ウィトラの眼

無線業界のニュースについての意見・感想を書きます

UMPCは普及するか

2008-08-30 08:54:20 | Weblog
ノートパソコンの世界で10万円を切る機種のシェアが4割を超えたそうである。いわゆるUMPC(Ultla Mobile Personal Computer)というやつである。

IntelはAtomというチップを出してこの方向をサポートしている。このような機種は当然外出先で使うというコンセプトだから、無線業界の将来にも大きな影響がある。最も成功してほしいと思っているのはWiMAXのサービスを始めるUQコミュニケーションだろう。

私は現在、パナソニックのLet's Noteを使っている。これは20万円くらいしたのでUMPCだと半額以下になる。私の場合はデスクトップを買わずにLet's Noteを生活マシンとしている。自宅にいるときには大画面のディスプレイと、キーボードを外付けにして使っている。 私の場合は1週間単位の海外出張が多いのでこのような機能限定のUMPC出張に持っていく気にはなれず、いくら軽くて安くてもUMPCに乗り換えるということはしないだろう。

このようなPCはどういう人が使うだろうか?
可処分所得の多い独身貴族はTV付きのこのようなPCを2台目パソコンとして買って遊びに行った時などに使うかもしれない。しかし現状ではネットへのアクセスが結構高く、安いと宣伝しているE-mobileでさえも月額5千円くらいするので、これを気にせず払える人は少ないのではないだろうか。

なお、どこのオペレータでも月額1000円といったサービスも提供しているが、これは情報量に上限があり、メールくらいのイメージなのでそれならケータイで十分ということになりそうだと思っている。 UQがWiMAXでこれを月額3000円にしたからと言ってどれくらいユーザーが増えるかは疑問に思っている。E-mobileからUQに移る人は出るかもしれない。

私はこの種のPCの普及のカギは企業にあると思っている。日帰りか一泊の国内出張が多く、打ち合わせ先で2時間の打ち合わせを何件かこなすような人は必ずしも生活マシンを持ち歩く必要はないが、メールはきちんと取れて、会社の伝票なども発行できることに対する需要は強いはずである。自分の会社の支社では無線LANにアクセスできるようなところも増えている。

こういう会社が出張者が使うPCとして機能限定ではあるがネットにアクセスできて仕事ができるいわゆるシン・クライアントのパソコンを導入することが、この種のユーザーを増やすカギだろうと思う。おりしも、ウィニーなどでの情報流出がうるさく言われているのでこの使い方は有力だと思う。

しかし、不思議なことに日本の会社はこの種のパソコン(設備)を導入して社員に使わせることに慎重な会社が多い。こういうPCを導入して業務効率が5%でも上がれば年間100時間相当である。1時間あたりの社員のコスト(給与ではなくローディング)を考えれば導入したほうが得なことはすぐわかると思うのだが・・

やはりこのあたりの計算に優れて動きの速いアメリカからこの種のPCも普及してくるというのが実態になりそうな気がする

AndriodとSymbian統合の噂

2008-08-29 06:31:26 | Weblog
Googoleが提唱する携帯電話用のOSであるAndroidとNokiaがサポートしているSymbian社が開発している携帯電話用のOSでるSymbian OSが統合されるといううわさが流れている。

http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0807/29/news038.html
「本当か?」と眉に唾をつけて聞く思いがすると同時に「ありそうな話だ」とも思う。これは噂の出所であるジャック・ゴールド氏の個人的意見かもしれないし、何か情報をつかんでいるのかも知れないが個人的意見だとしても面白い意見だと思う。

Googleは昨年11月に携帯電話用OSであるAndroidを開発し、皆に無償で配布する、と発表している。これを推進するためにOHA (Open Handset Alliance)を立ち上げ、世界の有力企業を賛同者として受け入れている。この発表から2週間ほどしてSDK (Software Development Kit) (Androidの上で動作する応用ソフトを開発するツール)を発表しているので、構想だけでなくかなり入念に準備されたものであることがわかる。AndroidはOSというがメモリや通信部分などを制御する“いわゆるOS”の部分にはサーバなどで使われているLinuxを使用し、その上で様々な応用ソフトが動くためのミドルウェアを開発するのがGoogleの中心的活動になっている。

