国際情勢の分析と予測

地政学・歴史・地理・経済などの切り口から国際情勢を分析・予測。シャンティ・フーラによる記事の引用・転載は禁止。

バルチスタン、クルド、シーア派の聖地ナジャフ:米国の描く新中東地図とイラン

2007年03月17日 | 中近東地域
●バルチスタンの重要性と危険性 中東TODAY: No.520 
 
  バルチスタンと呼ばれる地域をご存知の日本人はそう多くはあるまい。しかし、この地域が日本にとっても、世界にとっても、今後重要な地域になっていくものと思われるので、簡単にご紹介することにした。

  バルチスタン地域は、パキスタンの南西部に位置し、インド洋に面している。述べるまでもなく、そのことは、バルチスタンがオイル・ルートの要衝にあることを意味している。しかも、バルチスタンにあるグワダール港は、今後、軍事的にも経済的にも重要性を増していくことになりそうだ。グワダール港は水深が深く、大型船舶も停泊が可能であり、今後、中央アジアの石油、ガスの積出港としても脚光を浴びることになろう。加えて、中国とパキスタンとの関係が緊密であることから、パキスタン政府は中国の援助の下に、グワダール港の開発を始めている。もちろん、中国政府の目的は、グワダール港を将来の中央アジアの石油、ガスの積出港として使うだけではなく、インド洋に軍港を持ちたいという野望によるものだ。しかも、グワダール港を抑えることにより、中国はバルチスタンのマクラン海岸線から、インド洋で活動するアメリカ海軍をはじめ、湾岸、中央アジア地域で活動するアメリカ軍の通信を傍受できることになるのだ。もちろん、中国のこの地域に対する関心と行動は、パキスタン政府との協力の下に進められているのだが、今後、この状態をアメリカやイギリスが放置するとは思えない。したがって、両国はグワダール港を含む、バルチスタン地域に対する、積極的な行動を展開してくるものと思われる。そうした状況を考えると、バルチスタンについて、もう少し詳しく説明する必要があろう。

  バルチスタン地域とは、前述のようにパキスタンの南西部、インド洋に面した地域だが、この地域は、西はイラン、北はアフガニスタンに接している。当然のことながら、イラン国内にも400万人のバルチスタン人が居住しており、今後バルチスタン民族運動が活発化すれば、イランもその影響を受けることになろう。もし、バルチスタンの分離独立運動が活発化し、651万人のバルチスタン人がパキスタンから独立することになれば、パキスタンは最も多くの地下資源を有する地域を失うことになるし、領土の40パーセントを失うことになるのだ。それでは、現実にバルチスタン人の分離独立への動きはあるのだろうか。バルチスタン人はこれまで、分離独立までは主張しないが、自治権を要求する運動を展開してきたし、実際にその目的で、パキスタン軍との衝突を繰り返してきてもいる。バルチスタン人とパキスタン軍との武力衝突は、1948年、1958年、1962年、1973年から1977年にかけて起こっている。それでは、バルチスタン人が分離独立、あるいは自治権を主張する裏には、どのような根拠があるのであろうか。

  12世紀ミル・ジャラル・ハーンの主導の下に、この地域の44部族が統一され連邦化している。15世紀にはリンド・ラスカリによって、17世紀にはバルチスタン土候国が誕生したとされている。13、14世紀に起こったモンゴル、タタールの侵入も、多くの避難民を生み出し、民族アイデンティティ形成に影響を与えたようだ。イギリスのアフガニスタン侵攻に際しては、バルチスタンの部族長たちに対し謝金を出し、自治権を約束することにより、バルチスタン人によるイギリス軍のアフガニスタン侵攻に対する、反対運動を抑えたという経緯がある。

 エネルギー資源が世界で大きな問題となっている現在、バルチスタン地域は、パキスタンのガス、石油、石炭産出地域として重要であり、同国のエネルギー資源の40パーセントを産出している。バルチスタンで最初にガス資源が発見されたのは、スイ地域で1953年だった。しかし、ガスについて述べれば、バルチスタンで消費されるのは17パーセントに過ぎず、同地域の多くがその恩恵にあずかっていない。残り83パーセントは、バルチスタン地域以外であり、バルチスタン地域よりも低価格で消費されているのだ。バルチスタン地域はガスや石油ばかりではなく、金、銅、銀、プラチナ、アルミニウム、ウランまでもが埋蔵されている、という調査報告がある。ちなみに、アメリカが2002年にアフガニスタンを攻撃した際に使われたのが、バルチスタンの軍事基地であった。そして、現在ではイランとの戦争を想定し、バルチスタンの軍事基地の重要性が再評価されていよう。こうして考えてみると、バルチスタン地域がいかに重要であるかがわかるが、そこで思い浮かべるのは、バルチスタンが今後、どのようなきっかけで自治権獲得、あるいは分離独立に動き出すかということだ。そのきっかけは、インドとパキスタンとの武力衝突、イランに対するアメリカの軍事攻撃などではないかと思われるが、同時にアメリカ軍部が発表した新中東地図(下図下段)が、この可能性を裏付けているのではないか。あの構想の中では、明確にバルチスタンの分離独立が記されていたのだ。中国政府バルチスタン地域への台頭著しい今、アメリカやイギリスが手をこまねいているとは思えない。したがって、バルチスタンをめぐる顕著な動きは、非常に近い将来起こってくるのではないかと思われる。

