雲。
ぽっかり浮かんでるよ。
春の雲。
ゆったりゆっくりしてるよ。
1
光が降り注いでいる。
2
これだけでいいじゃないか。
3
わたしにも分け隔てなく等分の光が届いて来て、あたたかく明るくわたしを包んでいる。
4
これでもまだ文句があるか。
5
文句はない。
1
いつもいつも、それはよいことの始まり。
2
そう思っていよう。
3
そう思っていれば安らげる。
4
最後の最後はすべてきっとよいことに至り着いて行く。
5
そのためにある蛇のうねり。紆余曲折。
6
それはみなことごとく通過点に過ぎない。
7
だから通過させていればいいのだ。
8
今日もまたいいことが起こっている。いいことに繋がることが起こっている。
9
そう、「めでたしめでたし」でいよう。
10
めでたくなって生きていよう。
とことこ、てくてく。
よくもまあ長く長く、このでこぼこ人生を歩いて来たなあ。
とことこ、てくてく。
泥道雨の道風の道を歩いて歩いて、ここまで来た。
よくもまあよくもまあ。
1
ふ、ふふふ。高菜の一夜漬けを食べたらいいだろうな。
2
塩を降ってまぶして、揉んで水抜きをして、器に重ね、一晩重石を乗せておく。
3
高菜は一晩で小さくなっている。これを出してきて、洗って、俎の上で細かく切る。
4
醤油と鰹節を加えて、これを炊きたての白ご飯の湯気の上に置く。湯気ごと一飲みに飲む。
5
喉から高菜の青臭い香りが込み上げて来る。ああ、この日本に生まれててよかったと思う。
1
畑から高菜を抜いて来た。でかい。わっと声を上げるくらいにでかい。春先に種を蒔いて、長い月日を経て、でっかく成長している。お見事だ。
2
青葉が薫る。鼻が元気を涌かす。
3
土を落とし、根を切って、ジャブジャブ洗い、ベランダの濡れ縁にそれを列べる。ずらりと列べる。しばらく日干しにする。
4
高菜漬けをする人に、それを差し上げる。今日はその人たちが我が家にやって来る。
5
我が家ではとても食べきれない。高菜漬けは難しい。すぐに虫が来てしまう。腐らせてしまう。我が家ではせいぜい、だから、雑炊に使うくらい。勿体ない話である。
6
ま、一年畑に出て、野菜作りをして、それで孤独が慰撫されて来た、それだけで十分か。
7
高菜を抜いた跡地を耕して今度は此処に生姜を植え付けるつもり。忙しくなる。この世を生きる苦悩、煩悩を置き去りにするには忙しくしている方がいい。
1
(法華経の菩薩道を行く者を)諸仏護念す。このゆへに、(菩薩道を行く者は)諸々の徳本を植えて、正定(しょうじょう)の聚(じゅ)に入り、一切衆生を救う心を発(おこ)す。
妙法蓮華経最後の章 「普賢菩薩(ふげんぼさつ)勧発品(かんぽつぽん)」より
2
諸仏は護念す。衆生を分け隔てなく護念す。このゆへに、菩薩は、諸仏の功徳の根本(帰依と信順)を我が身に植栽す。植栽すれば、正定の聚(信心不動の大河の流れ)に入る。入正定すれば、一切衆生を救う(仏の)心を発(おこ)す。この仏心を開発して、仏陀の説く法華経を聞く。聞いて菩薩道を行く。この道を行く者は恐るることなし。諸仏の護念するがゆへに。
(これはわたしの受け取り、わたしの解釈です。正しい解釈からは遠いかもしれません)
3
今日わたしは法華経の最後のチャプターになる「普賢菩薩勧発品」を開いています。
早朝は曇っていましたが、だんだんとお天気が回復してきています。10時に近くなって、日射しがうんと明るくなって来ました。
小心者のわたしは、ただに法華経を聞いて、次々に湧き起こる恐怖心を払拭しようとしています。
4
普賢菩薩は、東方の宝威徳上王仏の国土から、法華経が説かれているこの娑婆世界に尋ねて来られた菩薩です。法華経を説かれている仏陀(釈迦牟尼世尊)とお会いになられます。
宝威徳上王という仏のもとで長い間仏道修行を重ねておられました。その修行の仲間たち、無量無辺百千億の方々とともに飛来して来られました。お釈迦様よりじきじきに法華経を聞かんが為です。
5
わたしは、「諸仏護念」の説法にあたたまっています。「多くの仏たちに守られているわたし」を思ってあたたまっています。「恐れないでもいいのだ」「何が起こっても恐れないでもいいのだ」ということを何度もわたしに言い聞かせています。小心者のわたしはいつもびくびくして暮らしています。諸仏護念ということを疑ってかかっているのです。だからびくびくしているのです。法華経を読むと、この恐怖心がやわらぎます。
6
法華経の行者は、冒頭にあげた4つのコースを歩いて行きますが、わたしはまだその第一のコースの「諸仏護念」の受け取り段階に止まっています。第2のコース、第3のコース、第4のコースは遠い遠いところにあります。この先の生に委ねるしかないようです。
法華経を聞いても、なおもまだ「我が身可愛さ」を抜け出ていけません。
「揺るがない信心の大河の流れ」や「一切衆生を救う仏陀の心を開発する」プロセスに入れば、我が身可愛さという偏屈偏狭が捨て去られて来るのかもしれません。
雨の音。雨垂れ。と、と、と、す、と、と、う。
いま、真夜中の3時過ぎ。障子戸の向こうに、音だけがしている。
山里は静寂。昼も夜も。変化なく静寂。
気温が下がるかと予想していたら、その逆になった。
汗してた。着ているものを一枚脱いだ。
これでちょうどよくなった。
霜がおりるかと心配して、ベランダのアロエの鉢を、室内に移動させたが、無用なことだった。
さ、また寝よう。雨垂れは子守唄。
夜明けまでしばらくある。