Symbianは携帯電話用の“いわゆるOS”を開発する会社で、Nokiaを中心として数社が出資している。現在の高機能携帯電話のOS市場では60%以上のシェアを持っている、有料のOSである。Symbian OSの上のミドルウェアとしてはNokiaが開発したS60、エリクソン系の会社が開発したUIQ、ドコモが開発したMOAP(S)の3種類が出回っている。本年6月、NokiaはSymbianを完全子会社化すると共に、上記3種類のミドルウェアを統合したミドルウェアを開発し無償で提供すると発表している。同時にこれを推進するSymbian Foundationを立ち上げ、現在では世界の有力企業31社の賛同を得ている。

このNokiaの動きをみるとAndroidに対抗しようという意識が明確に見てとれる。その一方で両社が統合すると面白いと思うのはGoogleが得意なのはミドルウェアの部分であり、Nokiaが得意なのは“いわゆるOS”の部分であるからである。さらに、Googleはインターネットアプリに強いが電話にはあまり経験がない。一方のNokiaは電話に非常に強く、インターネットアプリの経験は限定的である。つまり、両社の保有する技術資産は補完関係にあるわけで、組んでもおかしくないと思う。Nokiaが”いわゆるOS“の部分を開発し、Googleがミドルウェアを開発するのである。組んだからと言ってGoogleがLinux用のAndroidの開発をやめるとは思われず、Android LinuxとAndroid Symbianの2種類が出回ることになるだろう。一方のNokiaは統合ミドルウェアの開発を中止して既存のミドルウェアのままとし、Androidに吸収していく道を選ぶかもしれないという気はしている。

携帯電話用のOSとしてはマイクロソフトもWindows Mobileというのを開発している。現在の市場シェアは微々たるものであるが、今後ビジネス用を中心に伸びてくる可能性はあると思う。これらのOSが今後どうなっていくかは業界構造に大きな影響を与えるので注目してみていきたい。

これで7月31日に出した過去分の再投稿は終りである。
これからは何か気になるニュースが出た時に書いていくことにしたい。


じぶん銀行

2008-08-28 05:34:48 | Weblog
KDDIが三菱東京UFJ銀行と共同で「じぶん銀行」を設立した。携帯電話で様々なお金の決済ができるようにするそうである。

私はかねてから携帯電話事業者がこのような事業をすると成功すると思っていた。その理由は一つには現在の銀行が競争体質になれておらず、脆弱な感じがする点にある。

銀行の難しさはお金を貸すことにあり、「この相手は本当に返してくれるか」という判断をしつつ適正な金利で貸す点にある。この点は素人がやってもうまくいくとは思えず、銀行にかなりのノウハウの蓄積があると思われる。東京都が始めた銀行がうまくいかなかったのもこの点にあると思っている。

その一方で預金者に対するサービスは悪く、大いに改善の余地があると思う。銀行の窓口は10時から3時までしか開いていないなどはその典型だと思う。その点に目をつけてセブンイレブンなど何社かがすでに参入している。

しかし、考えてみると携帯電話事業者はこの種の事業をするのに適した資産を持っている。まず、膨大な加入者数を持っており、それぞれの個人から毎月料金を徴収している点である。携帯電話に加入するときには本人確認をするのでその時点で個人の特定ができている。更に毎月料金を徴収していることで、加入者の懐具合もある程度特定できる。

もうひとつ重要な点は3000万人という膨大な顧客データベースを持っている点である。加入者が給与振込先として「じぶん銀行」を指定し日々の支払いはその口座から行う、ある程度預金がたまったら三菱東京UFJに移して運用を行う、というのは便利そうに思える。運用は難しいので三菱東京UFJに任せることになるだろう。しかし、気がついてみると巨大な預金額の銀行が出現しているということになりそうな気がする。

