ウィトラの眼

無線業界のニュースについての意見・感想を書きます

無線通信の将来 現状認識

2008-07-31 10:32:20 | Weblog
今回は、私の専門である無線通信の話である。
私が会社に入社したころは無線といえばテレビかラジオ、それに一部のマニアがアマチュア無線をやっているくらいでそれ以外は防衛が企業利用で一般人の目に触れることはなかった。それが今では携帯電話の加入者が1億を超え、「ケータイ」は生きていく上で不可欠な社会インフラになっていると言ってもよいくらいだろう。35年前には影も形もなかったものがここまで大きく発展する段階で関われたのは幸運であったと思っている。
そのケータイも日本国内では普及がほぼ終わり、ここ数年は市場規模は横ばいのようである。これがこれから固定電話のように凋落傾向をたどるのか、さらなる発展のための踊り場なのか、判断が難しいところである。
先行している固定網を見ればISDNやATMは失敗したもののインターネットは大きく花開き人々の生活に貢献していると思う。しかし、そうなるまでには15年間くらいの踊り場の時期があったと思っている。また、インターネットは大きく成長しているがそれが通信業界に富をもたらしたかどうかは別問題で、事業的には必ずしも成長していないと思っている。これを踏まえて無線(ケータイ)業界はどうなるか、これから私の考えを述べていきたいが、飛行機の搭乗のアナウンスがあったのでここでいったん切っておく。


無線通信の将来 光通信の影響

2008-07-31 10:30:53 | Weblog
無線業界の話に行く前にもう少し固定通信業界のことを振り返ってみたい。
固定通信の分野のこの30年間の技術革新は目覚ましく、ネットワークの能力の増加は想像を絶するものがある。銅線に代わって光ファイバーが発明され、関連する光技術が急速に進歩したことによってネットワークに通信容量は100万倍まで上がるような技術進歩があった。

残念なことはメーカーも通信事業者もこの技術進歩を実際の応用と並行して発展されることができず、技術だけが進んで用途がない、という状態がかなり長く続いたことである。当然投資金額もそれほど大きなものにはならなかったし、事業として利益もあまりあがっていない。家庭まで光ファイバーを引く作業は工事費用がかかるためなかなか進まず、結果として、ネットワーク容量が必要な容量を大幅に上回る状態が長く続いた。応用を開拓し少しでもネットワークを使えるようにするためにインターネットは使い放題で定額が常識になっていった。

これがインターネットの発展に大きく貢献したが、その一方で、通信事業者の懐は潤っていないことの本質であると思っている。自動車業界はそれほど大きな技術革新はないのに産業として成功しているのと好対照である。

このように通信業界が最新の技術革新を2足3文で売り渡したのはアメリカ市場にその原因があると思っている。世界最大かつ最新の市場で格安の売買がどんどん行われるので世界はそれについていかざるを得なかったのである。21世紀に入ってインターネットの応用が大幅に拡大し、これから固定通信事業は再拡大の可能性があると思っている。

無線通信は周波数が有限な資源であることから光通信のような極端な技術先行の発展はなく、まだ健全な発展を続けていると思っている。しかし、これまで収入の中心であった電話サービスが先進国では飽和に近付いてきており、値下げで売り上げは下がり気味である。今後、発展するためには新しい展開が必要となってきており、これからの進め方が難しくなってきている。


無線通信の将来 インフラ・サービス

2008-07-31 10:29:12 | Weblog
今回は無線通信について考えてみる。それも、将来的にどのような無線通信技術が必要になるかという観点で整理してみたい。無線の利用は放送と通信に大別されるが、そのうちで通信について考える。無線通信で最も市場規模が大きく良く利用されているのが携帯電話である。携帯電話はドコモやKDDIなどのオペレータがネットワーク(インフラ)を構築して有料でサービスを提供している。無線通信としてはこの他に無線LANなど個人で使うようなものもあるが、今回はこれは除外してオペレータサービスの無線通信、つまり携帯電話サービスを考える。無線通信が担うのはこれらのサービスのために情報を伝達する手段である。従って無線通信の役割はどれだけ広い範囲でどれだけ高速の伝送を、確実に行うことができるか、であるといえる。

携帯電話サービスを考える場合にオペレータサービスとそれを提供するインフラ、端末の機器が必要となるが、いわゆる「ケータイ端末」に関してはインフラと関係しない部分がかなりあると考えている。つまりケータイには個人がいつも持っていたい機能全てが盛り込まれており、その中にはオペレータの事業とは直接関連の無いものも多く含まれていると考えられるからである。

携帯電話サービスは電話サービスで始まった。これは爆発的に広がり、現在では固定電話サービスをほぼ奪ってしまったといえる。次にメッセージサービスが広がった。メールは若者を中心に多用されており電話の一部を置き換えつつある。これらのサービスは情報量としてはそれほど大きくなく、先進国ではこれらのサービスを支える無線インフラはすでに確立していると言ってよいであろう。その意味では無線通信の需要は飽和しているといえる。

さらなる無線通信の利用用途としてマルチメディアサービスが期待された。これは多くの試行錯誤を経てウェブアクセスに集約されてきているといえる。ケータイによるウェブアクセスで最初に成功したのはドコモのi-modeである。当初は遅い伝送速度であったが様々な工夫を凝らすことにより、ユーザーに受け入れられるサービスとして提供された。このウェブアクセスはインターネットの進歩と相俟ってさまざまな需要を生み出し、必要とされる伝送速度も高まってきた。技術的にも第3世代通信方式であるWCDMAやその継続のパケット通信方式であるHSPAで数Mbpsまで伝送速度が速まっている。現在ではLTEと呼ばれる数十から百Mbps程度まで伝送される方式が標準化されている。更に先には最高1Gbpsまで伝送できるIMT-Advancedの研究開発がおこなわれており、そのための周波数割り当ても昨年秋の世界主管庁会議で合意された。

問題はそんなに高速の伝送要求があるのか、そんなに高速伝送する技術開発ができるのか、という点である。ここでは需要のみを論じ、実現性は次回送りとする。
固定網でのブロードバンドの普及(家庭への光回線の普及)、Googleなどの出現によるWeb2.0と呼ばれる新しいウェブの使い方の普及などを見ていると、少なくとも固定網ではこれから急速にトラヒック量が増大していくことが予想される。しかし、無線で携帯端末の利用を想定すると端末の能力が違うため、それほどの情報量は必要ないかもしれない。携帯端末の画面サイズをPCの画面の1/20~1/30とすると、情報量が画面に比例するものと、しないものがあるとして、無線でのトラヒック需要は固定の1/10程度はあると見込めるのではないだろうか。そう考えると、無線伝送能力に対する需要は今後どんどん高めるような社会的要求はあると考えることができる。しかし、固定網では既に定額制が実施されており、いくら使っても一定料金を超えない料金体系になっている。無線で果たしてそれより高い料金が取れるのか、定額制を実現できるような技術があるのかが検討課題である。次回ではこれを論じてみたい。