「答申」は、「市場化テスト」と、「混合診療」や「株式会社の参入」など医療分野の規制緩和が目玉になっている。


  「答申」では、「混合診療」について「まず現行制度の枠組みの中で出来るものから順次実施していくこと」「法制度上の整備を平成十八年の通常国会に提出予定の医療保険制度改革法案の中で対応すること」を求めている。具体的には、「特定療養費制度」を廃止し、「保険導入検討医療(仮称)」(保険導入のための評価を行うもの)と「患者選択同意医療(仮称)」(保険導入を前提としないもの)に再構成すべきと主張している。


  「株式会社の参入」について「答申」は、株式会社が直接、病院を経営することだけでなく、株式会社が医療法人に出資する方法での経営参加を求めている。現行では、株式会社は、医療法人に出資することはできても、議決権をもつ社員にはなれない。厚生労働省はその根拠として医療法第七条などの「非営利原則」をあげ、「株式会社は、医療法人に出資は可能であるが、それに伴っての社員としての社員総会における議決権を取得することや役員として医療法人の経営に参画することはできない」との課長回答を出している(平成三年一月十七日の東京弁護士会会長あての厚生省健康政策局指導課長回答)。「答申」では、この厚生労働省見解は法的に根拠がないと批判し、株式会社の出資による経営参加を認めるべきと主張している。


  〇五年三月二十三日に出された「追加答申」では、「情報開示の徹底」「IT化の推進による医療機関の業務の効率化」「診療報酬体系の透明化」「保険者と医療機関の直接契約の促進」「公的な医療機関の在り方の見直し」などが盛り込まれている。これらもアメリカと日本財界が毎年のように要求していた事柄である。そのうち「公的な医療機関の在り方の見直し」では、「公的支援を必要としない医療機関やその必要が薄れている医療機関については、廃止又は民間へ移管すべき」と、公立病院の民間化も促している。


  これらの答申は「規制改革・民間開放推進三ヵ年計画(改定版)」に盛り込まれ、〇五年三月二十五日に閣議決定された。「三ヵ年計画」は、政府の規制改革の全工程表というべきもので、各省庁の政策や法改正を拘束する。さらに進しん捗ちよく状況を「規制改革・民間開放推進会議」が点検することで、その実行も担保されるしくみになっている。


  その七ヵ月後の十月十九日に出された厚生労働省の「医療制度・構造改革試案」および、十二月一日決定の政府・与党の「医療改革大綱」には、日本財界とアメリカの要求が、おおむね盛り込まれた。


  図4は、彼らの要求と政府の「医療制度・構造改革」の関係を示したものである。


  医療費の抑制については、「大綱」で財界が求める経済規模からの目標(「総額管理方式」)が考え方として取り入れられた。財界が要求していた高齢者の自己負担増や公的給付の見直し(入院時の食費・居住費の全額自己負担など)や、「高齢者医療制度の創設」は、そのまま具体化されている。


  財界とアメリカの強い要求である「混合診療」の解禁については、「規制改革・民間開放推進会議」の「答申」どおり、現行の特定療養費制度を廃止し、「『保険導入検討医療(仮称)』と『患者選択同意医療(仮称)』に再構成する(〇六年十月目途に実施)」ことになった。「患者選択同意医療」の拡大によって「混合診療」を解禁していく方向である。


  「株式会社の参入」については、「試案」には明確にふれられていないが、「構造改革・特区」の活用をふくめ、引き続き厚生労働省内で検討がすすめられることになっている。十月二十八日の「規制改革・民間開放推進会議」で、鈴木良男議長代理(旭リサーチセンター会長)は「株式会社病院という問題は、ゴール中のゴールではないかという感じがしております」と発言している。




 

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 アメリカと日本財界の要求で、公的医療の縮小と医療の市場化がすすんでいる。なぜ彼らの負担減と儲けのために、国民が大負担増を強いられ、国民皆保険制度を崩壊させられなければならないのか、怒りの根源はここにある。その怒りを結集した大きな国民運動と国会論戦で、医療「構造改革」阻止に全力をあげなければならない。

 

 

 

 

 

(上・下とも、 大門実紀史・著/「前衛」2006年2月号)

 

 

 

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