Luna's “ Life Is Beautiful ”

その時々を生きるのに必死だった。で、ふと気がついたら、世の中が変わっていた。何が起こっていたのか、記録しておこう。

ビッグ・ブラザーの正体は? 「琉球新報」コラムより

2013年07月07日 | 平成日本の風景



 
 
 
 
 テレスクリーンという双方向のテレビで市民の行動は全て政府に監視されている。正体不明の「ビッグ・ブラザー」が率いる党が国を独占、思想や言語、結婚まで統制し国民の私生活は存在しない。
 

 1948年に英国の作家ジョージ・オーウェルが小説「1984」で近未来を予言的に描いた社会だ。日々歴史を改ざんする役人である主人公の男はある日、抹殺されたはずの人物が載る新聞記事を偶然見つける。以来、体制に不信を抱き、隠された真実を探り始める。
 

 米当局がネット上の個人情報を広範に収集してきたことを暴露した元CIA職員が、この小説の主人公と重なった。米政府が世界中の人々のプライバシーやネットの自由、人権などを壊すのが許せなかったという。
 

 だが米政府は「テロ対策だ」と強調するばかりで実態を明かさない。それが世界のネット市民の間に不安を広げている。
 

 問題発覚後「1984」のアマゾン・ドットコムでの売り上げが約70倍に急増したという。元職員の人物像や行方についての報道が多いが、市民が一番知りたいのは監視の真の姿、すなわち “ビッグ・ブラザー” の正体に違いない。
 

 今日はオーウェル生誕からちょうど110年。「1984」の発刊翌年に46歳で世を去った。政府に監視される恐怖を描き、65年たった今も輝きを放つ遺作に込めた彼の警告を、あらためて胸に刻みたい。
 
 
 
 
 
 
琉球新報 2013年6月25日
 


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日本においては、「ビッグ・ブラザー」の正体は、アメリカよりはずっとはっきりしている。それはアメリカのネオコンに自らへつらう官僚たちであり、そういう官僚に依存せざるを得ない右派政治家たちであろう。
 


小説「1984」で歴史改ざんを行う省庁である「真理省」は、事実を報せない、という形でウソをつく企業としてのマスコミ業界の隠喩であるとみなす研究者が多い。情報操作は、「1984」の作者が名づけた「ダブル・シンク=二重思考」という一種の思考停止による国民の精神統制に必要不可欠のものだ。
 


ダブル・シンクとは、「1984」によれば、
 「ひとつの精神が(つまり国民個々人の思いのなかで)、同時に相矛盾する二つの信条を持ち、その両方とも受け容れられる能力のことをいう」。(「1984」/ 新庄哲夫・訳/ ハヤカワ文庫版、p275~p276)
 


たとえば、独裁国家を維持するためは、国民が現実に起きていることを批判的に見てはならないわけで、そのために現実を曲げて解釈するよう党(小説の中の、ビッグ・ブラザーを総裁とする政権党)のエリートたちは国民を指導教育しなければならない。もちろん、党のエリート官僚たちは自らをもダブル・シンクによって歴史の改ざん、出来事を歪曲して解釈したことを自ら受け入れて信じるのだ。
 


「党の知識人たちは、いかなる方向に自分の記憶を変造しなければならないかを熟知している。したがって、自分が『現実』をごまかしていることも承知の上である。それにもかかわらず、ダブル・シンク=二重思考を自らに施すことにより、彼らも、彼らに指導教育される国民も、現実は侵されてはいない(=歪曲されていない)と納得させているのである。
 


「その過程は意識的なものである。さもなければ充分な精確さによって実行されはしないだろう。しかし同時にそれは無意識的なものでなければならない。さもなければ虚構を捏造したという感情、さらには罪悪感にさいなまれるであろう。
 


