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その時々を生きるのに必死だった。で、ふと気がついたら、世の中が変わっていた。何が起こっていたのか、記録しておこう。

「軍事で国は守れない」~神奈川県基地シンポジウムから

2019年01月13日 | 「市民」のための基礎知識

 

 

 

「軍事で国は守れない」~神奈川県基地シンポジウムから

 

 

 

孫崎(享)です。よろしくお願いいたします。
今日は(米軍)基地の問題を取り上げるということですが、私は根本的な問題である、「軍事力で国は守れない」ということを申し上げたいと思っております。

 

この問題は、第二次世界大戦のあと、新たに起こったことだと思います。私たち人類は歴史を重ねてきましたけれども、軍事力で自分たちを守れないという事態はなかったと思います。それは核兵器とミサイルという二つの兵器の問題があって、この兵器の破壊力があまりにも大きすぎるということから、新しい時代に入ったのだと思います。ただ日本は核兵器を持っていませんし、基本的に攻撃型ミサイルも持っていませんから、この軍事情勢をあまり勉強してこなかった。そのことは、軍事力の限界というものを実はあまり知らないし、考えてこなかったのだろうと思います。右派グループは、しばしば「平和的な手段で日本の安全を確保する」などは「お花畑の議論」と言いますが、私はむしろ、軍事力で平和が確保できるというほうが「お花畑」だと思っています。

 

 

 

■ミサイル防衛はできない

 

相手を攻撃するいちばんの根幹はミサイルですから、ミサイルというものはどういうものであるかを考えてみましょう。

 

ミサイルはたいへんな高速で飛んできます。ロシア、あるいは中国がアメリカに発射したとすると、それが標的に向かって落ちてくるときには秒速8000メートル、北朝鮮のミサイルが日本に落ちてくるときには秒速2000~3000メートルだと言われています。これを迎え撃つと言われ、日本に置かれているPAC3の秒速はマッハ5と言われていますから、秒速1800メートルぐらいです。つまり、落ちてくるミサイルのスピードが迎え撃つミサイルよりも速いのです。

 

いちばんの大きい問題は、たとえばPAC3を配備しましても、この射程距離は15~20キロメートルです。飛んでくるミサイルを80度の角度で迎え撃ちます。射程距離15~20キロメートルですから、実は守っている地域は半径2~3キロメートル(cos80°×15キロメートル=2.60キロメートル、cos80°×20キロメートル=3.47キロメートル)くらいしかありません。だから東京市ヶ谷の陸上自衛隊駐屯地にPAC3を配備しても、国会議事堂も首相官邸も、銀座も新宿も丸の内もどこも守っていないのです。

 

もうひとつ、非常に重要なポイントは、仮に北朝鮮などからのミサイルが日本に来ると想定した場合、日本の経済、社会、政治の中心地を狙って撃ってくるということになりますが、どのポイント、どの地点に落ちてくるのかはわからない。国会議事堂や首相官邸を狙っているかもしれないし、霞が関の官庁を狙っているかもしれない。このどこにミサイルが飛んでくるのかわからないのです。ミサイルがどこに飛んでくるかわからなければ、相手のミサイルの軌道の計算ができませんから、ミサイルを迎え撃って落とすことはできないのです。

 

これから日本政府はいろんなところにミサイルを配備します。しかし、ミサイルは日本の社会と政治と経済の中心地を守るという意味ではまったく実効性はないということをまずお分かりいただきたいと思っています。

 

そうすると、「そんなことを言ってもミサイル実験は成功したという報道があるじゃないか」と言われます。私は1985~6年にハーバード大学国際問題研究所で研究していました。ちょうど1986年に、隣にあるマサチューセッツ工科大学でミサイル防衛のシンポジウムがありました。そこに、「一週間前にミサイル防衛が成功した」という米軍の大佐クラスの人が参加していました。「成功した」とはどういうことなのか。当時のソ連がアメリカをミサイル攻撃の対象としていたのには二つの種類があります。