携帯電話の本人確認の仕組み、セキュリティなどはかなり技術が進歩している。さらに今後は電子マネーの普及が進むであろうし携帯電話には常に最先端の技術が搭載されるので、本人確認も通常の預金口座よりもむしろ安心できるものになる可能性がある。ドコモは金融に進出するのにiDというクレジットカードで入ったがこれは不正解で、今回のKDDIのアプローチが正解だと思う。

今後の動きを注目してみていきたい。

日本の情報通信の将来 xICTビジョン

2008-08-27 06:23:05 | Weblog
7月3日、総務省が主催するICT懇談会が「xICTビジョン」なるものを発表した。これは日本がICTで国際競争力を高めるためにどうすべきかを約半年間かけて議論した者の集大成である。 しかし、一読したところ「分かってないな」という印象である。
まず報告書の内容を簡単に説明しよう、

問題の発端は世界の一人当たりのGDPとその国のICT競争力には強い相関があり、近年日本のICT競争力が下がってきて、国際競争力も下がってきている、という問題提起である。これは正しい認識だと思う。

これに対して報告書ではICTの重要性をいろいろな角度から説明し、国家としてのICTの育成戦略が重要と述べている。 ところが結論でどうすべきかというと、そこらにあるアイデアの寄せ集めという感じになってしまう。基本的には以下の4点を挙げている。
①ICT産業の国際競争力強化
②ICTのつながり力による産業変革
③新たなデジタル市場の創出
④官民をあげたデジタル適応力の向上
となっている。一見もっともらしいが中身をみると
①は標準化や、特許で世界に勝つこと。そのために必要なのは知財、標準化センターの設立。人材育成のためのナショナルセンターの設立、となっている。実質的効果があるとは思えず、むしろ余計なオーバーヘッドを作るように思う。
②はICTの産業展開である。うまくやれば大きな効果があるが、おおるジャパンの大型プロジェクト、自動車などの強い産業との連携などを押しており、下手をするとICTに強い産業が足元をすくわれる危険性もある。
③は地デジ、地域WiMAX推進などとなっており、一部業者の利権強化を盛り込んだように思える。
④は電子政府関連である。私は電子政府はあまりうまくいっていないと思っているが、これを推進することになっている。

なぜ、問題提起は良いが、結論は腰砕けになってしまうのだろうか?ひとつには、議論した委員のほとんどがICTの評論家であり、実際にICT産業のど真ん中にはいない人たちである、ということが言えるだろう。従って、問題提起はできるが、解決策を練る段階になると「なぜうまくいっていないのか」の分析ができないので腰砕けになるのだろう。もう一つは政府(この場合は総務省)のすでに計画立案した活動との整合という暗黙の圧力があると思う。

問題を本質から見直し、その原因を正すことができるのか、深いところから議論すべきだと思う。

私の意見はすでに何度にもわたってブログに書いたが、ソフトウェアの弱さが日本の本質なので10年程度では回復できない、という認識から出発する。従って、当面は先進ICTユーザー(海外の技術を利用する)を目指し、教育システムから見直して、日本の英語力を高め20年以上後の時代に託すことが日本のあるべき戦略だと思っている。

山で使う携帯電話

2008-08-26 06:47:08 | Weblog
昨日、新聞を見ていたら山で使う携帯電話の話が出ていた。

山で遭難しそうになったりした時には携帯電話が頼りになる、という話である。ただし、技術が3Gになって山での携帯電話は通じにくくなった、というようなことが書いてあった。

私も同感である。以前なら難なく使えていたような場所でも、圏外になってしまう。 これは、無線の方式の問題と、使っている周波数の問題の両方があると思うが、山で携帯電話を使えるエリアが狭まっているというのはある意味では社会問題ではないだろうか。

ドコモなどのオペレータにとっては携帯電話はビジネスなので、使う人のいないエリアに電波を飛ばすのは経済合理性に反する。以前のMovaのときは別に山をサービスエリアにしようとしていたわけではなく予期していない電波が漏れて使える状態になっていたのである。それが3G(Foma)になって正確に制御できるようになって電波の漏れが少なくなったという面があるだろう。

