ウィトラの眼

無線業界のニュースについての意見・感想を書きます

モトローラの携帯端末部門のCEOにQualcommから

2008-08-05 13:14:28 | Weblog
モトローラは不振の続く端末部門を切り離して別会社にすると発表しているが、このほどそのCEOに元QualcommのSanjay Jha氏を迎え入れると発表した。

これを聞いて私が感じるのは「モトローラは(新会社は)携帯端末事業をやめるのではないか?」ということである。

Sanjey Jha氏のことは詳しくは知らないが、QualcommのチップセットビジネスのCOOを務めたというのだから、技術力もあるし、ビジネスセンスもあるのだろう。しかし、CTOならともかく、端末部門のCEOに据えるのには違和感がある。

端末事業は消費者事業。重要なのは消費者に受け入れられる端末をどうやって作るか、ということである。この点ではQualcommでの経験はあまり役に立たず、むしろ技術優先になりすぎて邪魔になる可能性すらあると思う。

端末事業で成功するには、GSMとその発展形の技術に対応した端末を出すことが不可欠である。以前からの私の持論である「ヨーロッパはGSMの標準化で参入障壁を築いてきた」という見方は昨年あたりから崩れ始めている。彼らが築いた参入障壁はTIやIntelにはうまく機能していて、これらの半導体の巨人はうまく携帯電話用のチップを出せないでいた。しかし、ここへきてQualcommがその参入障壁を乗り越えて良いチップを出し、シェアを急速に拡大してきている。それの伴ってNokiaも戦略を見直して、チップを外販する方向に舵を切った、というのが私のこの分野に対する見方である。

従って、携帯電話のビジネスも今後パソコン化して、装置メーカーの差別化要因は技術ではなく工場の効率とか、デザイン、商品企画、というところに移っていくものと思っている。そう考えると今回の人事はいかにも不自然である。

私は新Motorolaはモジュールメーカーになろうとしているのではないかと思う。QualcommのGobi プロジェクトに代表されるように、3Gの技術あるいは将来の4Gの技術は携帯電話だけでなく様々なものに組み込まれていくと思う。iPodに3Gを組み込んだ3G-iPhoneはその走りで、GobiでノートPCに組み込む動きも今後進んでいくだろう。

モトローラがQualcommと組んでそのようなモジュールビジネスに動くのなら今回の人事も納得できるというのが私の感想である

デジタル音声圧縮とトヨタ式生産

2008-08-05 08:38:22 | Weblog
携帯電話にデジタル方式が導入されて以来、音質がずいぶん良くなった。アナログのFM方式のときにはザーザーという雑音が入っていたのが、入らなくなったのである。
この原理は以下のようなものである。

1) 音声をデジタル化して圧縮する
音声をデジタル化して波形を分析すると同じパタンが繰り返されているようなことが多く、冗長度が多い。例えば「A」パタンが10回くりかえられていると、「A」を10回送るのではなく、「A」と10回という情報を送ると、実際に送るべき情報量は随分少なくて済む。実際、携帯電話ではこのような音声に含まれる冗長度を取り除いて、固定電話の1/10程度の情報量に落としている。
2) 誤り訂正符号をつけて変動に強くする
次に圧縮された情報に、管理された冗長ビットというのをつける。この冗長度のために実際に送る情報量は固定電話の1/5程度に増加する。しかし、この冗長度のおかげで、電波が弱くなったり干渉を受けたりしてアナログのときに入っていた雑音が入らなくなる。デジタル方式の場合は伝送エラーということになるのであるが、伝送エラーが自動的に修復される。これを誤り訂正符号と呼ぶ。

デジタル携帯電話導入当初はあまりに効率を求めて圧縮しすぎたために、一部細かい音が聞き取りにくくなったが、今は適切なレベルに戻して聞き取りにくくはない。結果として、固定電話よりはるかに少ない情報量で、良い音質を提供できている。

この考え方はトヨタ式生産とよく似ていると思っている。まず、無駄を省いて徹底的に効率化する。次に変動対応力を高めるために「ゆとり」を持たせる。この効率化と「ゆとり」の組み合わせがトヨタ式生産の神髄だと思っている。トヨタは業績が良いので皆がトヨタ式を導入している。しかしトヨタに勝てないのはこの誤り訂正符号に相当する「ゆとり」の設計がうまくできていないのではないかと私は思っている。効率化は効果が明確なので皆が一生懸命やる。しかし「ゆとり」のほうは効率を下げる行為なので経営者は及び腰になる。誤り訂正符号も発生しそうなさまざまな誤りパタンを想定し、誤りの影響の程度を想定して、高度な理論を駆使して実現している。一般社会では「ゆとり」の付け方の手法はあまり確立されていないように感じている。これを整理するとトヨタ式の効果が明確になってくると思っている。

この考え方は生産だけでなく全ての業務に適用できるはずである。効率化だけを求めると「労働強化だ」と反発を受けるが「ゆとり」と組み合わせれば問題はないはずである。このようなゆとりを持ちつつ効率化を追求する企業文化が根付いているかどうかがトヨタ式を導入して効果が上がるかどうかに強く関係していると思っている。