 ひとつは、政治・経済・社会の中心地へのミサイル攻撃であり、
 もうひとつはアメリカの持つミサイルを破壊するというものです。

アメリカのミサイルを攻撃するということであれば、ミサイル基地めがけて撃ってくるわけですから、当然、ミサイルの軌道を計算できます。だから迎撃できるということなのです。しかし、政治・社会・経済の中心地を破壊しようとしたときには、軌道計算などできませんから、もはやミサイル防衛はありえないのです。これが今日みなさんにお分かりしていただきたいひとつです。

 

 

 

■米軍が日本のために戦い勝つというというシナリオはない

 

もうひとつ、基地の問題を考える上でぜひわかってほしいポイントが一つあります。

 

アメリカにランド研究所というのがあります。米国の軍事研究所の中でもっとも能力が高いといわれているところですが、ここで2015年に次のような報告が出ました。

 

どういう報告かといいますと、「台湾正面」と言っているのですが、尖閣諸島と思ってください。尖閣諸島の周辺で、米中が戦ったら、どちらが有利になるかというものですが、結論から言いますと、1996年の時点では、米軍が圧倒的に勝つ、2003年でも米軍が圧倒的に勝つが、2010年にはほぼ均衡、2017年(予測)には中国が優位、という分析結果を導き出しています。核兵器を使用しないという前提です。

 

これの意味するところはたいへんなことです。日米安保条約があって、日本にはさまざまの基地があります。その前提は、米軍は確実に日本を攻撃する国をやっつけられるということです。ところが、2017年に尖閣諸島周辺で戦ったら、アメリカは負けるという予想の報告書です。なぜこんな現象が起こったのか。日本には米軍の基地があり、その米軍が尖閣諸島で中国と戦ったら負けるということはたいへんなことです。このことはほとんど日本では議論されていないのです。

 

それはさっき言ったミサイルと関係しています。中国はいま人工衛星を飛ばせるようになりました。人工衛星を飛ばせるということは、ミサイルの技術がたいへんに発達したということです。めざす地域に、10センチ、20センチ単位の誤差でしか狂わない、人工衛星を打ち上げられるということはそれくらいの技術を持っているということです。そうするとどうなるかというと、米軍基地の滑走路を攻撃すればいい、ということになります。アメリカは優秀な戦闘機を持っていますから、中国と(空中戦を)戦ったらたぶんアメリカの戦闘機が勝つでしょう。その戦闘機がどこから飛び立つのかといえば、尖閣諸島で戦って給油なしに基地に戻ってくることのできるのは沖縄の嘉手納基地しかありません。ということは、嘉手納基地の滑走路を壊せば、米軍の戦闘機は飛び立つことはできません

 

中国は米軍基地を攻撃できる中距離弾道ミサイル、短距離弾道ミサイル、巡航ミサイルを1200発以上持っていると言われます。ということで、もはや米軍が日本のために戦って勝つ、というシナリオはないのです。

 

 

 

■基地負担は米軍が払うと定められている

 

そうすると、なぜ尖閣諸島で勝てない米軍を置いているのか。沖縄にいる米軍の中心は、海兵隊です。しかし、海兵隊はもともと沖縄を守る部隊ではありません。その海兵隊を沖縄に置いている理由はきわめて単純だと思います。沖縄においておけば海兵隊の費用の7割は日本政府が払ってくれる。フィリピンであれば、フィリピン政府は、(フィリピンに)米軍基地を置くのであれば、当然米軍に、費用を負担しせなさい、と言います。しかし、日本であれば、日本政府は基地費用の7割を負担してくれるわけですから、米軍にとってみれば、これほどありがたいことはありません。

 

それでは、日米地位協定では、基地負担をどのように書いてあるでしょうか。日本が持つのは25%か、50%か、75%か、100%か。答えは、実はゼロなのです。

 