山登りをする人にしてみれば携帯電話が使えるのは心強い。何とかして設備投資を増やさずに、山で携帯電話を使えるようにできないものかと思う。

ひとつ考えられるのは端末のアンテナを登山用の高感度のものを開発することである。ステッキ型や傘型の登山用高感度アンテナを売り出せば5千円くらいなら買う人は結構いるのではないだろうか。

問題は法整備である。現在は勝手に高感度アンテナを付けることは禁止されている。端末の付属品として端末本体と合わせた時に違法電波が出ないことを確認しないと販売できないようになっているのである。

これはアマチュア無線などで勝手に高感度アンテナを付ける人が出て、他の人に干渉を与えて迷惑をかけることから規定されたものである。 しかし、現在の3G携帯電話は送信電力制御の技術が発達していて、不必要に大きな電波を飛ばすと、基地局が文句を言って下げるように制御するようになっている。

山での遭難事故を減らすために高感度アンテナの規制緩和をしてはどうかと思う。


日本の情報通信産業の行方(15) 部品事業

2008-08-25 08:47:49 | Weblog
かなり長く同じタイトルで語ってきたが今回で一応最後としたい。

プリンター、ディスクなどの周辺機器、その他様々な部品を一括して語ってみたい。これらは範囲も広く、事業特性も異なるので本来一言では語れないのであるが、情報通信産業という観点からは少し違う産業と見ることができるので、大きく括って考えてみる。

本質的にこの分野はハードウェア事業であり、日本企業が戦える分野である。特に部品の分野では日本企業が現在もかなり強いということができる。

ただしLSI関係が少し注意が必要である。 複雑なLSIは使いこなすのが大変で半導体企業がソフトウェアも合わせて提供しないと顧客の企業で使いこなせるところは限られてくるのが現実である。パソコンの場合はIntelとマイクロソフトが組んで別々に提供しているが、携帯電話用のソフトなどは、半導体企業が提供している。そして、このソフトの複雑さが、日本が戦える限度を超えてきているのが、日本の携帯電話企業がなかなか海外に出ていけないもう一つの理由になっている。 半導体はこのような複雑な方向に向かっており、日本の企業は分野を絞り込んでいかないと生き残れない状況になってきていると思う。

それ以外の部品はまだ日本企業が強いが、今後技術の進歩により、現在は個別の部品として扱われているようなものも、統合チップセットのような形で、一つに集約してくると日本企業は勝ちにくくなる。ひとつの高機能部品の方向へ向かっていかないような事業戦略が必要だろう。

以上、日本が「複雑なソフトでは戦えない」という観点を基本に情報通信産業の将来を見てきた。複雑なソフトでは戦えないということは産業の将来の国際競争力に大きな影を落としている。私はこれは日本人の言語コミュニケーション能力、特に英語の能力から来ていると思っているので、これを戦えるようにする方策はなく、国家レベルで手を打ったとしても効果が出るまでには何十年もかかると思っている。

次回以降、日本人の英語能力を高める方策について考えてみたい。

国際標準化のコースを大学などに新設

2008-08-22 09:55:41 | Weblog
総務省と経済産業省が共同で国際標準化に関するテクニックを教えるコースを早稲田などの大学に新設し、講師を送り込む、というニュースがあった。

現在、ICTの分野では日本の標準化活動の存在感が下がっているので結構なことだと思うが、これがどの程度役に立つかは疑問である。このような活動は坐学では難しく実戦で鍛えられるものだからである。仮に学生がこういうことを大学で学んだとしても、会社に入って数年間も使わなければたちまち忘れてしまうだろう。

私としてはそれよりも、以前このブログに書いたように英語力、英語でディベートする能力、それ以前に物事を言葉で正確に表現する能力などを育成するのが重要ではないかと思っている。

先日、ある大学で1年生に講義する機会があったので、「自転車を見たことがない人に自転車を説明せよ」という課題を出して、一定時間考えさせてから発表させた。本当は英語でやりたいところだが、日本語で行った。こういうトレーニングを行ってコメントを付けてフィードバックをかけ、表現力をつけさせることがまず必要なのではないかと思っている

