国際情勢の分析と予測

地政学・歴史・地理・経済などの切り口から国際情勢を分析・予測。シャンティ・フーラによる記事の引用・転載は禁止。

4/2に中露両国が国境確定協定を締結、今年中に国境線確定作業が終了へ

2007年04月09日 | ロシア・北方領土
大ウスリー島・ボリショイ島を中国に返還!中ロの国境紛争、ついに解決:レコードチャイナ

     
  2007年4月2日、ウラジオストックで「中華人民共和国とロシア連邦の国境確定に関する協定」が結ばれた。40年以上にもわたり、交渉が続いてきた中ロの国境紛争だが、今回の協定でついに決着を迎えた。 この協定により、中ロの最後の紛争地・大ウスリー島とボリショイ島が中国に返還されることとなった。遅々として進まなかった国境紛争交渉だが、プーチン大統領は昨年10月の訪中を期に、ロシア全体の利益に合致するとして、返還に合意したという。両国議会の承認をえて、今回の協定締結を迎えた。 現在、黒竜江省政府は大ウスリー島の開発計画を策定中で、貿易港・貨物基地が建設される予定。今後、中ロ貿易の中継地として発展が予想される。また今回の中ロの国境確定交渉が、日ロの北方四島返還交渉にどのような影響を与えるのか、注目される。(翻訳/編集・高口康太)





<中露首脳会談>「国境線確定作業を今年末までに完了」 2007年03月27日 毎日新聞

 【モスクワ杉尾直哉】中国の胡錦濤国家主席とロシアのプーチン大統領は26日、首脳会談後に署名した共同声明で「中露国境線確定作業を今年末までに完了する」ことを確認した。両国外相は05年6月、ウラジオストクで国境画定協定の批准書を交換したが、具体的な作業は現在も終わっていなかったことになる。

 ロシア大統領府が26日発表した共同声明によると、中露の国境策定作業は「2カ所」で完了していないという。具体的な場所は不明。

 中露の国境問題は40年以上にわたる交渉を経て04年10月、北京で開かれた中露首脳会談で最終解決に基本合意。その後の作業で、大ウスリースキー島など両国間にまたがる河川の中州を折半する形で国境を画定したことになっていた。

 中露の国境画定方式については、日本の研究者などから「日露の北方領土問題の解決の参考になる」との声が出ている。






ことば:中露国境問題-ニュースな言葉:MSN毎日インタラクティブ 毎日新聞 2007年1月3日

中露国境問題:1959年に始まった中国とソビエト連邦の路線対立を背景に、60年代に国境問題が表面化、69年3月にはアムール川流域の領有権をめぐって大規模な軍事衝突が起きた。その後、両国とも政治解決を模索しながらも難航。89年のゴルバチョフ書記長の訪中でようやく交渉が本格化した。ソ連崩壊後、交渉を引き継いだロシアと中国は04年10月、中州3島のうち、大ウスリースキー島とボリショイ島について両国が島内に国境を引く形で分け合い、タラバロフ島を中国に引き渡すことで最終的な国境協定を締結。05年6月に批准書を交換した。





ラトビアが対露領土返還要求を断念して国境線を確定:北方領土問題への影響は?



ロシア:中国商人を締め出す「何千人も失業する恐れ」(サーチナ)  2006年12月14日

 ロシアでは、急増する中国商人をマーケットから締め出す動きが加速している。2007年1月1日からは中国商人を念頭に、外国人が酒や薬を販売することが禁じられるほか、外国人はマーケット出店者の40%までに制限される。13日付で英字紙チャイナデイリーが伝えた。

 ロシアでは中国人100万人が就労していると伝えられている。07年4月1日からは外国人がロシア国内のマーケットで交易を行うことが全面的に禁止される。

 河北省駐ロシア事務所では「事態を注視している」と述べている。中国商人の中には「ロシアのビジネスパートナーを見つけることで事態を乗り越えたい」との声がある一方で、「撤退も検討している」との悲観論も聞こえる。

 チャイナデイリーは「何千人もの中国商人が失業する恐れがある」と報じている。(サーチナ 12月14日)






●中露国境問題の地図








【私のコメント】
私が永らく注目していた中露国境確定交渉で、最後まで境界線が未確定であった満州里に近いボリショイ島とハバロフスク近郊のボリショイ・ウスリースキー島(大ウスリースキー島)とタラバロフ島の帰属が決定されたようだ。ボリショイ・ウスリースキー島は日欧間の航空ルートに近接しており、私は飛行機の窓からこの島を見るのを楽しみにしている。2004年10月に基本的な合意協定が締結され、2005年06月には国境画定協定の批准書が交換されたが、実際の領土返還は先延ばしにされていた様だ。今回の国境線確定では、大ウスリースキー島の陸上国境に鉄条網・監視部隊駐留施設、出入国管理施設などを新たに建設する必要があると考えられ、それらの作業が完成するのは今年の年末ということになるのだろう。一方、2007年3月27日にラトビアとロシアの間で現在の境界線を国境と認める合意がなされたが、この時には従来の国境施設がそのまま流用されるために新たな施設は必要ないと思われる。残されたエストニアとの国境線交渉も恐らく現状の国境の承認で決着すると思われるし、カリーニングラードやカレリアの問題も将来ロシアがEUに加盟すればEUの枠組みの中で解決可能である。北方領土問題も、場合によっては日露の何らかの政治的・軍事的統合を背景に決着することが考えられるが、その場合も国境管理コストの高まる陸上国境は可能な限り回避すべきであろう。

