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その時々を生きるのに必死だった。で、ふと気がついたら、世の中が変わっていた。何が起こっていたのか、記録しておこう。

日米の貿易交渉を検証する~日米貿易協定の実態・日米FTA交渉の行方(1)

2019年12月12日 | 「世界」を読む

 

 

 

ウソを平気で重ねるのが「二枚舌」だが、この政権はいったい「何枚舌」なのか? 2012年の安倍政権成立時から簡単に振り返ってみよう。

 

ウソの始まりは、自民党が政権復帰することになった2012年12月の総選挙。「TPP断固反対!ウソつかない、ブレない自民党」のポスターが全国に張り巡らされ、江藤拓・現農水大臣も選挙広報に「TPP交渉参加には断固反対いたします!」と公約していた。

 

しかし、安倍首相が政権に復帰して真っ先にやったことは「TPP参加」だった。当時、「日本農業新聞」は、「国益に反する『壊国』協定参加に一片の大義なし。重大な公約違反であり、不信任に値する」と断じた。

 

第二のウソは、トランプ大統領が2017年1月にTPP離脱を表明した後、安倍首相は「アメリカにTPP復帰を促す。日米FTAは断固やらない」と強がってみせた。しかも安倍政権は「アメリカ抜きのTPPは無意味」「米国をTPPに呼び戻すメッセージ」と称してTPP11(11か国による協定)を主導した。

 

第三は、日米FTAそのものである日米貿易交渉開始を宣言した2018年9月の日米共同声明。政府は「TAG」(物品貿易協定)という新語まででっち上げ、安倍首相は「これは包括的なFTAとはまったく異なる」と強弁した。

 

そして今回。トランプ大統領は2019年9月26日の日米首脳会談で「かなり近い将来、日本との包括的な協定をまとめる」と強調し、ライトハイザー通商代表は2020年春以降に「第2ラウンド」に入ると述べて、本格的な日米FTA開始を宣言した。しかし、安倍首相はこれに一言も反論しなかった。その一方、国内向けには「新たな協定を結ぶか否かも含め予断をもって言うのは差し控えたい」(衆院本会議10月24日)と白々しい答弁を繰り返している。相手が「予断」を持ち、やる気満々なのが明白なのに、である。

 

要するに、「TPP断固反対」から「TPP参加」に転じ、トランプ大統領のTPP離脱表明後は❝留守番役❞としてTPPの延命を主導し、さらに「日米FTAは断固やらない」から、「TAG」なる翻訳捏造でごまかし、最後は「包括的な日米FTA」を受け入れようとしているのである。

 

このことは2019年9月26日の日米共同声明第3項から明白である。

 

「①こうした早期の成果が達成されたことから、日米両国は、②日米貿易協定の発効後、4か月以内に協議を終える意図であり、また、③その後、互恵的で公正かつ相互的な貿易を促進するため、関税や他の貿易上の制約、サービス貿易や投資に係わる障壁、その他の課題についての交渉を開始する意図である」(①②③は引用者・真嶋による)。
①安倍政権は農産物をめぐる日米貿易協定を「最終合意」と言い、これ以上の交渉はないかのように装っているが、共同声明では「早期の成果」にすぎないとされている。
②何の協議を「4か月以内に」終えるのか、文言は不明瞭だが、政府の説明によると③の交渉で取り扱う課題を協議するという。1月1日発効とすれば、4月までは協議を終え、ライトハイザー通商代表の言う「第2ラウンド」に突入する。この交渉では、「関税」や「他の貿易上の制約」、サービス・投資など、ありとあらゆる課題を取り上げることが共同声明で合意されているのである。これはコメを含む農産物の関税削減・撤廃や、医薬品・医療保険制度、食の安全基準などを含む本格的・包括的な日米FTAそのものである。
もっとも、茂木外相は「これは『意図』の表明にすぎず、今後の交渉次第」と弁明しているが、❝負け犬❞の遠吠えか、国民を欺く隠ぺいにすぎない。

 

 


■「交渉」とは名ばかりの「大統領向けセレモニー」

2018年9月の日米共同声明から1年、2019年4月の閣僚協議開始からわずか半年、異例の超短期で決着した日米貿易交渉における安倍政権の意図は、日本の農産物を差し出して、対米自動車輸出権益を守るというもののはずだった。しかし、「牛を取られて車は取れず」---日本は牛肉、豚肉などの関税を大幅に引き下げるTPP合意のほぼ完全実施の一方で、アメリカは自動車でTPP合意の完全拒否という一方的譲歩となった。

安倍首相は「日米ウィンウィン(双方の利益)の結果になった」「一方的譲歩という批判は当たらない」「日本の農業者にとって利益となる協定」と強弁を続けているが、その空々しさ、破廉恥さは「桜を見る会」「森友・加計問題」での弁明と同列である。

鈴木宜弘東大教授は「トランプ大統領の選挙対策のためだけの『選挙対策協定』だ」と喝破しているが、実際、カウボーイハットをかぶったアメリカの農業団体代表を首脳会談と署名式に同席させ、トランプ大統領が「米国の農業にとって巨大な勝利」と勝ち誇ったことに象徴されているように、「交渉」とは名ばかりの「大統領選向けセレモニー」(北海道新聞)だった。

 

 

 

 

 

 

「日米の貿易交渉を検証する~日米貿易協定の実態・日米FTA交渉の行方」/ 真嶋良孝・農民運動全国連合副会長/ 「経済」2020年1月号より

 

 

 

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