「黒い雨」再検証を開始 カルテ分析、WG設置へ
広島市への原爆投下直後に降った「黒い雨」を浴びた人たちの援護に関する問題で、厚生労働省は16日、援護対象区域の見直しを視野に入れた専門家らによる検証検討会の初会合で、被爆者のカルテ分析や気象シミュレーションを行うための五つのワーキンググループ(WG)設置を決めた。年度内に立ち上げる方向で調整する。
「黒い雨」の降雨範囲と、どこまでの地域を援護対象とするかは長年の懸案となっている。今回の検証は7月に広島地裁が、国が援護対象として認める「特例区域」外の原告を対象と認定したことがきっかけ。原告らが控訴断念を強く望む中、国側は控訴する一方、地元要望に配慮する形で区域拡大を視野に入れた検証を表明した。
戦後75年、高齢化する原告らが納得できる解決策が得られるか、議論の行方に注目が集まる。
検証は、原爆由来の放射性物質の確認と、健康への影響の二つが柱。厚労省は「黒い雨に限らず、放射性物質の分布を調査したい」としている。
五つのWGは、(1)気象シミュレーションによる原爆投下直後の状況再現モデル構築(2)新たな現地発掘も視野に入れた土壌調査(3)気象予測に関する米国公文書館などの文献調査(4)広島原爆・赤十字病院(広島市中区)の被爆者カルテ分析(5)拡大が要望される地域における健康相談事業の受診者のカルテ分析や、がん登録情報の活用。
検討会の座長は、湘南鎌倉総合病院の佐々木康人(ささき・やすひと)放射線治療研究センター長。他に日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の木戸季市(きど・すえいち)事務局長らが委員に就任した。
このうち気象学者増田善信(ますだ・よしのぶ)氏は同日、「被爆者の手記をデータ化し、分析してはどうか」と提案。東京電力福島第1原発事故以降の最新の知見活用に関する意見も出た。
※黒い雨
1945年8月6日、米国による原爆投下後、爆心地の広島市やその周辺に降り注いだ放射性物質やすすなどを含む雨。国は爆心地に隣接し、高い線量が検出されるなどした地域を被爆者健康手帳が交付される「被爆地域」に認定。さらに大雨が降ったと推定した北西側の長さ約19キロ、幅約11キロの楕円(だえん)形の範囲を「特例区域」に指定した。同区域内にいた人は援護対象となり、無料で健康診断が受けられ、一定の疾患がある場合は被爆者手帳を取得できる。区域外の人たちに手帳交付できるかが現在の焦点になっている。
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