投稿者: 佐々木良昭 日時: 2007年03月11日 16:23
http://www.tkfd.or.jp/blog/sasaki/2007/03/no520.html


上図は現在の地図、下図はアメリカ軍部が発表した新中東地図







●パキスタンの自治権闘争で危機に陥るパイプライン計画 2006/09/07 JANJAN

【カブールIPS=ダウド・カーン、8月30日】

 トルクメニスタンの天然ガスをアフガン、パキスタン西部を通ってインドにまで送るパイプライン計画が、パキスタン西部のバルチスタン州で行った自治権を求める闘争のために頓挫する可能性がある。8月26日、同州のナワブ・アクバール・バグティ元知事が、隠れ家であった山間部の洞窟においてパキスタン当局のヘリ軍・地上軍に襲われ、死亡した。バグティ氏は、同州のさらなる自治権を求めて闘争を行っていた。このパキスタン軍の暴挙に対して怒った地元住民1万人以上がバグティ氏の葬式のために集結し、パイプライン推進派にとっては大きな懸念材料となっている。

 パイプライン計画は、2003年12月9日にアフガニスタン・パキスタン・トルクメニスタンの3者の合意によって始まった。さらに今年初めにはインドが加わり、計画には大きな弾みがついた。8月に入って、主な資金提供者であるアジア開発銀行が融資認可の最終段階にあると報道されていた。当初、パイプラインはパキスタンの北西辺境州を通る計画であった。しかし、治安上の懸念があるために西部のバルチスタン州を通るルートに改変された。しかし、このバルチスタン州で2004年から住民による闘争が始まった。それは、さらなる自治権を求め、軍事基地設置に反対するものであった。バルチスタン解放軍という武装集団も現れた。

 殺害されたバグティ氏は武装闘争とは関係がなかった。しかし、パキスタン当局は、バグティ氏はそれを黙認していたと主張している。逆に、独立団体の「人権委員会」は、パキスタン当局の治安部隊がバルチスタン州で数多くの人権侵害行為を繰り返していると述べている。
http://www.janjan.jp/world/0609/0609060743/1.php




●カラート藩王国(バルチスタン、バロチスタン)
http://www.geocities.co.jp/SilkRoad-Lake/2917/syometsu/karat.html





【私のコメント】
パキスタンの地理は、インダス川流域の平野、南西部のバルチスタンや北西部の辺境州の山岳地帯に大きく分けられる。前者は農耕地帯でパキスタンの人口の大部分が居住しており、インド系民族が居住している。一方、後者ではパシュトン人やバルチスタン人などのペルシャ系民族(ただし大部分がスンニ派である点でイランとは異なる)が居住している。パシュトン人はアフガニスタンの主要民族であり、バルチスタン人はイランにも居住している。更に、パキスタンの公用語であるウルドゥ語はパキスタン独立時のインドとの戦争でインドから移住してきたイスラム教徒が持ち込んだものであり、ウルドゥ語を母語とするパキスタン人は非常に少ない。このように考えると、パキスタンと言う国はイスラム教以外に何の特徴もない人工的国家であると言える。


タジキスタンの主要民族でありアフガニスタンにも多く居住するタジク人を含め、パミール高原からパキスタン西部・アブガニスタン・イラン・トルコ東部までのアルプスヒマラヤ造山帯地域の住民の大部分はペルシャ系言語を用いる民族である(下図)。インド亜大陸の平野に住むインド系民族、アラビアの平野に住むアラブ人とペルシャ系言語を用いる人々の居住地域の境界線は、アルプスヒマラヤ造山帯の地理的区分と見事に一致しているのだ。


ただし、シーア派のペルシャ系民族の大部分がイランに居住しているのと対照的に、スンニ派のペルシャ系民族であるクルド人、パシュトン人、バルチスタン人、タジク人などは他民族の支配下にあったり、あるいは民族の境界線と国境線が合致しない政治体制に置かれている。イラク戦争の戦後処理として建国が予定されているクルド人国家と同様、パキスタン支配下のバルチスタン人やパシュトン人がパキスタンから分離するならばこの問題は解消される。