「二重思考=ダブル・シンク」はイングソック(イングランド・ソーシャリズムをつくりかえた新言語、ニュー・スピークの語彙であり、ビッグ・ブラザー政権の、思考改造プログラムを含む指導方法)の核心である。
 


「なぜなら党の本質的な行動は、意識的な欺瞞手段を用いながら、『完全な誠実さに裏打ちされた堅固な目的を保持すること』であるからだ。
 


「一方で、心から信じていながら意識的なウソをつくこと、不都合になった事実は何でも忘れ去ること、ついで再びそれ(さっき忘れ去った不都合な事実)が必要となれば、必要なあいだだけ忘却の彼方から記憶を呼び戻すこと、
 


「客観的事実の存在を否定すること、それでいて自分が否定した事実を考慮に入れること…。以上はすべて不可欠な必須要件なのだ。
 


「『ダブル・シンク=二重思考』という用語を用いることそのものについても二重思考による脳内操作を施さなければならぬ。その言葉を用いるだけでも、現実を変造しているという事実を認めることになるからだ。
 


「かくて虚構はつねに事実の一歩前に先行しながら(=歴史の改ざん、現実の出来事の歪曲によって事実を国民から隠しおおせながら)、無限に繰り返される。結局、二重思考の方法によってこそ党は歴史の流れを阻止できたのである。そしておそらくは今後何千年ものあいだ、阻止し続けられるかもしれぬ」。(上掲書より)
 





こんな手法は決して特別なものではなく、わたしがかつて所属していた「エホバの証人」という宗教団体でも普通に行われていたし、いまでも、沖縄県民の集団自決といった歴史事実、従軍慰安婦の歴史事実、南京大量虐殺強姦事件…の消去を図るのにつかわれている手法だ。
 


そしてこんな手法が功を奏することができるのは、欺かれるほうにも、「欺かれていたい」、「現実の不安から目をそらせていたい」というとても強い欲求があるからだ。インターネットで匿名で自己の意見を書くことができるようになってからは、「自分探し」の目的で右左翼思想に入ってゆく人もおり、彼らは自分の価値を信じたいばかりに、インターネットの生半可な知識をかじって、自分と同じような弱い立場にいる人をバッシングして、強くて賢い自分というイメージに酔いたいばかりに、敵を見いだしやすい右派に染まってゆく場合もあるだろうと、わたしは感じている。
 


「1984」のビッグ・ブラザーは敵を明確にして国民の不安と憎悪をかきたてるという古典的な手法もフル稼働させている。また、上記引用文に、ビッグ・ブラザー政党が「ニュー・スピーク」という新しい言語を創造して使用している、とあったが、それはひとつの語彙にただ一つの意味を与えた、簡略化された言語だ。この手法は、単純なフレーズを繰り返し使うマスコミの手法に通じている。小泉郵政選挙では、世耕議員率いるスタッフが、スピン・ドクターなる言語操作技術に長けた技術者を使って、「B層」と名づけられた、保守系主婦・老人、低学歴貧困層の若者をターゲットにして宣伝攻勢をかけた結果、大勝したという記事も見たことがある。
 


中国脅威論をはじめ、領土問題で国民の不安を煽り、国民の精神状態を「だましてほしい」モードに追い込んで、そこへ単純化されたメッセージを繰り返し刷り込み、偉大な日本、美しい日本、とてつもない日本への希求を作り出し、自民党への帰依を促すここしばらくの政権運営を、「1984」に重ねてみてしまう。参院選も自民圧勝の予想がマスコミの口々に見え隠れし始めている。
 




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孫崎享‏ツイート
  
 
 
自民党:不思議だ。自民党に投票して、原発再稼働させたいの。消費税上げたいの。TPPに参加して国家主権をなくし、国民健康保険を実質破壊したいの、消費税上げたいの。30日読売「参院選投票先、自民42%・民主9%…読売調査」
 
 
 
2013-06-30-sun.
 


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わたしたちの将来は真っ暗だ。



 

 

コメント
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