ウィトラの眼

無線業界のニュースについての意見・感想を書きます

国際標準化のコースを大学などに新設

2008-08-22 09:55:41 | Weblog
総務省と経済産業省が共同で国際標準化に関するテクニックを教えるコースを早稲田などの大学に新設し、講師を送り込む、というニュースがあった。

現在、ICTの分野では日本の標準化活動の存在感が下がっているので結構なことだと思うが、これがどの程度役に立つかは疑問である。このような活動は坐学では難しく実戦で鍛えられるものだからである。仮に学生がこういうことを大学で学んだとしても、会社に入って数年間も使わなければたちまち忘れてしまうだろう。

私としてはそれよりも、以前このブログに書いたように英語力、英語でディベートする能力、それ以前に物事を言葉で正確に表現する能力などを育成するのが重要ではないかと思っている。

先日、ある大学で1年生に講義する機会があったので、「自転車を見たことがない人に自転車を説明せよ」という課題を出して、一定時間考えさせてから発表させた。本当は英語でやりたいところだが、日本語で行った。こういうトレーニングを行ってコメントを付けてフィードバックをかけ、表現力をつけさせることがまず必要なのではないかと思っている

日本の情報通信産業の行方(14) 通信機器事業(端末)

2008-08-22 08:12:41 | Weblog
通信端末というと携帯電話、コードレス電話、FAXなどがあるが市場規模からいうと携帯電話が圧倒的であるので、携帯電話を通信に考える。

携帯電話事業は変動の激しい事業である。アナログ時代にはMotorolaが断トツで、Ericsson、Siemens、Alcatel、Sagem、日本勢などが続いていたのだが、後発のNokiaがデジタル、特にGSMで頭角を現し、現在は断トツである。Siemens、Alcatelは撤退し、韓国勢のSamsung、LGがcdma2000で力をつけて、現在伸びてきている。Motorolaは現在でも世界3位であるが売却までささやかれるような状況である。

このような世界の流れの中で日本企業は日本国内では市場を独占しているが海外展開はことごとく失敗している。現在はcdma2000の端末メーカーがアメリカ大陸で目立たない程度に活動しているのと、シャープが海外参入を画策している段階である。

世界の端末市場は現在大きくいって二つの市場に分化してきている。一つはアジアやアフリカ向けの低価格市場で$30端末などと言われているGSM端末が急速に普及している。この端末で提供されているサービスは電話とショートメッセージくらいである。この分野はハードウェア主体の事業であり、日本企業でも戦える可能性がある。ただし、GSMという日本では使用されていない方式であること、コストが勝負になるのでシェアを取らないと利益が出ないことを考えておく必要がある。

トップのノキアに対してSamsung、LGの韓国勢が挑んでいるが世界で3社位は生き残れると思うので、Motorolaを含めた4社のうち一社が脱落するくらいではないかと思っている。これから参入するのは容易ではないが、一旦一定の地位を占められれば続けられると思っている。

もう一つは高速パケット通信機能を有してインターネットアクセスを提供する高機能端末である。高機能端末は機能によって差別化が可能であるので参入は容易である。しかし、現在の端末は高機能化が進みソフトウェアの規模が日本人が扱いきれない分野に突入していると思う。成熟市場で端末の機能が分化していくので一機種当たりの販売台数は減って、開発費負担が重くなる。日本の端末はコスト高ということになると思う。

パソコンのように海外大手の作ったソフトプラットフォームの上に日本独特の要求条件を作りこむというモデルに移行していくと思う。市場規模は限られ、淘汰が進むと考えられる。

もし成功する道があるとするなら、「日本の家電的センス」が強みになるのではないかと思っている。使いやすさを求めてユーザーの声を反映して短期間に改良を繰り返す、という日本的やり方は消費者向けの製品では強みになると思っている。プラットフォームを購入してその上に使いやすさを作りこめば、世界に出ていける可能性はあると思う。

なお、日本メーカーが日本市場でしか戦えず、世界に出ていけないのは特殊な市場を作っている総務省のせいだとか日本の通信事業者のせいだとかいう議論があるが、私は90%はメーカーのせいだと思っている。日本に市場があり、そこで求められるもの海外と異なっていたからと言って出ていけない理由にはならない。現に韓国メーカーは出て行っている。日本という市場があることがいけないのではなく、楽に事業ができる市場に安住しているメーカーに問題があるのである。

携帯電話以外の通信端末にも簡単に触れておこう。FAXやコードレス電話は底堅い需要はあるものの、成熟市場であることは変わらないだろう。これから増えるのは、家庭用のルータ、家庭用の基地局、家庭用のセットトップボックス、といった分野であろう。

これらは本質的にインフラ用の機器を家庭用に作りこんで販売するというビジネスモデルである。ソフトウェアというよりはハード中心の機器であり、消費者に近いという意味で日本企業には向いている分野ではないかと思っている。

ただし、インフラ用機器と比べると大幅にコストダウンをしなくてはならず、そのためには思い切ったLSI開発の投資が必要である。家電用の機器は本質的にこのような性格であるので家電メーカーは投資判断をできると思うが、この種の機器に必要な技術を持つインフラメーカーがこのような判断をできるか、キチンとしたマーケティングをできるかどうかが成功のカギになるだろう。