また、ペルシャ人の他にアラブ人やトルコ系のアゼリー人を少数民族として有するイランは、ペルシャ人の民族国家ではなくシーア派国家を目指しているようである。イラン近辺でシーア派の多い地域はイラク南部とアゼルバイジャンである。特にイラク南部には第4代カリフでシーア派の初代イマームであるアリーの墓廟を持つ都市ナジャフが存在し、シーア派の最も重要な聖地の一つと見なされている。少数派のスンニ派が武力でシーア派を弾圧していたかつてのイラクの状況は、シーア派国家を自認するイランにとっては決して容認できないものであっただろう。ちょうど、東方教会の最も重要な聖地であるコンスタンチノープルがトルコに占領され、コンスタンチノープルの正教徒が弾圧されている状況を東欧やロシアの正教徒が苦々しく思っているのと同様の事態である。

911事件以降の米国の西アジア地域での戦争はアフガニスタンとイラクの二カ国を中心に戦われており、それによって人工国家であるトルコとパキスタンはペルシャ系民族居住地域の分離独立運動のために追いつめられている。また、イラク南部で弾圧されていたシーア派アラブ人は弾圧から解放されつつある。これらの動きは全てイラン政府の国益に大きく合致するものであり、米国のテロ戦争の勝者はイランであるという主張がなされるのも当然である。

表向きは米国とイランは核開発問題で激しく対立し、開戦直前の状況にあるとされる。しかしながら、イラク情勢を巡って米国とイランは交渉を持っており、米国の戦争はどう考えてもイランの国益に貢献している。このことから考えられるのは、米国とイランの核開発問題を巡る対立は単なる茶番であり、実は米国とイランは親密な関係にあるのではないかということだ。(北朝鮮は拉致問題や核開発問題で激しく対立しながら、日本の再武装と核保有に正当性を与える点で日本の国益に大きく貢献している。拉致問題や北朝鮮核開発問題も、米国とイランの関係と同様の茶番劇かもしれない。)


では、「米国のアフガニスタン・イラク攻撃は友好国イランへの貢献」という仮説について考えてみよう。米国とイランの対立があまりに真に迫っているために覆い隠されている米国とイランの友好関係は、クルド人国家・パシュトン人国家・バルチスタン人国家というペルシャ系民族の国家やイラク南部のシーア派アラブ人国家を生み出す点でイランにとって大きな利益である。米国は犯罪国家の汚名を着て戦争を実行するという大きな損失があるが、それを上回る利益があるだろうか?私が考えつくのは、中東の国境線が民族や宗教の境界線に合致することで平和がもたらされ西アジアからの米軍の撤退が可能になる利益と、米国の経済的崩壊時にイランが米国に支援を行うことで恐慌の混乱を回避する利益ではないかと想像する。同様に、イスラエルを何らかの形で滅亡させることでパレスチナ問題を解決する利益、スンニ派イラク人居住地域を併合する利益と引き替えに、サウジやシリアなどのアラブ諸国は米国の経済崩壊時に経済支援を行う予定なのかもしれない。

トルコ、イスラエル、イラク、パキスタンといった人工国家の存在は、共産主義と資本主義の対立という国際金融資本の世界支配体制のために作られたのだろうと想像される。国際金融資本の世界支配が揺らいでいる現在、「起つ鳥跡を濁さず」の諺どおりに米軍は西アジアの国境線を一度消して、新たな安定的国境線を引き直そうとしている様に思われる。第二次大戦で犯罪国家の烙印を押されてきた日本と独の名誉回復が現在進みつつあるが、大日本帝国が実は正義の国家であったと想像されるのと同様に、イラク侵略戦争を行った犯罪国家の烙印を押されつつある米国のネオコンも、実は世界平和という正義のために敢えて悪役を演じているだけなのではないかとも想像する。そして、表向きは米国のイラク攻撃を激しく批判してきた独仏露も、実はこの正義の戦争に賛成しており、裏では全面的に協力しているのかもしれない。

また、別の仮説としては、米国は多民族国家であるイランを攻撃して、ペルシャ系だがスンニ派の多い西部のクルド人地域や、シーア派だがトルコ系でアゼルバイジャン共和国という国民国家を持つ北西部のアゼリー人地域、イラク南部と同様シーア派だがアラブ系住民の住む南西部地域、パキスタンのバルチスタン州と同じバルチスタン人の住む地域などを占領し切り離してそれぞれ別の国にするというより壮大な国境線引き直しも考えられる。アラブ人地域のフゼスタン州は大油田地域なので、ここを失うとイランは一挙に貧乏国に転落してしまうだろう。アメリカ軍部が発表した新中東地図はまさにこのシナリオである。