日本の情報通信産業の行方(14) 通信機器事業(端末)

2008-08-22 08:12:41 | Weblog
通信端末というと携帯電話、コードレス電話、FAXなどがあるが市場規模からいうと携帯電話が圧倒的であるので、携帯電話を通信に考える。

携帯電話事業は変動の激しい事業である。アナログ時代にはMotorolaが断トツで、Ericsson、Siemens、Alcatel、Sagem、日本勢などが続いていたのだが、後発のNokiaがデジタル、特にGSMで頭角を現し、現在は断トツである。Siemens、Alcatelは撤退し、韓国勢のSamsung、LGがcdma2000で力をつけて、現在伸びてきている。Motorolaは現在でも世界3位であるが売却までささやかれるような状況である。

このような世界の流れの中で日本企業は日本国内では市場を独占しているが海外展開はことごとく失敗している。現在はcdma2000の端末メーカーがアメリカ大陸で目立たない程度に活動しているのと、シャープが海外参入を画策している段階である。

世界の端末市場は現在大きくいって二つの市場に分化してきている。一つはアジアやアフリカ向けの低価格市場で$30端末などと言われているGSM端末が急速に普及している。この端末で提供されているサービスは電話とショートメッセージくらいである。この分野はハードウェア主体の事業であり、日本企業でも戦える可能性がある。ただし、GSMという日本では使用されていない方式であること、コストが勝負になるのでシェアを取らないと利益が出ないことを考えておく必要がある。

トップのノキアに対してSamsung、LGの韓国勢が挑んでいるが世界で3社位は生き残れると思うので、Motorolaを含めた4社のうち一社が脱落するくらいではないかと思っている。これから参入するのは容易ではないが、一旦一定の地位を占められれば続けられると思っている。

もう一つは高速パケット通信機能を有してインターネットアクセスを提供する高機能端末である。高機能端末は機能によって差別化が可能であるので参入は容易である。しかし、現在の端末は高機能化が進みソフトウェアの規模が日本人が扱いきれない分野に突入していると思う。成熟市場で端末の機能が分化していくので一機種当たりの販売台数は減って、開発費負担が重くなる。日本の端末はコスト高ということになると思う。

パソコンのように海外大手の作ったソフトプラットフォームの上に日本独特の要求条件を作りこむというモデルに移行していくと思う。市場規模は限られ、淘汰が進むと考えられる。

もし成功する道があるとするなら、「日本の家電的センス」が強みになるのではないかと思っている。使いやすさを求めてユーザーの声を反映して短期間に改良を繰り返す、という日本的やり方は消費者向けの製品では強みになると思っている。プラットフォームを購入してその上に使いやすさを作りこめば、世界に出ていける可能性はあると思う。

なお、日本メーカーが日本市場でしか戦えず、世界に出ていけないのは特殊な市場を作っている総務省のせいだとか日本の通信事業者のせいだとかいう議論があるが、私は90%はメーカーのせいだと思っている。日本に市場があり、そこで求められるもの海外と異なっていたからと言って出ていけない理由にはならない。現に韓国メーカーは出て行っている。日本という市場があることがいけないのではなく、楽に事業ができる市場に安住しているメーカーに問題があるのである。

携帯電話以外の通信端末にも簡単に触れておこう。FAXやコードレス電話は底堅い需要はあるものの、成熟市場であることは変わらないだろう。これから増えるのは、家庭用のルータ、家庭用の基地局、家庭用のセットトップボックス、といった分野であろう。

これらは本質的にインフラ用の機器を家庭用に作りこんで販売するというビジネスモデルである。ソフトウェアというよりはハード中心の機器であり、消費者に近いという意味で日本企業には向いている分野ではないかと思っている。