基地の問題について関心がある方でも、ゼロと思っている人は少ないと思います。しかし、日米地位協定には24条で、「日本国に合衆国軍隊を維持することに伴うすべての経費は、(2)に規定するところにより、日本国が負担すべきものを除くほか、この協定の存続期間中日本国に負担をかけないで合衆国が負担することが合意される」と、基本的に在日米軍基地の経費は米軍が自分で払うと書いてあります。ところが、日本が米軍の基地の負担をしなければならないと地位協定で義務づけられていると思わされている。いかに「洗脳」がすすんでいるか、ということです。

 

私は、この問題は、非常に深刻な意味合いを持っていると思っています。そもそも、米軍がなぜ日本にいるかといえば、米国の世界戦略のためにいるわけです。考えてみれば、横須賀にアメリカ第7艦隊の旗艦船がいます。なぜ横須賀なのか。横須賀を守るためなのでしょうか。太平洋、インド洋、あるいは湾岸を守るために第7艦隊入る。ということであれば、第7艦隊の費用は日本が払わないことになっている、といえばしっくりきます。また、沖縄にいる海兵隊は、アメリカが世界に出撃する緊急部隊ですから、なにも日本を守るためにいるわけではありませんから、日本が費用を負担する必要はありません。これらのことは非常に重要であって、日本の負担は基本的にゼロなのです。

 

 

 

■「軍事に意味なきおカネ」が生活をおかしくする

 

2016年11月に、読売新聞が、防衛省の資料をもとに各国の米軍基地負担の額を報じました。それによれば、
日本が7612億円、
ドイツが1876億円、
イタリアが440億円、
韓国が1012億円、
イギリス286億円となっています。

 

日本が米軍基地の負担をゼロにするということでなくても、せめてドイツの1876億円なみにすれば、5000億円くらい浮きます。5000億円あれば何ができるでしょうか。社民党の福島瑞穂議員がツイッターで国公立大学の無償化は4168億円、同じように小中学校の給食無償化は4720億円と試算を公表しています。自民党はしばしば教育の無償化を憲法に書き込もうと吹きますが、せめてドイツ並みの自主外交をやっていれば、国公立大学の無償化はできるのです。

 

若い人たちにしばしば言っているのは、日本がもう少ししっかりとした安全保障政策をとればそのおカネは教育に行くかもしれないし、保育園に行くかもしれない。軍事に意味のないおカネを費やすということは、私たちの生活をおかしくすることだということです。社会保障と軍事費にどれくらい出すかということは、実はおカネをどのように使うかということとものすごく関係があるのです。

 

 

 

■東アジアで外交的協力関係をつくる

 

安全保障の問題で、今日申し上げさせてもらったことでいちばん言いたいことは、「軍事でもって平和は保てない」ということです。それではどうしたらいいのか、という話になります。

 

いちばん戦争の理由になるのは、領土問題です。これはでも、解決すればいいのです。さらに重要なことは、第一次世界大戦、第二次世界大戦を戦ってきたドイツとフランスがこんにちなぜ戦争をしないのか。憎しみをやめて協力することが利益になる、そんな政策をドイツとフランスがやってきたからです。

 

最初は、戦争の源になる石炭、資源の問題、そして武器になる鉄。この石炭と鉄を欧州で共有しようということから始まり、こんにちのEUに連なりました。協力があるから戦争はしない、という体制を作りました。同じようにASEAN諸国にも、長きにわたる努力で、武力で問題を解決しない、外交で解決するという姿勢が行き渡っています。

 

なぜ東アジアでそれができないのか。私は、やろうと思えばできるものだと思います。軍事力ではなくて外交的な協力関係をつくることによって、日本の平和を達成する、このような道を歩んでいくべきではないかと思います。

 

 

 

 

 

「軍事で国は守れない」~神奈川県基地シンポジウムから/ 2018年11月23日、日本共産党神奈川県委員会主催。/ 「前衛」2019年2月号より

 

 

 

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