上座に座った韓国国防相、隅に座ったオバマ大統領
北朝鮮が5日、西海(ソヘ)の延坪島(ヨンピョンド)、白ニョン島(ペンニョンド)付近の海で海岸砲射撃を行ったこと受け、延坪島(ヨンピョンド)などの海兵隊もK9自走砲などを海に撃って対抗した。
同日、海兵隊の対応射撃を知らせる韓国国防部の報道資料の題名は次のようなものだった。
「国防部長官主管の下、西北島しょ部隊の海上射撃訓練を再開-国防部長官、『敵挑発の際は「直ちに、強力に、最後まで」の原則のもと、圧倒的かつ攻勢的に報復すること』を指示」
国防部は報道資料と共に、海兵隊の戦車と自走砲が海上射撃訓練をする様子を写した写真3枚に加え、シン・ウォンシク国防部長官が合同参謀本部戦闘統制室でこの訓練を確認・点検する写真1枚を配布した。写真には、シン・ウォンシク長官がマイクに向かって発言しており、キム・ミョンス合同参謀議長はシン長官の隣でメモを取っている姿が収められている。シン長官を中心人物として際立たせたのだ。
この訓練をなぜ合同参謀議長ではなく、国防長官が主管したのだろうか。
海兵隊は同日、北方限界線(NLL)南の海上に仮想の標的を設定し、射撃訓練を行った。もし海兵隊が北方限界線の南ではなく、北の海上に砲射撃をしたとすれば、何が起きるか分からない状況だったため、国防長官が訓練を主管する必要があった。
合同参謀本部は朝鮮半島という戦区の作戦の構図を作る作戦の最高本部だ。合同参謀議長は国軍全体の作戦指揮官であるため、現役軍人の中で唯一国会人事聴聞会を経て任命される。
映画『ソウルの春』で、反乱軍は1979年12・12粛軍クーデター当時、戒厳司令官だった陸軍参謀総長の逮捕に総力を挙げる。1979年当時、陸軍参謀総長は陸軍の軍政権(人事などの一般指揮権)と軍令権(作戦)をいずれも持っている実力者だった。『ソウルの春』には合同参謀議長は登場しない。1970年代、ソウル中区弼洞(ピルトン)にあった合同参謀本部は、退任を控えた何の権限もない将軍たちが集まっていたため、「弼洞老人ホーム」と呼ばれていた。
ところが、1991年に国軍組織法が改正され、1994年に平時作戦統制権が韓国に移管されたことで、状況が一変した。合同参謀議長が国軍序列1位となり、国軍全体の作戦指揮官になった。今は戒厳令が敷かれた場合は、陸軍参謀総長ではなく、合同参謀議長が戒厳司令官を務める。
だからこそ、5日に合同参謀本部の作戦統制室で、合同参謀議長が海上射撃訓練を主管せずに国防部長官の言葉をメモしている姿は、見慣れないものだった。なぜこのような場面が登場したのだろうか。
昨年11月、キム・ミョンス海軍作戦司令官(中将)を大将に進級させた後、すぐさま合同参謀議長に抜擢したのは、1970年以来53年ぶりの型破りな人事だった。歴代の合同参謀議長は、陸海空軍の参謀総長などを経て合同参謀議長を務めてきた。
主に海軍で勤務しており、陸海空軍の合同作戦に関する経験があまりないキム・ミョンス議長が、果たして国軍全体の作戦を総括指揮できるのかという懸念の声が軍内外からあがった。これについて、国防部関係者は「シン・ウォンシク国防部長官が合同参謀本部の作戦本部長と合同参謀次長を歴任したため、大きな問題はない」と語った。
国防長官だけが目立つのは、不確実な戦場の状況にあって指揮官の独立した意思決定を保障し、参謀たちの創意的発想を奨励する「任務型指揮」という軍指揮の基本原則にも合わない。先進国の軍隊は任務型指揮の活性化を強調しているが、これはドイツの前身であるプロイセンの歴史的経験に由来する。1806年10月、約5万人のプロイセン軍は約2万7000人のフランス軍に惨敗を喫した。プロイセンは、ほんの些細なことまでも命令がない限り自らは何の行動も起こさない指揮官の受動的な指揮と思考の硬直性に敗戦の原因があると分析した。その後の対策として「任務型指揮」が生まれた。
任務型指揮の象徴的な姿が2011年5月、米国のオサマ・ビンラディン殺害作戦当時のバラク・オバマ米大統領に見られる。当時、米軍特殊部隊がパキスタンの住宅団地に隠れていたアルカイダの指導者ビンラディン氏を殺害した。38分間にわたり行われた作戦の現場の状況は、衛星を通じて米ホワイトハウスにリアルタイムで中継された。オバマ大統領は当初、500平方メートル規模のホワイトハウスのシチュエーションルームの大型モニターで状況を見守る予定だったが、モニターが故障し、隣の小さな部屋に移った。
この部屋は当時、米軍合同特殊作戦司令部のブラッド・ウェブ将軍(准将)が現場の衛星画面を受信し、シチュエーションルームのモニターへと送り出すためのものだった。部屋はウェブ将軍にちなんで「ウェブルーム」と呼ばれていた。ウェブ将軍はオバマ大統領に自分の席を譲ろうとしたが、オバマ大統領は「重要なことをするのはあなた」だとして、それを断った。
准将のウェブ将軍が、作戦状況が最もよく見える上座に座った。オバマ大統領はその隣の小さな椅子に座った。ジョー・バイデン副大統領、ヒラリー・クリントン国務長官、ロバート・ゲイツ国防長官らはウェブ准将の両隣に座った。この姿は任務型指揮の典型を示している。
5日、合同参謀戦闘統制室で、シン・ウォンシク長官がキム・ミョンス合同参謀議長に「重要な仕事をするのはあなた」だと言ってマイクを渡していたなら、「名誉は上官に、ボールは部下に、責任は私に」という指揮哲学がより際立っていたかもしれない。