ただし、インフラ用機器と比べると大幅にコストダウンをしなくてはならず、そのためには思い切ったLSI開発の投資が必要である。家電用の機器は本質的にこのような性格であるので家電メーカーは投資判断をできると思うが、この種の機器に必要な技術を持つインフラメーカーがこのような判断をできるか、キチンとしたマーケティングをできるかどうかが成功のカギになるだろう。

ヨーロッパのチップセットベンダーの動き

2008-08-21 17:11:45 | Weblog
エリクソンがSTマイクロと移動体のチップセットで合弁会社を作るという発表があった。

STマイクロは昨年Nokiaから3Gのチップセット技術及び技術者の移管を受けてチップセットを開発し、ノキアに対して販売する合意をした。今年の四月にはさらに、NXP(フィリップスの半導体会社)と合弁(実質買収)して範囲を拡大した。今回はそれにさらにエリクソンのチップ開発部門であるエリクソン・モバイル・プラットフォーム(EMP)が加わったことになる。

ヨーロッパの移動体チップセットベンダーは実質1社に集約されてきたということになる。 一年間でこれだけの動きを行うのは大変早い意思決定である。おそらく、昨年のノキアとSTマイクロの合意の時点である程度シナリオができていたのではないかと想像する。

これでアメリカのQualcomm対STのヨーロッパ連合という戦いの構図が明確になってきた。これらの強豪を前に日本のチップメーカーは吹けば飛ぶような存在であり、移動体チップセット事業の継続は困難だろう。

ヨーロッパ企業の意思決定の速さに目をみはる思いである

日本の情報通信産業の行方(13) 通信機器事業(インフラ)

2008-08-21 08:28:20 | Weblog
通信機器事業は通信サービス事業者に対してネットワーク機器を提供するインフラ事業と携帯電話のような消費者の持つ機器を提供する端末事業に大別される。これらは、技術的には近いものがあるが顧客の考えなどは大きく異なっており分けて考える必要がある。

インフラ事業
従来は交換機と有線・無線の伝送機器事業に分かれていた。交換機はハードウェアの上に特殊なソフトウェアが載った機器、伝送機器はハードウェア中心の機器と見ることができた。しかし、IP技術がネットワークの本流になってきて、交換機はルータとサーバに分化してきた。ルータはハード中心の機器、サーバはソフト中心の機器ということができるだろう。

サーバのソフトウェアの規模は拡大してきており、日本企業は戦えない領域に入ってきていると感じている。国内通信事業者の特殊な要求条件を除くと、日本企業が戦っていくのは困難であると思う。ハードウェア中心の機器は本質的に戦える分野であるが、仕様の世界標準化が進んでおり、世界標準に対応する機器をタイムリーに出荷することが重要になる。ルータなどはCISCOが世界市場を制覇しており、この分野で戦うのは無理ではないかと思われる。

現状、光通信、マイクロ波通信を除くと日本勢が存在感を示している分野は少なく、新たに開拓していくのは容易ではないだろう。自分たちの強みのある分野に集中して一つ一つグローバル製品を開拓していく態度が必要だろう。

最近成長が著しい移動通信の分野では多くのネットワーク製品があるが装置の個別受注ではなくシステム全体を受注することが習慣となっている。スウェーデンのエリクソンがこのような方向に引っ張っており世界最大のシェアを持っている。鍵となるソフトウェア開発で苦しい日本勢はシステム受注は困難になってきている。個別装置を受注できるように業界の習慣を変えるように働きかけるか、システム受注した海外企業の下請け的に個別装置を納入するかでないと世界での事業は難しいだろう。

また、移動通信の分野では標準化が進んでおり、個々の装置の機能は細かく規定されている。大きさ、消費電力、処理容量、価格といった量的側面での差別化は可能であるが質的面での差別化は困難になってきている。定量的な競争は日本企業の得意とするところなので下請けでも一旦市場で存在感を示せれば勝ち目はあると思う。ただし、標準化をエリクソンがコントロールしており、定量的な競争に入る前に大きく機能を上げたものを作らなくてはならなくなるのが現実である。そこについていって定量的側面の勝負に持ち込めるかどうかが課題になるだろう。

長くなってきたので端末は次回にしたい。