中山間地の医療、存続の危機 財源や人材「国が責任を」
2022年7月8日 (金)配信中国新聞
中山間地域の島根県吉賀町六日市で、住民の健康を守ってきた六日市病院が、経営悪化で存続の危機にある。生活に欠かせない施設として、町は公設民営化による存続へ動くが、大きな財政負担がのしかかることになる。人材確保なども含め、国の責任で中山間地域の医療を守るよう求める声は大きい。
病院入り口に高さ50センチほどの木製のたるが置かれている。病院存続を目指し、吉賀町商工会が6月に設置したたる募金だ。週1回通院する町内の主婦(69)は「この病院が必要というのは町民みんなの思い。協力したい」と話した。
同病院は救急対応を担う拠点病院。同病院がなければ、24時間体制で急患を受け入れる施設で最も近いのは、車で1時間半かかる益田赤十字病院(益田市)になる。町医療対策課の永田英樹課長は「町民にとっては命のよりどころ。医療のない場所に人は住めない」と重要性を強調する。
しかし、病院の経営は厳しさを増す一方だ。医療介護事業の収支に、国や町からの補助金などを加算した経常利益は2018年度、約2600万円の赤字に転落。以降3年度連続の赤字が続き、21年度予測は約8千万円に膨らんでいる。
町は20年、公設民営化で存続を目指す方針を打ち出した。今年3月には、病院側が経営改善計画を町に提出。病床数を現在の110床から26年に50床まで減らし、コンパクト化を図る。
中山間地域の人口減少は急激に進む。町の人口は旧六日市町と旧柿木村が合併した05年に7553人だったが、今年4月末時点で5882人。病院の利用者が減るのは必然で、収入は減少の一途だ。
医療従事者の人材不足が追い打ちをかける。医師や看護師の数が減ることで病床稼働率が低下するという悪循環も生み出す。
常勤医師は19年4月に8人のうち2人が異動したまま補充がなく、現在6人。臨床経験を積みにくい中山間地域への赴任を希望する若い人材は少なく、ほとんどが60歳を超えている。看護師は、供給源だった六日市医療技術専門学校(同町真田)が3月に閉校。3年間を同病院で働くことで町の奨学金返済が免除される制度などにより、これまでなんとか人材を確保してきたが、困難になっている。
こうした苦境にある同病院に対する国の支援は、運営する社会医療法人への特別交付税が、町を通して年に1億2千万~1億6千万円支給されている。しかし、それでは足らず、町が年1億~5千万円の財政支援をしている。ただ、病床数を絞ると、特別交付税は今後減らされる見通しだ。
同町の岩本一巳町長は6月、22年度から病院への財政支援を強化すると表明した。しかし、病院が経営改善を進めても、町の財政調整基金などの残高は22年度の約24億円が、32年度には約9億円に減少すると試算する。医療対策課の永田課長は、病院の経営について「どう頑張っても赤字が出る。国の支援の拡充があれば助かる」と話す。
同病院の小川久行事務部長は「財政面だけでなく、医師や看護師確保など中山間地域の病院が抱える問題は自力で解決するのは困難」とする。「警察や消防と同じように医療も大事。国が責任を持って、守る姿勢を見せて」と注文する。(松島岳人)