クルド人地域:10のクルディスタン州
アゼリー人地域:8と9の東西アゼルバイジャン州
アラブ人地域:15のフゼスタン州
バルチスタン人地域:21のシスタン・バルチスタン州



以上、米国がイランを攻撃しない説とする説について考察してみた。正解は近日中に明らかになることであろう。
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3 コメント

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Unknown (Unknown)
2007-03-17 14:42:13
平成十九年(2007年) 丁亥 (ひのと・い)の御時世
平成丁亥の年、2007年の御時世は、内外で進行している格差現象が一段とあからさまになるだろう。
新世紀に入り底流に変化が起きて四年目になる。イラク戦争を機に、活況を呈してきた景気に疲れが出る。常に好況は全てを隠すとされているが、そろそろ隠れていた「好況をもたらした真実」の浮上が目立ちだす。
好況故に通用していた「欺瞞」が剥がされ、「資源争奪」の本質に人々の目が向きだす。全体の動きが鈍りだし、資源を巡る本質の動きが盛んになり、経済の活況は継続される。
一極集中の動きが加速され、格差拡大に拍車が掛かり途轍もない「好況」に見えるだろう。

格差の拡大は、即ち、御時世の不均衡状態が酷くなる事を指す。国家も企業も力による制圧に、生きる道を探すだろう。
そこには、成長という美しい姿は無い。如何なる手段を講じても生きる道の模索と闘争であり、世界は緊迫に包まれよう。「陰」の極まり現象である。
人心は荒れ、犯罪は凶悪化を更に進ますだろう。競争を目的にした、狭義の市場原理政策の効果と言うべきか。悲しい下策の副作用が諸に現れだす。
このような事態は有史以来屡々発生したので、古人は‘亥’の漢字を当てたのだろう。

不均衡状態には、必ず、自然の均衡化作用が発生する。それは、不均衡が極に達した時に生じ、不均衡の大小に見合った動きを起こす。
平成丁亥の情況は、不均衡の根源が資源(エネルギー)なので不均衡状態は巨大の部になるだろう。従って、均衡化作用は超激動になる可能性が高い。
‘丁亥’の年は、不均衡状態が極に向かって進む過程と読む。金融界が、極へ向かう旗手となり御時世を引っ張るだろう。
底流の本質は生存にある。成長の虚飾ではない。“カネ”から“物”へと社会ニーズは変わっていくだろう。成長選好の勢力と、生存重視の勢力が衝突した時が、不均衡の極になるのでは・・・。それを機に大波瀾が起きるだろう。
07年、平成の‘丁亥’(ていがい)は、‘物’‘カネ’‘株’が荒れ、御時世に波瀾を巻き起こす年のような気がする。

平成丙戌(十八年)霜月 越玄 記。

自滅の仕上げに入った米イラク戦争
2006年12月5日   田中 宇
http://tanakanews.com/g1205iraq.htm

「一人負け」の日本
2006年11月16日   田中 宇
http://tanakanews.com/g1116japan.htm

大戦争になる中東
2006年7月23日   田中 宇
http://tanakanews.com/g0723war.htm
ノボレ (新高山)
2007-03-17 20:23:12
http://310inkyo.jugem.jp/?eid=134#comments

2007.03.16 Friday  [巷の目]
18日の宇宙艦隊出現はイラン攻撃の隠語??
15日に書いた記事に、今日コメントを書いてくださった方があって、名無しさんのためなんとも言えませんが、「これは、イラン攻撃準備の隠語のこと」とのこと・・・
「ニイタカヤマノボレ」のようなもんなんでしょうか??

と、すると、これに書かれてた66機の宇宙船というのは、米新型攻撃機のことで、日本の米軍基地にもイラン攻撃準備のため、それがやってくるということ?
それとも、SDI兵器の衛星ということか??
( ̄-  ̄ )ンー わからん・・・(;^_^A アセアセ

(あくまで巷の情報ですw)

関連サイト
http://nesara.insights2.org/Landing.html

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コメント(上浦)
延期が続いているので数週間遅れる可能性もある。あえて空耳に投稿した。
NESARA発表の翌日土曜に着陸することから今週金曜日いよいよNESARA発表か!
Unknown (princeofwales1941)
2014-02-18 07:45:43
昔の記事なのですが、最近この記事のページビューが非常に増えており、最新の記事を上回って一位になる事もしばしばです。どこかで紹介されているようでしたら教えて下さい。

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