古野さんの玄関の右側の壁に「紅い布」、
「いい色ですね」
「そうか」
「魂にしみいります」
「ふふふ」
「なんですか」
「ジャワ更紗(さらさ)だ」
そして、
「この家には 仏教やキリスト教の学者がたくさんやって来た しかし だれひとりとして 気がつかなかった」
「君だけだ」
古野さんが亡くなると膨大な蔵書を天理大学に寄贈した。
古野さんは大学の卒論をフランス語で書いた、あのトインビーが来日した際に対談したが、トインビーは、
「あなたは わたしよりも多くの本を読んでいますね」
私は、奈良の天理まで、古野さんの「いのちの蔵書」に会いに行った。