4月2日に「中華人民共和国とロシア連邦の国境確定に関する協定」がウラジオストックで結ばれた理由は何だろうか?私は、4月1日に施行された「外国人がロシア国内のマーケットで交易を行うことを全面的に禁止する措置」と関係があるのではないかと考えている。中国人は従来、ロシア領内で交易を行うことで大きな利益をあげてきた。しかし、昨年ロシアで成立した法律によって2007年1月1日からは中国商人を念頭に、外国人が酒や薬を販売することが禁じられるほか、外国人はマーケット出店者の40%までに制限されていた。これは4月1日からの外国人による交易活動全面的禁止への移行処置であると思われる。このような交易活動の一方的な制限は中国側に大きな損失を与えるものであり、それをロシアが中国に飲ませるには何らかの見返り条件が必要だろう。

私は、ロシア政府が中国への領土引き渡しの条件として、ロシア国内での中国商人の活動の全面禁止を要求していたのではないかと想像する。そして、4月1日に中国側が約束を守って全ての中国商人を引き上げさせたことを確認して4月2日に協定を結んだのだと考える。また、三島返還提案が模索されるなど解決の兆しはあるもののいっこうに北方領土問題が解決されないのも、実はこの中露間の解決でロシアが中国からより大きな譲歩を引き出す事が目的ではないかと想像する。日本が北方領土問題で四島返還に近い譲歩をロシアから引き出せば、中国側からは「対日譲歩と同様の大幅な譲歩」をロシアに求める声が噴出することは避けられない。従って、中露間の交渉が完全に決着するまでは日本への領土返還が行われることはないと想像される。4月2日の協定が完全決着を意味するならば今返還が行われることもあり得るが、場合によっては今年の年末や来年まで先延ばしになるかもしれない。

今後、協定どおりに大ウスリースキー島の西部が中国に引き渡され、境界線にはロシア側が各種設備を建設することになるだろう。この境界線からハバロフスク市街地までの距離は30km程度しかない。中国軍がこの国境を越えて東に進軍すれば、ロシア極東の首都であるハバロフスクはあっけなく陥落することだろう。私は、近い将来にロシア政府がハバロフスク市を軍事要塞に転用し、現在の都市機能をより国境から遠いコムソモリスク・ナ・アムーレやナホトカ、サハリン南部などに移すのではないかと想像する。また、中国側は大ウスリースキー島に貿易港を建設して中露貿易を拡大したいと考えているようだが、ロシア側は中露間の人の交流だけでなくモノの交流も可能な限り制限したいと考えていると想像される。

アムール州やハバロフスク州南部、沿海州はアイグン条約と北京条約で19世紀半ばにロシアが清から奪った地域であるが、その先住民のほとんどは満州族と同じツングース系民族である。そして、中央シベリア以東の先住民はモンゴル系ないしトルコ系のブリヤート人・ヤクート人を除くとほとんどがツングース系民族である。ロシア人は、漢民族に完全に同化した満州族からシベリアの返還要求が出るのを心から恐れている筈だ。そして、それはG8の内海である北極海を紛争の海に変え、シベリアに億単位の中国人が溢れてロシアにまでなだれ込み、シベリアの資源も中国人に支配されるという欧米人全てにとっての悪夢に他ならないだろう。

ロシア人が中国に感じている恐怖というのは、少数の侵略者が多数の先住民による包囲に怯えているという点でイスラエルのユダヤ人の状況に似ている。ロシア人がもし満州の人々と貿易を行うとすれば、それは満州の人々がシナ本土の漢民族とは異なる民族であるというアイデンティティを持ち、シナとロシアの間の緩衝国家として機能することが最低条件であろう。つまり、台湾が日本と中国の間で果たしている役割を満州がロシアと中国の間で果たすことが望まれているのだ。とは言え、満州族はほとんど漢民族に同化しており、シャーマニズムも満州語も失われてしまっている。台湾語が残っており日本支配時代の文明化の歴史を有し台湾海峡という明瞭な境界線もある台湾との事情の違いは大きい。満州が台湾のような独自のアイデンティティを持つ緩衝国家になり得るかどうかはかなり微妙である様にも思われる。

日本は有色人種として唯一G8の一角を占めているという点で異色の国家である。非西欧系の先進国で人口も一億人強と言う点ではロシアと共通点があり、黄色人種で漢字を使用する点では中国と共通点がある。今後、アムール川やウスリー川を隔ててロシアと中国、あるいはロシアと満州が対立する際にどちらの味方をすべきかという点で深刻な選択を何度も迫られるだろう。それは、明治維新以来繰り返されたアジア主義と脱亜入欧主義の選択でもあるのだ。その際には、単に日本の国益だけでなく、ロシアや満州族、漢民族の利益を含めた公平な視点で事態を分析し両者を説得し解決に導くという姿勢が必要になると思われる。
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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2007-04-09 05:23:34
全てが仕組まれていた事だとすれば5月に動くな・・・


56 :名無しさん@お腹いっぱい。:04/11/22 11:20:56 ID:???
>>55
いつも思うんだけどさ。
このメルマガ貼り付けてる人多いんだけど、
江田島孔明さんて、佐藤文隆でしょ?

実証なしの古典地政学人の理論がおもしろい?

57 :れんみ ◆fNqo5vRsCQ :04/11/22 19:53:26 ID:???
>>56
> いつも思うんだけどさ。
> このメルマガ貼り付けてる人多いんだけど、
> 江田島孔明さんて、佐藤文隆でしょ?
>
> 実証なしの古典地政学人の理論がおもしろい?

そうなのね、恥かいちゃったかな。
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